がんの予防や治療における漢方治療の存在意義を考察しています。がん治療に役立つ情報も紹介しています。
「漢方がん治療」を考える
193)漢方薬による乳がん再発予防効果の可能性
図:緑茶や大豆製食品や野菜(ブロッコリーなど)が乳がんの治療効果や再発に影響することが報告されている。緑茶や大豆やブロッコリーと同様ながん予防効果は、漢方薬に使う生薬でも報告されている。医食同源を基本とし、病気の予防を目指して発展してきた漢方治療が、乳がんの再発予防にも効果があることを示唆する間接的な根拠と言える。
193)漢方薬による乳がん再発予防効果の可能性
漢方治療が乳がんの治療効果や再発予防に有効かどうかに関する直接的な研究はまだありません。しかし、それを示唆する間接的な証拠は幾つも挙げることができます。
例えば、早期の乳がんの場合、緑茶を多く飲んでいる人は再発率が低いことが報告されています。
乳がん患者の手術後の再発と緑茶の摂取量との関係を、愛知がんセンターで治療を受けた1160人の乳がん患者で検討した結果、stage Iの早期の乳がんの場合には、1日に3杯以上の緑茶を飲んでいる人は、がんの再発が統計的に明らかに抑えられました(43%に抑制)。 stage II の場合も同様に緑茶の飲用によるがん再発予防の効果が示されましたが、より進行したがんでは予防効果は認めなかったそうです。比較的早期のがんの場合には緑茶の習慣的な飲用が再発の予防に効果があると言う結果です。(Cancer Lett. 167:175-182, 2001年)
1998年から2009年までに発表された疫学研究や臨床試験の論文から5617人の乳がん患者のデータをまとめたメタ解析の結果が最近報告されています。それによると、緑茶の飲用が多いほど(1日3杯以上)乳がんの再発率が低いことが改めて確認されています。(Breast Cancer Res Treat, 119:477-484, 2010年)
大豆製食品の摂取量が多いと、乳がん治療後の再発率が低下することが報告されています。この報告は中国の上海で行なわれた乳がん患者調査で、手術を受けた乳がん患者を追跡調査し、大豆製食品の摂取と再発率と死亡率の関係を検討しています。
その結果、大豆蛋白の摂取量の多い上位4分の1のグループでは、摂取量が少ない下位4分の1のグループに比べて、死亡の相対リスクは0.71、再発率は0.68に低下していました。
大豆イソフラボンに関しては、摂取量の多い上位4分の1のグループでは、摂取量が少ない下位4分の1のグループに比べて、死亡率の相対リスクは0.79、再発率は0.77に低下していました。
すなわち、大豆食品や大豆イソフラボンの摂取が多いほど、乳がん治療後の死亡や再発のリスクが低下することを示しています。
この臨床試験の結果が出るまでは、大豆イソフラボンはホルモン療法の効果を弱める可能性が懸念され、乳がんのホルモン療法中は大豆イソフラボンの摂取は禁止、大豆製食品の摂取も制限すべきだという意見が主流でした。
しかし、この臨床試験の結果から、ホルモン療法中でも大豆製食品を制限する根拠はなく、むしろ通常の量を摂取した方が再発率を低下できることが示されています。(ただし、多く取りすぎるとホルモン療法の効果を妨げる可能性は指摘されていますので、注意が必要です)
大豆食品の摂取の多い上位4分の1のグループでは、抗エストロゲン剤のタモキシフェンを使用していない患者の再発の相対リスクは0.65(95%信頼区間:0.36~1.17)に対して、タモキシフェンを使用している患者の再発の相対リスクは0.66(95%信頼区間:0.40~1.09)と同等でした。
タモキシフェンを服用していて、大豆製品の摂取が少ない下位4分の1のグループの再発の相対リスクは、0.93(95%相対リスク:0.58~1,51)でした。
つまり、タモキシフェン服用中の場合も、大豆食品を多く摂取するグループの方が、摂取量が少ないグループよりも、死亡や再発のリスクは低下していました。また、大豆食品の摂取の多い上位4分の1のグループでは、タモキシフェンを服用するのと同じくらいの再発予防効果が認められています。
現在、再発予防法でエビデンスが最も高いのは、エストロゲン依存性乳がん患者におけるホルモン療法です。しかし、ホルモン療法を行わなくても、大豆製食品をやや多めに摂取する食事療法だけでもホルモン療法と同じくらいの再発予防効果がある可能性をこの臨床試験の結果は示唆しています。(Journal of American Medical Association 302:2437-2443, 2009年)
乳がんの再発予防と大豆に関しては159話と160話も参照して下さい。
その他、動物実験レベルですが、ブロッコリーやフロッコリーの新芽(スプラウト)に含まれるスルフォラファンが乳がんの幹細胞を減少させる効果が報告されています。(Clinical Cancer Research16: 2580-2590, 2010年)乳がんの再発には幹細胞の存在が原因になっていますので、がん性幹細胞を抑制する成分を見つける研究が行われています。
これらの報告は、緑茶や大豆や野菜に含まれる成分(カテキンやイソフラボンやスルフォラファンなど)が乳がんの治療や再発予防に役立つことを示唆しています。乳がんだけでなく、他の多くのがんでも、緑茶・大豆・豆類・野菜が再発を予防することが報告されています。つまり、これらの食品に含まれるカテキンやフラボノイドなどのフィトケミカル(植物ケミカル)ががんの再発予防効果に寄与している可能性が指摘されています。
漢方薬は、カテキンやフラボノイドの宝庫であり、その他にも免疫力や抗酸化力を高める成分やがん予防効果のある成分などを多く含みます。したがって、適切な漢方治療が乳がんを始め多くのがんの治療後の予後を良くする効果を示す可能性が示唆されます。
漢方治療を行っている台湾の医師7675人を20年間の追跡調査して、がんの発生率を調査した報告があります。漢方治療に携わっている医師は、自分でも漢方薬を服用する頻度が高い、あるいは薬草と接する機会が多い、という前提での調査ですが、7675人の20年間の追跡で、796人(10.4%)が死亡し、279人(3.6%)ががんを発症しました。一般集団と比較して、全がんの発生率は80%に低下し、女性の乳がんの死亡率は30%に低下していることが報告されています。(Occup Environ Med, 67:166-9, 2010年)
以上のような報告は間接的ですが、漢方治療が乳がんの再発や生存期間に影響する可能性を示唆しています。
西洋医学の再発予防は、食事や生活習慣の改善による効果は軽視して、薬(抗がん剤やホルモン剤など)で再発を予防しようという考え方をします。
確かに、食事や生活習慣の改善など自分でできる再発予防法を何もしない場合に比べれば、ホルモン療法や抗がん剤治療を行う方が再発率は低下します。しかし、その再発予防効果は、適切な食事や、免疫力や抗酸化力を高める漢方治療と比べると、それほど良い結果では無いようです。つまり、食事療法や漢方治療だけでも、術後の補助化学療法やホルモン療法と同じかそれ以上の再発予防効果を得られるという印象を、私自身の臨床経験から持っています。
無理に抗がん剤治療を行うより、食事療法や漢方治療を中心にする方が良い場合(可能性)もあると思います。
◯ 乳がんの漢方治療については、こちらへ:
◯ 漢方漢方煎じ薬についてはこちらへ)
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