がんの予防や治療における漢方治療の存在意義を考察しています。がん治療に役立つ情報も紹介しています。
「漢方がん治療」を考える
34)喜樹とイリノテカン
図:喜樹という樹木から抗がん作用をもったカンプトテシンが発見され、それを基に抗がん剤のイリノテカンが開発された。
34)喜樹とイリノテカン
中国の雲南省ではヌマミズキ科のカンレンボク(旱蓮木)が街路樹として植えられています。
カンレンボクの別名は喜樹と言い、その木からカンプトテシンという抗がん作用を持つ成分が発見され、この物質の類縁物質が化学的に合成されて抗がん剤のイリノテカン(略号CPT-11、商品名:トポテシン、カンプト)が開発されました。
喜樹(Camptotheca acuminata)は中国の長江流域以南の地域に分布し、道ばたや庭園に多く栽培されています。樹高20m以上にも達する樹木で、よく繁殖するので「福の木」とも言われています。木材は家具の製造や製紙の原料にも使用されています。
喜樹の根や葉や果実は古くから抗菌・抗腫瘍作用が知られ、中国では古くから皮膚疾患やがんの治療に民間薬として利用されていました。
一方、アメリカ合衆国では、1950年代から、世界中で使用されている民間薬や薬草から抗がん活性を有する成分を見つける研究が行われ、その研究の過程で、喜樹の根や葉や果実に含まれるカンプトテシン(Camptothecin)という物質に極めて強い抗がん活性が発見され、抗がん剤として研究が始められました。
カンプトテシンは強い副作用のため米国では抗がん薬としての開発が中断されましたが、日本の製薬メーカーにより開発が継続され、カンプトテシン誘導体のイリノテカン(irinotecan)が抗癌剤として市販され、切れ味の鋭い抗がん剤としての利用されています。
イリノテカンは植物アルカロイドに分類される抗がん剤です。DNAの複製の時に必要なトポイソメラーゼという酵素を阻害することによって細胞分裂中のDNAを切断し、がん細胞が分裂増殖するのを阻害します。
国内では、大腸がんや肺がん、子宮頸がん、卵巣がん、胃がん、乳がん、悪性リンパ腫等に適用される薬剤で、今日のがん臨床で広く用いられている極めて有望な抗がん剤です。
漢方では喜樹は果実と根が薬用として利用されています。果実は秋から初冬に採取して天日で乾燥します。厚生労働省の食薬区分では、「喜樹の果実」は食品に分類されていますが、漢方治療ではその強い抗がん活性が利用されています。
カンプトテシンは果実に最も多く含まれます。果実にはカンプトテシン以外にも、ヒドロキシカンプトテシン、デオキシカンプトテシンなどの抗がん成分が含まれています。
がんの漢方治療において喜樹は、慢性リンパ性白血病や慢性骨髄性白血病、胃がん、大腸がん、肝臓がん、肺がん、膀胱がんなどの治療に使用されています。
果実の場合、煎じ薬には1日量3~9グラムを使用しています。
西洋医学で現在使用されている抗がん剤の中には薬草から分離されたものが多くあります。合成薬のような切れ味はありませんが、薬草に含まれる抗がん成分を利用することによって、がん細胞の増殖を抑えることは可能です。
また、イリノテカンの副作用として下痢が問題になりますが、漢方薬に含まれるフラボノイドなどの成分がイリノテカンの下痢を予防することが報告されています。
したがって、抗がん成分を含む生薬と、その副作用を緩和する生薬を組み合わせることのより、副作用の少ない抗がん作用をもった漢方薬を作成することができます。
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