650)ビタミンDの補充はモルヒネ使用量を減らす

図:体内でコレステロールから合成されるプロビタミンD3(7-dehydrocholesterol)は皮膚で紫外線(HV-B)照射によってビタミンD3(Cholecalciferol)へ変換される(①)。ビタミンD3は食品やサプリメントからも摂取される(②)。ビタミンD3は肝臓と腎臓で代謝されて活性型ビタミンD3である1,25(OH)2ビタミンD3(Calcitriol)になる(③)。活性型ビタミンD3は、がん組織内のがん細胞や免疫細胞や線維芽細胞などに作用して抗腫瘍作用を発揮する(④)。1,25(OH)2ビタミンD3には、疼痛や抑うつ症状や睡眠障害を緩和する作用もある(⑤)。がん患者は日光を浴びることが少なくなり、体内のビタミンD濃度が低下していることが多い。ビタミンD3のサプリメントは副作用がほとんど無く、がんの増殖抑制とがん患者の症状改善と延命効果があるので、緩和ケアに積極的に使用する根拠がある。

650)ビタミンDの補充はモルヒネ使用量を減らす

【低ビタミンD血症は緩和ケアのがん患者におけるオピオイド投与量の増加と関連する】
慢性疼痛を訴える患者ではビタミンDの血中濃度が低いという観察研究の結果がいくつか報告されています。
そこで、ビタミンDの投与による慢性疼痛の軽減効果を検証した臨床試験が行われています。これらの臨床試験ではビタミンDのサプリメントでの投与は慢性疼痛を軽減する効果は認められていません。つまり、ビタミンDには直接的な鎮痛効果は無いようです。
しかし、ビタミンDのサプリメントが抑うつや睡眠障害を改善し、鎮痛剤の効き目を高めるという報告があります。
がんの緩和ケアにおいて、ビタミンD3のサプリメントを積極的に摂取する有用性が指摘されています。
以下のような研究報告があります。スウェーデンからの報告です。 

Low vitamin D levels are associated with higher opioid dose in palliative cancer patients – results from an observational study in Sweden(低ビタミンD血症は緩和ケアのがん患者におけるオピオイド投与量の増加と関連する - スウェーデンでの観察研究の結果)PLoS One. 2015; 10(5): e0128223.

【要旨】
背景:ビタミンD欠乏症は、緩和ケアを受けているがん患者の多くに見られ、疼痛やうつ症状や感染症のリスク増加と関連している。したがって血中の25-ヒドロキシ・ビタミンD(25-OH-D)レベルの低下が、緩和ケアのがん患者におけるオピオイド用量の増加、感染症リスクの増加、および生活の質の低下と関連しているという仮説を検討した。さらに、25-OH-Dレベルと生存期間との関連性を調べた。

方法:この前向き観察的研究では、緩和ケアを受けている100人のがん患者を対象に、25-OH-Dレベルとオピオイド投与量、感染症負荷(抗生物質消費量)、生活の質(Edmonton Symptom Assessment Scale:ESAS)および生存期間との関連を、潜在的な交絡因子について調整して、単変量および重回帰分析を行った。

結果:血中25-OH-Dレベルの中央値は40 nmol/L(範囲8〜154 nmol/L)であった。25-OH-Dレベルとオピオイド使用量の間には有意な関連があり、ベータ係数は-0.67(p=0.02)であった。すなわち、血中25-OH-Dの低値はより高いオピオイド使用量と関連していた。この関連は、多変量解析における患者の病期(ステージ)の調整後も有意なままであった(ベータ係数 -0.66、p=0.04)
25-OH-Dレベルと抗生物質の使用量または生活の質との間に関連は認めなかった。一変量コックス回帰分析は、生存期間と25-OH-Dレベルとの間に弱い相関を示した(p <0.05)。しかし、アルブミン濃度の低下とCRP濃度の上昇は生存期間を予測する優れたマーカーであった(両方の分析についてp <0.001)。
結論:緩和ケアを受けているがん患者において、25-OH-D値の低値はオピオイド摂取量の増加と関連が認められた。これらの患者の痛みがビタミンD補給によって軽減できるかどうかを調べるためには、将来の介入研究が必要である。さらに、この研究は、アルブミン値の低下およびCRPレベルの上昇が、緩和ケアのがん患者における生存期間の有用なマーカーであるという以前の知見を確認した。

緩和ケアのがん患者は痛みや抑うつ症状が多く見られ、さらに感染症にかかりやすいという状況にあります。これらは生活の質(QOL)を低下させるだけでなく、生存期間を短くします。
がん患者の多くはビタミンDの血中濃度が低下しており、ビタミンDの低下が痛みや抑うつ症状を増悪することが指摘されています。
また、ビタミンDの補充は全死因死亡を減少するという報告もあります。
進行したがん患者は屋外で日光を浴びる機会も少ないので、ビタミンD欠乏になりやすいと考えられます
したがって、ビタミンD3のサプリメントを積極的に摂取してがん患者の低ビタミンD血症を改善することは、症状やQOLの改善や延命に効果が期待できると考えられています
この研究は、スウェーデンのストックホルムの緩和病棟に入院中の100人の進行がん(女性57例、男性43例)を対象にしています。年齢中央値は71歳(17から93歳)です。
血中25-OH-ビタミンDが50 nmol/L(20 ng/ml)以下が不足状態と考えられています。この研究の患者の血中25-OH-ビタミンDの中央値は40 nmol/Lですので、半数以上はビタミンDの不足状態と言えます。
この研究ではフェンタニル (Fentanyl)の使用量と血中25-OH-ビタミンD の関連を検討しています。
フェンタニルは疼痛緩和の目的で利用される合成オピオイドで、WHO方式がん疼痛治療法の3段階中の3段階目で用いられる強オピオイドです。フェンタニルの効果はモルヒネの100–200倍と言われています。
血中25ヒドロキシビタミンD (25-OH-D) は血液中のビタミンD代謝物の中で最も濃度が高く、ビタミン補充状態をよく反映するため、体内ビタミンDレベルの指標となっています。
1時間当たりのフェンタニル使用量の平均値は、25-OH-D レベルが50 nmol/L以下のがん患者(n=65)の74μgに対して、25-OH-D レベルが50 nmol/L以上のがん患者(n=35)では43μgでした。
ベータ係数(beta coefficient)が-0.67というのは、血清中の25-OH-ビタミンDの値が1 nmol/L上昇するときに1時間当たりのフェンタニルの使用量が0.67μg減少するという意味です。
つまり、ビタミンDの血清中濃度が高いほどオピオイド鎮痛薬の使用量が減るという結果です。
この研究では、ビタミンDの濃度が高いと生存期間が長いというは弱い相関が認められています。血中タンパク質の低値、および炎症反応のCRPの高値が生存期間を短くするという、以前から知られている関係はこの研究でも認められました。

【ビタミンDの補充は緩和ケアのがん患者における疼痛と感染症を減らす】
以下の論文は前述の論文と同じ研究グループからの報告です。ビタミンDのサプリメントによる補充の効果を検討しています。

Vitamin D supplementation to palliative cancer patients shows positive effects on pain and infections-Results from a matched case-control study.(緩和ケアのがん患者へのビタミンD補給は疼痛と感染症にプラスの効果を示す -症例対照研究の結果)PLoS One. 2017 Aug 31;12(8):e0184208.

【要旨】
背景:緩和ケアのがん患者において、血清中のビタミンDレベルの低値が、疼痛緩和を目的とするオピオイド投与量の増加と関連することを以前の研究で明らかにした。この症例対照研究は、緩和ケアのがん患者においてビタミンDの補給が疼痛管理、生活の質(QOL)を改善し、感染症を減らすことができるかどうかを検討した。
方法:25-ヒドロキシビタミンDの血中濃度 が75 nmol/L以下の 緩和ケア中の39人のがん患者に、ビタミンDを1日に 4000 IU を補充し、そして同じ病棟における条件を一致させた39人の対照患者(ビタミンD非投与)と比較した。オピオイドの投与量、エドモントン症状評価尺度で測定したQOL(生活の質)、抗生物質消費量を比較した。

結果:1ヵ月後、ビタミンD投与群は未投与群と比較してフェンタニル投与量が有意に減少し、差は46μg/h(95%信頼区間:24−78μg/h)であり、この差は3ヶ月後ではさらに広がり、91 μg/h(95% 信頼区間: 56-140 μg/h)であった。ESAS QoLスコアは最初の月のビタミンD群で有意に改善した。ビタミンD治療群は、未治療群と比較して3ヵ月後の抗生物質の消費量が26%少なかった。ビタミンDはすべての患者に十分な耐容性を示し、有害事象は報告されなかった。

結論:緩和ケア中のがん患者へのビタミンD補給は安全であり、疼痛管理の改善は治療後1ヶ月で認められた。ビタミンD治療の3ヵ月後には感染の減少が有意に認められた。この予備研究の結果から、254人のがん患者を対象にした無作為化プラセボ対照二重盲検研究(Palliative-D研究)が2017年の11月からスタートする。

今までの研究から、血中ビタミンD濃度が不足している人のビタミンD濃度を改善するためには1日4000 IU (100μg)程度が必要であることが示されています。(647話参照)
この研究でもビタミンDを1日4000 IUを補充しています。その結果、疼痛緩和と感染症の軽減に有効であったという結果です。

【ビタミンD欠乏はうつ病と自殺を増やす】
ビタミンD欠乏は抑うつ症状を引き起こすことが指摘されています。
ビタミンD欠乏がうつ病の発症率を8〜14%増やし、自殺を50%増やすという報告があります。
ビタミンD3の補充は、抑うつ症状を軽減し、精神状態を良くするという報告もあります。
以下のような報告があります。

Association between low serum 25-hydroxyvitamin D and depression in a large sample of healthy adults: the Cooper Center longitudinal study.(健康成人の大量サンプルにおける血清25‐ヒドロキシビタミンDの低値とうつ病との関連:クーパーセンター縦断的研究)Mayo Clin Proc. 2011 Nov;86(11):1050-5.

【要旨】
目的:クーパークリニックからの患者の大規模なデータベースで血清ビタミンDレベルとうつ病の間の関連を調査した。

患者と方法:2006年11月27日から2010年10月4日までにクーパークリニックで診察を受けた12,594人の参加者を解析した。血清25-ヒドロキシビタミンD [25(OH)D]を分析し、抑うつ状態自己評価尺度(The Center for Epidemiologic Studies Depression Scale :CES-D)を使ってうつ状態を評価した。うつ病の既往のある人とない人は、CES-Dスコアに関して2つの異なる集団を表していたので、それらは別々に分析された。

結果:総サンプルでは、ビタミンD濃度が高いほど、CES-Dスコアに基づく現在のうつ病のリスクが有意に低下した(オッズ比0.92、95%信頼区間:0.87-0.97)。うつ病の病歴のある人ではうつ病リスクの低下はより強かった(オッズ比0.90;95%信頼区間:0.82-0.98)。うつ歴を持たない人では有意ではなかった(オッズ比0.95:95%信頼区間:0.89- 1.02).

結論:ビタミンD濃度の低下は、特にうつ病の既往歴のある人において、うつ症状の発症リスクと関連することが示された。これらの所見は、うつ病の病歴を持つプライマリケア患者がビタミンDレベルの評価のための重要なターゲットになることを示唆している。

CES-D(The Center for Epidemiologic Studies Depression Scale)は米国国立精神衛生研究所でうつ病の疫学研究用に開発された自己評価尺度です。
クーパー・クリニック(Cooper Clinic)は、米国のテキサス州ダラスにあり、エアロビクスの父と言われるケネス・クーパー(Kenneth H. Cooper)博士によって1970年に設立されたクリニックです。エアロビクスセンターなどがあり、健康増進や病気の予防と治療における運動療法や予防医学の先駆けのクリニックです。
このクーパー・クリニックに登録している人の血液データと精神状態を解析して、「ビタミンD濃度の低下は、特にうつ病の既往歴のある人において、うつ症状の発症リスクと関連する」ことが示されたという報告です。
ビタミンD欠乏が自殺を増やすと言う報告もあります。 

Low vitamin D status and suicide: a case-control study of active duty military service members.(低ビタミンD状態と自殺:現役軍人のケースコントロール研究)PLoS One. 2013; 8(1): e51543.

多くの国において、ビタミンDの血中濃度が最も低くなる春に自殺率が最も高くなることが、多くの疫学研究で示されています。そこで、体内のビタミンDレベルの指標である25-ヒドロキシビタミンD(25(OH)D)の血中濃度と自殺率の関連を、米国の現役軍人を対象に、前向き症例対照試験で検討しています。
自殺する24ヶ月以内に採血していてビタミンD濃度を測定できる症例群(n=495)と、軍での階級、年齢、性別をマッチさせた対照群(n=495)を採血した季節で調節して比較しています。
その結果、血中の25(OH)Dの低下は自殺率の上昇と関連していることを報告しています。

【ビタミンD3は神経損傷の回復を促進する】
ビタミンDは神経細胞の働きにも様々な作用をします。以下のような報告があります。 

Cholecalciferol (Vitamin D3) Improves Myelination and Recovery after Nerve InjuryコレカルシフェロールビタミンD 3)は神経損傷後の髄鞘形成と回復を改善するPLoS One. 2013; 8(5): e65034.

【要旨】
以前に我々は、i)エルゴカルシフェロール(ビタミンD 2)が末梢神経を離断したラットモデルにおいて軸索直径を増大させ、神経再生を増強すること、およびii)コレカルシフェロール(ビタミンD 3)が対麻痺(両下肢のみの運動麻痺)のラットモデルにおいて呼吸および反射亢進を改善することを示した。
しかしながら、これらの化合物を臨床に使用する前に、i)どの形態(エルゴカルシフェロールとコレカルシフェロール)およびどの用量が最も効率的であるかを評価すること、およびii)この分子によって活性化される分子経路を同定することが重要である。
ラットの左腓骨神経を長さ10 mmで切り取り、逆さにして自家移植した。動物を、コレカルシフェロールまたはエルゴカルシフェロールのいずれかで、100または500 IU/kg/日の用量で、または賦形剤(Vehicle)のみで処置し、そして非損傷ラット(対照)と比較した。
後肢の機能回復は、腓骨筋機能指数を用いて12週間の間に毎週測定された。呼吸機能や再生軸索の運動および感覚応答を記録し、そして組織学的解析を行った。
並行して、後根神経節およびシュワン細胞においてビタミンDによって調節される遺伝子を同定するために、インビトロトランスクリプトーム研究を行った。
コレカルシフェロールがエルゴカルシフェロールよりも有効性が高く、そして高用量(500 IU/Kg/日)を投与した場合、コレカルシフェロールは有意な自発運動および電気生理学的回復を誘導することを観察した。
また、コレカルシフェロールは、i)近位端における保存された、または新しく形成された軸索の数、ii)遠位端における平均軸索直径、およびiii)遠位端および近位端の両方における神経突起髄鞘形成を増加させることを示した。
最後に、ビタミンD投与の24時間後に、軸索形成および髄鞘形成に関与するいくつかの遺伝子の発現が変化していることを見出した。我々の研究は、ビタミンDがいくつかのミエリン関連遺伝子の活性化を介して髄鞘形成に作用することを実証した最初のものである。それは末梢神経または脊髄修復のための将来の無作為化比較臨床試験への道を開く。

ビタミンDは、ビタミンD2(エルゴカルシフェロール)D3(コレカルシフェロール)の総称です。ビタミンD2は植物に含まれるエルゴステロールから生成され、ビタミンD3は動物の体内でコレステロールから生成されます。ビタミンDはカルシウムの代謝を調節し、骨や歯の発育や維持に必要なビタミンです。
体内では7-デヒドロコレステロールから皮膚で紫外線によってビタミンD3に変換されます。体内で生成されたビタミンD3と食物から摂取したビタミンD2およびD3は肝臓で25位が水酸化されて25(OH)ビタミンDに変換され、さらに腎臓などで1α位が水酸化されて活性型の1,25(OH)2-ビタミンDになります。
ビタミンDは多くの遺伝子の発現を亢進することで、多彩な作用を発揮します。軸索形成および髄鞘形成に関与する遺伝子にも作用して、神経系の働きを良くする効果もあるようです。
神経線維
は、脳へ送られたり、脳から送り出されたりする電気信号を伝える配線で、その最小単位は神経細胞(ニューロン)です。
神経細胞は、軸索という細胞体から長く伸びる特有の構造を持ち、神経細胞に入力された情報は、この軸索を通って伝達されます。
情報が伝達されるスピード(神経伝達速度)は軸索の直径に依存しますが、このスピードを大幅に高めるのが、軸索を取り巻いて絶縁体として働く髄鞘という構造です。髄鞘はグリア細胞(中枢神経ではオリゴデンドロサイト、末梢神経ではシュワン細胞)から供給されます。

図:ニューロン(神経細胞)は感覚や運動などの情報を処理する主体で、3種類のグリア細胞がニューロンに栄養を与え、神経組織を健全に維持する。アストロサイト(星状膠細胞)は神経組織の形態維持、血液脳関門、神経伝達物質の輸送などの役割を担っている。オリゴデンドロサイト(乏突起膠細胞)は神経細胞の軸策に巻き付いて髄鞘の形成や栄養補給の機能を持つ。ミクログリア(小膠細胞)は骨髄系のマクロファージに由来し、病原菌の排除や死細胞の除去や傷害を受けた神経組織を修復する働きを担っている。

神経細胞の軸索が一定の径に達すると、髄鞘形成が開始されます。髄鞘は絶縁体として、情報の混線を防ぐ働きと同時に、神経伝達速度を早める作用を持ちます。

図:髄鞘はオリゴデンドロサイト(希突起膠細胞)という細胞がその細胞膜を神経細胞の軸索に巻き付けて形成される。この髄鞘が絶縁シートのように働くことで,跳躍伝導と呼ばれる非常に速い神経伝達が可能になる。

ビタミンDがオリゴデンドロサイトの前駆細胞の分化を促進して、ダメージを受けた髄鞘の回復を促進する作用が報告されています。以下のような報告があります。

Vitamin D receptor–retinoid X receptor heterodimer signaling regulates oligodendrocyte progenitor cell differentiation(ビタミンD受容体/レチノイドX受容体ヘテロ二量体のシグナル伝達系はオリゴデンドロサイトの前駆細胞の分化を制御する)J Cell Biol. 2015 Dec 7; 211(5): 975–985.

【要旨】
オリゴデンドロサイト(乏突起膠細胞)の前駆細胞が成熟したオリゴデンドロサイトへの分化を調節するメカニズムは、髄鞘形成および髄鞘再形成を理解するための鍵である。 レチノイドX受容体γ(RXRγ)を介したシグナル伝達は、オリゴデンドロサイト前駆細胞の分化の正の調節因子であることが示されている。 しかしながら、RXRγの核内受容体の結合パートナーは確立されていない。 本研究では、RXRγがオリゴデンドロサイト前駆細胞と分化したオリゴデンドロサイトのいくつかの核内受容体に結合することを示し、その1つがビタミンD受容体であることを示す。 薬理学的方法および遺伝子ノックダウン法を使用して、ビタミンD受容体/レチノイドX受容体シグナル伝達がオリゴデンドロサイトの分化を誘導すること、およびビタミンD受容体アゴニストのビタミンDがオリゴデンドロサイトノ分化を促進することを示す。 我々はまた、多発性硬化症におけるオリゴデンドロサイト系統細胞におけるビタミンD受容体の発現を示す。 我々のデータは、脱髄性疾患の髄鞘再形成におけるビタミンDの役割を明らかにし、髄鞘再形成化薬の新しいターゲットを特定する。 

ビタミンD受容体(VDR)は核内受容体スーパーファミリーの一員です。ヒトのVDRは427個のアミノ酸からなる分子量50kDaのタンパク質です。
VDRに活性型ビタミンDが結合すると、9-cisレチノイン酸が結合したレチノイドX受容体(RXR)とヘテロダイマー(ヘテロ二量体)を形成し、ビタミンD標的遺伝子のプロモーター上流に存在する特異的エンハンサー配列であるビタミンD応答配列(vitamin D response element: VDRE)に結合します。
リガンドが結合して核内受容体の構造が変化するとコアクチベーター(転写共役活性化因子)が結合できるようになり、転写を促進できるようになります。
ビタミンD応答配列(VDRE) のコ ンセンサス配列は、AGGTCAの基本配列が2つ直列に並び、モチーフ間が3bp 離れたものであると考えられており、この配列の 5′上流側にRXRが、3′下流側にVDRが結合します。(下図)
このビタミンD受容体とレチノイドX受容体のヘテロダイマーによる遺伝子発現亢進が神経細胞の髄鞘形成を促進するという研究結果です。

図:活性型ビタミンD3(1α,25(OH)2ビタミンD3:Calcitriol)と結合したビタミンD受容体(VDR)は9-シス-レチノイン酸に結合したレチノイドX受容体(RXR)とヘテロ二量体を形成してビタミンD標的遺伝子の上流にあるビタミンD応答配列に結合する。このヘテロ二量体に転写共役活性化因子(コアクチベーター)などの多くのタンパク質が結合して様々な遺伝子の転写活性が亢進する。オリゴデンドロサイト(乏突起膠細胞)の髄鞘形成関連の遺伝子の発現を亢進して脱髄性疾患の治療に有効であることが報告されている。

【ビタミンDが多発性硬化症の発症率を減らし、症状の進行を遅くする】
実際に、ビタミンDが多発性硬化症の発症率や再発率を低下することが多くの疫学研究で明らかになっています
多発性硬化症は中枢神経系(脳・脊髄、視神経)の病気です。
中枢神経は神経細胞体から出る電線のような軸索を通して電気信号を伝え、感覚や身体を動かす指令などを送っています。
電線がショートするのを防ぐためにビニールのカバー(絶縁体)で覆われているように、中枢神経も髄鞘(ミエリン鞘)というもので覆われています。
多発性硬化症では炎症によってミエリンが壊れ、中の電線がむき出しになります(脱髄という)。その結果、視力障害、運動障害、感覚障害、認知症、排尿障害などさまざまな神経症状があらわれます。
炎症をともなう脱髄病巣は脳や脊髄のあちこちに繰り返し起こります。脱髄が多発し、炎症がおさまった後に傷あとが硬くなるので、「多発性硬化症」の名があります。
多発性硬化症患者さんの数は、世界で約250万人といわれており、欧米で比較的多く、アジアやアフリカでは比較的少ない傾向がみられます。日本では、約13,000人のMS患者さんが報告されており、年々増加傾向にあります。
多発性硬化症は緯度が高くなるにつれて多くなるといわれており、ビタミンD欠乏が発症リスクを高めることが推測されています。緯度が高いほど、紫外線の量が少なくなってビタミンD欠乏が起こりやすくなるためです。

Serum 25-hydroxyvitamin D levels and risk of multiple sclerosis.(血清25ヒドロキシビタミンDレベルと多発性硬化症の発症リスク) JAMA. 2006 Dec 20;296(23):2832-8.

【要旨】
背景:疫学的および実験的証拠から、強力な免疫調節剤であるビタミンDの血中濃度の高値が多発性硬化症のリスクを低下させる可能性があることが示唆されているが、この仮説に証明する前向き研究は無い。

目的:25-ヒドロキシビタミンDのレベルが多発性硬化症のリスクと関連しているかどうかを調べること。

研究法および参加者:血清試料を国防総省血清保管庫に保管している700万人以上の米軍関係者を対象とした前向き症例対照研究を実施した。 1992年から2004年までの間に、陸軍および海軍の身体障害者データベースを介して多発性硬化症の症例が確認され、診断は診療記録によって確認された。多発性硬化症の各症例(n = 257)毎に、年齢、性別、人種/民族、および採血日を一致させた2名を対照とした。ビタミンDのデータは、最初の多発性硬化症の症状が出る前に採取された2つ以上の血清サンプルの25-ヒドロキシビタミンDレベルを平均することによって評価された。

結果:白人(148症例、296対照)の中で、25-ヒドロキシビタミンD濃度の増加とともに多発性硬化症のリスクが有意に低下した(25-ヒドロキシビタミンDの50 nmol / L増加に対するオッズ比=0.59; 95%信頼区間:0.36〜0.97)。ビタミンD濃度の低い方の5分の1(<63.3 nmol / L)を1として、後続の各五分位数のオッズ比は0.57、0.57、0.74、および0.38であった。多発性硬化症リスクとの逆相関は、20歳前に測定された25-ヒドロキシビタミンDレベルで特に強かった。

結論:我々の研究結果は、血中ビタミンDの高値が多発性硬化症のより低いリスクと関連していることを示唆している。

ビタミンDが多発性硬化症の再発を防ぐ効果が報告されています。

Higher 25-hydroxyvitamin D is associated with lower relapse risk in multiple sclerosis.(25-ヒドロキシビタミンDの高値は、多発性硬化症におけるより低い再発リスクと関連している)Ann Neurol. 2010 Aug;68(2):193-203.

【要旨】
目的:ビタミンDレベルの高値と多発性硬化症の発症リスクの低下の関連が証明されている。しかし、ビタミンDが多発性硬化症の臨床経過に影響するかどうかに関してはほとんど研究されていない。本研究では、高レベルの血清25-ヒドロキシビタミンD(25-OH-D)が多発性効果症患者の再発リスクの低下と関連しているかどうかを調べた。

方法:2002年から2005年までの再発寛解型の多発性硬化症患者145人を対象に前向きコホート研究を実施した。血清25-OH-Dレベルを年2回測定し、再発の危険性を生存分析を用いて評価した。

結果:25-OH-Dレベルと、測定後6ヶ月間の再発のハザードの間には逆の線形関係があった。25-OH-Dレベルの10 nmol / lの増加あたり多発性硬化症再発のハザード比は0.91(95%信頼区間:0.85-0.97)であった(p = 0.006)。各季節の開始時の25-OH-Dを推定することによって採血のタイミングによる変動を除去した場合、この関連性は持続し、5-OH-D の10 nmol / lの増加あたりの多発性硬化症再発のハザード比は0.90(95%CI、0.83-0.98)であった(p = 0.016)。  25-OH-Dの生物学的半減期を考慮に入れて、毎月の間隔で25-OH-Dを推定したところ、25-OH-D の10 nmol / lの上昇あたり、多発性硬化症再発のハザード比は 0.88(95%CI、0.82-0.95)で、逆相関はわずかに増強された(p = 0.001)。潜在的な交絡因子を調整してもこれらの相関は変わらなかった。

考察:主に免疫調節療法を受けたコホートにおける、前向き集団ベースのコホート研究では、25-OH-Dレベルが高いほど多発性硬化症の再発の危険性が減少した。これは用量依存的に線形に起こり、25-OH-Dがそれぞれ10 nmol / L増加すると再発リスクが最大12%減少した。臨床的には、25-OH-Dレベルを50 nmol / L上げると、再発の危険性が半分にすることができる。 

 

図: 脳神経系の神経細胞の軸索はオリゴデンドロサイトの細胞膜で覆われている。この覆われた部分は髄鞘と呼ばれ,絶縁シートとして働く(①)。健常人では,髄鞘が傷ついても修復(再ミエリン化)されるが,多発性硬化症などの脱髄疾患では,この髄鞘がひどく損傷した状態になっており,運動障害などが引き起こされる(②)。ビタミンD3は再ミエリン化を促進して、脱髄疾患の回復を促進する。 

ビタミンD3のサプリメントを1日4000 IU程度を服用することは神経疾患の治療にも役立つようです。
進行がんの患者さんは1日に4000 IUから10,000 IU程度を服用することが有用であることを示すエビデンスは高いと思います。

 

ビタミンD3のサプリメント:
1カプセル1000 IU/250錠(7000円)
米国:DaVinci Laboratories of Vermont

購入ご希望の方は銀座東京クリニックにお問い合わせください。

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