がんの予防や治療における漢方治療の存在意義を考察しています。がん治療に役立つ情報も紹介しています。
「漢方がん治療」を考える
114)西洋医学の免疫療法の効果を高める漢方治療

図:西洋医学の免疫療法は免疫担当細胞だけをターゲットにしているが、漢方治療は免疫細胞を活性化すると同時に、体全体の臓器機能の活性化や栄養状態・血液循環の改善などによって免疫力が高まる体の状態にすることを目標にしている。
114)西洋医学の免疫療法の効果を高める漢方治療
がん治療においては、手術、化学療法(抗がん剤やホルモン療法剤など)、放射線治療の3大治療法に加えて、免疫療法が第4の治療法として重視されるようになりました。
がんの代替医療においても、免疫力増強を唱った健康食品やサプリメントが多数販売されています。
がんの漢方治療も免疫力を高める効果が重要な目標になっています。しかし、漢方治療が目指す免疫増強法は、西洋医学が目指す免疫療法とはかなり異なります。
西洋医学ではサイトカイン(免疫細胞の増殖や働きを制御する蛋白質)を使ったり、採血して採取したリンパ球やナチュラルキラー細胞を培養液の中で増やして活性化してから体内に再び戻すような養子免疫療法、抗原提示細胞(樹状細胞やマクロファージ)にがん抗原を認識させてがん抗原特異的な免疫応答を誘導するがんワクチンや樹状細胞療法などが行われています。
このような西洋医学における免疫療法の基本は、がん細胞を攻撃する免疫担当細胞だけをターゲットにして、それらを活性化することです。
一方、漢方治療が目指す免疫療法は、免疫担当細胞を刺激すると同時に、免疫が高まる体の状態に改善することを重視している点に特徴があります(図)。
免疫細胞を刺激する生薬成分としては、キノコ由来の生薬(霊芝、茯苓、猪苓、梅寄生など)に多く含まれる抗腫瘍多糖(βグルカンなど)や、人参や黄耆や柴胡などに多く含まれるサポニン類などが知られています。このような成分は、免疫担当細胞を刺激して免疫増強効果を発揮します。
さらに漢方治療では、栄養状態や血液循環や全身諸臓器の働きを良くすることによって、免疫が高まる体の状態に仕上げることを重視しています。
免疫増強作用をもった薬剤や健康食品をいくら大量に使っても、栄養状態が悪かったり、組織の血液循環が悪くて新陳代謝が低下しているような体の状況では、免疫力は十分高まりません。
免疫力を効率的に高めるためには、まず消化吸収機能を高めて栄養状態を良好にし、全身の血液循環を良い状態に保持し、組織の新陳代謝や諸臓器の機能を高めるなど、体全体の機能がバランスよく良好な状態にあることが必要です。
骨髄やリンパ組織などで免疫担当細胞に栄養や増殖シグナルを与える支持細胞の働きを良くすることも大切です。抗がん剤による骨髄抑制を改善する漢方薬の作用機序の一つとして、骨髄における支持細胞の活性化が報告されています。
抗がん剤による好中球減少に対して、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)製剤を投与すると好中球の数を増やすことができます。しかし、数を増やしても、体力や栄養状態が悪ければ好中球の働きは低下し、体全体の抵抗力や免疫力を高めることはできません。
このように、全身状態に対する配慮が少ない点が西洋医学の欠点の一つであり、免疫賦活剤やG-CSF製剤の投与だけではなかなか効果が得られない理由となっています。
漢方薬にはキノコ由来の生薬など免疫増強作用をもった生薬が豊富です。しかし、漢方治療の強みは免疫担当細胞が効果的に働くような全身状態に仕上げるための作用と配慮がなされている点にあります。免疫担当細胞だけを活性化することを目標にするのではない点が西洋医学の免疫療法と異なるところです。
したがって、西洋医学の科学的な免疫療法に、全身状態を良くする漢方治療を併用すると、相乗効果が期待できるはずです。
(文責:福田一典)
« 113)開腹手術... | 115)がん治療... » |