がんの予防や治療における漢方治療の存在意義を考察しています。がん治療に役立つ情報も紹介しています。
「漢方がん治療」を考える
15) 攻撃は最大の防御か?
図:生体防御能は20歳台をピークにして、老化に伴って生理的に低下する。身体的侵襲や精神的ストレスにより防御力は低下するが、復元力(回復力)により回復する。適切な対処により生体防御力を高めることもできる。生体防御力への配慮なく手術や抗がん剤などによりがんの攻撃ばかり行っていると、防御力のレベルの低下によりがんの急速な進展や日和見感染などが原因となって死亡する。生体防御力を高めることによってがん患者の延命を計ることは可能である。
14) 攻撃は最大の防御か?
【攻撃は最大の防御か?】
孫子の兵法の中に、「攻撃は最大の防御」という言葉があります。西洋医学のがん治療も、これに従っているように思えます。しかし、この戦略は敵に対して攻撃力が圧倒的に強い場合にしか当てはまりません。攻撃力が十分でなければ、戦いが長引いて泥沼にはまります。早期のがんであれば、「攻撃は最大の防御」というのは正解です。手術などによってがん組織を完全に取り除けるからです。しかし、がんが進行している場合には、現在の治療方法の攻撃力が十分でないことは、治療成績をみれば明らかです。
一方、「戦わずして勝つ」という言葉もあります。戦力や防御力が勝っていれば、相手は攻めて来ないということです。体に備わった抗がん力(体力や免疫力など)を十分に高めることができれば、がんを攻撃しなくても、がんの進展を抑えることができる場合もあります。がんを初めの段階で一気に除去できない場合には、防御力を高める方法も併用しながら治療戦略をたてるべきだと思います。
【生体防御力を高めることは延命につながる】
がんが大きくなって肝臓や肺や脳などの重要な臓器の機能がひどく障害されると生命を維持できなくなります。しかし、体力や免疫力などの生体防御力の低下によって、日和見(ひよりみ)感染などの感染症が発生して死亡の原因となることも極めて多いのです。
日和見感染とは、加齢などによる免疫力や抵抗力の低下によって、普通なら感染しないような常在菌や弱毒菌によって発症する感染症です。抗がん剤や手術などがん治療に伴う体力や抵抗力の低下も、日和見感染症の原因となります。
手術侵襲や抗がん剤投与、精神的ストレス、栄養不全などが重なると生体防御力はますます低下していきます。がんの末期も死期を決める最大の要因は生体防御力や抵抗力のレベルにかかっています。
がん治療において生体防御力の低下を防ぐことがいかに大切であるかは、生体防御力がある一定のレベルを超えて低下すると、もはやがんの進展を抑えることも、感染症を防ぐことも、生命を維持することもできなくなるからです。何らかの治療によって生体防御力を高めることができれば、延命につながることも常識的に理解できます(トップの図)。
抗がん剤はがん細胞を殺すことが目的ですが、同時に正常な細胞をも傷つけてしまう性質を持っています。特に細胞分裂を日常的に行っている骨髄細胞・腸粘膜上皮・リンパ球の障害が顕著であるため、体の自然治癒力に最も重要な栄養吸収と免疫能・生体防御能の低下をきたす事が問題です。
がん細胞だけに攻撃を集中して、正常組織には害が及ばないようにする方法も発達してきました。しかし、手術や抗がん剤や放射線治療などの攻撃的な治療法には、程度は様々ですが正常組織へも障害が及ぶ結果、体の抵抗力や免疫力の低下を引き起こすという欠点を本質的に持っています。
がん細胞そのものを取り除くことを目的とする治療法は、がん治療の基本であることは間違いありません。しかし、治療によるいろいろな副作用によって患者さんが亡くなることも少なくないという点にも考慮が必要です。
また、全身状態の悪化や免疫力の低下が起こると、体のあちこちに存在しているがん細胞にとって再発・転移の絶好のチャンスとなります。手術が転移のきっかけとなることもあります。がん治療において、がんを攻撃するだけでなく、体に備わった防御力を高めることも大切です。(文責:福田一典)
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