がんの予防や治療における漢方治療の存在意義を考察しています。がん治療に役立つ情報も紹介しています。
「漢方がん治療」を考える
124) がん治療に役立つ食材(4):ナツメ(生薬名:大棗)
図:ナツメの果実は食用や生薬として利用されている。滋養強壮作用の他、免疫増強や抗がん作用なども報告されている。
124) がん治療に役立つ食材(4):ナツメ(生薬名:大棗)
大棗(タイソウ)Zizyphi Fructusはナツメ又はその他の近縁植物の果実です。
ナツメはクロウメモドキ科の落葉高木で、高さは10mにもなります。
6~7月ごろに淡黄色の花を咲かせ、花が終わると楕円形の果実をつけます。
緑色の果実はやがて紅色になり、10月ころには良く熟して、とても甘くなります。10月ころの熟した実を採取して食用あるいは薬用(生薬)として使用します。
実は生でも食べられますが、日干しにした果実をいったん蒸し、もう一度日干しにして水分を取り除いたものは大棗という生薬として使われます。
ナツメを使った薬用酒は、ホワイトリカー1.8リットルに生の実なら900g、大棗の場合は300gを入れて、冷暗所で3ヶ月ほど保存して作ります。これを就寝前に飲むと、滋養強壮に効果があります。
漢方薬では利用頻度が多い生薬の一つで、滋養強壮、鎮静薬として多くの漢方処方に配合されます。
胃腸虚弱な人の食欲不振・元気がない・疲れやすいなどの症状を良くします。刺激性の強い峻烈な作用を持つ薬物に配合して、薬効を緩和します。他の生薬の消化管に対する刺激性を緩和する目的で、甘草(カンゾウ)や生姜(ショウキョウ)と一緒に多くの漢方薬に配合されています。
含有サポニン(ジジプスサポニン)による抗ストレス作用、アルカロイド成分による鎮静作用、多糖体(ジジプスアラビナン)による抗補体活性などが報告されています。さらに、サイクリックAMPが含まれ、アデニルサイクラーゼ活性、フォスフォジエステラーゼ活性が認められています。
オリゴ糖や多糖類が整腸作用を示し、胃腸への各種刺激を緩和します。
慢性の便秘に対して改善効果があることが、臨床試験で確かめられています。
大棗の多糖類にはナチュラルキラー細胞の活性を高める作用が報告されています。漢方薬の小柴胡湯を経口投与するとナチュラルキラー細胞の活性が高まることが報告されています。小柴胡湯は7種類の生薬から構成されますが、そのうち大棗の酸性多糖分画が最も強い活性を示したという報告があります。
黄耆(オウギ)、甘草(カンゾウ)、大棗(タイソウ)の3つの生薬を組み合わせた漢方薬が、抗がん剤による白血球減少を防ぐ効果が報告されています。この場合、オウギの免疫増強作用が主体になり、カンゾウとタイソウは胃腸を保護したり、滋養強壮効果を利用しているのですが、タイソウ自体の免疫増強作用も関与しており、オウギやカンゾウとの相乗効果が示唆されます。
トリテルペン類のサポニンであるベツリン酸(betulinic acid)やオレアノール酸(oleanolic acid)には、発がん抑制効果や抗腫瘍効果が報告されています。
ベツリン酸には多くのがん細胞に対して細胞死(アポトーシス)を誘導する効果が数多く報告されています。
オレアノール酸には、血管新生阻害作用などの抗腫瘍効果が報告されています。
このようなトリテルペン類サポニンの抗腫瘍効果は、漢方薬の抗がん作用の重要な作用機序として注目され、近年多くの研究が発表されています。(次回紹介予定)
以上のように、大棗は滋養強壮作用や消化管保護作用だけでなく、免疫増強と抗がん作用も期待できるようですので、がんの漢方治療でも多く使う根拠があると言えます。
(文責:福田一典)
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