がんの予防や治療における漢方治療の存在意義を考察しています。がん治療に役立つ情報も紹介しています。
「漢方がん治療」を考える
198)ホメオパシーとプラセボ効果と神頼み
図:ホメオパシーの科学的根拠は全くなく、プラセボ(偽薬)効果以上の効果は無いと考えられている。しかし、信じている人は多く、書物も多い。
198)ホメオパシーとプラセボ効果と神頼み
ホメオパシー(Homeopathy)とは、ホメオ(同じとか類似という意味)とパトス(苦難や苦痛を意味)という2つのギリシャ語からできた用語で「同様の苦痛」という意味です。
ある症状を持つ人に、もし健康な人間に与えたらその症状と似た症状を起こす物質を、極めて薄く希釈して与えることによって、症状を軽減したり治したりする治療法で、日本語では同種療法や同毒療法などと訳されています。
ホメオパシーが治療の手段として実践されるようになったのはここ200年ほどで、ドイツの医師であり化学者でもあるザミュエル・ハーネマン(1755-1843)が病気の治療法として確立しました。病気と似た症状を起こす植物や鉱物を何度も水で薄めて撹拌し、この水を砂糖玉にしみこませた錠剤(レメディ)を服用して自然治癒力を引き出し、病気を治すという治療法です。
単なる希釈のみでは効果はみられませんが、溶液を希釈するたびに液を激しく振るという方法(震盪)を用いると薬液に「活力」を与えることができ、希釈と震盪とを交互に繰り返すことで、薬液の効果を高めることができると主張しています。
希釈を繰り返すと、確率からいって原料になった物質の分子は一つも存在しないことになり、体に薬効を示すとは常識的には考えられません。しかし、「物質を超えた何かが存在する」とか「治療薬の中には、母体となった物質の記憶がエネルギーのかたちで存在している」というような説明がなされています。ハーネマンはこの「正体不明の何か」を「生命力」と呼んでいます。
確かに、生命力とは目に見えません。生命力の本質は、体を構成する成分を動かすエネルギーや情報の総和と言えます。
したがって、「ホメオパシーで使用するレメディーが、生命力を刺激するようなエネルギーや情報を持っているから、病気の治療効果を発揮する」という考えは、観念的には、理解できないわけではありません。それを信じて利用している人は多くいます。
しかし、物質至上主義の立場からは、一つの分子も含まれていない水が何らかの薬効を持つことは科学的には理解不能であり、荒唐無稽な考えです。実際に、臨床試験を含めて多くの研究で、その有効性が否定されているのは事実です。
英国のノンフィクション作家のサイモン・シン(Simon Singh)と英エクスター大学の代替医療分野の教授のエツアート・エルンスト(Edzart Ernst)が2008年に出版した「Trick or Treatment? 」という本(日本語訳は「代替医療のトリック」という書名で新潮出版から出版)では、ホメオパシーについて多くのページを割いて考察していますが、ホメオパシーをインチキ治療の代表のように記述しています。
この本の著者らは、「これまでに何百件という臨床試験が行われてきたが、どの病気に対しても、ホメオパシーを支持するような、有意の、ないし説得力のある科学的根拠はひとつも得られていない。逆に、ホメオパシー・レメディには全く効果がないことを示す科学的根拠なら多数ある。普通、ホメオパシー・レメディには有効成分の分子は一個も含まれていないことを思えば、効果がなくとも驚くにはあたらない。」最後には、「いかさま療法と言われてもしかたが無いだろう」と言っています。
このように、科学的には偽医療といわれるホメオパシーですが、イギリスやインドや中南米やアフリカの国で代替医療として盛んに行われており、日本でもごく一部の医療関係者が、がんやうつ病などの患者にレメディを投与しています。体の自然治癒力を高めるという主張と、副作用が無く、費用がかからないというのが支持されている主な理由のようです。
さて、山口県で昨年10月、助産師にビタミンK2シロップの代わりにホメオパシー療法の錠剤を投与された乳児がビタミンK欠乏性出血症で死亡した事件がおこりました。
これを受け、日本学術会議は「ホメオパシーの治療効果は科学的に明確に否定されている」との談話を発表しました。
さらに、日本医師会と日本医学会も共同会見を開き、会員、学会員らに治療でこの療法を使わないよう周知徹底していくことを表明しました。 日本医師会の原中勝征会長は「ホメオパシーが新興宗教のように広がった場合、非常に多くの問題が生じるだろうという 危機感を持っている」と述べ、日本医師会の高久会長は「科学的根拠はないということで一致した。ホメオパシーに頼り、通常医療を受けずに亡くなった人がいるという被害が出ている」と 指摘しています。
つまり、「ホメオパシーは科学的には全く効果が無い偽医療であり、それを信じて現代医学の治療を行わない結果、被害者が出ている。したがって、医療者はホメオパシーを治療に使ってはいけない」という結論です。この意見に異論は全くありませんが、代替医療を実践している立場からは、問題の本質が少し外れているように感じます。
私自身は、ホメオパシーはプラセボ効果以外の特別な効果があるとは考えていません。したがって、私の代替医療のメニューにも入っていません。しかし、プラセボ効果でも、高いプラセボ効果が出せるものであれば、治療法として価値があると思っています。
患者さんが、その治療に期待感を持てば、プラセボ効果は高まるからです。たとえ、薬効成分が入っていなくても、信じて使えば、プラセボ効果で3~4割の人に治療効果が出てきます。
治療法が無い状態で病気が進行している時、神頼みをする人は多くいます。今まで無宗教であった人でも、「がんが治らないか」、「奇跡が起こらないか」と神頼みします。神頼みすることによって、精神的に落ち着くこともあり、希望を持ち続ける支えになります。
ホメオパシーは科学的に根拠が無いから行ってはいけないというのは、「神頼みは科学的根拠が無いからやってはいけない」と言っているのと同じような感じがします。
今回のホメオパシー事件の問題は、ホメオパシー自体にあるのではなく、「施術者が必要な医療を行なわなかった」という点にあります。ホメオパシーの治療で死亡者が出たのでは無く、必要な適切な治療を行わなかったことが原因です。
この問題は、他の代替医療でも同じです。標準治療で治るものを代替医療に固執して患者さんに不利益を与える事件はホメオパシー以外にも多数あります。
多くの代替医療の存在意義は、標準治療でうまくいかない人たちを救うことにあります。通常の西洋医学がカバーできない症状や健康増進などに対して、十分利用価値のあるものです。 適切に利用すれば、ホメオパシーも存在価値はあると思います。
神頼みする人のために神社仏閣があるように、信じることによって体の治癒力を高める手段としてホメオパシーのレメディがあっても問題は無いはずです。現代医療を十分に理解し、ホメオパシーにはプラセボ効果や神頼み以上の効果は無いと知った上で適切に使えば、その利用価値はあると思います。
代替医療を受ける時には、「現代医学や科学的な思考を否定する代替医療や施術者や医師には気をつける」ということを理解しておくことも大切です。
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