838)がん細胞のPD-L1の発現量を減らすドコサヘキサエン酸と2-デオキシ-D-グルコースとメトホルミン

図:がん細胞はPD-L1の発現(①)が亢進しており、産生されたPD-L1は細胞表面に移行し(②)、T細胞のPD-1と結合して(③)、活性化した細胞傷害性T細胞の細胞死を誘導する(④)。PD-L1はユビキチン化されて(⑤)、プロテアソームで分解されている(⑥)。COP9シグナルソーム 5 (CSN5) はPD-L1に結合したユビキチンを外す作用があり、PD-L1のプロテアソームでの分解を阻止する(⑦)。ドコサヘキサエン酸とベルベリンはCSN5の脱ユビキチン化活性を阻害してPD-L1の分解を促進する(⑧)。2-デオキシ-D-グルコース(2-DG)とマンノースとメトホルミンはPD-L1の糖鎖の異常を引き起こしてPD-L1のユビキチン化とプロテアソームでの分解を促進する(⑨)。

838)がん細胞のPD-L1の発現量を減らすドコサヘキサエン酸と2-デオキシ-D-グルコースとメトホルミン

【体にはがん細胞を排除する免疫監視機構が備わっている】
免疫系は自己非自己を識別し、非自己を排除する生体防御システムです。
異物(非自己)を排除する免疫系は、自己の変異細胞であるがん細胞も排除して生体を防御するという「がん免疫監視説(cancer immunosurveillance)」の概念をフランク・マクファーレン・バーネット(Frank Macfarlane Burnet)が1950年代から提唱し、1960年代には広く認められるようになりました。バーネットは、免疫寛容クローン選択の概念を唱え、1960年にノーベル医学生理学賞を受賞したオーストラリアの免疫学者です。

免疫力の低下ががんの発生や進行を促進することは多くの証拠があります
免疫抑制剤を使用している臓器移植患者や、HIV感染(エイズ)などによる免疫不全状態の患者はがんの発生率が高いことが知られています。
免疫機能の低下の原因として最も重要なのは老化によるものであり、そのほか精神的・肉体的なストレスや栄養障害なども重要です。老化とともにがんの発生が増えることや、ストレスががんの発生や進行を促進することも、その原因は免疫力が低下するからです。
人間の免疫力は18~22才くらいをピークにして年令とともに衰え、がん年令の始まりといわれる40才台の免疫力はピーク時の半分まで下がり、その後も加齢とともに下降するといわれています。

免疫力を高めてがんの消滅を目的とする「免疫療法」は、手術、化学療法、放射線療法に次ぐ第4のがん治療法として重要視されています。
免疫療法は、19世紀末に外科医であるW.B.コーリーが細菌由来毒素であるコーリートキシン(Coley Toxin)をがん患者に投与して、免疫を賦活させることによりがんを治癒させたことに端を発します。
溶連菌製剤のピシバニールや、カワラタケの菌糸体から見つかったタンパク結合多糖(ベータグルカンにタンパク質が結合)のクレスチンなど、免疫系を活性化する目的のがん治療薬もあります。
最近では、オプジーボなどの免疫チェックポイント阻害剤で、一部のがん患者において、がんが縮小したり消滅することが明らかになっています。
つまり、体に備わった免疫監視機構を十分に高めることができれば、がん細胞を死滅させ、がんを縮小したり、消滅させることもできるのです。

しかし現実的には、免疫療法の効果はまだ弱いと言わざるをえません。
その理由の一つとして、がん組織にはがん細胞を攻撃するエフェクター細胞(キラーT細胞やナチュラルキラー細胞など)の働きを阻害する細胞(骨髄由来抑制細胞、制御性T細胞、M2型腫瘍関連マクロファージなど)や因子(プロスタグランジンE2やキヌレニンや乳酸など)の存在があります。
「抗腫瘍免疫を抑制している要因の排除」に加えて、「エフェクター細胞の活性を高める方法」、「がん抗原の発現や認識を高める方法」などを組み合わせると、さらに抗腫瘍免疫を高めることができます。

【抗原提示とT細胞の活性化】
リンパ球のT細胞は、がん抗原で活性化されて初めて細胞傷害活性を持つようになります。すなわち、細胞傷害活性を持たないT細胞が抗原提示細胞(マクロファージや樹状細胞)から抗原ペプチド(がん抗原)を提示されて活性化してはじめてがん細胞に対して特異的な細胞傷害活性を持つ細胞傷害性T細胞(キラーT細胞)となり、がん細胞を攻撃するようになります。
 
細胞傷害性T細胞は細胞傷害物質であるパーフォリン、 グランザイム, TNF(tumor necrosis factor)などを放出したり、ターゲット細胞のFasを刺激してアポトーシスに陥らせることでがん細胞やウイルス感染細胞を死滅させます。

細胞傷害性T細胞の一部はメモリーT細胞となって、異物に対する細胞傷害活性を持ったまま宿主内に記憶され、次に同じ異物(抗原)に暴露された場合に対応できるよう備えます。 病原微生物が侵入したり、何らかの原因で炎症が起こると、血管から顆粒球や単球などが遊走して来ます。
このように炎症反応によって集まってきたり、あるいは組織に常在していた樹状細胞やマクロファージは、侵入した細菌やウイルス粒子、あるいは死滅した細胞の死骸や断片などを取り込み、リンパ液の流れに沿って所属リンパ節に移動します。

樹状細胞やマクロファージは取り込んだタンパク質を分解し、その結果産生されたペプチド(アミノ酸が数個から数十個つながったもの)をMHC(major histocompatibility complex:主要組織適合抗原複合体)分子の上に提示します。
活性化した樹状細胞はリンパ節で手当たりしだいにナイーブT細胞(まだ一度も活性化されたことのないT細胞)とくっつきあって、何かを確かめます。ナイーブT細胞はその表面にT細胞抗原認識受容体(TCR)を持っています。樹状細胞の表面に提示されたMHC+抗原ペプチドとピタッとくっつく受容体(TCR)をもったナイーブT細胞と出会うと、そのT細胞を活性化します。 抗原を提示して活性化している樹状細胞にはCD80/86という補助刺激因子が発現しており、T細胞のCD28と結合し、刺激を送ります。 さらに、活性化した樹状細胞はサイトカインを放出しており、ナイーブT細胞はそれを浴びることになります。
このように、TCRを介するシグナルとCD28を介する補助刺激とサイトカインによる刺激を同時に受けたTリンパ球は初めて活性化し、TCRの特異性を保ったままで分裂・増殖して自らのクローンを増やします。

 CD8陽性T細胞(キラーT細胞)は成熟し、細胞質内にパーフォリンやグランザイムなどを含んだ細胞傷害顆粒を持つエフェクター細胞になります。 エフェクター細胞はリンパ節を離れ、胸管を経て循環血液中へと流れ込み、血流に従って全身を巡ります。炎症の起こっている組織から産生されるサイトカインやケモカインなどの作用でエフェクターT細胞は炎症部位に集まり、病原菌やがん細胞の攻撃に参加します。

図:がん細胞から放出されたがん抗原を未熟樹状細胞が取り込んで成熟して抗原を提示するとき、MHC(major histocompatibility complex:主要組織適合抗原複合体)分子にペプチド抗原を載せて細胞傷害性T細胞やヘルパーT細胞に提示する。このとき、MCH+ペプチド抗原にぴったり結合するTCR(T細胞受容体)を持つT細胞は、補助刺激因子(CD28とCD80/86など)や樹状細胞から放出されるサイトカインの働きで活性化され、がん抗原を認識するT細胞がクローン性増殖(clonal expansion)し、がん細胞を攻撃する。

【細胞傷害性T細胞を抑制するPD-1とCTLA-4】
リンパ球の一種のT細胞は、病原菌やがん細胞を攻撃・排除する働きがあります。しかし、T細胞が暴走して正常な細胞を攻撃すると危険なので、いくつかのブレーキ装置が備わっています。これを「免疫チェックポイント」と呼びます。 がん細胞は、ときに巧みにこの免疫チェックポイントを利用して、T細胞にブレーキをかけてT細胞からの攻撃を逃れようとしています。
がん細胞によるブレーキがかからないようにする薬が免疫チェックポイント阻害薬です。 細胞傷害性T細胞(キラーT細胞)は抗原提示細胞(樹状細胞やマクロファージ)から抗原を提示されると活性化されて、敵(病原菌やがん細胞など)を攻撃します。
細胞傷害性T細胞にはPD-1やCTLA-4という受容体が存在します。PD-1はプログラム細胞死1(programmed death-1)、CTLA-4は細胞傷害性Tリンパ球抗原-4 (cytotoxic T-lymphocyte-associated protein 4)の略です。 

これらの受容体のリガンド(受容体に結合して作用する物質)となるPD-L1やB7(B7-1, B7-2)を抗原提示細胞が持つことによって細胞傷害性T細胞の働きを抑制しています。 つまり、PD-1受容体やCTLA-4受容体がリガンドによって刺激されると、T細胞の増殖が停止し細胞死を来すことになります。このようにして細胞傷害性T細胞の過剰な応答を制御しています。

細胞傷害性T細胞の働きを阻害するPD-L1やB7はがん細胞にも発現しています。つまり、がん細胞は免疫系の制御システムを利用して、がん組織内の細胞傷害性T細胞の働きを阻止しています。 PD-1受容体やCTLA-4受容体は細胞傷害性T細胞を死滅させるスイッチなようなものなので、これらのスイッチが入らないようにすれば、細胞傷害性T細胞は生き残ってがん細胞の攻撃力を高めることができます。
CTLA-4に対する抗体(ヒト型抗ヒトCTLA-4モノクローナル抗体)のイピリブマブ(ipilimumab: YERVOY)やヒト型抗PD-1モノクローナル抗体のニボルマブ(nivolumab商品名「オプジーボ(Opdivo)」)などがあります。

このような免疫チェックポイント阻害剤を使用すると、がん細胞を攻撃する細胞傷害性T細胞の働きを高めることが可能になります。 体に備わったがん細胞に対する攻撃力を高めてがんを治療しようというのが「がんの免疫療法」の理論です。
「免疫細胞を活性化する」という従来の免疫療法では十分な効果が得られなかったのですが、その大きな理由は免疫応答にブレーキをかける仕組みの存在です。このブレーキを解除して免疫細胞に100%の力でがん細胞を攻撃させようというのが、CTLA-4やPD-1/PD-L1をターゲットにした治療法です。(下図) 
ただ、この治療法は免疫細胞の暴走を許して、自己免疫疾患を引き起こすという副作用もあります。

図:抗原提示細胞上にはMHCクラスII(MHC-II)といわれる分子があり、抗原を介してT細胞上のTCR(T細胞受容体)と反応して細胞傷害性T細胞を活性化する(①)。T細胞上にはCD28とCTLA-4があり、CD28は恒常的に発現し、抗原提示細胞からのB7-1やB7-2というリガンドによってT細胞活性化に作用する(②)。一方、CTLA-4はT細胞活性化にともなって発現が誘導され、B7-1やB7-2によって刺激されるとT細胞を抑制する(③)。CTLA-4はCD28よりもB7に対する親和性が強いので、活性化したT細胞の過剰な応答を抑制する。同様に、PD-1(Programmed death-1)は抗原提示細胞のPD-L1(別名B7-H1)と結合することによって抑制型の免疫調節シグナルを活性化させる(④)。がん細胞もB7-1やB7-2やPD-L1が発現しており、細胞傷害性T細胞の働きを抑制している。T細胞のCTLA-4とPD-1の働きを特異抗体で阻害すると、がん細胞に対する細胞傷害性T細胞の働きを高めることができる(⑤)。

がん細胞を非自己と認識して、それを攻撃するためにT細胞は活性化しますが、PD-1リガンド(PD-L1)を持ったがん細胞と接触すると、CTL上のPD-1とリガンド(PD-L1)が結合することにより、免疫シグナルは抑制され、T細胞はがん細胞を攻撃できなくなってしまいます。これがT細胞を活性化するだけの従来の免疫療法に限界があった理由です。
活性化したCTL(細胞傷害性T細胞)をがん組織に送っても、がん細胞を攻撃しようと近づくとPD-L1によって自身のPD-1のスイッチが入って死滅するからです。
がん細胞がPD-1リガンドを多く発現しているほど、予後が悪いというデータも報告されています。
T細胞やNK細胞を活性化すると同時に、T細胞上の受容体(PD-1やCTLA-4)の働きを阻止したり、がん細胞に発現しているPD-1のリガンド(PDL-1)の発現量を減らす方法、PD-1とPD-L1の結合を阻害する方法も有効です。

図:がん細胞から放出されたがん抗原(①)は、樹状細胞やマクロファージなどの抗原提示細胞に取込まれ(②)、ペプチドに分解されて抗原ペプチドとして抗原提示細胞上のMHC(major histocompatibility complex:主要組織適合抗原複合体)に提示される(③)。MHCはがん抗原を介してCTL(細胞傷害性T細胞)上のTCR(T細胞受容体)と反応してCTLを活性化する(④)。CTLは活性化されるとPD-1(Programmed death-1)が発現する(⑤)。がん細胞にはPD-1のリガンドであるPD-L1が発現している(⑥)。PD-1とPD-L1が結合するとCTLは増殖が抑制される(⑦)。PD-1とPD-L1の結合を抗PD-1抗体(⑧)や抗PD-L1抗体(⑨)で阻止するとCTLの抗腫瘍活性を高めることができる。

【PD-L1のユビキチン・プロテアソーム系による分解】
プログラム細胞死タンパク質 1 (PD-1)細胞傷害性 T リンパ球関連タンパク質 4 (CTLA-4) などの免疫チェックポイントを標的とする抗体の先駆的な成功は、がん治療の展望を変えました。
オプジーボなどの抗体ベースの治療から、経口投与可能で低分子の物質による免疫チェックポイント阻害剤の開発に注目が集まっています。
PD-L1はユビキチン・プロテアソーム系で分解されるため、PD-L1の分解を促進して、PD-1/PD-L1経路による細胞傷害性Tリンパ球の抑制を阻止する方法もターゲットの一つになっています

ユビキチン・プロテアソーム系はタンパク質に付加されたユビキチン鎖をプロテアソームが認識し,ATP依存的で迅速かつ不可逆に標的タンパク質を分解するシステムです。
ユビキチン(Ubiquitin)は,アミノ酸76残基からなり,酵母からヒトまであらゆる真核細胞に存在する進化的に保存されたタンパク質です。
名前の由来は、ラテン語の“ubique=あらゆるところで”という形容詞を基にした英語 「ユビキタス(ubiquitous)」からきています。「至る所に存在する」という意味があります。
ユビキチンは不要なタンパク質、たとえば折り畳み不全などの出来損なったタンパク質や古くなったタンパク質に複数個付加(ポリユビキチン化)されることで、タンパク質分解のシグナルとして働きます。つまり、「このタンパク質を分解してくれ」という目印になります。

標的タンパク質へのユビキチン付加反応はユビキチン活性化酵素(E1)ユビキチン結合酵素(E2)、およびユビキチンをE2から特定の基質に送達するユビキチンリガーゼ(E3)によって行われます。
ユビキチン自体はあくまで目印なので、分解を行うのは他の物質です。ユビキチンが結合した不要たんぱく質をシュレッダーのように分解する酵素をプロテアソームといいます。
プロテアソームは真核生物のATP依存性プロテアーゼ複合体で、分解目印として働くユビキチンが結合したたんぱく質を選択的に壊す複雑な細胞内装置です。 

図:分解されるタンパク質はユビキチンが複数個結合し、ユビキチンが結合したタンパク質をプロテアソームが認識して、タンパク質を分解する。

PD-L1はユビキチン化と分解を受けますが、がん細胞は複数の経路によってこのプロセスを阻害する能力を示し、腫瘍の免疫抑制をもたらします。つまり、がん細胞はTリンパ球からの攻撃を防ぐ目的でPL-D1の分解を阻止しているのです。したがって、がん細胞のPD-L1のユビキチン化を促進し、プロテアオームでの分解を促進する方法はがん細胞の増殖を抑える効果が期待できます。

【ドコサヘキサエン酸はPD-L1のユビキチン化を促進してPD-L1の分解を促進する】
オメガ3系多価不飽和脂肪酸のドコサヘキサンエン酸(DHA)がPD-L1の分解を促進することが報告されています。以下のような論文があります。

Docosahexaenoic acid reverses PD-L1-mediated immune suppression by accelerating its ubiquitin-proteasome degradation.(ドコサヘキサエン酸は、そのユビキチン-プロテアソーム分解を加速することにより、PD-L1 を介した免疫抑制を逆転させる)J Nutr Biochem. 2022 Oct 27;112:109186. 

【要旨】
PD-L1 は T 細胞上の受容体 PD-1 と相互作用して T 細胞機能を負に調節し、がん細胞による免疫監視機構からの逃避を促進する。したがって、PD-L1 を標的とすることは、がん免疫療法にとって魅力的なアプローチである。
この研究では、ω-3 多価不飽和脂肪酸のドコサヘキサエン酸 (DHA) が in vitro と in vivo の両方でがん細胞の PD-L1 の発現を低下させることを初めて実証した
DHA はユビキチン-プロテアソームによるPD-L1分解を促進してPD-L1 発現の減少をもたらし、PD-L1 を介した免疫抑制を逆転させ、腫瘍増殖を阻害する
さらに、DHA はがん細胞の脂肪酸合成酵素の発現を有意に減少させ、これはパルミトイルトランスフェラーゼ DHHC5 を阻害し、CSN5 依存性 PD-L1 分解を促進した
今回の発見により、DHA の抗がん作用に関与する新しいメカニズムが明らかになり、DHA ががんの治療と予防のための新しい免疫増強剤として開発される有望な可能性を秘めていることが示唆された。

上記の論文で、「CSN5 依存性 PD-L1 分解」のCSN5は「constitutive photomorphogenic-9 signalosome 5」の略です。
constitutive photomorphogenic-9 signalosome 5は直訳すると「構成的光形態形成-9シグナロソーム5」となります。CSN(COP9シグナロソーム)はシロイヌナズナの光形態形成の調節因子として同定されました。哺乳類では細胞情報伝達や細胞周期進行,遺伝子転写,細胞生存,DNA修復などで重要な役割を担っています。
CSN5 (constitutive photomorphogenic-9 signalosome 5) は、DNA 修復の調節、シグナル伝達の調節、および細胞増殖の制御に関与する、進化的に保存された多機能タンパク質です。CSN5 は、細胞内の P27、P53、およびサイクリン E を機能的に不活性化することにより、細胞の生存に寄与する発がん性タンパク質として機能します。

CSN5 の最もよく理解されている機能は、脱ユビキチン化活性によるユビキチンを介したタンパク質分解の調節であり、これはがんの進行にとって重要です。例えば、CSN5はサバイビン(survivin)とsnailのユビキチン化と分解をブロックし、がん細胞の浸潤と移動を促進します。
腫瘍壊死因子(TNF-α) 誘導の CSN5 発現は、がん細胞の PD-L1 安定化をもたらし、免疫監視から逃れるメカニズムの一つになっています。さらに、CSN5 は複数のヒトがんで発現が亢進しており、予後不良と関連していることが報告されています。
ドコサヘキサエン酸は抗炎症作用があり、炎症性サイトカイン(TNF-α、IL-6など)の産生を抑制し、NF-κBの活性化を抑制します

つまり、ドコサヘキサエン酸はCSN5活性の阻害と、抗炎症作用によるNF-κBの活性化の抑制という2つのメカニズムでがん細胞のPD-L1の発現を抑制します。(下図)

図:がん組織内ではマクロファージからTNF-αが産生され、がん細胞のTNF受容体(TNFR)を刺激し(①)、Iκκβをリン酸化して活性化し(②)、NF-κBの転写活性を行進し(③)、CSN5を産生する(④)。CSN5はPD-L1のユビキチン化を阻害して分解を阻害し(⑤)、PD-L1の量を増やす(⑥)。がん細胞のPD-L1はT細胞のPD-1と結合し(⑦)、T細胞の細胞死を誘導する(⑧)。ドコサヘキサエン酸(DHA)はマクロファージからのTNF-αの産生を阻止してNF-κBの転写活性を抑制する(⑨)。さらに、DHAはCSN5の活性を阻害する(⑩)。これらの作用によってDHAはがん細胞のPD-L1の発現を低下させる。

CSN5(COP9シグナロソーム5)はPD-L1のユビキチン化を阻害して、PD-L1の分解を阻止し、細胞傷害性Tリンパ球を死滅します。ドコサヘキサエン酸はCSN5を阻害する作用によって、PD-L1の分解を促進するという結果です。

漢方薬処方に使われる生薬の黄連黄柏に含まれるベルベリンもCSN5を阻害してPD-L1の分解を促進することが報告されています。以下のような報告があります。

Berberine diminishes cancer cell PD-L1 expression and facilitates antitumor immunity via inhibiting the deubiquitination activity of CSN5(ベルベリンはCSN5 の脱ユビキチン化活性を阻害することによりがん細胞の PD-L1 発現を減少させ、抗腫瘍免疫を促進する)Acta Pharm Sin B. 2020 Dec;10(12):2299-2312.

【要旨】
プログラム細胞死-1 (PD-1)/プログラム細胞死リガンド-1 (PD-L1) 遮断療法は、がん免疫療法の主要な柱となっている。 抗体を使用したPD-1/PD-L1遮断と比較して、良好な薬物動態を有する低分子のチェックポイント阻害剤が必要である。
ここでは、漢方薬の成分を探索して、実績のある抗炎症薬であるベルベリンをPD-L1 の負の調節因子として特定した。
ベルベリンは、がん細胞のPD-L1レベルを低下させることにより、共培養T細胞に対する腫瘍細胞の感受性を高めた。 さらに、ベルベリンは、腫瘍浸潤性T細胞免疫を強化し、免疫抑制性の骨髄由来抑制細胞(MDSC)および制御性T細胞(Treg)の活性化を弱めることにより、ルイス腫瘍異種移植マウスで抗腫瘍効果を発揮した。 ベルベリンは、ユビキチン/プロテアソーム依存性経路を介して PD-L1 分解を引き起こした
驚くべきことに、ベルベリンは構成的光形態形成-9シグナルソーム5(CSN5)のグルタミン酸76に選択的に結合し、その脱ユビキチン化活性を阻害することによってPD-1 / PD-L1軸を阻害し、PD-L1のユビキチン化と分解をもたらした。 私たちのデータは、これまで認識されていなかったベルベリンの抗腫瘍メカニズムを明らかにしており、ベルベリンががん治療のための低分子免疫チェックポイント阻害剤であることを示唆している。

ベルベリンは生薬の黄連や黄柏に含まれるアルカロイドで、抗炎症作用や抗がん作用を有しています。漢方治療でも炎症性疾患の治療に頻用されます。このベルベリンがCSN5の脱ユビキチン活性を阻害して、PD-L1の量を減らすということです。

PD-L1 は、T 細胞免疫チェックポイント分子として、細胞表面に PD-1 (CD279 としても知られる) を発現する腫瘍浸潤リンパ球を不活性化することができます。PD-L1 と PD-1 の相互作用により、ナイーブ CD4 + T 細胞が制御性 T リンパ球 (Treg) に分化し、免疫活性化とエフェクター応答が阻害されます。PD-1/PD-L1 軸を破壊し、腫瘍浸潤リンパ球を再活性化することは、がん免疫療法の有望な標的として注目されています。
さらに、細胞内 PD-L1 は、いくつかの DNA 損傷修復関連遺伝子のメッセンジャー RNA を分解から保護し、DNA 損傷療法に対する腫瘍抵抗性を高めることもできます。

【PD-L1のグリコシル化が免疫チェックポイント阻害のターゲットになる】
タンパク質は遺伝子によって決められた配列によってアミノ酸が結合して作られます。タンパク質が作られるとき、まず遺伝子(DNA)からメッセンジャーRNAが転写されます。このメッセンジャーRNAからタンパク質が合成される過程を「翻訳」と言います。メッセンジャーRNAからポリペプチドへの翻訳はリボソームで行われます。
翻訳後のポリペプチド鎖は小胞体で3次元的に折り畳まれます(下図)。

図:DNA上の遺伝子からRNAポリメラーゼや転写因子の働きによってmRNAが生成される過程を転写という(①)。mRNAの情報に基づき、リボソームにおいてアミノ酸が順番に結合してタンパク質が生成されることを翻訳という(②)。翻訳後のポリペプチド鎖は小胞体で3次元的に折り畳まれる(③)。

できたタンパク質はさらにリン酸やアセチル基や糖鎖などが結合して、タンパク質の活性や働きが変化します。このようなタンパク質の修飾を翻訳後修飾と言います(下図)。このような翻訳後修飾によってタンパク質の働きが制御されています。

図:タンパク質はリボソームで合成され(①)、小胞体で折り畳まれ(②)、ゴルジ体で糖鎖が結合して糖タンパク質になって、細胞内や細胞外に分布して機能を発揮する(④)。翻訳後のタンパク質の多くのタンパク質はさらに、リン酸化、糖鎖付加、脂質付加、アセチル化、メチル化などの翻訳後修飾(⑥)を受けることによって機能を持つようになる。

PD-L1のグリコシル化を阻害すると、PD-L1の分解が促進され、PD-1/PD-L1軸による免疫抑制が阻止できることが報告されています。以下のような論文が最近報告されています。

B7 family protein glycosylation: Promising novel targets in tumor treatment.(B7ファミリーのタンパク質グリコシル化:腫瘍治療における有望な新規標的)Front Immunol. 2022 Dec 6;13:1088560.

B7ファミリーは免疫グロブリン様ドメインがある膜貫通型の糖タンパクです。B7ファミリーの分子は共刺激または共阻害能があり、主にCD28、CTLA-4、PD-1などのCD28ファミリーメンバーと結合し、共刺激シグナルと共抑制シグナルをそれぞれ送信することにより、T 細胞応答を誘導または阻害します。

B7 ファミリー メンバーである PD-L1、PD-L2、B7-H3、および B7-H4 のグリコシル化をブロックすると、これらの免疫チェックポイント・タンパク質の自己安定性と受容体結合が阻害され、その結果、免疫チェックポイント阻害作用を発揮し、抗腫瘍免疫を増強し、腫瘍の増殖を抑制します。したがって、PD-L1などのB7ファミリーのタンパク質のグリコシル化の調節は、腫瘍の免疫抑制を緩和するための重要な鍵となる可能性を指摘しています。

【2-デオキシ-D-グルコースとD-マンノースはPD-L1の分解を促進する】
以下のような報告があります。

Deglycosylation of PD-L1 by 2-deoxyglucose reverses PARP inhibitor-induced immunosuppression in triple-negative breast cancer. (2-デオキシグルコースによるPD-L1の脱グリコシル化は、トリプルネガティブ乳がんにおけるPARP阻害剤誘発性免疫抑制を逆転させる)Am J Cancer Res. 2018; 8(9): 1837–1846.

細胞傷害性T細胞にはPD-1やCTLA-4という受容体が存在します。PD-1はプログラム細胞死1(programmed death-1)CTLA-4は細胞傷害性Tリンパ球抗原-4 (cytotoxic T-lymphocyte-associated protein 4)の略です。これらの受容体のリガンド(受容体に結合して作用する物質)となるPD-L1やB7(B7-1, B7-2)を抗原提示細胞が持つことによって細胞傷害性T細胞の働きを抑制しています。PD-1受容体やCTLA-4受容体がリガンドによって刺激されると、T細胞の増殖が停止し細胞死を来すことになります。このようにして細胞傷害性T細胞の過剰な応答を制御しています。
細胞傷害性T細胞の働きを阻害するPD-L1やB7はがん細胞にも発現しています。つまり、がん細胞は免疫系の制御システムを利用して、がん組織内の細胞傷害性T細胞の働きを阻止しています。
がん細胞のPD-L1は免疫細胞の働きを阻害します。抗がん剤のPARP阻害剤はPD-L1の発現を亢進して抗腫瘍免疫を抑制します2-DG(2-デオキシ-D-グルコース)はPARP阻害剤によって誘導されるPD-L1発現亢進に対して、PD-L1のグリコシル化(糖鎖結合)を阻害してPD-L1の作用を阻害し、抗腫瘍免疫を回復させることを報告しています。以下のような報告もあります。

Saccharide analog, 2-deoxy-d-glucose enhances 4-1BB-mediated antitumor immunity via PD-L1 deglycosylation.(糖類似体の2-デオキシ-d-グルコースは、PD-L1 脱グリコシル化を介して 4-1BB を介した抗腫瘍免疫を増強する)Mol Carcinog. 2020 Jul;59(7):691-700.

【要旨】
トリプルネガティブ乳がんは、治療における明確な分子標的を欠いており、他の乳がんサブタイプと比較して予後不良である。 プログラム細胞死タンパク質 1 (PD-1)/プログラム死リガンド 1 (PD-L1) 遮断療法は、トリプルネガティブ乳がん患者で 10% から 20% の応答率を示す。
私たちの以前の研究は、PD-L1 タンパク質が トリプルネガティブ乳がんで高度にグリコシル化されており、グリコシル化(糖鎖の結合)が PD-L1 タンパク質の安定性と免疫抑制機能に重要な役割を果たしていることを示している。 しかし、トリプルネガティブ乳がんにおける PD-L1 脱グリコシル化の治療効果は十分に検討されていない。
ここで、糖類似体である 2-デオキシ-D-グルコース (2-DG) が、EGFR 阻害剤であるゲフィチニブと組み合わせることにより、PD-L1 のグリコシル化とその免疫抑制機能を阻害することを発見した。 興味深いことに、2-DG/ゲフィチニブによる PD-L1 の脱グリコシル化は、PD-L1 タンパク質の発現レベルと PD-1 との結合を減少させた。 しかし、2-DG/ゲフィチニブによる 4-1BB の発現と 4-1BBL との結合に有意な減少は認めなかった。 さらに、2-DG/ゲフィチニブと 4-1BB 抗体の併用治療が TNBC 同系マウスモデルで抗腫瘍免疫を増強することを実証した。
まとめると、我々の結果は、トリプルネガティブ乳がんにおける PD-L1 脱グリコシル化と 4-1BB 刺激によって抗腫瘍免疫を強化する新しい免疫療法戦略を示唆している。

4-1BB は、腫瘍組織に浸潤した細胞傷害性T細胞に選択的に発現している共刺激分子で、4-1BB を標的とした刺激抗体を用いることにより、腫瘍組織内の腫瘍特異的な細胞傷害性T細胞を選択的に活性化し、抗腫瘍効果を発揮します。 その作用機序から予想されるようにPD-1/PD-L1経路を阻害することは4-1BBを刺激する抗体療法の抗腫瘍効果を高めることができます。2-デオキシ-D-グルコースはPD-L1のグリコシル化を阻害することによってPD-L1の免疫抑制効果を阻止できるという報告です

2-デオキシ-D-グルコース(2-Deoxy-D-Glucose:2-DG)はグルコース(ブドウ糖)の2位のOHがHに変わっているグルコース類縁物質です。
2-DGはグルコースと同じトランスポーター(輸送担体)で取り込まれるので、細胞内の取込みの段階でグルコースの拮抗阻害剤として作用します。
細胞内では、ヘキソキナーゼによってリン酸化されて、2-デオキシグルコース-6リン酸(2-DG-6リン酸)に変換されますが、この2-DG-6リン酸は解糖系の先の代謝系には進めない(ヘキソキナーゼの先の解糖系酵素で代謝できない)ので、ATP産生量が減ります。さらに、蓄積した2-DG-6リン酸はヘキソキナーゼを阻害する作用もあるので、正常なグルコースの代謝も阻害されます。
がん細胞はグルコースの取り込みが亢進しており、2-DGの取り込みも増えているので、がん細胞の解糖系を阻害する効果でがん治療に使われています

2-デオキシ-D-グルコース(2-DG)は小胞体ストレスを高めてがん細胞を死滅させる作用が報告されています。さらに、2−デオキシ-D-グルコースは抗がん剤や放射線の免疫原性細胞死を増強することが報告されています。

図:2-デオキシ-D-グルコース(2-DG)はグルコース(ブドウ糖)の2位のOHがHに変わっているグルコース類縁物質(①)で、グルコースと同様にグルコーストランスポーター(GLUT1)によって細胞内に取り込まれる(②)。細胞内のヘキソキナーゼで2-DG-6リン酸(2-DG-6-PO4)になるが、それから先の解糖系酵素では代謝できないので細胞内に蓄積する(③)。蓄積した2-DG-6リン酸はヘキソキナーゼ(HK)とホスホグルコースイソメラーゼ(PGI)をフィードバック的に阻害するので、グルコースの解糖系での代謝を阻害する(④)。

小胞体(Endoplasmic reticulum)は、細胞内における分泌・膜タンパク質の品質管理において大切な小器官です。
2-DGは解糖系を阻害する以外に、タンパク質に糖鎖が着くN-グリコシル化の過程を阻害するので、糖タンパク質の生成を阻害します。
グリコシル化というのはタンパク質に糖類が付加する反応で、小胞体で行われて、正常に糖が付加したタンパク質はゴルジ体に運ばれます。

糖鎖異常の糖タンパク質は、折り畳みが不完全な異常タンパク質になり、小胞体に蓄積して小胞体ストレスを引き起こし、細胞死の原因にもなります。
つまり、2-デオキシ-D-グルコース(2-DG)はタンパク質のN-グリコシル化(N-glycosylation)を阻害するので小胞体ストレスを高めて免疫原性細胞死を増強する作用があります
抗がん剤でがん細胞を死滅させるときに2−DGを投与しておくと、死滅したがん細胞は免疫原性が高くなるので、がん抗原特異的な抗腫瘍免疫を誘導でき、延命効果を高めることができます。
さらにPD-1/PD-L1軸による免疫抑制を阻害するので、抗腫瘍免疫を高める効果を増強します。

同様の効果がD-マンノースでも報告されています。以下のような報告があります。

D-mannose facilitates immunotherapy and radiotherapy of triple-negative breast cancer via degradation of PD-L1.(D-マンノースは、PD-L1 の分解を介してトリプルネガティブ乳がんの免疫療法と放射線療法を促進する)Proc Natl Acad Sci U S A. 2022 Feb 22; 119(8): e2114851119.

【要旨の抜粋】
乳がんは世界中の女性に最も多く見られる悪性腫瘍であり、トリプルネガティブ乳がん患者の予後は非常に悪く、再発のリスクが高い。トリプルネガティブ乳がんの治療戦略は限られており、トリプルネガティブ乳がん治療の有効性を高めるための新しい方法を開発することが急務である。
以前の研究では、ヘキソース(六炭糖)である D-マンノースががんの化学療法を強化し、自己免疫疾患の免疫病理を抑制することが示されている。
ここでは、D-マンノースが PD-L1 の分解を介してトリプルネガティブ乳がん治療を大幅に促進できることを示す。具体的には、D-マンノースは AMP 活性化プロテインキナーゼ (AMPK) を活性化して PD-L1 の S195 をリン酸化し、異常なグリコシル化と PD-L1 のプロテアソーム分解を引き起こす
D-マンノースを介した PD-L1 分解は、T 細胞の活性化とがん細胞への攻撃を促進する。D-マンノースと PD-1 遮断療法の組み合わせは、トリプルネガティブ乳がんの成長を劇的に阻害し、担がんマウスの寿命を延ばした。さらに、D-マンノースが誘導する PD-L1 分解は、DNA 損傷修復関連遺伝子のメッセンジャー RNA 不安定化も引き起こし、それによって乳癌細胞が電離放射線治療に対して感受性を高め、マウスのトリプルネガティブ乳がんの放射線療法が促進された。
注目すべきは、D-マンノースの有効レベルは、マウスへの経口投与によって容易に達成できることである。
私たちの研究は、D-マンノースがPD-L1 の分解を標的とするメカニズムを明らかにし、トリプルネガティブ乳がんにおける免疫療法と放射線療法を促進する方法を提供する。D-マンノースのこの機能は、トリプルネガティブ乳がんの臨床治療に役立つ可能性がある。

D-マンノースがPD-L1の分解を促進する効果の有効性はトリプルネガティブ乳がんだけでなく、他のがん治療にも適用できます。D-マンノースはサプリメントとしてアマゾンなどのインターネット通販で安価に売られています。試してみる価値はあると思います。

【メトホルミンはPD-L1の分解を促進する】
以下のような報告があります。

Metformin Promotes Antitumor Immunity via Endoplasmic-Reticulum-Associated Degradation of PD-L1.(メトホルミンは小胞体関連の PD-L1 分解を介して抗腫瘍免疫を促進する)Mol Cell. 2018 Aug 16;71(4):606-620.e7.

【要旨】
メトホルミンは、抗腫瘍活性を有し、高い細胞傷害性 T リンパ球 (CTL) 免疫監視を維持することが報告されている。 しかし、がん免疫におけるメトホルミンの役割の機能と詳細なメカニズムは完全には理解されていない。
ここでは、メトホルミンがプログラム死リガンド-1 (PD-L1) の安定性と膜局在を低下させることにより、CTL 活性を増加させることを示す。 さらに、メトホルミンによって活性化された AMP 活性化プロテインキナーゼ (AMPK) が PD-L1 の S195 を直接リン酸化することを発見した S195 リン酸化は異常な PD-L1 グリコシル化を誘導し、小胞体への蓄積と小胞体でのPD-L1タンパク質の分解を引き起こす
メトホルミン治療を受けた乳がん患者の腫瘍組織は、AMPK 活性化により PD-L1 レベルの低下を示す。 メトホルミンによる PD-L1 の阻害シグナルの遮断は、がん細胞に対する 細胞傷害性 T リンパ球 (CTL) 活性を高める。
私たちの調査結果は、小胞体におけるPD-L1タンパク質の分解を介したPD-L1発現の新しい調節メカニズムを特定し、メトホルミン-CTLA4遮断の組み合わせが免疫療法の有効性を高める可能性があることを示唆している。

以下のような報告もあります。

Metformin suppresses cancer cell growth in endometrial carcinoma by inhibiting PD-L1.(メトホルミンは PD-L1 を阻害することにより、子宮内膜がんのがん細胞増殖を抑制する)Eur J Pharmacol. 2019 Sep 15;859:172541. 

【要旨の抜粋】
子宮内膜がんは、先進国における女性生殖器系の最も一般的ながんである。 メトホルミンは、2 型糖尿病の治療に処方されている広く使用されている薬である。近年、メトホルミンはがん患者の生存予後を臨床的に改善することがわかっている。 子宮内膜がん細胞の増殖に対するメトホルミンの阻害を調査することを目的とした。
子宮内膜がん細胞株 Ishikawa および RL95-2を使用し、メトホルミンの作用を検討した。
処理細胞におけるプログラム死リガンド 1 (PD-L1) の発現は、ウェスタンブロットによって評価された。 腫瘍細胞の増殖は、コロニー形成アッセイによって評価した。 PD-L1 と AMP 活性化プロテインキナーゼ (AMPK) の間の結合は、共免疫沈降によって同定された。子宮内膜がん細胞と活性化したTリンパ球を一緒に培養し、メトホルミンの有無による違いを検討した。
私たちの結果は、子宮内膜がん細胞に対して、メトホルミン治療がPD-L1タンパク質の発現レベルを低下させることが認められたメトホルミン処理は、子宮内膜がん細胞に対する T細胞の抗腫瘍効果を有意に亢進した
我々は、メトホルミンによる PD-L1 の阻害が AMPKに依存していること、およびメトホルミンが PD-L1 タンパク質とAMPK タンパク質の直接結合を促進することを実証した。
糖尿病治療に使用される従来の薬であるメトホルミンが、子宮内膜がんの抗腫瘍活性を保持することを確認した。 メトホルミンの抗腫瘍効果は、PD-L1 発現の阻害と AMPK シグナル伝達タンパク質の活性化に関連しており、メトホルミンの抗腫瘍特性に新しいメカニズムを提供する。

以下のような報告もあります。メトホルミンと2-デオキシ-D-グルコースの併用が相乗的にPD-L1の発現を低下させることを報告しています。

Dual Effect of Combined Metformin and 2-Deoxy-D-Glucose Treatment on Mitochondrial Biogenesis and PD-L1 Expression in Triple-Negative Breast Cancer Cells(トリプルネガティブ乳がん細胞におけるミトコンドリア新生と PD-L1 発現に対するメトホルミンと 2-デオキシ-D-グルコースの併用治療の二重効果)Cancers (Basel). 2022 Mar 5;14(5):1343.

【要旨】
メトホルミンと 2-デオキシ-D-グルコース (2DG) は、がん細胞の増殖抑制や PD-L1 発現抑制など、代謝および免疫調節に関連する複数のメカニズムで抗がん効果をする。 2DG単独および2DG+メトホルミン併用では、トリプルネガティブ乳がん細胞の足場からの遊離が誘導されるが、足場非依存性増殖および転移形成に重要なミトコンドリアへの影響はまだ評価されていない。 本研究では、in vitro で トリプルネガティブ乳がん細胞のミトコンドリアに対するメトホルミン、2DG、およびそれらの組み合わせ (メトホルミン + 2DG) の効果を調査した。
メトホルミン + 2DG は、トリプルネガティブ乳がん細胞のミトコンドリア質量を増加させた。 これは、形態学的に正常なミトコンドリアの数の増加ではなく、ミトコンドリアのサイズの増加に関連しており、ミトファジーの抑制ではなく、ミトコンドリア新生の誘導によって引き起こされた。
2DG およびメトホルミン + 2DG は、タンパク質の N-グリコシル化を阻害することにより、小胞体ストレス応答を強く誘導した。 適切なエネルギーストレスとともに、これはミトコンドリア拡大の可能性のあるトリガーの1つであった。
2DG またはメトホルミン + 2DG による N-グリコシル化の抑制はPD-L1 脱グリコシル化も引き起こし、MDA-MB-231 細胞におけるPD-L1の発現を減少させた
PD-L1 は低グルコースで増加し、両方の薬剤で正常化された。 2DG およびメトホルミン + 2DG は、Jurkat 細胞の PD-1 発現を減少させたが、サイトカイン分泌はほとんど維持されていた。したがって、メトホルミンと 2DG は、トリプルネガティブ乳がんの抗腫瘍免疫を改善するための補助療法として使用できる可能性がある。

以上のような研究結果から、ドコサヘキサエン酸と2-デオキシ-D-グルコースとメトホルミンの併用はがん細胞のPD-L1の発現を低下させ、免疫チェックポイント阻害剤の効果を高めます。D-マンノースやべルベリンも有効です。(トップの図)

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