14) 適度な刺激は体の治癒力を活性化する

図:適度な刺激やストレスは体の治癒力や抵抗力を高めるが、過度の刺激やストレスは体を疲弊させて治癒力や抵抗力を弱める。

14) 適度な刺激は体の治癒力を活性化する

 体に有害と思われている放射線や活性酸素やある種の発がん物質も、微量であれば、体を刺激する方向で働いて、治癒力を活性化する場合があります。このように過度の刺激では有害作用になるものが、微量であったり、適度な場合には有用な効果になる例が数多く知られています。このような現象を説明する言葉として、「ホルミシス効果」があります。ホルミシス(hormesis)という言葉は、ホルモンと同じ語源であるギリシャ語の(horme)に由来し、英語の「to excite(刺激する)」という意味です。
 ホルミシス効果は、通常は有害と思われている放射線が、微量の場合には生物の成長・発育の促進、繁殖力の増進及び寿命の延長、免疫力の亢進、がん発生の抑制などの効果をもたらすことがあるという現象の発見から注目されました。その後、熱、紫外線などの物理的ストレスや、化学物質などでも同様の作用が見つかり、「
生物に対して通常有害な作用を示すものが、微量であれば逆に良い作用を示す生理的刺激作用」という意味でホルミシス効果という言葉が使われています。
 これは、理論的には
有害作用に対する生物の適応現象と考えられます。つまり、刺激やストレスがくり返されると、生体はそれに対して適応するように体が反応するため、その刺激やストレスに対して抵抗性になるのです。その結果、免疫力や治癒力が高まるのです。生物は放射線に限らず、多様な物理的および化学的のストレスのある状態の中で進化してきました。ホルミシスは、こうした多様なストレスに対し、生体が進化の過程で獲得してきた重要な生体防御機構と考えられます。
 この現象を利用して、低線量の放射線によって免疫力や治癒力を高める治療法が注目を集めています。特にがん治療においては低線量の放射線を出すラジウム温泉が、免疫力を高め、がん細胞の増殖を抑える効果があると考えられ、多くのがん患者が利用しています。例えば、日本を代表するラジウム温泉と言われる三朝温泉の地域ではがん死亡率が低いことが報告されています。また、岩盤浴で有名な玉川温泉では、温泉や土壌、岩盤から発生するラドンや微量の放射線が体の治癒力を高めるといわれ、がんなどの難病の治療に利用されています。このような効果は微量な放射線によるホルミシス効果によるものだと考えられています。
 化学発がん物質の研究でもホルミシス効果が認められています。体内で活性酸素を発生させて発がん作用を示すような物質を、少量だけ投与すると、かえって発がんが抑えられることがあります。これは、軽度の酸化ストレスに対して、適応反応として体の中の抗酸化酵素が増加するためであると考えられています。ホルミシス効果の働きをうまく利用すると、体の治癒力を高めることができ、最近ではホルミシス効果を作り出す製品も販売されています。

 がん細胞を殺すような薬の効果の場合には、投与量と効果は比例関係にあり、量が多いほど効果が高まります。しかし、
免疫力や治癒力を活性化する場合には、過度な刺激はかえって免疫細胞の疲弊や臓器の負担を高めて、逆効果になることもあります。漢方薬が免疫力や治癒力を活性化できるのは、生薬の中に含まれる成分が、細胞や組織を刺激するからです。生薬には、ホルモンや生理伝達物質の作用をする成分が多く含まれています。毒作用をもっている成分も少量を使えば体を活性化する効果があります。これらの成分が細胞や組織を刺激するホルミシス効果が、漢方薬の効果を理解する上でも重要だと考えています。
したがって、
免疫力や治癒力を高める漢方薬もサプリメントも、むやみに多く摂取しても効果が高まるわけではなく、逆に弱める場合もあることに注意が必要です(図)。適度に体を刺激するように使うのが、漢方薬で治癒力や抵抗力を高めるコツだと思います。


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