62) ウコンは抗がん剤の効き目を強めるのか、弱めるのか

図:ウコンは熱帯地方に自生するショウガ科の植物で、その根茎は様々な伝統医療で使用される他、香辛料や染料としても利用される。ウコンに含まれるクルクミンには抗炎症作用や抗酸化作用やがん予防効果が報告されている。

62) ウコンは抗がん剤の効き目を強めるのか、弱めるのか

【ウコンはカレー粉やたくわんの着色剤として食品に使われている】
ウコン(Curcuma longa)はインドや東南アジアなど熱帯地方に生えているショウガ科の植物です。国内では、沖縄、九州南部、屋久島に自生し、また栽培もされています。その根の部分は生姜に似ており、その乾燥粉末は「ターメリック」という香辛料であり、カレー粉の黄色い色素の元でもあるので馴染み深い食材です。黄色色素を利用してたくわんの着色剤やウコン染めの名で染料としても使われています。
ターメリックエキスやその成分のクルクミンは強い
抗酸化作用を持っています。鮮やかな黄色をしていることと、過酸化脂質に対する抗酸化性があるため、バター、マーガリン、チーズなどの食品に抗酸化剤としても利用されています。
ウコンは昔から多くの國で民間薬としても使われています。漢方医学では、利胆(胆汁の分泌促進)、芳香性健胃薬の他に止血や鎮痛を目的に漢方処方に配合されます。インドの伝統医学のアーユルヴェーダでは抗炎症作用が利用され様々な疾患の治療に用いられています。ターメリック湿布は、炎症や痛みを和らげる目的で使用されています。
肝臓の解毒機能を強化し、二日酔いの防止にも効果があります。最近では、胃腸病や高血圧などの幅広い効用も認められるようになりました。民間療法や健康食品としてもポピュラーな食品です。

【ウコンに含まれるクルクミンは転写因子NF-kBの活性を阻害して抗炎症作用と抗腫瘍活性を示す】
古来よりアーユルヴェーダでは、捻挫や炎症の治療に対してターメリックの局所使用や経口服用を行っています。このような使用法は、経験によってのみならず臨床試験によってもその効果が実証されています。
関節リュウマチ患者を対象にした臨床試験では、
クルクミン(1200mg/日)はピラゾロン系抗炎症薬のフェニルブタゾンに匹敵する抗炎症作用を示し、副作用は極めて少ないことが報告されています
1988年、アメリカのラトガ-ス大学薬学部のコニー博士らは、マウスを使った実験を行い、ウコンに含まれるクルクミン(curcumin)が皮膚がんの発生を抑制するという研究結果を報告しました。それ以来、日本や台湾を中心にウコンのがん予防効果の研究が進められています。
発がん物質を使った動物実験では、皮膚がん、胃がん、大腸がん、乳がん、肝臓がんなどの発生を抑える効果が報告されています。クルクミンのがん予防効果や、がん患者における抗腫瘍効果を検討する多数の臨床試験が米国などで実施されています。
クルクミンは胆汁分泌を促し、脂肪の消化吸収を助ける作用があり、肝臓の解毒作用を強化する働きがあります。強い抗酸化作用と同時に、NF-κBという転写因子の活性化を阻害することにより、炎症や発がんを促進する誘導性一酸化窒素合成酵素(iNOS)シクロオキシゲナーゼー2(COX-2)の合成を抑えてがんの発生を予防したり、がん細胞を死にやすくするなどの効果が最近の研究で明らかにされがん予防物質として注目を集めています。
転写因子のNF-kBは、通常は細胞内でIkBという阻害蛋白と結合して不活性な状態で存在しています。マクロファージに炎症性のシグナルが来ると、IkB蛋白が分解してNF-kBはフリーになって細胞の核に移行します。核内においてiNOSやCOX-2などの遺伝子の調節領域に結合して、これらの蛋白質の合成を開始します。最近の研究で、
クルクミンはIkBの分解を阻止してNF-kBの活性化を抑制することによって、マクロファージからのiNOSやCOX-2の合成を抑えることが明らかになっています。
また、がん細胞においては、活性酸素などによってNF-kBが活性化されると、増殖が促進され、アポトーシスという細胞死が起こりにくくなります。アポトーシスとは、細胞がある情報を受けて、自ら能動的に死んでいく「プログラムされた細胞死」のことをいいます。
多くのがん細胞は、転写因子NF-kBが活性化されるとアポトーシスが起こりにくくなって増殖速度が早くなりますがん細胞で活性化されたNF-kBを阻害してやるとがん細胞が抗がん剤で死にやすくなり、クルクミンががん細胞のNF-kBの活性化を阻害してがん細胞のアポトーシスを引き起こすことが報告されています。
このように、クルクミンのNFkB活性の阻害は、炎症細胞からの誘導性一酸化窒素合成酵素(iNOS)やシクロオキシゲナーゼー2(COX-2)の合成を阻害し、がん細胞のアポトーシス感受性を高めて死にやすくすることにつながり、さらに抗酸化作用も加わってがん予防効果を発揮することになります。さらに多くの研究者は、クルクミンが抗がん剤や放射線治療の効き目を高めることを報告しています。
しかし、クルクミンが抗がん剤や放射線治療の効果を弱めるという全く逆の報告もあります。(後述)

【がん治療に利用するときの注意】
クルクミン含量の多いウコン・エキスを粉や粒にした健康食品も販売されています。お茶(ハーブティー)として日常的に飲用することもできます。ウコン茶を煎じるときは、1日量を6~10グラムとし、400~600ミリリットルの水に加えて沸騰させます。沸騰して5分ほどたったら火を止め、これを2~3回に分けて空腹時に飲むようにします。また、煮物や焼き物に入れると、ショウガに似た独特の風味が楽しめます。
ウコンの抗酸化作用や抗炎症作用を利用してがんの予防や治療目的で使用する場合には、少し多めの量を服用する必要があります。
クルクミンを摂取する場合は1日に1グラム以上が必要です。ウコンにはクルクミンが5%くらい含まれますので、ウコンの抗腫瘍効果を期待する場合には1日20グラムくらいが必要です。
ウコンの抗酸化作用や抗炎症作用などの薬効はクルクミンのみに由来するわけではありません。クルクミンは水に不溶で消化管からの吸収は極めて悪いことが知られています。吸収されても肝臓で直ぐに分解されます。
したがって、
クルクミンだけを服用するより、ウコンそのものを摂取する方が効果が高いように思います
食品として長く使用され、副作用はほとんどありません。しかし、
単独で大量に服用すると胃潰瘍の原因になることが指摘されていますので、胃腸粘膜を保護するような他の生薬と組み合わせる漢方薬の方が安全です。
ウコンは抗酸化作用や抗炎症作用や肝細胞保護作用があり、胆汁うっ滞を改善(利胆作用)があるので、肝障害にも効果があります。したがって、抗がん剤による肝障害にも効果が期待できます。ただ、C型慢性肝炎の患者さんの場合は、鉄の取り過ぎが病状を悪化させ、ウコンには鉄分が多く含まれるので、とり過ぎには注意が必要と言われています。この場合はクルクミンのサプリメントの方が良いかもしれません。
胆汁の分泌を促進するので、胆道系の閉塞による胆汁うっ滞がある場合は使用しない方が良いようです。

【クルクミンが抗がん剤の効き目を妨げる可能性が報告されている】
ウコンやクルクミンの摂取が抗がん剤治療の効果を妨げる可能性を示唆する研究結果が、米国のノースカロライナ大学の研究グループから発表されています。(Cancer Res. 62: 3868-3875, 2002)
抗がん剤ががん細胞をアポトーシスで殺す過程で必要な、活性酸素の発生やJNKシグナル伝達系の活性化を、クルクミンが阻害するからです。
この研究では、培養した乳がん細胞を使った実験で、カンプトテシンやドキソルビシンなどの抗がん剤で誘導されるアポトーシスを1マイクロモル(μM)という極めて低濃度のクルクミンで阻害されることが確認されています。
さらに、ヒトの乳がん細胞をマウスに移植した実験では、クルクミンを食事に混ぜて投与することによって、シクロフォスファミドによる腫瘍縮小効果が著明に阻害されることが示されています。
培養細胞や動物実験の段階ですので、まだ十分な結論が出ているわけではありませんが、抗がん剤治療中の乳がん患者は、ウコンやクルクミンの入った健康食品だけでなく、カレーのような食品も制限する必要があると、この研究を行った研究者は述べています。

この論文を巡っては研究者の間で大きな議論が行われています。抗がん剤治療中にクルクミンを併用する方が良いという意見と、併用すべきでないという真っ向から反対する意見があるからです。
多くの研究者は、ウコンやクルクミンのNF-kB阻害作用などが、抗がん剤の効き目を高める可能性を示唆しています
ヌードマウスに膵臓がん細胞移植した動物実験では、ジェムシタビン(gemcitabine)とクルクミンを併用すると抗腫瘍効果が高まるという実験結果が報告されています。同様に卵巣がんの動物実験では、クルクミンがドセタキセル(docetaxel)の抗腫瘍効果を高めることが報告されています。クルクミンがオキサリプラチン(oxaliplatin)の効果を高める結果も報告されています。

しかし一方、クルクミンが抗がん剤の抗腫瘍効果を妨げる結果も報告されていることも事実です。クルクミンが放射線照射による細胞のアポトーシスを阻害するという報告もあります。したがって、
クルクミンやウコンが抗がん剤や放射線の効き目を妨げる可能性は否定できません。

この議論は、抗がん剤や放射線治療中の抗酸化性ビタミンなどの抗酸化作用をもったサプリメントの使用の是非に関する議論と似ています。
抗がん剤や放射線治療は活性酸素によるがん細胞のダメージによって効果を示すのであるから、抗酸化作用をもったサプリメントを多く摂取すると、治療効果が妨げられるという意見があります。一方、抗酸化性サプリメントは抗がん剤治療や放射線治療の効果を高めるという意見もあります。この議論の結論はまだ出ていません。
同様に抗がん剤や放射線治療の際のクルクミンの使用の是非も結論が出ていません。
少なくとも、
Cancer Researchというがん研究では極めてレベルの高い論文に、抗がん剤治療中のクルクミンの使用のデメリットが報告されている以上、この問題の結論が出るまでは、クルクミンやウコンは抗がん剤治療中は併用しない方が無難かもしれません
抗がん剤や放射線を行っていない場合には、クルクミンを1日数グラム、あるいはウコンを1日10~20グラムくらい摂取するのは、抗腫瘍効果が期待できるかもしれません。

(文責:福田一典)

◯ 漢方漢方煎じ薬についてはこちらへ

 

 

バナーをクリックするとサイトに移行します
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )
« 61) 細胞保護... 63) 食品の三... »