331)がんとアルツハイマー病のトレードオフ

図:がん細胞は日頃から細胞分裂を行っている組織から発生する。遺伝子変異の蓄積によって細胞分裂の制御ができなくなるとがん細胞になる。神経細胞は細胞分裂しないので、細胞増殖の制御異常でがん化することは無い。しかし、再生できないので、ダメージによって変性や細胞死によって数が減少すると、アルツハイマー病などの神経変性疾患が発症する。がんとアルツハイマー病は共通のリスク要因が多いが、この2つの疾患の間には、一方になりやすい人はもう一方になりにくいというトレードオフの関係が知られている。リスク要因を改善し、かつこのトレードオフの関係を解消できる方法としてカロリー制限とケトン食がある。

331)がんとアルツハイマー病のトレードオフ

【がんも認知症も加齢とともに増加する】
一般的に、がんの発症率は加齢とともに増加します。がん細胞は組織幹細胞の遺伝子変異の蓄積によって発生するという「多段階発がんモデル」と、がん細胞の発生・増殖を防ぐ免疫監視機構が加齢とともに低下するので、この相乗作用によって、人間では40歳を超えることからがんの発生が増え、加齢とともに指数関数的に増加していきます。(ただし、何らかの理由で、90歳以上の超高齢になるとがんの発生率も罹患率も死亡率も減少するという例外はあります;315話「超高齢者はがんにならない」参照)
老化に伴って物覚えが悪くなるということは多くの高齢者が経験しています。これは脳の神経細胞が加齢とともに減少し、脳の萎縮が少しづつ進行するからです。神経細胞は細胞分裂や再生を行わないので、加齢とともに神経細胞が変性したり死滅すると、神経細胞の数自体が次第に減少します。加齢に伴う物忘れは、老眼や難聴(聴力低下)と同じような老化に伴う生理的な機能低下です。
病的な原因によって記憶力や知能の低下する病気を「認知症」と言います。いったん正常に発達した知能が、脳の後天的な障害によって脳の働きが低下して、記憶や知能に障害をきたす病気です。
この認知症を引き起こす原因として最も多いのがアルツハイマー病(アルツハイマー型認知症)です。その他、脳梗塞などの脳血管障害、パーキンソン病、ハンチントン病など様々な原因によって認知症は発症します。
生理的な物忘れも、アルツハイマー病などの病的な認知症も一般的には加齢とともに増加します。
例えば、米国のデータでは、アルツハイマー病の年間発症率は人口1000人当たり、0.58 (60–64 歳)、 1.86 (65–69 歳)、5.06 (70–74 歳)、11.74 (75–79歳)、 23.1 (80–84 歳)、38.58 (85–89 歳)、 54.88 (90–94 歳)、 66.85 (95歳以上)となっています。Neurodegener Dis Manag. 2012; 2(2): 183–195.

高齢化が進行する先進国では、がんと認知症の増加が深刻な問題になっています。有効な治療法が確立していれば問題はないのですが、どちらも難治性の疾患である事は変わりがありません。
認知症は、進行すると仕事や日常生活に支障をきたすだけでなく、人格が崩壊し、人間としての尊厳が失われる点で非常に悲惨な病気です。認知症と診断されることは、本人だけでなく家族にとっても大きな精神的かつ経済的な負担になります。
認知症は長期間の介護が必要なので、心疾患やがんよりも医療費がかかると言われています。
米国からの報告では、米国では認知症1人当たり年間,少なくとも4万1,689ドルの医療費がかかっていると報告されています。(N Engl J Med. 368(14):1326-34.2013年)
この報告では、家族による無償介護も人件費として計算されており、家族による無償介護の費用が約半分を占めていることから、家族の労力負担が極めて大きい疾患と言えます。
先進国では認知症は増加の一途をたどっており、2010年の米国では70歳以上の高齢者の14.7%が認知症で、認知症にかかる医療費は1年間に1,090億ドル(無償介護の人件費を含むと総額1,570億~2,150億ドル)にのぼると報告されています。これは心疾患(2008年で960億ドル、2010年で1020億ドル)やがん(2008年で720億ドル、2010年で770億ドル)の医療費よりもかかっているということです。
アルツマイハー病に対してはいくつかの薬は使用されていますが、症状の緩和や進行を遅らせる程度で、その効果にはかなりの限界があります。開発中の薬は多くありますが、特効薬ができるのはかなり先のようです。
がんの治療法は進歩したと言っても、現在でも診断された人の半分くらいは数年以内に亡くなっている病気です。日本では年間約70万人ががんと新たに診断され、1年間に約35万人ががんで亡くなっています。つまり、単純に計算して、がんと診断された人の半分くらいしか治っていないことになります。
がんと認知症の発症を予防することは、高齢化社会における医療において最優先の課題であり、医療費を抑制する最も重要なターゲットと言えます。

【がんとアルツハイマー病の発症リスクや予防法には共通点が多い】
がんは細胞分裂する細胞に発生します。細胞分裂しない心筋細胞や神経細胞はがん化することは極めて稀です。
「脳腫瘍」がありますが、脳腫瘍のほとんどはグリア細胞などの分裂する細胞から発生します。細胞分裂しない成熟した神経細胞から悪性腫瘍が発生することは極めて稀です。
分裂する細胞(再生する組織)は幹細胞があり、その組織幹細胞に遺伝子変異が蓄積してがん細胞になります。例えば、消化管粘膜上皮は絶えずリニューアル(新しく細胞ができ古い細胞は死滅する)しており、このような細胞分裂する細胞の幹細胞からがん細胞が発生します。
神経細胞は分裂しません。したがって、神経細胞が何らかのダメージで死滅しても、神経細胞は再生しないため数が減っていきます。がんは細胞分裂の制御が壊れた細胞なので、もともと細胞分裂しないように分化した神経細胞や心筋細胞からはがんが発生しにくいのです。
細胞分裂する組織は再生によって組織の若返りができますが、細胞分裂の制御が壊れるとがんが発生するというリスクを持っています。一方、神経細胞は細胞分裂しないため、がん細胞になるリスクは無いかわりに、一旦細胞が死滅するとその補充ができないので、次第に機能低下していくリスクがあります。
つまり、細胞分裂をしている細胞と細胞分裂をしない細胞には、がん化と老化において相反する運命を持っていることになります。これが後述する「がんとアルツハイマー病のトレードオフ」の理由になっています。
さて、老化(加齢)はがんとアルツハイマー病の最も大きな発症要因です。組織幹細胞の遺伝子変異は加齢とともに蓄積していくので、老化に伴ってがん細胞の発生が増えます。神経細胞も、虚血や酸化ストレスなどによってダメージを受けた神経細胞が少しづつ脱落していくので、歳を取るほど神経細胞の数が減っていき、認知症が増えてきます。
老化以外にもこの2つの疾患の発症を促進する共通の要因が多数あります。遺伝子(DNA)や細胞にダメージを与える要因、例えば、酸化ストレスや慢性炎症を引き起こすような要因はがんもアルツハイマー病も促進することになります。
高糖質食、肥満、糖尿病、メタボリック症候群、喫煙、酸化障害、慢性炎症などはがんとアルツハイマーの発症率を高めます。
糖尿病やメタボリック症候群の改善効果がある地中海食はがんとアルツハイマー病の両方を予防する効果が報告されています。地中海食は新鮮な野菜や果物や魚介類が豊富で、オリーブオイルを多く使う料理でがんやアルツハイマー病だけでなく心臓病の発生率を減らす効果も報告されています。
糖質制限食やケトン食ががんとアルツハイマー病の治療に有効であることも、両者の間に関連があることを示唆しています。
したがって、がんとアルツハイマー病の予防の観点からは、その発症リスクがかなり共通しているので、がんを予防することはアルツハイマー病の予防にもつながると言えます。
例えば、「身内にがんやアルツハイマー病になった人がいる」、「肥満や糖尿病やメタボリック症候群であるなどのがんやアルツハイマー病の発症リスクが高い」とき、その予防を考えるとき、地中海食やケトン食や糖質制限食などを考慮してみる価値はあります。

【がんサバイバーはアルツハイマー病になりにくい】
がんとアルツハイマー病の発症要因と予防法に共通点が多いということは、この2つの病気は併存する可能性が高いことを示唆します。つまり、「がん患者はアルツハイマー病になりやすい」、あるいは「アルツハイマー病になるとがんになりやすい」という関係があるように思います。
しかし、多くの疫学研究は全く逆の結果を示しています。つまり、「がんになった人はアルツハイマー病になりにくい」、「アルツハイマー病の人はがんが少ない」という結果が複数の研究で明らかになっています。アルツハイマー病だけでなくパーキンソン病でも同様の結果が得られています。つまり、がんと神経変性疾患はトレードオフの関係にあることが明らかになっています。
トレードオフ(trade-off)とは、一方を追求すれば他方を犠牲にせざるを得ないという状態 ・関係のことです。例えば、「がんになりにくい人は寿命が短くなる」「がんになりにくい人はアルツハイマー病になりやすい」ということが報告されており、「がんになりにくい」という体質や遺伝的素因を獲得した人は、「寿命」や「アルツハイマー病に対する抵抗性」を犠牲にせざるを得ない、というようなことです。
以下のような論文があります。

Trade-offs between cancer and other diseases: do they exist and influence longevity? (がんと他の病気との間のトレードオフ:トレードオフの関係は存在するのか、そして寿命に影響するのか)Rejuvenation Res. 13(4):387-96. 2010年
この論文は米国のデユーク大学のCenter for Population Health and Agingの研究グループからの報告です。
この研究グループは、フラミンガム心臓研究(The Framingham Heart Study)など米国の大規模なコホート研究のデータをもとに統計的に解析し、疾患の種類の間にトレードオフの関係がないかを検討しています。
この解析の結果は、極めて複雑ですが、疾患の種類や性別や年齢などによって違いはありますが、一部の疾患の相互間にトレードオフの関係の存在を示唆しています。
この論文の中では、アルツハイマー病の女性ではがんが少ないという結果が報告されています。

「がんのサバイバーにアルツハイマー病が少ない」、逆に、「アルツハイマー病にはがんが少ない」という結果は複数の疫学研究で示されています。最も代表的な研究結果が以下の論文です。

Inverse association between cancer and Alzheimer’s disease: results from the Framingham Heart Study. (がんとアルツハイマー病の間の逆相関:フラミンガム心臓研究からの結果)BMJ. 2012 Mar 12;344:e1442. 
フラミンガム心臓研究(the Framingham Heart Study)というのは、米国北部(マサチューセッツ州ボストン近郊)のFraminghamという町の住民を対象に1948年からスタートした大規模前向き研究です。1948年に5209名が登録して始まり、さらに1971年からは被験者の子供や配偶者が登録(Framingham Offspring Study)して研究が継続されています。オリジナルコホートに登録された人々は2年ごと、子孫研究に登録された人々は4年ごとに医療歴の調査と診察と一連の検査を受けています。
このフラミンガム心臓研究から、1986年~1990年においてがんの既往がなく認知症のない65歳以上の1278人を対象に、がんとADの関連をコホート研究で調査しています。
平均10年の追跡により、221人がアルツハイマー病と診断されました。そのうち、がん生存者ではアルツハイマー病の発症リスクが低く、ハザード比は0.67(95%信頼区間:0.47-0.97)でした。喫煙関連がんの生存者のハザード比は0.26(95%信頼区間:0.08-0.82)、喫煙に関連しないがんの生存者のハザード比は0.82(95%信頼区間:0.57-1.19)でした。(つまり、肺がんや喉頭がんのように喫煙関連のがんの生存者の方が、喫煙と関連しないがんの生存者よりもアルツハイマー病になる率が低い)
アルツハイマー病の発生率が低いのとは対照的に、喫煙関連がんの生存者は脳卒中の発症率が高く、そのハザード比は2.18(95%信頼区間:1.29-3.68)でした。逆に、アルツハイマー病の発症者では非発症者よりも発がんリスクが低く、そのハザード比は0.39(95%信頼区間:0.26-0.58)でした。すべての認知症を含めた場合の発がんリスクのハザード比は0.44でした。
以上の結果から、この論文の結論は、「がん生存者はがんにかかったことの無い人に比べてアルツハイマー病を発症するリスクが低い。そして、アルツハイマー病の人はがんの発生率が低い。アルツハイマー病になるリスクは喫煙関連がんの生存者で最低であった。このような逆相関パターンはがんとパーキンソン病の間にも認められるので、これらの結果はがんと神経変性との間に逆相関の存在を示唆している。

この論文の結果は、高齢者(65歳以上)のがんサバイバーは、がんの既往がない高齢者に比べてアルツハイマー病の罹患リスクが33%低く、アルツハイマー病患者のがん罹患リスクもアルツハイマー病でない人に比べて61%低いことを示しています。
がんサバイバーのアルツハイマー病の発症リスクは低く、逆にアルツハイマー患者の発がんリスクが低いというトレードオフの関係を示唆した報告はこれまでにもあります。パーキンソン病とがんの間にも同様の関係が指摘されています。
「がんサバイバーはアルツハイマー病を発症する前にがんで死亡しているのではないか」という可能性や、「アルツハイマー病でがんが少ないのは、認知機能が落ちたためにがんの発見頻度が低下しただけではないか」という可能性に基づく批判が行われてきました。
また、がんとアルツハイマー病の両方において、発症を促進する要因がかなり共通しています。つまり、肥満や糖尿病やメタボリック症候群や野菜の少ない食事や喫煙などは両方の病気を促進します。例えばがん生存者は、がん治療後に、禁煙し、食事の内容を改善し、肥満を解消するので、その後のアルツハイマー病のリスクも低下する可能性はあります。喫煙関連のがんの生存者で特にアルツハイマー病の発症率が低下しているので、がん生存者が禁煙するからアルツハイマー病のリスクが減る可能性はあります。
しかし、この研究では、想定されるバイアスを極力排除するような解析を行い、上記のように「がんとアルツハイマー病の間にはトレードオフの関係が存在する」という結論にいたっています。

【がんと寿命のトレードオフ】
生命現象におけるトレードオフの関係では「寿命と生殖活動の関係」が有名です。
すなわち、「生殖は寿命を切り詰める」ということは多くの証拠によって示されています。カロリー制限や去勢や遺伝子改変によって生殖活動を弱めると寿命が延びます。
繁殖能の高いマウスは短命で、成熟のプロセスがゆっくりで繁殖率が低い動物(ゾウや人間など)は寿命が長いのも「生殖と寿命のトレードオフ」の1例だと考えられています(320話参照)。
がんと寿命(あるいは老化)の間にもトレードオフの関係があることが指摘されています。これは「がんにかかりにくい体質を持っていると寿命が短くなる」、つまり「がんにかかりにくい体質を得るためには寿命が短くなるという犠牲が必要」という関係です。
がん細胞は細胞増殖が亢進しアポトーシスが起こりにくくなった細胞です。一方、老化というのは細胞の増殖活性が低下し細胞が死にやすい(アポトーシスが起こりやすい)と促進されます。したがって、体内の細胞の増殖活性が低下しアポトーシスが起こりやすいと、がんの発生を防ぐ効果がありますが、老化を促進することになります。
例えば、p53というがん抑制遺伝子をマウスに過剰発現させると、がんが発生しにくくなる代わりに寿命が短くなるという結果が報告されています。p53は細胞の増殖を止め、アポトーシスを誘導する作用があるのでがん細胞の発生や増殖を抑制しますが、この活性が高いと神経細胞が虚血や酸化障害で死滅しやすいので、神経変性疾患や老化が進行しやすいという理屈です。
以下のような論文があります。

Inverse susceptibility to oxidative death of lymphocytes obtained from Alzheimer's patients and skin cancer survivors: increased apoptosis in Alzheimer's and reduced necrosis in cancer.(アルツハイマー病の患者と皮膚がんの生存者から採取したリンパ球の酸化障害による細胞死における逆の感受性:アルツハイマー病におけるアポトーシスの亢進とがんにおける壊死の減少)
J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 67(10):1036-40. 2012年
【要旨】
複数の疫学研究により、アルツハイマー病患者にはがんの発生が少なく、逆にがんの生存者(がんサバイバー)にはアルツハイマー病の発症率が低いことが示されている。がんとアルツハイマー病の間には、細胞死に対する感受性が異なる可能性がある。アルツハイマー病の患者と皮膚がんの患者と健常者からリンパ球を採取し、過酸化水素によって誘導される細胞死に対する感受性を比較した。
その結果、健常者から採取したリンパ球に比較して、アルツハイマー病患者から採取したリンパ球は過酸化水素による細胞死が顕著に亢進し、がん患者から採取したリンパ球は細胞死に対して抵抗性を示した。
アルツハイマー病患者とがん患者から採取したリンパ球における細胞死に対する感受性の違いは、この2つの疾患がトレードオフの関係にあることを示す疫学研究の結果の理由の一つかもしれない。

アルツハイマー病やパーキンソン病のような神経変性疾患に抵抗性(発症しにくい)というのは、虚血や酸化障害などに対して細胞の変性や死(アポトーシス)が起こりにくいということです。このアポトーシスが起こりにくいということは、がん細胞は死ににくくなりやすいことを意味し、がんの発生率が高まることを意味します。このようなメカニズムの存在の可能性を示唆する研究結果です。

さて、むちゃくちゃの食生活や喫煙や飲酒が多くてもがんにならない人は多くいます。タバコも飲酒もせず、野菜中心の健康的な食事を実践していても若くしてがんになる人もいます。アルツハイマー病も同じです。つまり、がんになりにくい体質(遺伝的素因)やなりやすい体質(遺伝的素因)があります。アルツハイマー病にも同様です。
例えば、タバコの発がん物質は体内である酵素によって活性化されることによって発がん作用が強くなることが知られています。この酵素に変異などがあって活性が低いと、いくらタバコを吸っても肺がんにならない可能性があります。
また、アポリポプロテインE4(APO-E4)というリポ蛋白質の遺伝型を持っている人にアルツハイマー病が多いことが判っています。そして、このアポリポプロテインE4の遺伝型を持っている人はがんの発生率が低いことが報告されています。
アポリポプロテインは脂肪を運搬する蛋白質で、アポリポプロテインEにはE4型とE3型とE2型の3種類の遺伝型があります。これらは一部のアミノ酸が違っているだけですが、APO-E4の遺伝子型を持っている人はアルツハイマー病に非常になりやすいことが判っています。しかし、APO-E4を持っているとがんの発生が少ないことが報告されています。
このような遺伝的素因は他にも多数あると思われますが、まだ十分に解明されていません。
そして、「がんになりやすい遺伝的素因(体質)を持っている人はアルツハイマー病になりにくい」、逆に、「がんになりにくい体質はアルツハイマー病になりやすい」という関係があるようなのです。(「アルツハイマー病になりにくい人はがんになりやすい」「アルツハイマー病になりやすい人はがんになりにくい」も同じ)
つまり、老化や酸化障害や慢性炎症など発症原因は同じでも、「がん」か「アルツハイマー病」のどちらかになれば、もう一方にはなりにくいというトレードオフの関係があるということです。
それを示すデータが複数の研究で報告されています。

Trade-off in the effect of the APOE gene on the ages at onset of cardiovascular disease and cancer across ages, gender, and human generations.(年齢・性別・世代における心臓血管病とがんの発生年齢におけるAPOE遺伝子の効果のトレードオフ)
Rejuvenation Res. 16(1):28-34. 2013年.
この論文は前述のフラミンガム心臓研究のデータを用いて、がんと心臓血管病の発症年齢とポリポプロテインE4の関連を検討しています。
APO-E4遺伝子型を持っている人はAPO-E4を持っていない人に比べてがんが発生しない状態で長生きするという結果を報告しています。
この論文ではがんとアルツハイマー病の関連は検討されていませんが、APO-E4がアルツハイマー病の発生頻度を高め、がんの発生率を減らすことに関与していることは確かなようです。 

【がんと寿命とアルツハイマー病のトレードオフを解消する方法】
「がんと寿命」と「がんとアルツハイマー病」の間にトレードオフの関係があるとすると、がんとアルツハイマー病の両方の予防と寿命を延ばすことの3つを同時に達成するのが困難だと思うかもしれません。しかし、それは可能です。
まず、がんとアルツハイマー病の発症の両方を促進する要因(肥満、糖尿病、メタボリック症候群、高糖質食、喫煙、酸化障害、慢性炎症など)を減らせば良いことになります。カロリー制限が寿命と延ばし、がんやアルツハイマー病の発症を減らすことが明らかになっています。カロリー制限は影響障害を起こさないで摂取カロリーを30~40%減らす食事です。
ケトン食も、がんとアルツハイマー病の両方の予防と治療に有効です。ケトン食が寿命を延ばせるかは現時点ではまだエビデンスはありませんが、そのメカニズムから、カロリー制限と同様の効果が期待できるように思います。
カロリー制限もケトン食も、抗酸化力を高め、炎症を抑制し、肥満や糖尿病を改善するので、がんとアルツハイマー病のリスク要因を減らします。さらに、様々なメカニズム(サーチュインやAMPKやFOXOなど)を介して、がんとアルツハイマー病などの神経変性疾患の両方を予防します。
つまり、カロリー制限やケトン食を実践すれば、がんとアルツハイマー病の両方を予防でき、さらに寿命を延ばす可能性が示唆されます

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