123) 免疫力を高めるβグルカンとサポニンと精油の相乗効果

図:生薬に含まれるβ-グルカンやサポニンや精油成分の組み合わせによって、漢方薬の免疫増強効果を相乗的に高めることができる。

123) 免疫力を高めるβグルカンとサポニンと精油の相乗効果

【キノコに含まれるβ-グルカン】
免疫力を高める成分としては、キノコに含まれる
β-グルカンなどの多糖体成分が有名です。
「免疫力を高めてがんを治す」ような物質を多くの研究者が探してきました。その結果、抗がん活性をもった
多糖(抗腫瘍多糖)の存在がキノコなどから発見されました。
多糖体というのはブドウ糖のような単糖がいくつも結びついた高分子物質のことで、その結び付きの違いで作用も異なってきます。
抗腫瘍多糖の代表は
(1→3)-β-D-グルカン(以下β-グルカンと略す)という多糖体で、類似の基本構造を有する多種のβ-グルカンが、きのこ類や生薬などから多数みつかっています。
β-グルカンにはマクロファージ・T細胞・ナチュラルキラー(NK)細胞・補体系などの免疫増強にかかわる種々の免疫細胞を活性化する作用が証明されています。
動物実験では、経口投与でβ-グルカンが免疫増強作用を示し、β-グルカンの分子量や構造がその活性に影響することが知られています。
腸の粘膜には特殊なリンパ球が存在し、腸管壁での免疫応答(
腸管免疫)が全身免疫に影響しています。高分子量のβ-グルカンは消化管からは吸収しにくいので、腸管免疫を介した免疫増強作用の可能性が示唆されています。腸管からの吸収を促進するために分子量を小さくしたり、構造を改変したものなど種々のβ-グルカン関連の物質が開発され、免疫増強作用をもつ機能性食品(健康食品)として使われています。
β-グルカンは
サルノコシカケ科のキノコの仲間に多くふくまれています。漢方薬に使われる生薬としては、霊芝(サルノコシカケ科のマンネンタケの一種)、猪苓(サルノコシカケ科のチョレイマイタケの菌核)、茯苓(サルノコシカケ科のマツホドの菌核)、梅寄生(サルノコシカケ科のコフキサルノコシカケの子実体)などがあります。
食用の
舞茸もサルノコシカケ科ですが、他のサルノコシカケ科のキノコと違って柔らかく、味も香りも良いので、食用として使われています。免疫を活性化する作用のある“サルノコシカケ科”のなかで、唯一、食べられるキノコです。
椎茸(キシメジ科)やスエヒロタケ由来の6分岐β(1→3)グルカンであるレンチナンシゾフィランカワラタケ由来のグルカンを主とするタンパク多糖(クレスチン)は抗悪性腫瘍剤としてすでに臨床で実用化されています。

【サポニンの免疫増強作用】
サポニン(saponin)の名前は泡を意味する「シャボン(サボン)」に由来します。サポニンは多くの植物に含まれる成分で、水に混ぜて振ると石けんのように持続性の泡を生ずる化合物群に付けられた名称です。サポニンには免疫増強作用を含め様々な効能があることが報告されています。
柴胡(サイコ)に含まれるサイコサポニンには肝障害改善作用・抗炎症作用・抗アレルギー作用、インターフェロン産生を高めて免疫力を高める効果が報告されています。
高麗人参に含まれるサポニンも、マクロファージの貪食能を高め、リンパ球を活性化して細胞性免疫や抗体産生を高めることが報告されています。多くの動物実験で、ワクチンなどで免疫するときに、高麗人参を経口摂取させると、抗原に対する抗体の産生が高まる結果が得られています。人体での臨床試験でも、高麗人参の水溶性エキス100mgを1日2回、8週間摂取すると、好中球の貪食能が著明に高まることが明らかになっています。高麗人参に含まれるニンジンサポニンは、免疫増強作用に加えて、滋養強壮作用や、精神・神経系や内分泌系に対する作用など多様な生理作用が報告されています。
黄耆(オウギ)に含まれる様々なトリテルペンサポニンは免疫力を高める作用があることが知られています。その作用は、マクロファージやリンパ球を活性化して、細胞性免疫や抗体産生を高める効果があります。オウギを服用すると鼻粘膜のIgAやIgGの分泌を高めることが報告されています。インターフェロンやインターロイキン-2の産生を高め、がん細胞に対する免疫力を高めます。
このように多くの研究で、サポニンにはインターロイキンやインターフェロンといったサイトカインの産生を高める作用があることが報告されています。
サイトカインとはリンパ球や炎症細胞などから分泌される蛋白質で、細胞の増殖、分化、細胞死などの情報を伝達し、免疫や炎症や創傷治癒など様々な生理機能の調節を担っています。サイトカインは細胞表面の膜上にある受容体に結合することによって、受容体に特有の細胞内シグナル伝達の引き金となり、極めて低濃度で生理活性を示します。白血球が分泌し免疫系の調節を行なうインターロイキン、ウイルス増殖阻止や細胞増殖抑制の働きをもつインターフェロン、様々な種類の細胞増殖因子など、数百種類のサイトカインが知られています。
つまり、生薬に含まれるサポニンは免疫細胞からのサイトカインの産生を高めることによって、細胞性免疫や抗体産生を活性化し、免疫力を高めます。免疫力を高める生薬の代表である高麗人参や黄耆の免疫増強作用もサポニンの関与を大きいと考えられています。

【精油の免疫増強作用】

精油(せいゆ)は、植物に含まれる揮発性の芳香物質です。
ハーブ(薬草)や果実から抽出した天然の
エッセンシャルオイル(植物精油)を使って、主に香りによるリラクセーションや癒しの効果によって、美容や健康に役立てようとする療法をアロマテラピーと言います。。
心地良い香りは、理性的処理を行うという大脳新皮質を経ずに、大脳辺縁系という本能を司る大脳の深層部に直接作用して、原始感覚に基づく癒しの効果があるといわれています。エッセンシャルオイルの揮発成分(香りの分子)は主に鼻を通じて大脳辺縁系を刺激し、マッサージや温浴などで直接皮膚に作用させれば、揮発性および非揮発性の種々の成分が肌を通して吸収され、血行促進などの薬理作用も期待できます。
ストレスによる免疫力低下が、香りを嗅がせることにより予防できるという動物実験の結果が報告されています。マウスに高圧ストレスを与えると、胸腺が萎縮して免疫機能が低下します。久留米大学免疫学教室の研究グループは、このストレスを与える前3週間と与えたあとの24時間にレモンとオークモス( oakmoss )の香りをマウスに嗅がせました。すると、ストレスで引き起こされる胸腺の萎縮が防げて免疫抑制が軽減されました。
精油成分の効果は臭いによるものだけでなく、経口摂取による直接的な効能が多く知られており、漢方薬の薬効成分として精油成分は重要です。
煎じ薬をインスタントーコーヒーのようにスプレードライ法で粉末にする過程では、水と一緒に精油成分も揮発して無くなります。これが、漢方薬のエキス粉末製剤が煎じ薬よりも効果が落ちる理由です。
精油成分の
シトロネロールと3種類の生薬(霊芝、党参、当帰)の成分を組み合わせた漢方治療の免疫増強作用を検討した以下のような研究報告があります。

Effect of citronellol and the Chinese medical herb complex on cellular immunity of cancer patients receiving chemotherapy/radiotherapy.(化学療法や放射線療法を受けているがん患者の細胞性免疫に対するシトロネロールと漢方薬の効果)Phytother Res. 2009 Jan 14
【要旨】がん治療中は白血球減少や免疫力低下が起こりやすい。
植物のゲラニウムに含まれる精油成分の
シトロネロール(citronellol)には、抗がん作用や抗炎症作用や創傷治癒促進作用が知られている。
中国伝統医療で使用される
霊芝(Ganoderma lucidum)、党参(Codonopsis pilosula)、当帰(Angelicae sinensis)は、免疫調整作用を有することが実験的研究にて示されている。
この研究では、霊芝・党参・当帰の抽出エキスとシトロネロールの粉末混合物をカプセルに入れた薬(CCMH:Chinese medicine herb complex)が、抗がん剤あるいは放射線治療を受けているがん患者の免疫細胞の数を増やすことができるかどうかを、ランダム化二重盲検試験で検討した。(プラセボーはカプセルの中身がコーンスターチとβシクロデキストリン)
抗がん剤あるいは放射線治療を受けている105例のがん患者を対象に、治療の6週間前と6週間後に血中の白血球数を測定した。
CCMHを併用しない(プラセボ服用)のコントロール群と比較して、CCMHを併用した患者グループでは、白血球数と好中球の減少の割合が著明に低下していた。
白血球数の減少率はCCMH併用群が14.2%に対してコントロール群は28.2%。
好中球の減少率はCCMH併用郡が11.0%に対してコントロール群は29.1%であった。
CD4陽性Tリンパ球(ヘルパーT細胞)とナチュラルキラー細胞(NK細胞)は、CCMH併用郡に比べてコントロール群において著明に低下していた。
したがって、
抗がん剤や放射線治療を受けている患者に、霊芝・党参・当帰の抽出エキスとシトロネロールの混合物(CCMH:Chinese medicine herb complex)を併用すると、免疫力を増強し、がん細胞に対する抵抗力を高め、さらに感染症を予防することによって、副作用の軽減に役立つ。

この論文で使われている霊芝(レイシ)はサルノコシカケ科のキノコでβグルカンが豊富です。
党参(トウジン)はキキョウ科のつる性多年草、ヒカゲノツルニンジンの根です。
滋養強壮作用があり、疲労倦怠や食欲不振を改善します。サポニンや多糖成分が豊富です。
当帰(トウキ)はセリ科のトウキの根で、リグスチライドなどの精油成分が豊富です。
シトロネロールはアロマテラピーに使われる精油成分です。
抗がん剤や放射線治療中の免疫力の低下を、これらの組み合わせを使って治療しようという発想は、多糖とサポニンと精油成分の相乗効果を期待しているのかもしれません。
免疫増強を目的とした健康食品やサプリメントでは、βグルカンを主体にしたものがほとんどです。しかし、βグルカンで体の免疫細胞を刺激するだけでは、十分な効果が得られません。
漢方治療は胃腸の状態を良くして栄養状態を良くし、組織の血液循環や新陳代謝を高めて免疫細胞が活性化しやすい状態にします。
免疫増強作用を有するβグルカンとサポニンと精油成分を組み合わせるという方法は、免疫増強に効果が期待できそうです。
ただし、サポニンや精油成分を多く含む生薬は多く摂取すると有害な場合もありますので、漢方薬に詳しい薬剤師や医師に相談して下さい。自己判断での使用は危険な場合もありますので、注意が必要です。

(文責:福田一典)

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