がんの予防や治療における漢方治療の存在意義を考察しています。がん治療に役立つ情報も紹介しています。
「漢方がん治療」を考える
695)駆虫薬イベルメクチン(Ivermectin)は新型コロナウイルス感染を阻止する?
図:インポーチン(IMP)のα/β1ヘテロ二量体(IMPα/β1)は細胞質内のコロナウイルス・カーゴタンパク質(coronavirus cargo protein)に結合し(①)、核膜孔複合体(Nuclear Pore Complex:NPC)を通って核内に輸送される(②)。核内で複合体は解離し(③)、宿主の抗ウイルス応答を抑制し、ウイルス感染を亢進する(④)。駆虫薬のイベルメクチンはIMPα/β1ヘテロダイマーに結合して不安定化し、IMPα/β1がウイルスタンパク質に結合するのを阻害し(⑤)、核に入るのを阻止する(⑥)。その結果、抗ウイルス応答が増強され、感染が阻止される(⑦)。(出典:The FDA-approved Drug Ivermectin inhibits the replication of SARS-CoV-2 in vitro. Antiviral Research, Available online 3 April 2020, 104787)
695)駆虫薬イベルメクチン(Ivermectin)は新型コロナウイルス感染を阻止する?
【豪大学「イベルメクチンに効果」】
以下の記事はヤフー(yahoo)のサイトからの引用です。
引用元のサイトは以下です。
https://headlines.yahoo.co.jp/videonews/jnn?a=20200405-00000016-jnn-int
豪大学「イベルメクチンに効果」というタイトルで以下のような記事が載っています。
新型コロナウイルスの感染が世界に広がるなか、オーストラリアの大学が4日、アタマジラミ症などの寄生虫感染症の治療薬「イベルメクチン」が、新型コロナウイルスの抑制に効果があったと発表しました。
これは、オーストラリア南東部メルボルンのモナッシュ大学の研究チームが発表したもので、アタマジラミ症などに使われる抗寄生虫治療薬の「イベルメクチン」が、実験の結果、新型コロナウイルスの抑制に効果があったとしています。
「1回量のイベルメクチンで新型コロナウイルスの複製を48時間以内に止めることができました」(モナッシュ大学 カイリー・ワーグスタフ博士)
「イベルメクチン」は、2015年にノーベル医学生理学賞を受賞した大村智・北里大学特別栄誉教授が発見した放線菌から開発され、年間3億人の治療に使われる寄生虫による感染症治療薬で、オーストラリアなどですでに30年以上、使われています。モナッシュ大学では、今後、「イベルメクチン」の臨床試験を行い、できるだけ早期に新型コロナウイルスの治療薬として応用したいとしています。
【駆虫薬のイベルメクチンは新型コロナウイルスの複製を阻止する】
上記の記事の元ネタの論文は以下です。この論文は受理(アクセプト)はされていますが、まだpre-proof(校正原稿の前)の論文で、学術雑誌のページはまだ決まっていません。
The FDA-approved Drug Ivermectin inhibits the replication of SARS-CoV-2 in vitro(米国食品医薬品局で承認されている薬のイベルメクチンはin vitroの実験でSARS-CoV-2の複製を阻害する)Antiviral Research, Available online 3 April 2020, 104787
SARS-CoV-2(Severe Acute Respiratory Syndrome CoronaVirus 2)は新型コロナウイルス感染症(Coronavirus disease 2019:COVID-19)の患者から分離されたコロナウイルスです。つまり、SARS-CoV-2感染と新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は同じです。
in vitro(イン・ビトロ)とは、「試験管内で(の)」という意味で、試験管や培養器などの中でヒトや動物の細胞や組織を用いて、薬物の反応を検出する試験のことを指します。
したがって、in vitroの研究で有効性が確認されても、人間で効くかどうかは不明です。臨床試験の結果が必要です。
以下に要旨を日本語訳しておきます。
【要旨】
考えられる治療法をテストするためにいくつかの臨床試験が現在進行中であるが、COVID-19の発生に対する世界的な対応は、監視と封じ込めに限定されている。
ここでは、インビトロで広域スペクトルの抗ウイルス活性を有することが以前に示されているFDA承認の寄生虫治療薬であるイベルメクチンが、COVID-19の原因ウイルス(SARS-CoV-2)の阻害剤であることを報告する。
Vero-hSLAM細胞にSARS-CoV-2を感染させ、その2時間後にイベルメクチンを添加すると、48時間でウイルスRNAを5000分の1程度に減少させることが示された。
したがって、イベルメクチンのヒトでの有効性についてさらに調査する必要がある。
以下はこの論文の内容の抜粋です。
イベルメクチンは、米国食品医薬品局(FDA)が承認した広域スペクトラムの寄生虫駆除剤であり、さらに様々なウイルスに対してin vitroで抗ウイルス活性を示すことが示されています。
もともとはヒト免疫不全ウイルス-1(HIV-1)のインテグラーゼタンパク質(IN)とINの細胞核内への輸送に関与するインポーチン(IMP)α/β1ヘテロ二量体の間の相互作用を阻害する作用が見つかっています。
その後、イベルメクチンはインテグラーゼタンパク質(IN)の核内輸送とHIV-1ウイルスの複製を阻害することが確認されています。
イベルメクチンの他の作用が報告されていますが、イベルメクチンは、サルウイルスSV40大腫瘍抗原(simian virus SV40 large tumour antigen)およびデング熱ウイルス(DENV)非構造タンパク質55を含む、宿主およびウイルスのタンパク質の核内輸入を阻害することが示されています。
重要な点は、デング熱ウイルス1-4(DENV 1-4)、西ナイルウイルス(West Nile Virus)、ベネズエラ馬脳炎ウイルス(equine encephalitis virus)、インフルエンザなどのRNAウイルスによる感染を制限することが実証されており、この広範な活性は多くの異なるRNAウイルスによる感染の成立にIMPα/β1に依存することに由来します。
イベルメクチンは同様に、インビトロおよびインビボの両方でDNAウイルスの偽性狂犬病ウイルス(pseudorabies virus :PRV)に対して有効であることが示され、イベルメクチン治療はPRV感染マウスの生存率を高めることが示されています。
マウスのジカウイルス(Zika virus :ZIKV)に対するイベルメクチンの有効性は観察されませんでしたが、著者らは、イベルメクチンの抗ZIKV活性の再評価が必要であることを認めています。
最後に、イベルメクチンは2014年から2017年にタイで行われたデング熱ウイルス感染に対する第III相臨床試験が実施されました。デング熱ウイルス感染に対しては、1日1回の経口投与は安全であり、ウイルス性NS1タンパク質の血清レベルが大幅に低下しました。しかし、ウイルス血症または臨床的利益の変化は観察されませんでした。
COVID-19パンデミックの原因ウイルスであるSARS-CoV-2は、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV)と密接に関連している一本鎖のポジティブセンスRNAウイルスです。
SARS-CoVタンパク質に関する研究により、SARS-CoV Nucleocapsidタンパク質のシグナル依存性核細胞質閉鎖における感染中のIMPα/β1の潜在的な役割が明らかになり、宿主細胞の分裂に影響を与える可能性があります。
注:Nucleocapsidはウイルスのゲノム(DNAあるいはRNA)とゲノムを包むタンパク質(カプシド)の総称です。
さらに、SARS-CoVアクセサリータンパク質ORF6は、粗面小胞体/ゴルジ膜上のIMPα/β1を隔離することにより、STAT1転写因子の抗ウイルス活性に拮抗することが示されています。
まとめると、これらのレポートは、イベルメクチンの核輸送阻害活性がSARS-CoV-2に対して有効である可能性があることを示唆しています。
SARS-CoV-2に対するイベルメクチンの抗ウイルス活性をテストするために、オーストラリア(Australia / VIC01 / 2020)で分離したSARS-CoV-2をVero/hSLAM 細胞に0.1のMOI(重複感染度; Multiplicity of infection)で感染させ、2時間後にイベルメクチンを5 μM の濃度で添加しています。
注:MOI(重複感染度; Multiplicity of infection)=0.1(PFU/cell)は細胞10個にウイルス粒子を1個の率で感染させて増殖させること
培養液上清および細胞ペレットを0〜3日目に採取し、SARS-CoV-2 RNAの複製についてRT-PCRで分析しました。
24時間後、コントロール(イベルメクチンを溶解したDMSOのみ添加)と比較して、イベルメクチンで処理されたサンプルの上清に存在するウイルスRNA(細胞外に放出されたウイルス粒子)が93%減少しました。
同様に、細胞内のウイルスRNA((未放出およびパッケージ化されていないウイルス粒子を示す))は99.8%の減少が、イベルメクチン24時間処理で観察されました。
イベルメクチンを添加して48時間後までに、イベルメクチン処理した培養では、コントロールサンプルと比較して、ウイルスRNAは約5000分の1まで減少しました。
これは、イベルメクチン処理により、48時間までに本質的にすべてのウイルス物質が効果的に消失することを示しています。
この考えと一致して、72時間後にウイルスRNAのさらなる減少は観察されませんでした。以前にも観察されたように、イベルメクチンとウイルスまたはイベルメクチンのみの添加でも、テストされたどの時点でもイベルメクチンの細胞毒性は観察されませんでした。
イベルメクチンのSARS-CoV-2の感染阻止のメカニズムに関して、この論文の著者らの考えはトップの図に示しています。
この論文の重要要点(Highlight)として以下のようにまとめています。
- イベルメクチンは、in vitroでCOVID-19原因ウイルス(SARS-CoV-2)の阻害剤である。
- 細胞培養の実験で、1回の処置で、48時間でウイルスを約5000分の1に減少させることができる。
- イベルメクチンは寄生虫感染症に対してFDAの承認を受けているため、COVID-19の治療薬として転用される可能性を持っている。
- イベルメクチンは、WHOの必須医薬品リストに含まれているため、広く入手可能である。
【イベルメクチンは多彩にメカニズムで薬効を発揮する】
イベルメクチンは数年前からがん治療において注目されています。
前回(964話)でもイベルメクチンが「免疫原性細胞死の誘導剤」という新規な薬効を紹介しました。
イベルメクチンは、土壌から分離された放線菌Streptomyces avermitilisの発酵産物から単離されたアベルメクチン類から誘導されました。この薬を発見した大村智博士は2015年にノーベル生理学・医学賞を受賞しています。
日本国内では、腸管糞線虫症と疥癬の治療薬として保険適用されています。
イベルメクチンは、中南米やアフリカのナイジェリアやエチオピアで感染者が多く発生している糸状虫症の特効薬です。糸状虫症はオンコセルカ症や河川盲目症とも呼ばれ、激しい掻痒、外観を損なう皮膚の変化、永久失明を含む視覚障害を起こします。
その他、リンパ系フィラリア症など多くの種類の寄生虫疾患に有効で、人間だけでなく、動物の寄生虫疾患治療薬として広く使用されています。
イベルメクチンの安全性は非常に高く、寄生虫に感染した人間に対して、寄生虫が死滅する過程で引き起こされる免疫応答や炎症反応に起因する症状以外には、副作用をほとんど起こらないと言われています。
さらに、多数の前臨床試験で抗がん作用が確認されています。したがって、がん治療薬として再利用を検討する候補薬としての条件が揃っていると言えます。
図:Ivermectin(イベルメクチン)は、22,23-ジヒドロアベルメクチンB1a(H2B1a)が80%以上、22,23-ジヒドロアベルメクチンB (H2B1b)が20%以下の混合物。イベルメクチンは糞線虫症、糸状虫症、疥癬症など多くの寄生虫疾患の治療に使用されている。イベルメクチンが様々なメカニズムで抗がん作用を発揮することが報告されている。
さらに、様々なウイルス感染症に対する研究も多数報告されています。前述の論文は新型コロナウイルスに試してみる価値があることを示唆しています。
【イベルメクチンは安全性が高い】
イベルメクチンは通常の寄生虫疾患(糸状虫症、糞線虫症、ぎょう虫感染症)では150から200 μg/kg、リンパ系フィラリア症では400μg/kgを1から2回服用します。体重60kgで1日に12mgから24mgになります。
寄生虫に対する死滅作用が強いので、寄生虫疾患の治療の場合は、通常は1回か2回で治療は終了します。つまり、寄生虫の場合は、1回か2回の投与で、ほとんどの寄生虫は死滅します。
しかし、がん治療の場合は、がん細胞は直ぐには死滅しないので、ある程度の期間服用します。
実際に、私はがんの代替療法として1日12mgを連日あるいは隔日投与しているがん患者さんがすでに数十人いますが、副作用はほとんど経験しません。
実は、私もイベルメクチンを1日12mg(週5日ほど)を2ヶ月間ほど服用しています。
その理由は、ベルメクチンを服用している患者さんから、脱毛が減ったという情報を得たからです。
イベルメクチンはPAK-1阻害作用があります。イベルメクチンのPAK-1阻害作用については674話で解説しています。
PAK-1阻害作用に育毛効果があることが報告されています。以下のような論文があります。
Hair Growth Promoting and Anticancer Effects of p21-activated kinase 1 (PAK1) Inhibitors Isolated from Different Parts of Alpinia zerumbet(ゲットウの異なる部分から分離されたp-21活性化キナーゼ1(PAK-1)阻害剤の育毛効果と抗がん作用)Molecules. 2017 Jan; 22(1): 132.
ゲットウはショウガ科ハナミョウガ属の多年草です。この植物から分離された成分にPAK-1阻害活性があり、育毛効果と抗がん作用があるという報告です。育毛効果はミノキシジルより強いと報告されています。
つまり、PAK−1阻害作用があるイベルメクチンに育毛効果があることは、患者さんの体験談と医学論文の報告で信憑性が高いように思われたので、イベルメクチンの長期投与の安全性の確認も兼ねて、髪の毛が薄くなっている私自身で試してみようということで、私自身がイベルメクチンを週5回、1回に12mg服用を2ヶ月間継続しているという次第です。その結果、副作用はほとんど経験せず、私自身で安全性を確認しています。育毛効果も多少はあるようです。
ただし、アレルギー反応など、個人によっては副作用が出る可能性はあります。副作用の無い薬は皆無です。
前述の報告は培養細胞を使ったin vitroの実験なので、新型コロナウイルス感染の治療に人間に効くかどうかは不明です。前述の論文の結果は臨床では無効である可能性はあります。
新型コロナウイルス感染に対してはどの程度の量を服用する必要があるのかもまだ不明です。
私はイベルメクチンを約2ヶ月間ほぼ毎日12mgを服用しています。イベルメクチンを毎日服用している私が新型コロナウイルスを発病すれば、前述の論文は臨床では役立たないという証拠になるかもしれません。(新型コロナウイルスが収束するころには服用を中止する予定です)
イベルメクチンは安全性が高いので、発熱や咳など新型コロナウイルスに感染した可能性があるとき数日間服用してみる価値はあると思います。数日の服用で数千円です。
ただし、全て自己責任です。副作用が出ても、あるいは効かなくても、全て自己責任です。
イベルメクチンを用いたがんの代替療法についてはクリニックのサイトで解説しています。
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