108)霊芝は本当にがんに効くのか?

図:霊芝は古くから様々な薬効が信じられてきた。培養細胞や動物を使った実験で、免疫増強作用や抗がん作用が報告されているが、人間に対する抗がん作用の証明は極めて少なく、その効果は今だに伝説や臨床経験に依存する部分が多い。


108)霊芝は本当にがんに効くのか?


【霊芝の効能は単なる伝説か?】
霊芝とは中国各地や日本に分布するサルノコシカケ科の担子菌類のマンネンタケ(Ganoderma lucidum)などの子実体(胞子形成のためにつくる傘状の部分)です。
クヌギなどの広葉樹の根部に生え、傘は腎臓形または半円形をしており、紫褐色で漆状の光沢があり、木質状の硬いキノコです。
約2千年前に中国でまとめられた薬物学書「
神農本草経」には「命を養う延命の霊薬」として記載されており、それ以来、様々な薬効が信じられ、多くの病気の治療に用いられてきました。
かつては入手困難なために非常に高価でしたが、近年は日本や中国や韓国などで人工栽培されるようになって、健康食品や民間薬として広く利用されています。
薬理作用として血圧降下、利尿、血流改善、抗菌、精神安定、肝保護作用などが報告され、
体力低下や胃腸虚弱、呼吸器疾患や肝疾患など多くの病気の治療に使用されています
霊芝には、様々な薬能があると信じられていますが、人間での効果の有効性については十分な根拠があるわけではありません。むしろ、ほとんどデータが無いと言っても過言ではありません。
霊芝の効能を裏付けようとさまざまな基礎研究が世界で行われており、
培養細胞や実験動物を用いた研究では免疫増強作用や抗がん作用などが報告されていますしかし臨床試験などで人間での有効性を示した研究はほとんど見当たりません

【キノコの多糖の免疫増強効果とは】
キノコに含まれる
ベータ・グルカンという多糖成分には免疫増強作用があり、がんの民間療法や漢方治療で使用されています。特にサルノコシカケ科のキノコにはベータ・グルカンが豊富に含まれています
サルノコシカケ科の生薬としては、
霊芝(サルノコシカケ科のマンネンタケの一種)、猪苓(サルノコシカケ科のチョレイマイタケの菌核)、茯苓(サルノコシカケ科のマツホドの菌核)があります。日本の民間薬としてがん治療に利用されている梅寄生(バイキセイ)は、ブナなカシなどの広葉樹に寄生するサルノコシカケ科のキノコの一種のコフキサルノコシカケの子実体です。
マイタケもサルノコシカケ科のキノコです。サルノコシカケ科のキノコは「猿が腰掛ける」と言う意味があるほど、非常に硬く食用には適しませんが、唯一の例外がマイタケです。マイタケは軟らかく美味しく、栽培によって安価に購入できることから、食用のキノコとして人気があります。マイタケから抽出した多糖体成分は免疫増強のサプリメントとしても販売されています。
鹿角霊芝(Antlered form of Ganoderma lucidum)は霊芝(Ganaderma lucidum)の仲間ですが、免疫増強作用をもつベータ・グルカンの量が通常の霊芝や他のキノコ類よりも多いと言われています。
βグルカンの免疫増強作用に関しては、マクロファージやリンパ球やナチュラルキラー細胞の活性を高め、インターフェロンガンマなどの抗腫瘍性のサイトカインの産生を高めることによって、がん組織を縮小させることが、多くの動物実験などで示されています。
霊芝の抗がん作用も、その免疫増強作用の観点からの研究が多いようです。

【多糖以外の抗がん成分】
霊芝には、βグルカンのような多糖類の他に、エルゴステロール、トリテルペノイド(triperpenoide)、有機酸、マンニトール、クマリンなどが含まれています。これらも霊芝の抗がん作用との関連で研究が多く行われています。
エルゴステロールはビタミンDの前駆物質です。ビタミンDには様々ながんを予防する効果がありますので、霊芝のがん予防効果と関連してエルゴステロールの存在を言及する論文もあります。
トリテルペノイドにはがん細胞のシグナル伝達に作用して、増殖の抑制や細胞死(アポトーシス)誘導などの効果があることが報告されています。
がん細胞の増殖を促進する核内転写因子のNF-κBの活性を阻害する作用なども報告されています。しかし、これらの実験は全て培養細胞を使った試験管内での実験ですので、人間での効果をどの程度反映しているか疑問です。つまり、霊芝のエキスをがん細胞に添加して増殖が抑えられたという実験を報告した論文がありますが、その添加した霊芝エキスの濃度が1mg/mlというような高いレベルでは、人間ではほとんど期待できない効果かもしれません。
つまり、霊芝の成分が、人が服用して、本当に抗がん作用を発揮するのかまだ
十分な根拠はありません。

【霊芝の抗がん作用はまだ仮説レベル】
神農本草経に命を養う霊薬と記載され、しかも入手が極めて困難であったため、その効能は多分に誇張されてきた可能性はあります。アガリクスやメシマコブやマイタケなどのキノコの免疫増強作用や抗がん作用の研究も、霊芝の効能や伝説の影響を多く受けています。
霊芝の抗がん作用はまだ伝説の域から脱していないと言わざるを得ませんので、あまり過度な期待は持たない方が良いので、高価な製品に手を出すのは勧められません。
しかし、
動物実験や臨床経験から、肝臓を保護し、呼吸機能を良くし、免疫力を高める効果は、多少は期待できるようです。抗がん剤や放射線治療の副作用を緩和し、生存率を高めるという動物実験の報告もあります。(91話参照
抗がん剤治療は放射線治療の副作用軽減と抗腫瘍効果の増強を目的とした漢方治療において、補気・補血・駆お血作用に加えて、霊芝を加えるのも、伝説的・経験的効果を含めてプラスアルファの効果が期待できるかもしれません。
ただし、霊芝には血圧降下作用や血小板凝集抑制作用が指摘されているので、血小板減少がある場合や、血圧低下作用のある医薬品との併用には注意が必要です。
(文責:福田一典)

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