621)「植物のがん」の抗がん作用(その1):フジ瘤

図:日本特産のマメ科のつる性落葉低木フジ(Wisteria floribunda)の幹や枝に「フジ瘤菌」と呼ばれる細菌(Pantoea agglomerans pv. millettiae)が感染すると(①)、病原体が産生する物質によって、宿主植物の細胞が異常に増殖して瘤が形成される(②)。一方で、植物の防衛機転が働き、病原体を撃退する成分が生成される。このような宿主の植物と病原菌との熾烈な戦いと、瘤が形成される過程で、生物活性を持った多くの代謝産物が生成される(③)。その結果、正常な植物には含まれないような成分が植物の瘤には多く含まれ、抗がん作用を持った成分も含まれる(④)。このフジ瘤を使った煎じ薬は日本の民間療法で胃がんの治療に用いられている。つまり、「植物のがん」を利用したがん治療となる。 

621)「植物のがん」の抗がん作用(その1):フジ瘤

【植物のがんと言われるコブ病】
コブ病というのは、様々な樹木の幹や枝に瘤(こぶ)ができる植物の病気の一種です。
植物が細菌や真菌、ウイルス、昆虫、ダニ、線虫などの病原菌に侵され、その部分の細胞が肥大したり増生して大きく膨れて瘤を作る病気です。
病原菌が出す成分によって植物の細胞の増殖が刺激されたり、細菌が自分のDNAを植物のDNAに組み込ませて増殖を刺激する場合もあります。
人間のがんが、慢性炎症によって刺激を受けたり、がんウイルスによってがん遺伝子が活性化して細胞ががん化するのと似ています。
植物のコブ病は、人間のがんと似たメカニズムで発生すると言えます。
植物の瘤は英語ではGallと言い、植物の瘤をゴール(Gall)とも呼ばれます。

図:インターネット上で載っている植物のコブの写真。様々な樹木や草木に細菌や真菌やダニなどの病原体によって植物の細胞が異常に増殖して瘤(ゴール)を作る。

【フジ瘤は細菌の感染によって発生する】
フジ(Wisteria floribunda)は日本固有のマメ科フジ属のつる性落葉低木です。花は長くしだれて、20cmから80cmに達し、花はうすい紫色で、藤色の色名はこれに由来します。
このフジの木の幹や枝にPantoea agglomerans pv. millettiae(フジ瘤菌)という細菌が感染すると、この細菌が植物の細胞の増殖を刺激して瘤(ゴール)が作られます。
パントエア菌(Pantoea agglomerans)はグラム陰性の細菌で、植物のトゲなどに生息し、人や動物の傷から侵入して感染症を引き起こすこともあります。通常の免疫力があれば感染しませんが、免疫力が低下していると日和見感染症を発症します。
つまり、パントエア菌類は植物と動物に感染して病気を起こす細菌です。
フジ瘤は、フジ瘤菌の侵入によって樹皮細胞が異常に細胞分裂してふくれあがってしまう一種の植物のがんのようなものと言われており、割ると中に小さな幼虫がいます。
この瘤は細菌によって改変された植物組織で、ハムシや蛾の幼虫が住みついています。つまり、植物を食べる昆虫にとっては、非常に魅力的な食物資源であり住処となっています。
フジ瘤には、昆虫が寄生し、成虫は瘤の内壁に卵を産み込み、幼虫はゴール内壁を摂食して発育して蛹(さなぎ)となり、羽化するとゴール壁を破って脱出します。
以下は、『植物を介した植食者間相互作用 – 最近の研究事例から -:山崎一夫、生活衛生 Vol 53, No.2, p79-89, 2009』からの引用(抜粋)です。ゴール(Gall)は瘤のことです。

ゴールは他の植食者に食物資源として利用されるだけでなく、ゴールをめぐって、他にも捕食者、捕食寄生者、二次利用者など様々な生物からなる群集が形成される。
そのため、ゴール形成者は、植物組織を改変することにより生物多様性を高める働きをするエコシステム・エンジニアとして群集生態学において注目されている。
ゴールは昆虫以外にも、ダニ、菌類、バクテリア、ウイルスなど様々な生物によって形成されるのだが、バクテリアやウイルスのゴールと節足動物の関係には調査が及んでいない。
フジの癌腫病ゴールはPantoea agglomerans pv. millettiaeという細菌によってフジ(Wisteria floribunda)の幹や枝に形成される不定形の瘤である。
Pantoea agglomeransは植物のトゲなどに生息し、人や動物の傷から侵入して感染症を引き起こす。
ゴールが形成されるとフジの美観を損ね、幹枝の強度を低下させる。
大阪府の6カ所でゴールを採取して室内飼育すると、11目33科49種の節足動物が脱出してきた。多い昆虫は、ニセマメサヤヒメハマキ(Matsumurases falcana)、ヒメコスカシバ(Synanthedon tenuis)などの小蛾類の幼虫、キアシハネオレバエ(Chyliza splendida)の幼虫などで、これらの幼虫はゴール内部に潜って組織を摂食するゴール食者である。

つまり、フジ瘤はフジの木の幹や枝に形成され、その中は栄養豊富な植物組織が豊富で、植物を食べる昆虫が住み着いているのです。したがって、フジ瘤を割ると、小さな蛾やハエの幼虫や蛹や成虫が出て来るということです。

図:①フジの花。②フジの枝にできたフジ瘤(ゴール)。③フジ瘤の中のニセマメサヤヒメハマキ(Matsumurases falcana)の幼虫。瘤の壁の組織を摂食して育つ。④フジ瘤の中のヒメコスカシバ(Synanthedon tenuis)の成虫。(写真の出典:Arthropods associated with bacterium galls on wisteria. Appl. Entomol. Zool. 43(2): 191-196, 2008のFig.1)

【フジ瘤はがんの民間療法で使用されている】
植物の瘤(ゴール)は多くの国で民間療法に使用されているようです。以下のような総説論文があります。

The relevance of folkloric usage of plant galls as medicines: Finding the scientific rationale.(治療薬としての植物ゴールの民間療法的利用の妥当性:科学的根拠の関して)Biomed Pharmacother. 2018 Jan;97:240-247.

【要旨】
ウイルス、細菌、真菌、線虫、節足動物、または他の植物によって誘導される植物の異常増殖であるゴール(瘤)は動物のがんに似ている。様々な形態で発生するゴールは、正常な植物組織とは植物化学的に異なる。これは、動物の肉芽腫と同様に、病原菌と宿主の間の相互作用の場であるからである。
侵入者が産生するタンパク質による刺激に対抗するために、宿主植物は通常では産生しない多様な代謝産物を産生して対抗する。
ジャスモン酸経路(jasmonic acid pathway)の変化、およびオーキシン(auxin)やサイトカイニン(cytokinin)の過剰発現は、宿主植物の組織増殖を促進し、結果としてゴール(瘤)形成を促進する。
ゴールを形成する生化学的性状は宿主植物の種類や侵入者(病原菌)の種類によって決められるが、ほとんどのゴールはフェノール酸、アントシアニン、プルプロガリン、フラボノイド、タンニン、ステロイド、トリテルペン、アルカロイド、親油性成分(タンシノン)などの生物活性を有する植物化学物質が豊富である
人類の長い歴史の中で、人間は他の植物の部分と同様に、治療薬としてゴールを使用することを経験的に知った。多様な文化の中で、民間療法におけるゴールの使用の証拠はたくさん存在する。中でも、Rhus(ヌルデ属)、Pistacia(カイノキ属)、Quercus(コナラ属)、Terminalia(モモタマナ属)などの植物属に由来するものは民族薬として一般的である。この総説では、ゴールの薬学的関連性について考察する。

ジャスモン酸は植物ホルモン様物質です。様々な働きをしますが、外敵による摂食などの傷害を受けた際に外敵に抵抗する遺伝子を発現させるシグナル物質として働く機能もあります。
オーキシン(auxin)サイトカイニン (cytokinin) は、主に植物の細胞分裂を促進する作用を持つ植物ホルモンの一群です。
植物が細菌や真菌などの病原体に侵入されると、病原体や宿主植物が産生する物質によって、宿主植物の細胞が異常に増殖して瘤(ゴール)が形成されます。一方で、植物の防衛機転が働き、病原体を撃退する成分も生成されます。
このような宿主の植物と病原菌との熾烈な戦いと、ゴールが形成する過程で、多くの代謝産物が生成されます。正常な植物には含まれないような成分が植物の瘤(ゴール)には含まれます。したがって、植物の瘤(ゴール)は様々な民族医療で利用されているということです。
日本ではフジ瘤がその例になります。
日本の民間療法ではフジ瘤を胃がんや食道がんの治療に用いています。フジ瘤からメタノール抽出した成分のイソフラボノイドに発癌抑制作用があるという報告があります。培養がん細胞を用いた実験で、がん細胞の増殖抑制作用が報告されています。しかし、臨床例での研究報告はありません。
古くから横須賀市の薬局では「船越の胃腸薬」と称して、藤瘤・詞子・菱実・薏苡仁からなる煎じ薬を用いていました。
昭和30年ごろ、千葉大学医学部の外科で手術不能の患者がこの煎じ薬(WTTCと命名されている)で延命効果があったとして評価されました。WTTCという名称は、構成生薬の藤瘤(Wisteria floribunda)・詞子(Terminalia chebula)・菱実(Tranpa japonica)・薏苡仁(Coix lacryma-jobi)の植物学名の頭文字をつないだものです。

図:フジ(Wisteria floribunda)の木にできる瘤(フジ瘤)、ミロバラン(Terminalia chebula)の果実(訶子:かし)、ヒシ(Trapa bispinosa)の果実(菱実:りょうじつ・ひしのみ)、ハトムギ(薏苡:Coix lachryma-jobi)の種子(薏苡仁:よくいにん)の4種類を組み合わせた民間薬が、進行した胃がんや食道がんに効果があることが報告されている。この処方は、4つの植物の学名の頭文字をとってWTTCと名付けられている。

【外科医「中山恒明」とがんの民間薬WTTC】
進行した胃がんや食道がんに、WTTCという日本の民間薬が有効であることを、約60年前に、国際的に有名な外科医の中山恒明先生が報告しています。
中山恒明先生(1910年生~2005年没)は、昭和22年に37歳の若さで千葉大学医学部第2外科の教授になり、その後、東京女子医大教授、東京女子医大消化器病センター所長などを歴任された外科医です。世界に先駆けて食道がんの手術法を確立したのをはじめ消化器外科で数多くの業績を残し、昭和39年に国際外科学会の「世紀の外科医賞」を受賞した国際的に有名な医師です。昭和57年に勲一等瑞宝章を授与されています。
山崎豊子作の小説『白い巨塔』の主人公の財前助教授は中山恒明教授がモデルとも言われています。(下の写真は中山恒明教授) 

食道がんや胃がんの名医として国際的に知られた中山先生が、手術不能の食道がんや胃がんに民間薬を使った研究を行い、その有効性について述べています。
その内容は、日本医師会雑誌第41巻12号(昭和34年6月10日発行)に掲載されています。日本医師会雑誌のこの号は臨時増刊号で、当時の日本におけるがんの専門家が名を連ねて特集記事として発行されています。
その中で、「がん化学療法の関するパネルディスカッション」があり、千葉大学医学部外科の中山恒明教授が「漢方薬療法の経験」と題して4頁半のスペースを占める長い発言を行ない、根治手術不能の胃がんや食道がんの患者に対して民間薬である藤瘤(フジの木の瘤)・訶子(ミロバランの果実)・菱実(ヒシの実)・薏苡仁(ハトムギ)の各10gづつを組み合わせた煎じ薬(WTTCと命名)を服用させると、症状の改善と延命効果があったと発表しています。この中山教授の発言の要点を以下に紹介します。

(中山恒明教授の発言内容の抜粋)

「3年ばかり前に,噴門がん(胃がん)の患者の手術を行った。開腹したが、がんが腹膜に播種していたのでがんの切除はできず、病理診断のためにがん組織を一部採取しただけで腹を閉じた。
本人には『がんを全部切除したから再発することは無い』とウソの説明をしたが、がんの進行状況から余命は3ヶ月程度を思っていたので、家族には『3ヶ月くらいで死ぬだろう』と説明していた。
ところが、1年半くらいたってその患者がピンピンして私の所に挨拶に来た。『先生が言った通りだ。先生は手術がうまい。再発なんかしない。飯もだんだん食えるようになった』と言った。私は『こういうばかなことはない』と思った。採取した組織の病理検査でがんであることは確かで、胼胝性潰瘍とか他の良性疾患ではない。これは食べ物のせいか環境のせいか、そういう特殊なことがあるのかと思って患者にたずねてみると、『帰ってから近所の者にすすめられて漢方薬を飲んだ。あれを今でも飲んでいる。非常に工合がいい』と言うことであった。
費用がかからないで患者を延命させる治療法というのも一つの研究テーマであり、漢方薬は思ったより安いので、患者に『おい買って来い』というと、薬と思っていないから、すぐ買ってくる。そこで、最近2年くらいの間に根治手術ができなかったがん患者168例ほどに、この漢方薬を服用させて効果を検討してみた。
この研究に使った漢方薬は、フジ(Wisteria floribunda)の木にできる瘤(藤瘤:ふじこぶ)、ミロバラン(Terminalia chebula)の果実(訶子:かし)、ヒシ(Trapa bispinosa)の果実(菱実:りょうじつ・ひしのみ)、ハトムギ(薏苡:Coix lachryma-jobi)の種子(薏苡仁:よくいにん)の4種類をそれぞれ10gづつを一緒にして煎じたもので、これらの植物の学名(ラテン名)の頭文字をつないで、WTTCと名付けている。ヒシの実だとかハトムギなんて言うと患者が馬鹿にするが、WTTCと言うと『ドイツから来たいい薬かなあ』と思うかもしれない、人間相手の場合は、こういうことも必要だと考えている。
WTTCを服用させた168例は、手術不能のものや試験開腹のものが47例、がんの切除ができずバイパス手術を行ったものが36例、その他が根治度の低い手術を行ったもので、この中でWTTCを3ヶ月間以上服用できたものが36例で、その長期服用によって有効と認めたものが30例あった。副作用はほとんど無く、胃切除の患者に下痢が1例に認められただけであった。このWTTCを根治手術不能の胃がんや食道がんに飲ませると、だいたい20%くらいの患者が非常に良く効いたと言っている。食欲が出る、通じが良くなる、腹水のあるものは腹水が減るという症状の改善も多くみられた。
このような進行がんは、7割くらいは120日くらいで死亡するが、WTTCを服用した患者はそれより延命した患者数が断然増えている。転移のあるがん患者について調べてみた結果から、WTTCを投与したグループはかなり延命効果があることが明らかになり、私自身もWTTCを用いて、なかなか良い効果があると実感している。
WTTCの抗がん成分についても培養がん細胞を使って研究した(その結果に関する記述はここでは省略します)
(最後の部分)温故知新ということもありますから、漢方薬を内服的に飲ませるのも一つの方法ではないか。がん細胞だけをやっつけるというような作用以外に、ふじの瘤やヒシの実やハトムギなどいろいろのものが入っているものの中に、何かもっと総合的な意味で、食欲を増すとか、元気にするとか、抵抗力を増すとか、何かもっと総合的な作用があるような気がする。」

今から60年も前に、胃がんや食道がんの手術では世界的な名医としてがん治療に携わっていた中山恒明教授が、進行がんにおける漢方治療の有用性を指摘し、漢方薬の抗がん作用に関する研究を行っていたことには驚きます。
科学的で論理的な考え方で多くのがん患者の治療を行ってきた中山恒明教授が、自分の体験をもとに、「手術ができないような進行がんの治療法の一つとして、漢方治療は症状の改善や延命効果が期待できる」という意見を述べている点が重要です。
この発表の後も、進行がん患者におけるWTTCの検討が引き続き行われています。その後の研究報告では、食道がんと胃がんの合計572例を対象にして、このうち230例にWTTCを服用させ、残りの342例を対照として比較しています。
WTTCを服用したグループ230例中49例(21.8%)で有効と判定され、食欲が増進したもの35例、体重が増えたもの23例、腹痛が消失したものが12例あり、副作用は認めなかったと報告されています。
食道がんで手術後の再発率は、WTTCを服用した16例では31%、服用しなかった47例では64%でした。胃がんでは、WTTCを服用したグループの再発率は20%で、服用しなかったグループの再発率は37%でした。つまり、胃がんや食道がんの手術後にWTTCを服用すると再発を予防できる効果が認められています。
西洋医学専門の医師は、漢方薬の抗がん作用やがん治療における有用性について懐疑的ですが、その理由の一つは、漢方薬ががんに効くわけが無いという先入観があり、実際にその効果を自分で確かめていないからです。
漢方薬の効果を否定する医師の多くは、自分で確かめないで、先入観だけで漢方薬が効かないという意見を述べているのが実情です
外科の名医の中山恒明教授が実際に進行がんに漢方薬を使ってみて、その効果を実感したというコメントを述べている点は、がん治療において漢方薬が本当に有効であることを示していると思います。

【WTTCとは】
WTTC(ダブリュティーティーシー)は、藤瘤(ふじこぶ・とうりゅう)、訶子(かし)、菱実(ひしのみ・りょうじつ)、薏苡仁(よくいにん)の4種類の生薬を組み合わせた生薬製剤で、各10~15gを一緒に煎じて用います。
厳密に言えば漢方薬ではなく民間薬あるいは家伝薬の一種であり、古くから横須賀市の薬局で胃腸薬として使用されていたのが、前述のように、昭和30年代に千葉大学医学部の外科(中山恒明教授)で手術不能の患者がこの煎じ薬で延命効果があったとして評価され、この千葉大学での研究のときにWTTCという名称が使われています。WTTCという名は、藤 (Wisteria floribunda)・ミロバラン(Terminalia chebula)・菱 (Trapa bispinosa)・はとむぎ(Coix lachryma-jobi)の植物学名(ラテン名)の頭文字をつないだものです。
このWTTCという処方は胃がんや食道がんだけでなく、他の臓器のがんに対しても有効であった症例が報告されています。手遅れで手術もできず抗がん剤も効かなくなった進行がんで、WTTCを服用して症状が改善し延命した症例(卵巣がんや大腸がんなど)が、緒方玄芳著の『漢方症例選集』などに記載されています。これらの報告によると、WTTCは食欲を高め、浮腫や腹水を改善し、熱や炎症を抑え、便通が良くなるなどの症状改善効果が認められ、延命効果もあるようです
WTTCをベースにして、さらに免疫力を高める生薬や抗がん作用のある生薬などを組み合わせた漢方薬をがん治療に使っている報告もあります。
WTTCの4種類の生薬の起源や薬効は以下にまとめています。

藤瘤 (ふじこぶ・とうりゅう)
本州、四国、九州の山地に自生する日本特産のマメ科のつる性落葉低木のノダフジ(Wisteria floribunda)の老木の樹皮にできる瘤(こぶ)を使う。藤瘤は、フジ瘤菌に感染したところが異常に細胞分裂してふくれあがってしまう一種の植物のがんのようなものと言われており、新しいものには青みがあり、割ると中に小さな幼虫がいる。昔から藤瘤はがんに効くと言われており、がんの民間療法として古くから用いられている。含有成分のイソフラボノイドや多糖成分などに発がん抑制作用があると言われている。

訶子 (かし)
インド・ビルマの原産で、中国やチベットなどで植栽されているシクンシ科の落葉高木、ミロバラン(Terminalia chebula)の果実を用いる。訶梨勒 (カリロク)ともよばれている。ミロバランの樹高は20~30mに達し、果実は3~4cmで卵形をし、中に大きな核がある。成分としてはタンニン、ケブリン酸、エラグ酸などが含まれている。訶子はタンニンの含有量が多く(20~40%)、皮なめしに用いるタンニンの原料として使用されている。
タンニンには収斂作用・止瀉作用・鎮痙作用があり、煎液には強い抗菌・抗ウイルス作用がある。漢方では慢性の咳や下痢や嗄声(声がれ)に対して常用される。その他、止血作用や抗炎症作用があり、消化管出血(血便)・子宮の炎症や出血(性器出血・帯下)・遺精・頻尿などにも用いられる。
本来はインド伝統医学のアーユルヴェーダ医学の主要な薬物であったが、中国には仏教ともに伝来し、収斂・固渋薬として中医学や漢方医学で使用されている。日本では正倉院御物の一つでもある。

菱実 (りょうじつ・ひしのみ)
日本や東アジアに広く分布し、池や沼に自生するヒシ科の一年草、ヒシ(Trapa bispinosa)の果実を用いる。種子はゆでたり、焼いたりして食用にもされる。デンプン、タンニンのトラパインや植物ステロイドなどの成分が知られている。民間療法として滋養強壮・止痛・解毒などの目的に使われている。殻のついた菱実を砕いて、煎じて服用すると胃がんに効果があると言われ、古くからがんの民間療法として使用されている。

薏苡仁(よくいにん)
東南アジア原産のイネ科の一年草、ハトムギ(薏苡:Coix lachryma-jobi)の種子。薬材には鞘を除いて軽く精製した白いものを用いる。栄養価に富んでおり、東南アジアや中国では食用としても用いられている。
水イボやイボに有効であることが経験的に知られており、イボとりの薬として広く使用されている。また、肌を
きれいにする効果があり、ニキビ治療や美容の目的でハトムギ茶やヨクイニンを配合した石けんや化粧品が販売されている。漢方では、利水・去風湿・健脾・清熱・排膿の効果があり、浮腫・関節痛・筋肉痛・下痢・化膿性疾患などに使用される。でんぷん・蛋白質・脂質の他、カンペステロール、スティグマステロール、コイキセライドなどが含まれている。コイキセライド(coixenolide)は脂肪酸のエステルで、抗腫瘍作用が確認されており、中国では注射薬としてがん治療に使われている。

WTTCの処方を元にしたエキス顆粒製剤が販売されています。
WTTCの煎じ薬にチャーガや霊芝などのキノコ系の生薬、白花蛇舌草や半枝蓮や竜葵などの抗がん生薬を組み合わせたような処方は試してみる価値があると思います。
フジ瘤は生産量が少なく、入手が困難でしたが、最近、フジ瘤を入手できるようになったので、WTTCの処方を試してみようと思っています。 

参考論文:

植物を介した植食者間相互作用 – 最近の研究事例から -:山崎一夫、生活衛生 Vol 53, No.2, p79-89, 2009

Arthropods associated with bacterium galls on wisteria. Appl. Entomol. Zool. 43(2): 191-196, 2008

 

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