がんの予防や治療における漢方治療の存在意義を考察しています。がん治療に役立つ情報も紹介しています。
「漢方がん治療」を考える
67)田七人参(デンシチニンジン)サポニンの心臓保護作用
図:田七人参は、抗がん剤によるダメージから心臓や肝臓や血管を保護し、さらに止血作用があるので、抗がん剤による臓器障害や出血傾向の副作用の緩和に有効です。
67)田七人参(デンシチニンジン)サポニンの心臓保護作用
田七人参(三七人参とも呼ばれる)はウコギ科のサンシチニンジン(Panax notoginseng)の根で、高麗人参の仲間です。古来より「金不換(きんふかん)」とも呼ばれ、金にも換えられないほど価値が高い薬草として珍重されてきました。
主な薬効成分はサポニンです。サポニンについては65話に解説していますので参照して下さい。人参サポニンには、滋養強壮作用や免疫増強作用や様々な臓器の働きを促進する作用が知られています。
田七人参が含有するサポニンの量は高麗人参のサポニン量の2~3倍と多く、さらに田七人参には、他の人参には無い特殊なサポニンが発見されています。
このサポニンの違いが薬効の違いとも関連しています。すなわち、田七人参には、血管や心臓や肝臓に対する効果が特徴です。
肝細胞の保護作用と、障害を受けた肝細胞の再生を促進する効果があるので、肝機能障害に使用されます。
また、止血作用があるので、喀血、吐血、血便など出血がある場合に使用されます。血液循環を良くするので虚血性心疾患や高血圧にも使用されています。
抗がん剤による心臓障害に対して田七人参サポニンが保護作用を示す動物実験の研究結果が報告されていますので、紹介します。
タイトル:Protective Effect of Saponins from Panax notoginseng against Doxorubicin-Induced Cardiotoxicity in Mice. (マウスにおけるドキソルビシンによる心筋傷害に対する田七人参サポニンの保護作用)Planta Med. 2008 Feb 8 (Epub ahead of print) |
(要旨) 田七人参(Panax Notoginseng)は伝統的中国医学では心臓疾患をはじめ多くの疾患の治療に非常に多く使用されている。 田七人参の主な薬効成分としてサポニン類が知られている。 この研究は、心筋傷害を起こす抗がん剤のドキソルビシンによる心臓毒性に対する田七人参サポニンによる心臓保護作用と、ドキソルビシンの抗がん作用に対する影響を検討する目的で行った。 ICRマウスを、1)生理食塩水投与群(コントロール群)、2)ドキソルビシン単独投与群 (20 mg/kg 腹腔内投与), 3)田七人参サポニン単独投与群、4)ドキソルビシン+田七人参サポニン前投与(100 mg/kg 胃内投与、5日間) 群、5)amifostine (200 mg/kg 静脈内1回投与, 陽性コントロール)の5群に分けて実験を行った。 ドキソルビシン投与の72時間後に、心臓機能、血清中のLDH(乳酸脱水素酵素)、CK(クレアチンキナーゼ)、CK-MB(クレアチンキナーゼ・アイソザイム)、心臓組織中の抗酸化酵素の活性を測定した。 ドキソルビシン投与の前に田七人参サポニンを前投与すると、心臓収縮機能や、血清中のLDH, CK, CK-MBの数値、心臓組織のダメージ、心筋組織の抗酸化酵素(スーパーオキシド・ディスムターゼ、グルタチオン・ペルオキシダーゼ、カタラーゼ)の活性など全ての指標において、心筋保護作用が認められた。 さらに、in vitroの細胞毒性試験では、がん細胞に対するドキソルビシンの増殖阻害作用を弱めるような作用は認められなかった。 これらの結果は、田七人参サポニンが、ドキソルビシンの抗腫瘍効果を弱めずに副作用(心臓障害)を緩和する効果があることを示すものである。 |
以上の研究は動物実験ですので、人間の場合には、どの程度の効果があるかは、まだ不明です。
しかし、伝統的かつ経験的に、田七人参が心臓機能を良くし、心筋のダメージに対して保護作用を示すことは良く知られています。
心筋梗塞や狭心症の治療に田七人参が利用されています。
したがって、心筋障害を引き起こしやすいドキソルビシンやハーセプチンなどの抗がん剤治療に田七人参を含む漢方薬を併用することは有用かもしれません。
また、止血作用や免疫増強作用も報告されていますので、血小板の減少などによる出血しやすい状態や免疫力低下を緩和する効果も期待できます。(文責:福田一典)
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