253)半枝蓮や白花蛇舌草の国内栽培


図:半枝蓮や白花蛇舌草などの抗がん生薬は、がん治療において世界的に注目されてきている。資源の枯渇や需要拡大による価格高騰や中国による輸入制限などに対して今のうちから対策が必要という観点から、半枝蓮や白花蛇舌草などの抗がん生薬の国内での栽培を開始した。



253)半枝蓮や白花蛇舌草の国内栽培



【第2のレアアースと言われる生薬】
レアアース(希土類)はエレクトロニクス製品に必要不可欠な材料で、現在そのほとんどを中国からの輸入に頼っています。その中国が資源の保護を理由にレアアースの輸出規制を強めていることから、日本は中国以外でのレアアースの確保に乗り出しています。
このレアアースと同様に、漢方薬の原料である生薬も、その8割以上を中国からの輸入に依存しているので、もし中国からの生薬の輸入が制限されると、日本で漢方薬を使用できなくなるという「生薬のレアアース化」や「生薬の中国リスク」が懸念されています。
生薬の中国依存の度合いを減らすために、国内での生薬の栽培や生産を増やす取り組みが行われています。


【生薬資源を取りまく最近の状況】
日本で消費される生薬の8割以上は中国産で、昔は比較的安価だったのですが、この中国産の生薬の価格が2年ほど前から高騰しています。多くの生薬の価格が数年前と比較して2~6倍くらいに値上がりし、中には価格が10倍以上に上がったものもあります。
冬虫夏草にいたっては、乱獲による枯渇と投機目的での買占めによって数百倍も価格が高騰しており、現在中国で流通している冬虫夏草のほとんどは偽物をいう報道もあります。(冬虫夏草に関しては208話参照)
中国の生薬価格の高騰の原因の一つとして中国国内の経済発展があります。すなわち、中国では1998年以降11年連続でGDP(国内総生産)成長率が7%以上で、2010年にはGDP総額が米国についで世界第2位になる経済発展をしています。
このような経済発展によって、個人所得が大きく伸びることで人件費が高騰し、生薬の生産原価が上がっています。生活が豊かになったのと、医療の皆保険制度化によって生薬の中国国内での需要が急激に増えています。しかし一方、農村過疎化による農業従事者の減少や、換金効率の良い野菜や果物の栽培に関心が移って生薬生産農家が減少し、生薬の生産量自体が減少する傾向にあります。需要と供給のバランスが需要過剰になっている状況に対して、中国政府は生薬の国内優先政策を取っているため、日本への供給不安が起こっています。
投機目的による生薬の買い占めや、相場を見ながら市場に出す売り手市場への変化によって生薬価格が意図的に高くなるように操作が行われており、さらに野生品の枯渇化や人民元の切り上げなども生薬価格を高騰させています。
干ばつや地震や洪水などの天変地異によって収穫量が減って価格が高騰しているものもあります。たとえば、山東省や河南省では大規模な干ばつを続いており、そのために生産量が大きく減少している生薬も多くあります。中国伝統医学で使用される生薬は、欧米でも注目されるようになり、欧米での需要も増えています。
そのうち、中国から日本に生薬が入ってこなくなるのではないかという危惧さえあり、レアアースと同じように世界規模での生薬資源の争奪が深刻になっています。
たとえば、漢方薬の7割以上に使われている甘草(かんぞう)は、ほぼ全て中国からの輸入ですが、野生品がほとんどであるため、乱伐による砂漠化の進展で収穫量が激減し、中国政府は2000年ごろから野生品の採取や輸出を制限・停止しています。甘草は漢方薬だけでなく食品添加物や化粧品の原料などにも広く使われているため、世界的な需要の高まりで価格は高騰を続けています。
以上のような様々な要因が複合して、供給が需要に追いつかない状況にあり、生薬の価格の高騰が進んでいるのです。


【生薬の国内生産を増やす必要性】
日本漢方生薬製剤協会によると、平成20年度に使われた生薬の83%が中国からの輸入品で、日本産は12%で、ほとんどを中国に依存しているのが現状です。中国でなければ育たない生薬も多いのですが、古くは日本でもかなりの生薬が栽培されていました。
日本で生薬の栽培が盛んになったのは江戸時代で、鎖国で中国からの輸入が途絶えたことから、八代将軍・徳川吉宗が生薬の栽培を奨励したためと言われています。ただ、気候・風土が異なる日本で全ての生薬を栽培することはできず、当時も必要な薬草は長崎から入っていました。
明治時代に西洋医学が主流になり漢方医学が衰退したため生薬の需要は激減しましたが、昭和51年に漢方エキス製剤が医療保険の適用になってから、漢方薬の需要が増えました。最近は人口の高齢化に伴って、漢方薬の需要はさらに増えています。
漢方エキス製剤の医療用承認後、生薬の需要量が大幅に増大し、その原料となる生薬の供給は、価格面などで多くを中国からの輸入に依存するようになり、安価な輸入生薬の国内市場の流入によって、国産の生薬価格は下落し、わずかな品目を残して国内での生産は減少の一途を辿っています。しかし近年、上記のような中国リスクを避けるために国内での生薬の栽培が奨励されるようになっています。漢方最大手のツムラが国内で独自の薬草栽培を始めているほか、幾つかの企業が人工栽培の実用化を目指した研究を行っています。最近では、甘草の栽培に成功したという報道がありました。
保険適用されているような使用頻度の高い生薬や日本薬局方で定められた生薬は大企業が対応してくれるのですが、がんの漢方治療に使用される「抗がん生薬」に関しては国も大企業も関心がありません。「がんの漢方治療」を専門に行っている立場として、抗がん生薬の確保に関する対策を今から考えておく必要があると思い、抗がん生薬の国内栽培を千葉大学などとの共同で行っています。


【抗がん生薬の国内栽培】
抗がん生薬として有名な白花蛇舌草(ビャッカジャゼツソウ)半枝蓮(ハンシレン)竜葵(リュウキ)などは、日本では食品扱いですので(医薬品と食品を分類する厚生労働省の食薬区分では食品に分類されている)、薬効を表示しなければ自由に販売できます。お茶やハーブと同じ扱いです。
しかし、これら抗がん生薬の抗がん作用は中国だけでなく米国などのがん研究者も注目しており、米国のベンチャー企業や大学の研究機関からの研究報告も最近増えています。したがって、このような抗がん作用のある薬草や生薬は、油断していると日本に入って来ないとか、価格が高騰する可能性もあります。
がんの漢方治療に使われている白花蛇舌草(和名:フタバムグラ)や竜葵(和名:イヌホオズキ)や半辺蓮(和名:ミゾカクシ)は日本にもかなり自生(雑草の扱い)していますので採取は可能ですが、自生しているものを採取すると労働力が大変なので、栽培で増やす試みを行っています。
半枝蓮は中国や台湾で自生あるいは栽培されていますが、近年価格が高騰しています。最近の報告によると、「半枝蓮の主要産地の河南省や湖北省では昨年(2010年)の寒の戻りなどで大幅減産のため価格が上昇し、さらに今年は干ばつの影響で収穫する新物の産出量は昨年の半分程度になるとみられており、2年連続の大幅減産により市場在庫は減少、現在、価格は昨年の同期と比べ2倍程度となっている。」ということです。
半枝蓮に関しては、米国のあるベンチャー企業が乳がんや膵臓がんの患者を対象に臨床試験を行っており、有効性を示唆する報告が発表されています。(第66話参照)
半枝蓮の価格上昇や輸入制限の可能性を見越して、4年前には半枝蓮を栽培している台湾の農家と契約栽培を開始しました。さらに、昨年から千葉大学の技術協力を受け、国内で半枝蓮や白花蛇舌草や竜葵など抗がん生薬の栽培を始めています。
上の写真に示すように、千葉大学内で種苗を増産し、温室で試験的に栽培し、現在は九州の農場で栽培しています。東北や関東での栽培計画もあったのですが、福島の原子力発電所の事故によって放射線物質が東北地方を中心に拡散している問題から、九州での栽培を行っています。
日本の農政では、米作の転作が奨励されていますが、適正な転作作物が見つからず、耕作放置農地が増えています。生薬栽培は、転作作物、地域活性化にと、2010年の中国レアアース問題以降、国内生産に関心が高まっています。このような状況を背景に、半枝蓮だけでなく、雑草として見向きもされなかった白花蛇舌草(フタバムグラ)や竜葵(イヌホオズキ)や半辺蓮(ミゾカクシ)など、がんの漢方治療に役立つ薬草の休耕田での栽培も意味があると思います。
このような抗がん生薬を使った安価な薬草茶は、がんの発生や再発の予防や治療に役立ちます自分で作れる『がんに効く薬草茶』を広める第一歩として、安全で品質のよい抗がん生薬の国内栽培を支援・推進している次第です。




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