がんの予防や治療における漢方治療の存在意義を考察しています。がん治療に役立つ情報も紹介しています。
「漢方がん治療」を考える
97)生薬の抽出効率を高める:薬研とフードプロセッサーと粉砕器
図:生薬を細かくすると煎じる際の抽出効率を高めることができる。昔は薬研(やげん)を用いて生薬を細切していたが、現在ではフードプロセッサーや粉砕器を用いれば簡単に粉末にできる。
97)生薬の抽出効率を高める:薬研とフードプロセッサーと粉砕器
漢方薬は、生薬(薬草)を熱水で30~60分間煎じて、生薬に含まれる薬効成分を煮だした液(煎じ液)を服用する薬です。
生薬は薬草を乾燥して細かく刻みますが、この「乾燥して細かく刻む」という加工法が、生薬に含まれる薬効成分を抽出する効率を高める基本になります。(56話参照)
生薬や薬草に含まれる薬効成分は植物の細胞内に含まれるため、体内で吸収するためには細胞壁を壊す必要があるのですが、植物の細胞壁はヒトの胃腸の消化酵素では十分に消化できません。しかし、乾燥して熱湯で長時間煎じると、細胞壁が容易に壊れ、細胞内の成分が液の中に出て来てきます。
生薬に含まれる薬効成分を熱水で抽出するときに、その抽出効率を高める基本は生薬を細かく刻むことです。細かく刻めば刻むほど表面積が大きくなり、熱水との接触面積が大きくなるため抽出効率が上がるからです。粉末状にすれば、もっと抽出効率が高まります。
昔は、生薬を細かく刻むために薬研(やげん)という道具が使われていました。薬研は、中に窪みのある小舟型の器具の窪んだ箇所に生薬を入れ、軸を通した車輪を前後に往復させることによって、生薬を押し砕いて細粉にする道具です(上図参照)。
さらにより細かく粉末状にするためには、すり鉢や乳鉢ですり潰す方法が使われていました。
近年では、食品を細かい粉末にするフードプロセッサーや、硬い生薬も粉砕して粉末にできる粉砕器もあります。このような道具を使って、煎じる前に生薬をさらに細かく粉末状にすると、薬効成分を抽出しやすくなります。
例えば、免疫力を高めるベータグルカンが豊富な霊芝のようなサルノコシカケの仲間は非常に硬く、流通している数mmの大きさの刻み生薬をそのまま煎じても、その免疫増強成分が十分に抽出されているか疑問に感じます。
高麗人参や田七人参のような根を使った生薬も、乾燥すると石のように硬くなっていますので、数mmの厚さに刻んだものを30分くらい煎じても、カスの方に煮だせなかった成分がかなり残っているのではないかと感じます。
しかし、生薬を煎じる時間は長ければ良いというわけではありません。抽出し難いものは長く煎じる方が良いのですが、揮発性の成分や長く熱処理すると分解するような成分を含む生薬は長く煎じると薬効成分が少なくなってしまいます。
そこで通常、鉱物や貝殻などは硬くて有効成分が溶出し難いので、先に強火で15~30分くらい煎じた後、他薬を加え更に煎じます。一方、薄荷や蘇葉のような芳香性の薬草は揮発しやすいので、他薬を先に煎じた後、煎じ終わる5~10分前に投入し煎じます。
このように硬い生薬は長く煎じる必要がありますが、粉末状にすることによって煎じる時間を短くできます。加熱時間を短くできれば、揮発性の薬効成分を減らすことも防げます。銀座東京クリニックでは、煎じてレトルトパックに入れて処方する場合には、硬いために抽出効率が悪い人参、田七人参、霊芝などは粉末にしてから煎じるようにしていますが、粉末化して煎じると確かに効き目も高くなるようです。
粉末すると、粉が舞うので、煎じ薬を1日毎に和紙などの袋にいれる作業が大変だというデメリットもありますので、抽出効率と扱いやすさの両方の妥協点から、流通している生薬の多くは、数mmの大きさの刻み生薬になっているのかもしれません。しかし、薬効や抽出効率を優先すると、生薬を粉末状に加工して煎じるメリットは重要だと思います。
(文責:福田一典)
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