252)なぜ無駄な抗がん剤治療が行われるのか?

図:がんの標準治療として外科手術、放射線治療、抗がん剤治療が行われている。全身に広がった進行がんに対しては抗がん剤治療が中心になるが、抗がん剤が効かなくなると「もう治療法が無い」と匙を投げられ、緩和ケアへの移行を強制される。このような状況のとき、漢方治療や適切な代替医療は、症状の緩和や延命に役立つ。


252)なぜ無駄な抗がん剤治療が行われるのか?


【抗がん剤治療は進行がんに行われることが多い】
がんの治療には、外科手術、抗がん剤、放射線治療が3大治療法になっています。
がんが限局している場合は手術や放射線治療で根治することができますが、がんが他の臓器に転移して広がっている場合は、手術や放射線治療はほとんど役にたちません。
ホルモン療法が有効な乳がんと前立腺がん以外では、がんが全身に広がっている進行がんに対する標準治療としては抗がん剤治療が唯一の治療法になります。
白血病や悪性リンパ腫や精巣腫瘍などいくつかの腫瘍では抗がん剤治療で根治も可能ですが、肺がんや大腸がんや膵臓がんなど多くの固形がんに対しては、抗がん剤治療の効果は限定的で、一時的に縮小しても、がんが消滅する可能性は極めて低いのが実情です。しかし、症状の緩和や延命の可能性を目的に、進行がんの治療では抗がん剤治療が積極的に行われています。
このように全身に広がったがんに対する標準治療は抗がん剤が主体になるのですが、「抗がん剤でがんは全滅できない」と「抗がん剤には副作用がある」という抗がん剤治療の限界と欠点が、現在のがん治療の最も大きな問題点になっています。
「抗がん剤治療は受けてはいけない」「抗がん剤は百害あって一利なし」などという意見が医師からも発せられているのは、抗がん剤治療の限界(抗がん剤では多くの固形がんは全滅できない)と欠点(強い副作用)が根源にあるからです。
抗がん剤治療の説明を受けたがん患者さんの多くが「副作用は約束されるが効果は約束されない」という感想を持っています。抗がん剤治療の説明を受けるとき、副作用については「必ず発生する」という観点から説明を受けるのに、効果については「効かない場合も多い」というニュアンスで説明を受けます。つまり、抗がん剤治療というのは、有効性は保証されないで副作用だけは保証されるのに、標準治療として世界中で認められているという、矛盾と問題点の多い治療法であることは確かです。
現時点の抗がん剤治療の多くは、患者の3割程度の人に多少のメリットはありますが、残りの7割の人にはデメリットしか無い、というような治療法です。このような治療法は、国が認める治療法として他にはありません。例えば、高血圧や糖尿病の薬で、服用した人の3割の人しか効果が現れず、他の人にはひどい副作用が出るだけで何もメリットがない薬が認可されることはありません。
抗がん剤治療では、他に有効な治療法が無いので、10人中2、3人でも効果が期待できれば、残り7、8人に毒性によるデメリットしか無くても仕方ないと考えています。しかし、2、3割の人に効くといっても、それは一時的に腫瘍が縮小するだけで、治るわけでも延命が保証されているわけでは無いという点が問題です。


【無駄な抗がん剤治療が行われている】
「無駄な抗がん剤治療が行われている」という指摘も多くあります。特に、効果の薄い末期がんに対する抗がん剤のやり過ぎが指摘されています。
小野寺時男先生の『がんのウソと真実:医者が言いたくて、言えなかったこと』(中央公論新社)の28ページに、「抗がん剤治療をやりすぎる」ということに関して以下のように記述されています。
『日本では高度進行がん、とくに抗がん剤の効きにくいがんに対しても、抗がん剤療法が行われる傾向があります。当然ながら効果は得られにくいのですが、それでもやめるのではなく、次々と種類を替えて投与され続けるケースがかなり多いのです。衰弱していても、最後に「これでもか」とばかり、副作用の強いものが投与されています。その結果、心身ともにズタズタになってホスピス科に来る人が非常に多いのです。ホスピスの仕事に携わって、改めて驚かされることの一つは、末期がんに対する抗がん剤治療のやりすぎでした。自宅療養している人で、死亡する寸前まで抗がん剤治療のため通院している人も多いのです。』
抗がん剤治療をやりすぎる理由として、小野寺先生は以下の点を列挙しています(同書:p.29)
・   日本のがん化学療法は化学療法専門医でなく、各診療科の医師が専門診療のかたわらに行っている場合が大部分である。
・   医師のほうに、「どれか効いてくれないか」と、諦めないで最後まで続けるクセがついた。
・   何もしないと、患者が医師に見はなされたと思うから。
・   患者の側が効果を期待しすぎている。
・   学会の資料にするため。
・   病院経営の必要上、収入増のためにやむを得ず行っている。
などが挙げられると言っています。そして、『いずれにせよ、高度進行がんに対する抗がん剤治療のやりすぎは、短い余命をそのために苦しみながらすごさせる、という悲惨な結果を招いている場合が、少なくありません。』と述べています。


【抗がん剤以外に選択肢が無いから抗がん剤治療が過剰に行われる】
標準治療では進行がんに対する治療は抗がん剤以外に治療法が無いことが、抗がん剤治療が過剰に行われる根本的な原因だと言えます。
抗がん剤の効果が出にくくなったとき、あるいは、患者さんの体力が低下して抗がん剤治療の継続が困難になったとき、抗がん剤治療以外の治療法があれば、それを移行することができます。西洋医学では、このような場合、「抗がん剤治療を続ける」か「何もしないか」の二者択一の選択になるため、患者さんが治療を希望すれば、抗がん剤を継続するしか選択肢がないことになります。
医者の方も「治療を止めることは患者さんを見捨てることになる」ので治療を継続しようとすると、他に使える治療法が無いので「抗がん剤を継続するしかない」という結論になり、衰弱の著しい患者さんに対しても、抗がん剤治療を死亡直前まで続けるという状況になっています。
食事量が減り衰弱の明らかな患者さんに抗がん剤治療を行っても効くことはなく、むしろ副作用でQOL(生活の質)が低下した状態で余命を縮める可能性が高いのが事実です。
つまり、高度進行がんに対しては「抗がん剤か緩和ケアしか無い」、「抗がん剤が効かなくなったら緩和医療に移行するしか無い」というのが問題で、高度進行がんに対する標準治療には「抗がん剤治療と緩和ケアの間に何も治療法が無い」という点が問題なのです。有効性は低くても、がんの漢方治療や補完・代替医療をもっと利用しても良さそうに思いますが、日本では医師が、漢方治療もその他の代替医療も拒否する傾向にあります。また、日本の医療制度が、がんの治療に保険外の漢方治療や代替医療を取り入れにくい状況の原因にもなっています。


【がんの統合医療は日本が最も遅れている】
中国ではがん治療に西洋医学と中医学を結合した「中西医結合医療」が行われ、成果を挙げています。がんをターゲットにした西洋医学の治療に、体力や免疫力や回復力を高める中医学治療を併用することによって、がん治療の効果を高めることができることが示されています。
ヨーロッパは自然療法の歴史が長いので「エビデンスが乏しくても害が無ければ良い」という意見が主流で、がんの治療にハーブ治療や様々な自然療法が積極的に併用されています。
米国は自然療法の歴史がないから代替医療についてはエビデンスを求めます。しかし、ハーブ治療や自然療法を用いた補完・代替医療を患者が求めれば、これらの治療を否定はせず、サポートすることが原則になっています。患者側の権利が保証されているので、もし医者が代替医療医への紹介やサポートを拒否すれば、訴訟で負けて多額の損害賠償を請求される可能性が高いという事情もあるようです。
一方、日本では、患者は医者の方針に従い、がん治療において理不尽な扱いを受けても文句を言わない傾向があります。昨今の大震災などで「日本人は冷静で、我慢強く、文句を言わない」ということが世界中から賞賛を浴びていますが、この国民性が、がん治療で理不尽な扱いをうけても文句をめったに言わないことと関連しているようにも思います。
また、日本の医療では保険診療に保険外診療(自由診療)を併用すること(混合診療)が禁止されています。たとえば、保険診療と国内未承認薬の処方(保険外)を同時に受ける場合です。 同じ医療機関で保険診療に保険外診療を併用すると、保険診療の費用も全額自己負担になります。保険診療と保険外診療を併用して問題が発生した場合には、診療は不可分一体であるので、公的医療保険の信頼性も損なわれます。そのため混合診療については、自己責任による全額自己負担[保険診療の全額自己負担+保険外診療の全額自己負担]になるという考え方です。
さらに、保険医療機関及び保険医療養担当規則(療担規則)には、「保険医は、特殊な療法又は新しい療法等については、厚生労働大臣の定めるもののほか行ってはならない」(第18条)とされており、保険医が保険外診療を行うことを禁止しています。
したがって、保険診療を受けている主治医に、保険外の漢方薬やその他の代替医療の併用を相談しても、その医師自身は保険外の診療はできないので、患者側の要求を拒否せざるを得ません。また、患者が法的に訴えても、上記の法的な規則があるので、患者側は勝てません。
日本のがん治療は医者側の都合が優先され、患者の都合や権利は軽視される傾向にあります。国が認めた治療のみを行っておれば、医者は身の安全が保証されます。標準治療から外れた治療法を勧めることは、医者側のリスクになってもメリットになる事は無い(患者にとってはメリットになるのですが)という現行の医療システムに抵抗するにはかなりの勇気と覚悟が必要です。
このような事情があるため、抗がん剤治療と緩和ケアの間を埋める治療(代替医療)が日本では広まらないのかもしれません。
しかし、保険医以外の医師が行なう保険外診療を禁止する法的根拠はないので、
保険医療機関で保険診療を受けつつ、その医療機関とは無関係の別の自由診療機関で保険外診療を受けることは可能です。私のクリニックが保険診療は全く行わず、自由診療だけで漢方治療やその他の代替医療を専門に行っているのは、そのような理由(混合診療の禁止)があるからです。患者さんが保険診療を受けながら、漢方治療などの補完・代替医療を併用するためには、現時点の規則では、このような方法しかありません。
しかし、抗がん剤治療の適応が無くなった患者さんが、漢方治療を受けたいと主治医に相談しても、私のようなクリニックへ紹介してくれることはあまりありません。「がんの漢方治療や代替医療の有効性や安全性のエビデンスが乏しい」というのが主な理由です。
がんの代替医療の多くは、その有効性のエビデンスは乏しいのは確かですが、中には臨床試験で有効性が確かめられているものもあります。漢方治療も中国などでの多くの臨床的検討で、その有効性や有用性が示されています。
例えば、オウギ(黄耆)を使った漢方治療が、肺がんの抗がん剤治療の副作用を軽減し生存期間を延長させる効果が複数の臨床試験のメタ解析で示されています(第18話参照)。子宮頚がんの放射線治療に漢方治療を併用することによって延命効果を認めた報告(第77話参照)や、欧米で行われた臨床試験ではオウゴンを含む漢方薬の有効性が示されています(第106話参照)。オウゴンのフラボノイドが塩酸イリノテカンの副作用を軽減する効果の作用機序は理論的に納得でき、実際に効果が認められています(第117話参照)。
漢方以外でも、メラトニンやオメガ3不飽和脂肪酸(ドコサヘキサンエン酸やエイコサペンタエン酸など)など高度進行がんの治療に有効なサプリメントなどもあります。
抗がん剤治療の効果が無くなり、もう治療法が無いという状況で、すぐに緩和医療に移行するのではなく、患者さんが望めば、漢方治療などの代替医療を行っている診療機関に紹介してくれるような状況になれば、いわゆる「がん難民」も少しは減ると思います。



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