がんの予防や治療における漢方治療の存在意義を考察しています。がん治療に役立つ情報も紹介しています。
「漢方がん治療」を考える
135) ベルケードの効き目を阻害するカテキンとフラボノイド
図:お茶に含まれるエピガロカテキンガレート(EGCG)などのカテキン類やビタミンCやフラボノイドは、プロテアソーム阻害剤のベルケード(一般名:ボルテゾミブ)のボロン酸基と結合してベルケードの抗腫瘍活性を阻害する。ベルケードの投与を受けているときは、お茶や漢方薬やハーブ類の飲用やビタミンCのサプリメントの摂取は避けるべきことが指摘されている。
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135) ベルケードの効き目を阻害するカテキンとフラボノイド
野菜や果物や薬草などの植物に含まれるカテキンやフラボノイドやアルカロイドなどの成分が、がんの予防や治療に有用な作用を持つことが多くの研究で明らかになっています。
抗がん作用をもった天然成分の代表が、お茶に含まれるエピガロカテキン・ガレート(Epigallocatechin gallate, EGCGと略す)です。
お茶の中には、EGCGの他に、エピカテキン・ガレート(ECG)、エピガレート・カテキン(EGC)、エピカテキン(EC)などのカテキン類が多く含まれます。
カテキン類はポリフェノールという抗酸化剤の仲間であり、水溶性であることからビタミンCとならんで体液中での抗酸化作用に大きな役割を果たします。EGCGは抗酸化作用以外にも、細胞内の分子に働きかけて、がん細胞の増殖を抑える作用や抗がん剤の効き目を高める効果なども報告されています。
お茶(特にEGCGを多く含む緑茶)をがんの発生や再発の予防の目的で多く飲用することに関しては、有用性を支持する根拠は多くあります。
EGCGには抗がん剤の効き目を高める効果があることが、培養がん細胞を使った実験などで報告されています。したがって、抗がん剤治療中も、お茶を多く飲用するメリットを指摘する意見もあります。
しかし、お茶に含まれるカテキンがある種の抗がん剤治療の効き目を阻害する場合もある例が学術雑誌Bloodに報告されています。(Blood. 113:5927-5937, 2009)
この論文では、EGCGなどの緑茶ポリフェノールが、プロテアソーム阻害剤のベルケード(Velcade:一般名ボルテゾミブ Bortezomib)の抗腫瘍効果を阻害することを培養がん細胞を使った実験と、がんを移植されたマウスを使った動物実験で示しています。
プロテアソームは生体のすべての細胞に存在する酵素複合体で、細胞内で不要になったタンパク質を分解する重要な役割を担っています。プロテアソームによるタンパク質分解は、細胞周期を遂行するうえで必須であるため、プロテオソームの働きを阻害するとがん細胞は細胞分裂が阻害されて死滅します。
また、がん細胞の増殖を促進する転写因子のNF-κBを活性を阻害するタンパク質(I-κB)はプロテアソームで分解されるため、プロテアソーム阻害剤はI-κBの分解を阻害して量を増やし、その結果NF-κBの活性を低下させることによって、がん細胞の増殖を抑える効果があります。
ベルケードは化学療法に抵抗性になった難治性の多発性骨髄腫の治療薬として認可されています。
この論文の著者らは、EGCGにベルケードの効果を高める効果があるかどうかを確かめるために研究を行なったのですが、結果は予想とは逆で、ベルケードの抗腫瘍活性をEGCGが完全に阻害するという結果が得られたのです。
その作用機序はEGCGがベルケードの分子内のボロン酸に結合して、ベルケードがターゲットの細胞内分子と結合することを阻害するということです。
さらに、食事から摂取しているフラボノイド(ケルセチンやミリセチンなど)がベルケードの作用を阻害することも昨年のBloodに報告されています。(Blood 112: 3835-3846, 2008)
フラボノイド自体にプロテアソーム阻害作用による抗がん作用が報告されているので、ベルケードと相乗効果が期待できるように考えられるのですが、実際は、フラボノイドがベルケードの分子内のボロン酸基と結合することによってベルケードの作用を阻害して、抗腫瘍作用を打ち消す結果になるとのことです。
したがって、ベルケードを投与している時は、ケルセチンなどのフラボノイドの多い野菜や果物の取り過ぎも注意が必要ということです。
ビタミンCがベルケードの効果を阻害するという結果も報告されています。
(Clin Cancer Res. 12:273-280, 2006)(Leukemia, 2009, Apr 16.)
以上のことから、多発性骨髄腫の治療でベルケードを使用している時は、お茶やや漢方薬・ハーブ類やビタミンCの摂取は控えるべきと言えます。ケルセチンなどのフラボノイドの多い野菜や果物も多く摂取することも作用に影響する可能性があるようです。
抗がん剤治療中に漢方薬を併用すると、副作用を軽減し、抗腫瘍効果を高めることが、多くの研究で明らかになっています。しかし、例外もあるということです。抗がん剤の中には、カテキンやフラボノイドなどの生薬成分と反応して活性が低下する場合もあるということをベルケードは示しています。
がんの漢方治療においては、抗がん剤と生薬成分との相互作用に関する知識をもっておくことが非常に重要です。フラボノイドとベルケードの相互作用のような例が他にもあるかもしれませんので、使っている抗がん剤の作用機序などの知識も必要です。
副作用が少ないという効果の中には、抗がん剤の効き目自体を抑えている可能性もあることを念頭に入れておくことが大切です。
(文責:福田一典)
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