68)呉茱萸(ごしゅゆ)の抗がん作用

図:ミカン科のゴシュユ(呉茱萸)の未成熟果実は、体を温める作用や鎮痛作用などの薬効を持ち、漢方薬に使用されます。ゴシュユに含まれるアルカロイドのエボジアミンには抗がん作用があることが報告されています。

67)呉茱萸(ごしゅゆ)の抗がん作用

生薬の呉茱萸(ごしゅゆ)は、中国原産のミカン科のゴシュユ(呉茱萸)の成熟する少し前の未成熟果実を乾燥したものです。
新鮮な果実は服用すると嘔吐を起こすことがあり、1年以上を経過したものを用います。古いものほど良いと言われています。
薬用にされる未成熟果実は直径5mmくらいの小さな偏球形で、独特の強い臭いがあり、辛くて苦い味があります。
アルカロイド(エボジアミン、ルテカルピン、シネフリンなど)、鎖状テルペン(エボデン)、苦み成分(リモニン)、芳香成分(オシメン)、サイクリックGMPなどが含まれ、駆虫、抗菌、鎮痛、健胃作用などが知られています。
体を温める効果があり、冷え症状や血行障害に用いられます。また、鎮痛作用があり、頭痛や腹痛や生理痛にも効果があります

呉茱萸に含まれる
エボジアミン(evodiamine)の抗腫瘍効果が報告されており、その効果は抗がん剤のパクリタキセルよりも強いという結果が報告されています。以下はその論文の紹介です。

タイトル:多剤耐性のヒト乳がん細胞(NCI/ADR-RES細胞)に対する、中国生薬「呉茱萸(ごしゅゆ)」の成分のevodiamineのin vitro(試験管内)とin vivo(生体内)における抗腫瘍効果も作用機序
Antitumor mechanism of evodiamine, a constituent from Chinese herb Evodiae fructus, in human multiple-drug resistant breast cancer NCI/ADR-RES cells in vitro and in vivo.
Carcinogenesis 26(5):968-975, 2005
(要旨)
抗がん剤に対する抵抗性獲得は、抗がん剤治療の効果を弱める主要な要因となっている。したがって、抗がん剤耐性のがん細胞の抗がん剤感受性を高める薬品の開発は重要である。
この研究は、アドリアマイシン抵抗性のヒト乳がん細胞株NCI/ADR-RES細胞に対する、中国生薬の呉茱萸(ごしゅゆ)に含まれるevodiamineの抗腫瘍効果を検討する目的で行った。
EvodiamineはNCI/ADR-RES細胞の増殖を用量依存的に抑制し、増殖を50%に阻害する濃度は0.59±0.11μMであった。
1μMの濃度では、がん細胞にアポトーシス(細胞死)を著明に誘導した。
培養したNCI/ADR-RES細胞にevodiamineを添加後、12時間経つと、細胞周期のG2/M期での停止が認められた。
Evodiamineは微小管のチューブリンの重合を促進した。
さらに、evodiamineはRaf-1キナーゼとBcl-2のリン酸化を促進した。Raf-1キナーゼのリン酸化は338番目のセリンであった。
NCI/ADR-RES細胞をヌードマウスに移植した動物実験で検討した、生体内でのevodiamineの抗腫瘍効果はpaclitaxelよりも優れていた。
以上のことから、evodiamineは抗がん剤に耐性のがん細胞の治療薬として有望であることが示唆された。

注:
微小管は細胞骨格を形成する蛋白質であり, チューブリンというタンパク質が集まった長い直径約25nmの管状構造をもっています。
微小管は細胞が分裂する時に染色体の移動に必要なため、微小管の形成を妨げると細胞分裂が阻害されます。
チューブリンから微小管が形成される過程を重合、微小管がチューブリンに戻る過程を脱重合といいます。
タキサン化合物(Paclitaxel,Docetaxel)は微小管に結合してチューブリンの重合を促進し,微小管を安定化・過剰形成させます。
一方、ビンカアルカロイドのVinorelbineはチュブリンの重合を阻害します。いずれの薬剤も微小管重合の動的平衡状態を破壊することにより微小管の正常の働きを妨げ,細胞周期を分裂期( M 期)に停止させて細胞増殖を抑制し、がん細胞を殺します。
(微小管については第58話をご参照下さい)

上記の論文では、
呉茱萸に含まれるエボジアミンはパクリタキセルと同じように、チューブリンの重合を促進し、微小管を安定化・過剰形成させることによって細胞分裂を抑えることを明らかにしています
そして、
抗がん作用を示す濃度がパクリタキセルより低く、抗がん剤に多剤耐性を有するがん細胞にも有効であることを報告しています
ヌードマウスを使った動物実験でも、エボジアミンの内服で腫瘍縮小効果が認められていますので、人間でも経口摂取で抗がん作用が期待できる可能性を示唆しています。乳がんをはじめ、がんの漢方治療で使用してみる価値はあるかもしれません。

(文責:福田一典)

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