がんの予防や治療における漢方治療の存在意義を考察しています。がん治療に役立つ情報も紹介しています。
「漢方がん治療」を考える
133)漢方薬の血管新生阻害作用
図:がん組織が増殖するためには栄養と酸素を運ぶ血管が必要。がん組織は血管を作る増殖因子を産生して血管新生を行なっている。がん組織を養う血管ができると増殖と転移が促進される。炎症反応が腫瘍の血管新生を促進することも知られている。抗炎症作用や血管新生阻害作用を有する生薬は、がんの増殖や再発や転移を抑制し、がんの漢方治療に役立つ。
133)漢方薬の血管新生阻害作用
【がん組織が大きくなるには血管の新生が必要】
がんが大きくなるためには、栄養や酸素を運ぶ血管を増やしていく必要があります。新しい血管が増生することを「血管新生」と言い、がん細胞は自ら血管を増やす増殖因子を分泌して、血管を新生しています。
がん組織が1〜2mmくらいになると、それ以上大きくなるためにはがん組織専用の血管が必要になって、がん細胞が血管を新生するための増殖因子を産生しだすといわれています。
血管から離れたがん細胞に酸素や栄養素が拡散で到達するのは1〜2mmが限界だからです。
したがって、腫瘍の血管新生を阻害する薬を早期から使用すれば、残ったがん細胞の増殖を抑制して再発を防ぐことになります。がんが大きい場合もで、がん細胞を殺す抗がん剤治療などと併用すれば、抗腫瘍効果を高めることができます。
血管新生阻害をターゲットにした分子標的薬がすでに幾つか開発され、がん治療に使われ、その有効性が認められています。
漢方薬に使われる生薬からも血管新生阻害作用を有する成分が見つかっています。血管新生の過程そのものを抑えるものや、血管新生を促進する要因となる炎症を抑えるものなどが知られています。
漢方薬の血管新生阻害作用は西洋薬に比べると弱いのですが、手術後の再発予防の目的などで、副作用の強い西洋薬の血管新生阻害剤の使用が適さない場合には、血管新生や抗炎症作用をもった漢方薬や生薬成分は有用です。
古くから漢方薬は炎症性疾患の治療に用いられてきました。抗炎症作用のある生薬は「清熱解毒薬」として知られています。この清熱解毒薬は、抗菌・抗炎症・抗酸化作用があり、さらに抗炎症作用による間接的な血管新生阻害作用を示すだけでなく、がん細胞の増殖や血管新生のシグナル伝達過程を直接的に阻害する作用も報告されています。
手術や抗がん剤治療後の再発予防には、抗炎症作用をもった生薬を適切に使うことが大切です。
それは、滋養強壮薬の中には血管新生を促進する作用が報告されたものもあるからです。体力や免疫力の増強だけを目指した漢方治療は、血管新生促進による微小転移の成長を促進する可能性があることを知っておく必要があります。
つまり、体を元気にする薬はがん細胞も元気にする可能性があるのです。
【手術後の再発予防に有効な生薬のNF-κB阻害作用】
手術後の創傷治癒過程で産生される炎症性サイトカインや増殖因子などの作用によってがん組織の血管新生が促進される可能性が指摘されています。
手術によって損傷をうけた組織を修復するためにマクロファージや好中球などの炎症細胞が活性化され、さらに線維芽細胞などの結合組織の増殖が刺激されます。この炎症反応や創傷治癒過程では、血管新生を刺激する血管内皮細胞増殖因子(VEGF)や様々な細胞増殖因子や炎症性サイトカイン(炎症細胞の増殖を制御する蛋白質)の産生が高まります。
これらは創傷治癒に必要ですが、がん細胞の増殖を促進する働きも持っています。つまり、手術侵襲が大きいほどVEGFや増殖因子や炎症性サイトカインが増える結果、転移巣のがん細胞の増殖が促進される可能性が指摘されています。
炎症性サイトカインやVEGFや増殖因子の産生には、転写因子のNF-κBが関与していますので、NF-κBの活性を阻害する生薬は再発予防に有効です。
黄ごんや半枝蓮に含まれるフラボノイトや、ウコンに含まれるクルクミン、板藍根や大青葉に含まれるグルコブラシシンがNF-κBを阻害して炎症性サイトカインの産生を抑えることが報告されています。(詳細はこちらへ)
【青蒿(セイコウ)に含まれるアルテミシニン誘導体】
青蒿(セイコウ)は強力な解熱作用があり、中国ではマラリアの治療に古くから使用されていました。青蒿はartemisia annuaという植物です。artemisiaとはヨモギのことで、青蒿はキク科ヨモギ属の植物です。英語ではsweet Annieやwormwoodと呼ばれ、和名はクソニンジンとかカワラニンジンと呼ばれています。
その解熱成分の アルテミシニン(artemisinin) とその誘導体(アルテスネイト、ジヒドロアルテミシニンなど)は マラリア の特効薬として薬品として開発されています。このアルテミシニン誘導体にはがん細胞を死滅させる効果や血管新生阻害作用が報告されています。
Artesunateには抗がん剤に耐性になったがん細胞の抗がん剤感受性を高める効果があることが報告されおり、抗がん剤治療にArtesunateを併用すると、抗がん剤の抗腫瘍効果を高める可能性が報告されています。
日本で流通している生薬の青蒿(セイコウ)はartemisia annuaとは別の植物で、アルテミシンは含まれていないようです。アルテミシン製剤はサプリメントや医薬品(抗マラリア薬)として販売されています。青蒿を煎じて服用するよりアルテミシニン製剤を利用した方が良いと言えます。
(詳細はこちらへ)
以上のような抗炎症作用や血管新生阻害作用を有する生薬や生薬成分やサプリメントはがん治療後の再発予防に有効です。
がんの漢方治療では、体力と免疫力の増強効果だけでは逆効果の場合もあります。抗炎症や血管新生阻害作用の併用がポイントになります。
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