がんの予防や治療における漢方治療の存在意義を考察しています。がん治療に役立つ情報も紹介しています。
「漢方がん治療」を考える
599)乳がんとメラトニンとスマートフォン:夜間のスマホ使用は乳がんを増やす
図:パソコンやスマートフォンや液晶テレビなどの画面から出る青色の光「ブルーライト」に夜間に強く曝露されると(①)、松果体からのメラトニンの産生が減少して(②)、がん(特に乳がん)の発生を増やす可能性や、抗がん剤治療やホルモン療法に対する抵抗性を高める可能性が指摘されている(③)。白色光の照明中にも青色光が入っているので(④)、夜間の明るい照明もメラトニンの産生を減らして、がんの発生や体調不良の原因になっている。
599)乳がんとメラトニンとスマートフォン:夜間のスマホ使用は乳がんを増やす
【メラトニンは体内時計を制御する】
生体の生理機能は昼夜常に同じ状態を保っているわけではなく、ほぼ1日を周期として変動する概日リズム(サーカディアンリズム)が存在します。
私達の体の中(脳)にはいわゆる『体内時計』があり、昼夜サイクルの時間を刻みながら、体の多くの機能に活動と休息のリズムを与えています。これをサーカディアンリズム(circadian rhythm)と言います。ラテン語で「サーカ」は「約」、「ディアン」は「1日」という意味で、日本語では「概日リズム」と言います。
メラトニンは睡眠を促すホルモンで、脳のほぼ真ん中にある『松果体』と呼ばれる、松かさに似たトウモロコシ1粒くらいの大きさの器官から放出されるホルモンです。
夜暗くなると、松果体からメラトニンが分泌され始め、血中のメラトニンが増えると睡魔が襲ってきます。そして、生体リズムは睡眠や体息に適したものに調整されます。
朝、太陽光線が目に入ると、松果体にその刺激が伝わりメラトニンの分泌が抑制されます。 これによって覚醒スイッチがONとなり、諸々の生体機能は昼間の活動に適応した状態になります(下図)。
図:メラトニンは脳の松果体から分泌される(①)。夕方になって暗くなると松果体からメラトニンの産生が始まる(②)。夜間にメラトニンの血中濃度が上昇し、真夜中(午前2時から5時ころ)にピークに達する(③)。夜間のメラトニンの濃度は日中の5〜10倍に達する。メラトニンは分泌開始から10~12時間で分泌を中止し、急激に血中濃度が低下し、午前7時ころに最低になって覚醒する(④)。
メラトニンの原料は必須アミノ酸のトリプトファンです。トリプトファンに2種類の酵素が働いてセロトニンに変わります(トリプトファン → 5-ヒドロキシトリプトファン → セロトニン)。
セロトニンは神経細胞と神経細胞のつなぎ目(シナプス)で情報伝達の役目をする神経伝達物質の一つです。このセロトニンに2種類の酵素が働いてメラトニンが合成されます(セロトニン → N-アセチルセロトニン → メラトニン)。メラトニンの化学名はN-アセチル-5-メトキシトリプタミン(N-acetyl-5-methoxytrypamine)です。
セロトニン → メラトニンという段階は、体内時計(視交叉上核)からの指令が来ないとスタートしない仕組みになっています。すなわち、目から入った光の情報は視神経と通って脳にある視交叉上核に伝えられ、さらに神経によって松果体に連絡が入ってメラトニンの合成が制御されます。視交叉上核が体内時計の中枢です。
メラトニンは松果体から分泌された後、血液に乗って全身に運ばれ、最終的には肝臓で代謝されます。唾液や脳脊髄液、卵巣の卵包液、胆汁中にも移行します。血液脳関門や胎盤も通過します。メラトニンは松果体の他にも、網膜や消化管や皮膚や骨髄や白血球からも産生されることが明らかになっています。
メラトニンはヒトの体内時計を調節するホルモンとして、快適な睡眠をもたらし、時差ぼけを解消するサプリメントとして評判になりましたが、最近の研究で若返り作用(抗老化作用)や抗がん作用や免疫増強作用なども報告されています。
メラトニンの分泌異常が不眠や時差ぼけや抑うつ、ストレス、生殖能力、免疫異常やある種のがんの発生と関連している可能性が報告されています。
【夜間のスマホ使用が乳がんを増やす?】
夜の時間帯に強い光を浴びると、メラトニンの産生が減って寝つきが悪くなります。昼夜サイクルを無視した生活をすると体内時計の調子が狂い、体調を損ねる原因となります。 夜間に光を浴び続けると、メラトニンの分泌が低下し、免疫力が低下し、がんの発生が増えることが報告されています。
がんとの関連においては、特に乳がんとの関連が研究されています。
例えば、夜間の照明が、メラトニンの分泌の低下を引き起こし、乳がんの発症に関与している可能性を指摘する「乳がん発生のメラトニン仮説」も提唱されています。
盲目の人には乳がんが少ないという報告や、夜間勤務の人には乳がんが多いという報告があり、これらはメラトニンが多く分泌される状況にあると乳がんの発生が抑えられ、夜間勤務のようにメラトニンの分泌が抑えられると乳がんが発生しやすい可能性を示唆しています。
最近では、パソコンやスマートフォン(高機能携帯電話=スマホ)や液晶テレビなどの画面から出る青色の光「ブルーライト」を夜間に強く曝露されると、メラトニンの産生を減らして、がんの発生を増やす可能性が指摘されています。以下のような報告があります。
Women with hereditary breast cancer predispositions should avoid using their smartphones, tablets, and laptops at night.(遺伝性乳がんの素因を持つ女性は、夜間にスマートフォン、タブレット、ラップトップの使用は避けるべき)Iran J Basic Med Sci. 2018 Feb; 21(2): 112–115.
【要旨】
乳がんは、先進国と途上国の両方において、女性で最も一般的な悪性腫瘍である。
BRCA1およびBRCA2遺伝子の変異を持つ女性は乳がんおよび卵巣がんの発症リスクが高い。
最近の研究では、短波長の可視光がメラトニンの分泌を妨げることによって、概日リズムの乱れの原因となることが示されている。
我々は以前から、携帯電話、携帯電話基地局、携帯電話妨害装置、ラップトップコンピュータ、レーダーなどの高周波電磁界(radiofrequency electromagnetic fields)の異なるレベルへの曝露の健康への影響を研究している。
さらに、デジタル画面から放射された青色領域の短波長可視光の曝露による健康への影響を過去数年間にわたって調べている。
スマートフォンの画面から放射された青色光への曝露はメラトニン分泌を減少させるので、夜間のスマートフォンの使用が睡眠を妨げる可能性が報告されている。
私たちは、携帯電話から発生する青い光と高周波電磁界の両方が、夜間に携帯電話を使用する人々の概日リズムの混乱に関連していることを明らかにした。
したがって、遺伝性乳がんの素因を持つ女性が、夜間にスマートフォン、タブレット、ラップトップを使用すると、デジタル画面から発生する青色光がメラトニンの分泌を抑制して概日リズムを混乱させ、乳がんの発症リスクを高める。
以上の観点から、変異したBRCA1またはBRCA2を持つ女性、あるいは家族に乳がんが多い女性は、夜間のスマートフォンやタブレットやラップトップの使用を避けるべきであると結論付けることができる。
琥珀色のレンズのサングラスや青色光の使用者への曝露を減らすスマートフォンのアプリケーションを使用することは、睡眠前の青色光への暴露を減らし、概日リズムの乱れや乳がん発症のリスクをある程度減少させることができる。
人間の目に光として感じる波長範囲の電磁波を可視光線(visible light)と言います。
波長によって異なる色感覚を与え、紫(380-430 nm)、青(430-490 nm)、緑(490-550 nm)、黄(550-590 nm)、橙(590-640 nm)、赤(640-770 nm)として認識されます。
人間の視覚が色を認識するのは、網膜の視細胞である錐体にあるヨドプシンと呼ばれるタンパク質の働きによります。人間の錐体には3種類あり、それぞれ青、緑、赤色の光を認識し、これらの3種類の錐体によって、すべての色を表現することができます。
可視光線のうち、波長の短いほどエネルギーが強く、いわゆるブルーライトと言われる380nmから500nmの波長の可視光線はパソコンやスマートフォンなどのLEDディスプレイ(発光ダイオードを用いた液晶画面)から多く発せられています。
ブルーライトは紫外線と波長が近い光で、可視光線の中でも非常にエネルギーが高く、網膜にまで到達し、網膜色素変性症などの網膜傷害の原因になっています。さらに、メラトニンの産生を抑制する作用が強いことも指摘されています。
図:可視光線の中でも波長の短いブルーライト(青色光)は、パソコンやスマートフォンなどのLEDディスプレイから多く発せられ、その健康被害が問題になっている。
BRCA1(breast cancer susceptibility gene I、乳がん感受性遺伝子I)とBRCA2(breast cancer susceptibility gene II)は、家族性(遺伝性)の乳がんの原因遺伝子として同定されました。これらの遺伝子の変異は遺伝子不安定性を生じ、乳がんや卵巣がんを引き起こす原因になります。
2017年のJAMAの報告によると、80歳までに乳がんになる確率は、BRCA1に変異がある場合は72%(95% CI, 65%-79%)、BRCA2に変異がある場合は69% (95% CI, 61%-77%)というデータがあります。
Risks of Breast, Ovarian, and Contralateral Breast Cancer for BRCA1 and BRCA2 Mutation Carriers.JAMA. 2017 Jun 20;317(23):2402-2416. doi: 10.1001/jama.2017.7112.
日本で推計年間9万人が発症する乳がんの5~10%は遺伝性とされ、中でもBRCA1とBRCA2という遺伝子のいずれかに変異があるために発症するケースが多いと言われています。
日本乳癌学会は今年5月16日、3年ぶりに診療ガイドラインを改訂し、遺伝子変異が原因で乳がんを発症した患者について、がんになっていない側の乳房も再発予防を目的に切除することを「強く推奨する」との見解を示しました。推奨の度合いをこれまでの「検討してもよい」から最も高い段階に引き上げたのです。
遺伝性乳がんの素因がある人が乳房の予防的切除を行わない場合は、乳がんの発症リスクを減らすことが大切です。
夜間のスマホやパソコンや液晶テレビはメラトニンの産生を減らして、乳がん発生のリスクを高めることが指摘されています。ブルーライトを減らす眼鏡やブルーライトをカットするアプリなどを利用することが大切だと提言しています。
【夜間のブルーライト曝露は乳がん治療の効果を弱める】
メラトニンは免疫力や抗酸化力を高めてがんに対する抵抗力を増強するだけでなく、がん細胞自体に働きかけて増殖を抑える効果も報告されています。
メラトニンには、がん細胞の増殖・転移を阻害する作用が報告されています。例えば、がん細胞による成長因子の取り込みを阻害する作用、テロメラーゼ活性を阻害してがん細胞のアポトーシスを誘導する作用、がん抑制因子のP53の発現を制御する効果などが報告されています。
メラトニンは培養細胞を使った研究で、乳がん細胞のp53蛋白(がん抑制遺伝子の一種)の発現量を増やし、がん細胞の増殖を抑制することが報告されています。
メラトニンは腫瘍組織の血管新生を阻害する作用があります。腫瘍組織における血管新生は低酸素が引き金となります。低酸素は低酸素誘導因子(hypoxia inducible factor;HIF)という転写因子の活性を高めます。HIFは血管内皮増殖因子(VEGF)やエンドセリンなど血管新生に必要な遺伝子の発現を促進します。メラトニンはHIFの活性を抑制し、VEGFやエンドセリンなど血管新生に働く増殖因子の発現を低下させ、血管新生を阻害するのです。
また、エストロゲン依存性のMCF-7乳がん細胞を使った実験で、エストロゲンとエストロゲン受容体の複合物が核内のDNAのエストロゲン応答部位に結合するところをメラトニンが阻害することによって、エストロゲン依存性の乳がん細胞の増殖を抑えることが報告されています。
動物実験では、乳がん、前立腺がん、悪性黒色腫、白血病などで、がんの増殖を抑える効果が示されています。人間の腫瘍においても、メラトニン摂取によって多くの固形がんで生存率を向上させる効果が報告されています。
メラトニンが乳がんのホルモン療法や抗がん剤治療の効果を高めることが以前から報告されています。逆に夜間の光曝露がメラトニン産生を抑制して、治療に対するがん細胞の抵抗性を高める作用も報告されています。以下のような報告があります。
Circadian and Melatonin Disruption by Exposure to Light at Night Drives Intrinsic Resistance to Tamoxifen Therapy in Breast Cancer(夜間の光曝露による概日リズムとメラトニン分泌の阻害は、乳がん治療におけるタモキシフェンに対する内因性抵抗性を引き起こす)Cancer Res. 2014 Aug 1;74(15):4099-110.
【要旨】
内分泌療法に対する抵抗性は、乳がんの治療成功への大きな障害となっている。
乳がん細胞の抗エストロゲン薬に対する耐性は、がん促進性に作用する様々なチロシン・キナーゼの過剰発現や活性亢進と関連していることが基礎研究および臨床研究で示されている。
夜勤のある交代制勤務の仕事や睡眠覚醒サイクルの乱れによる概日リズムの破綻は、乳がんおよび他の疾患の発症リスクを高める可能性が指摘されている。
さらに、夜間の光曝露は、乳がんの増殖を阻害する作用があるメラトニンの夜間の産生を抑制している。
本研究では、エストロゲン受容体陽性のMCF-7乳がん細胞をマウスに移植する実験モデルを用い、夜間の弱い光曝露によって明/暗サイクルを変化させることで、腫瘍の増殖や代謝やタモキシフェン治療に対する抵抗性にどのような影響が起こるかを検討した。
概日リズムが乱れていないマウス、あるいは夜間の光曝露を受けても夜間にメラトニンの投与を受けたマウスでは、移植腫瘍の増大速度の亢進やタモキシフェンに対する抵抗性亢進の現象は見られなかった。
メラトニンは腫瘍細胞の代謝を阻害し、概日リズムで制御されるキナーゼ(リン酸化酵素)を阻害し、乳がん細胞のタモキシフェンに対する感受性を亢進し、腫瘍を縮小する作用が認められた。
以上の結果から、夜間の弱い光曝露による夜間のメラトニン産生の阻害が、乳がん細胞のタモキシエンに対する抵抗性を引き起こすことが示された。
つまり、乳がんの治療としてホルモン療法を受けているときは、夜間のブルーライトの曝露などメラトニンの産生を減らすことは、治療効果を弱める結果になります。
ブルーライトの曝露を減らし、メラトニンをサプリメントで補充するメリットはありそうです。
夜間のブルーライトへの曝露は抗がん剤治療に対する抵抗性とも関連しているようです。以下のような報告があります。
Doxorubicin resistance in breast cancer is driven by light at night-induced disruption of the circadian melatonin signal.(乳がん細胞のドキソルビシン耐性は、夜間の光によって誘導される概日的なメラトニンシグナルの破綻によって引き起こされる)J Pineal Res. 2015 Aug;59(1):60-9.
夜間の光曝露がメラトニンの産生を低下させ、抗がん剤のドキソルビシンに対する耐性を亢進するという報告です。
メラトニンが増殖シグナル伝達系に作用して抗がん剤感受性を高めることは多くの研究があります。
以下のような報告があります。
Melatonin enhances sensitivity to fluorouracil in oesophageal squamous cell carcinoma through inhibition of Erk and Akt pathway.(メラトニンは、ErkおよびAkt経路の阻害を介して、食道扁平上皮がんにおけるフルオロウラシルに対する感受性を高める)
Cell Death Dis. 2016 Oct 27;7(10):e2432.
【要旨の抜粋】
メラトニンの食道の扁平上皮がんに対する抗腫瘍活性とそのメカニズムを検討し、メラトニンが食道扁平上皮がん細胞の増殖と移動と浸潤を阻害し、マウスに移植した腫瘍の増殖を抑制することを明らかにした。
さらに、メラトニン投与は、リン酸化(活性化)したMEKとErkとGSK3βとAktの発現を有意に抑制した。
対照的に、化学療法薬の5-フルオロウラシル(5-FU)はErkとAktを活性化し、5-FUによって活性化されたErkとAktはメラトニン投与で抑制された。
培養細胞(in vitro)およびマウス移植腫瘍(in vivo)の実験系の両方において、メラトニンは食道扁平上皮がんに対する5-FUの抗腫瘍活性を増強した。
以上の結果から、メラトニンによるErkとAkt経路の阻害が、食道扁平上皮がんの5−FUに対する感受性亢進に重要な役割を果たしていることが示唆された。5-FUとメラトニンの併用は食道扁平上皮がんの有効な治療法になる可能性があり、さらなる研究が必要である。
Melatonin synergizes the chemotherapeutic effect of 5-fluorouracil in colon cancer by suppressing PI3K/AKT and NF-κB/iNOS signaling pathways.(メラトニンは、PI3K / AKTおよびNF-κB/ iNOSシグナル伝達経路を抑制することによって結腸がんにおける5-フルオロウラシルの化学療法効果を相乗的に増強する。)J Pineal Res. 2017 Mar;62(2).
【要旨の抜粋】
5-フルオロウラシル(5-FU)は、大腸がんの治療で最も一般的に使用される化学療法剤の一つである。メラトニンは、様々ながんに対して抗腫瘍活性を発揮するが、5-FUとの組合せでの検討は行われていない。
本研究では、大腸がんにおいて、メラトニンと5-FUの併用による抗腫瘍効果を検討し、大腸がんの細胞増殖、コロニー形成、細胞遊走および浸潤に対する5-FUの阻害作用をメラトニンが有意に増強することを明らかにした。
メラトニンは、5-FUと相乗的に作用して、カスパーゼ/ PARP依存性アポトーシス経路の活性化を促進し、細胞周期停止を誘導した。
さらに、メラトニンはPI3K / AKTおよびNF-κB/誘導型一酸化窒素合成酵素(iNOS)のシグナル伝達系を阻害することによって5-FUの抗腫瘍効果を増強することを明らかにした。
メラトニンと5-FUの併用はPI3K、AKT、IKKα、IκBαおよびp65タンパク質のリン酸化を抑制し、NF-κBのp50 / p65の核から細胞質への移行を促進し、iNOS遺伝子のプロモーターへのNF-κBの結合を阻害することによってiNOSシグナル伝達系を阻害した。
さらに、PI3K又はiNOSの特異的阻害剤は、5-FU及びメラトニンの抗腫瘍効果を相乗的に増強した。
最後に、マウスの異種移植腫瘍モデルにおいて、メラトニンはAKTおよびiNOSシグナル伝達系を阻害することによって5-FUの抗腫瘍効果を増強した。
以上の結果から、メラトニンは複数のシグナル伝達経路を同時に抑制することによって、大腸がんにおける5-FUの抗腫瘍効果を相乗的に増強することを実証した。
メラトニンはYAPの活性化を抑制することによってブレオマイシンによる肺線維化を抑制するという報告もあります。
Melatonin Protects against Lung Fibrosis by Regulating the Hippo/YAP Pathway.(メラトニンはHippo/YAP経路を制御することによって肺線維化を抑制する)Int J Mol Sci. 2018 Apr 9;19(4). pii: E1118.
【要旨】
特発性肺線維症(Idiopathic pulmonary fibrosis ;IPF)は進行性の間質性肺炎で死亡率が高い。
メラトニンは主に松果体から分泌されるホルモンで、特発性肺線維症の発症過程に関与していることが報告されている。しかしながら、肺線維症に対するメラトニンの作用メカニズムは明らかにされていない。
本研究は、肺線維症に対するメラトニンの線維化抑制作用を評価し、その作用機序を解明することを目的とした。
メラトニンは、ブレオマイシンで誘発したマウスの実験的肺線維症を顕著に抑制し、肺の線維芽細胞におけるTGF-β1誘導性の結合組織合成を阻害した。
さらに、メラトニン受容体阻害剤のluzindoleはメラトニンによる線維化抑制作用を阻止した。
In vivoとin vitroの実験系において、メラトニンはその受容体と結合することによって、Hippo経路の下流のエフェクター分子であるYAP1の細胞質から核への移行を抑制した。
以上の結果から、メラトニンはYAP1の活性を阻害することによって肺線維化を予防することが示された。肺線維症の治療においてメラトニンは新規な治療法になる可能性を示唆している。
乳がんだけでなく、多くのがん種において、抗がん剤治療にメラトニンを併用する価値はあると思います。通常、がん治療の目的では1日に10〜40mgを就寝の1時間くらい前に服用します。
【夜間の照明は発がんを促進する】
夜間の光照射(light exposure at night)が乳がんなど幾つかのがんの発生を促進することが明らかになっています。その理由として夜間の照明がメラトニンの分泌を低下させるからだと考えられています。
乳がんに対するメラトニンの抗腫瘍効果を支持する研究結果は数多く報告されています。そのため、米国や西洋諸国における工業化と電化に伴って、夜間のおけるメラトニンの産生が抑制されることが、乳がんの増加と関連しているという仮説が提唱されています。
夜間における光照射(光曝露)が、視交叉上核に存在する日内リズムの制御システムを乱す重要な環境要因であることは、よく知られています。
脳の松果体からのメラトニンの夜間の分泌は、夜間の光照射によって抑制され、その効果は光強度と期間と波長に依存することが明らかになっています。
メラトニンが細胞の代謝やシグナル伝達系に作用して、乳がん細胞の発生や進展を抑制することは、多くの研究によって示されています。
さらに、疫学研究の結果などによって、世界保健機関(WHO)の附属組織で人間への発がんリスクの評価を専門に行っている国際がん研究機関(IARC)は、2007年に概日リズムを乱す交代制の仕事(shift-work)を、発がん作用の可能性がある(group 2A)と分類して発表しています。
乳がん組織を用いた実験で、女性から夜間に採取した血液(メラトニン量が多い)は乳がん細胞の増殖を抑制し、夜間に光照射を受けた女性から採取した血液(メラトニン分泌が減少)は細胞増殖シグナル系やリノール酸取込み・代謝を亢進したという報告があります。
この効果はメラトニン受容体(MT1/MT2)の阻害剤によって阻止されるので、メラトニンの乳がん細胞増殖抑制効果は受容体依存性のメカニズムによると考えられています。
ラットに乳がん細胞を移植する実験系で、夜間や昼間に光照射を行うと、増殖シグナル伝達系の活性化が起こり、腫瘍の増大が亢進することが報告されています。そのメカニズムはメラトニンの分泌が抑制されるためであると考えられています。夜間の照明によるがん細胞の増殖促進はメラトニン投与によって阻止できるからです。
乳がん組織の増殖活性やリノール酸の取込み・代謝、解糖系酵素の活性、生存シグナル伝達系は夜間のメラトニン産生によって日内変動を受ける事が報告されています。
夜間に光照射を受けると、メラトニン産生が抑制され、高血糖、高インスリン血症、好気性解糖(ワールブルグ効果)亢進、がん細胞の増殖促進が起こることが実験で示されています。
前述のように、夜間の光照射(光曝露)が乳がんのホルモン療法や抗がん剤治療の効果を弱めることが乳がんの移植腫瘍の実験系で明らかになっています。
夜間のメラトニンの分泌低下が好気性解糖(ワールブルグ効果)と増殖や生存のシグナル伝達系(PI3K/AKT経路、EGFR/HER2経路、RAS/MAPK/ERK経路、mTOR経路など)を亢進することが報告されています。その結果、乳がん細胞は死ににくくなり、増殖速度が亢進します。
したがって、がんの治療中や再発予防の目的(特に乳がんの場合)では、夜間はできるだけ暗い状態で規則正しく睡眠を取ることが大切です。
スマホやパソコンや液晶テレビを見るときは、ブルーライトをカットする方法を利用することが大切です。
就寝前にメラトニンを10〜20mg程度摂取することも有益です。
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