101)NF-κB活性を阻害して抗がん剤感受性を高めるジインドリルメタン

図:アブラナ科の植物(ブロッコリーやケールなど)に含まれるグルコブラシシンは加水分解してインドール-3-カルビノールになり、さらに胃の中の酸性の条件下でインドール-3-カルビノールが2個重合したジインドリルメタンになる。体内で生成されるジインドリルメタンは、がん細胞内のAkt キナーゼや転写因子のNF-κBなどのシグナル伝達系を阻害することによって、がん細胞の増殖や転移を抑え、抗がん剤感受性を高めることが報告されている。漢方薬に使う生薬では大青葉や板藍根にグルコブラシシンが多く含まれている。

101)NF-κB活性を阻害して抗がん剤感受性を高めるジインドリルメタン

ジインドリルメタンは、ブロッコリーやケールやホソバタイセイなどのアブラナ科の植物や野菜に含まれグルコブラシシン(Glucobrassicin)という成分が、体内で変化して生成される物質です。
すなわち、
グルコブラシシンが加水分解してインドール-3-カルビノール(Indole-3-carbinol)になり、さらに胃の中の酸性の条件下では、インドール-3-カルビノールが2個重合したジインドリルメタン(3,3'-diindolylmethane, DIM)になります。
漢方で使用する生薬の中では、
バンランコン(板藍根:ホソバタイセイの根)やタイセイヨウ(大青葉:ホソバタイセイの葉)にグルコブラシシンが多く含まれていることが知られています。
ホソバタイセイを原料とするバンランコン(板藍根)タイセイヨウ(大青葉)の抗がん作用、グルコブラシシンから生成されるジインドリルメタンの抗がん作用については、第80話で紹介しています。
ジインドリルメタンがNF-κBの活性を阻害して、がん細胞の抗がん剤感受性を高める効果があることが最近の複数の論文に発表されていますので、それらの論文を紹介します。

Inactivation of NF-B by 3,3'-diindolylmethane contributes to increased apoptosis induced by chemotherapeutic agent in breast cancer cells(ジインドリルメタンによる転写因子NF-κBの活性阻害は、抗がん剤による乳がん細胞のアポトーシスを高める効果がある)Molecular Cancer Therapeutics 6, 2757-2765, 2007.
【要旨】
がん細胞では、セリンスレオニンリン酸化酵素のAktキナーゼや核内転写因子NF-κBが恒常的に活性化していることが多く、このようなAktやNF-κBの活性化が抗がん剤に対する抵抗性獲得の原因となっている。
今までの研究で、ジインドリルメタンは、乳がん細胞に対して、細胞死(アポトーシス)を誘導する作用、腫瘍血管の新生を阻害する作用、Akt/NF-κBシグナル伝達系を阻害する作用が報告されている。
この論文では、ジインドリルメタンによるAkt/NF-κBシグナル伝達系の活性阻害作用が、乳がんにおけるタキソールなどの抗がん剤に対する感受性(抗がん剤が効きやすくなること)を高めることを示した。
培養した乳がん細胞の培養液に抗がん剤のタキソール(0.5 ~ 1.0 nmol/L)とジインドリルメタン(15 ~ 45 μmol/L)を添加して検討した。
1.0 nmol/Lのタキソールと30 μmol/Lのジインドリルメタンを一緒に添加すると、タキソール単独の場合と比べて、がん細胞の増殖抑制と細胞死(アポトーシス)の誘導が著明であった。
さらに、動物実験でも、ジインドリルメタンはタキソールの抗腫瘍効果を増強した。
免疫不全マウスにヒトの乳がん細胞を移植して腫瘍を形成させた後に、タキソール (5 mg/kg, 静脈注射)とジインドリルメタン(1匹あたり1日に3.5mg、経口投与)を、それぞれ単独か併用して投与したところ、ジインドリルメタンはタキソールの抗腫瘍効果を増強した。
以上の実験結果から、ジインドリルメタンはAkt/NF-κB活性を阻害してタキソールに対する感受性を高める効果を示すことが明らかになった。
Apoptosis-inducing effect of erlotinib is potentiated by 3,3'-diindolylmethane in vitro and in vivo using an orthotopic model of pancreatic cancer.(膵臓がんの培養細胞と動物を用いた実験モデルにおけるerlotinibによるアポトーシス誘導作用はジインドリルメタンで増強される)Mol Cancer Ther. 7(6):1708-1719 2008
Erlotinib(商品名:タルセバ)は上皮成長因子受容体(EGFR)を阻害する抗がん剤ですが、EGFRだけを阻害しても、がん細胞の増殖を抑える効果には限界がある。EGFRの他にも、細胞増殖に関連するシグナル伝達を抑えると、がん細胞の増殖を抑える効果を高めることができる。
この報告では、erlotinibによって誘導されるアポトーシスをジインドリルメタンが増強することを、培養細胞(in vitro)と動物(in vivo)を使った実験で示した。
膵臓がんの培養細胞をジインドリルメタン (20 micromol/L)とerlotinib (2 micromol/L)を一緒に添加すると、それぞれ単独で添加した場合と比べて、がん細胞のアポトーシスが増強した。
動物実験においても、ジインドリルメンタンはerlotinibの抗腫瘍効果を増強した。
ジインドリルメタンは転写因子NF-κBの活性を阻害することによって、erlotinibに対するがん細胞の抵抗性を低下させることが示唆された。
3,3'-diindolylmethane and paclitaxel act synergistically to promote apoptosis in HER2/Neu human breast cancer cells.(Her2/Neu陽性のヒト乳がん細胞に対して、3,3'-diindolylmethaneとパクリタキセルは相乗的に作用してアポトーシスを促進する)J Surg Res. 2006 May 15;132(2):208-13.
浸潤性の乳がんの25~30%はHER2/neu がん遺伝子を過剰発現しているが、HER2/neu 陽性乳がんは、増殖が早く、抗がん剤に抵抗性であり、治療が困難である。
アブラナ科植物に多く含まれるインドール-3-カルビノールの代謝産物の3'3'-diindolylmethane (DIM)は乳がんに対して増殖抑制やアポトーシス誘導など抗腫瘍効果を示すことが報告されている。
HER2/neuを過剰発現している乳がん細胞は抗がん剤の paclitaxelに対して抵抗性である。そこで、DIMがpaclitaxelの抗腫瘍効果を高めるかどうかを検討した。その結果、DIMとpaclitaxelを併用すると、HER2/neu陽性の乳がん細胞の増殖を抑制しアポトーシスを誘導する効果を相乗的に高めることが示された。

1番目の論文の動物実験ではマウス1匹当たり1日に3.5mgのジインドリルメタンを投与しています。
マウス1匹は約20gですので、人間の60kgに換算すると約10gのジインドリルメタンを服用する計算になります。
人間とマウスの薬用量は体重換算でなく体表面積で比較するのが妥当で、その場合、体重換算の約10分の1になります。それはマウスの1日の食事摂取量や飲水量は体重換算で比較すると人間の10倍くらいになるという点からも支持されます。
つまり、この実験でマウス1匹あたり3.5mgというのは人間では約1g程度に相当すると考えられます。したがって、サプリメントなどでジインドリルメタンをがん治療の目的で使用する場合には1日数100mg~1gくらい服用すると、抗がん剤感受性を高める効果が期待できるかもしれません。
 
このように、最近の研究では、
抗がん剤治療にジインドリルメタンを併用することによって抗腫瘍効果が高まる可能性を示唆する報告が複数発表されています。
その他、多くの研究によってジインドリルメタンの抗がん作用が報告されています。
乳がんや前立腺がん以外にも、卵巣がん、肺がん、膵臓がん等多くのがんに対して抗腫瘍効果を発揮することが報告されています。副作用が無いので、抗がん剤と併用しても問題が起こることは少ないと思われます。

漢方治療でタイセイヨウ(大青葉)バンランコン(板藍根)を多く使用したり、米国でサプリメントとして販売されているジインドリルメタンを摂取することは、抗がん剤治療の効き目を高める可能性が示唆されます。
アメリカではジンドリルメタンのサプリメントが販売されており、その中で、消化管からの吸収の良い
DIM-PROが推奨されています。

◎ ジインドリルメタンにつきてはこちらへ

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