がんの予防や治療における漢方治療の存在意義を考察しています。がん治療に役立つ情報も紹介しています。
「漢方がん治療」を考える
668)夜間の照明は乳がん患者の予後を悪くし、メラトニンの補充は予後を良くする
図:夜間の暗くなった情報は、視床下部の視交叉上核(①)からいくつかのニューロン連鎖ののち交感神経の上頸神経節(②)に達し,その節後繊維は松果体(③)に分布する。松果体の交感神経から放出されるノルアドレナリンはメラトニン合成に関与する酵素の一つのN‐アセチルトランスフェラーゼの生成を促進し、多量のメラトニンを産生放出する(④)。メラトニンは乳がんの発症を抑制し、治療抵抗性を抑制する作用がある(⑤)。この経路によるメラトン産生は網膜に光刺激が入ると阻害される(⑥)。夜間に網膜に光刺激が入らなくなるとメラトニンの合成が刺激されるが、夜間のパソコンやスマホやテレビによるブルーライトや明るい照明はメラトニン分泌を阻害する(⑦)。一方、サプリメントでメラトニンを補えば、夜間の照明やブルーライトによる乳がん発症リスクを低減できる(⑧)。
668)夜間の照明は乳がん患者の予後を悪くし、メラトニンの補充は予後を良くする
【光の強さが発がん率に影響する】
マウスなど動物に化学発がん剤を投与してがんを発生させる実験や、がん細胞を移植する実験で、動物が受ける光(照明)の強さががん細胞の発生や増殖に影響することが指摘されています。例えば、以下のような報告があります。
The Impact of Environmental Light Intensity on Experimental Tumor Growth.(実験的腫瘍の成長に対する環境光強度の影響)Anticancer Res. 2017 Sep;37(9):4967-4971.
【要旨】
背景/目的:がん研究では、環境変数を最小限に抑える確固たる実験系を用いることが必要である。典型的な実験動物飼育施設内では、動物はケージの種類、ケージの位置、光源、およびその他の要因の結果として、異なる強度の光にさらされる可能性がある。しかし、腫瘍成長に対する光強度の違いによる影響に関する検討は十分に行われていない。
材料および方法:C57Bl / 6NHsdマウスを用い、移植可能なB16F10メラノーマ細胞またはルイス肺がん(LLC)細胞を移植する2つの移植腫瘍モデルで、ラック(rack:棚)におけるケージ(cage: マウスを飼育するカゴ)の位置によって決定されるケージ面の光強度の影響を検討した。
マウスは個別に換気されたケージに収容され、ラックの上部、中央、または下部に斜めに配置され、ラックの上部に置かれたケージは天井の光源に最も近かった。ケージの表面の光強度が測定された。
割り当てられたケージ位置での2週間の順応期間の後、動物に 1.3×106 個のB16F10黒色腫細胞または 2.5×105個のルイス肺がん細胞のいずれかを皮下移植した。腫瘍細胞移植の18日後(メラノーマ)または21日後(LCC)に腫瘍の重量を測定した。
結果:ケージ面の光強度は、ラックに置かれたケージの位置によって大きく異なり、光源に最も近いケージが最大強度を示した。光強度が強い(high)と低い(low)場合のマウスに比べて、光強度が中等度(middle light intensity)のマウスでは、平均腫瘍重量が有意に低かった(黒色腫ではp <0.001、LCCではp≤0.01)。
結論:実験動物がさらされる環境光の強度は、ラック上に置かれたケージの位置によって著しく異なる場合があり、実験腫瘍の成長に大きく影響する可能性がある。したがって、がん研究のおける動物実験では、光強度を制御する必要がある。
発がん実験や移植腫瘍の動物実験では、動物が曝露される光(照明)の強さが、がん細胞の発生や増殖に影響するということです。
光の強さはメラトニンの分泌に影響しますが、メラトニンにはがん細胞の増殖を抑制する作用があります。
しかし、メラトニンだけでなく、光の強さは睡眠に影響し、体内の様々な機能に影響する可能性があり、そのメカニズムは複雑で、メラトニンだけでは説明できないようです。
上記の実験では、照明が中等度の場合が、最もがん細胞の増殖を抑制され、照明が強い場合と弱い場合は同様にがん細胞の増殖が促進される結果でした。
照明をつけたり消したりすることも動物のストレスになって腫瘍の増殖に影響するようです。昔、私が大学で動物実験を行なっていたとき、夜間に実験を行うことが多く、マウスやラットを飼育している部屋に出入りするたびに照明を点灯したり消したり頻回に行なっていました。このような飼育条件では正しい実験結果は得られないということです。
【明るい部屋で眠る女性は太りやすい】
「寝室の照明やテレビをつけっぱなしにして眠る女性は、太りやすい可能性がある」という研究結果が、米国立環境衛生科学研究所(NIEHS)から報告されています。
Association of Exposure to Artificial Light at Night While Sleeping With Risk of Obesity in Women. (夜間の睡眠中の人工光への暴露と女性の肥満リスクとの関連)JAMA Intern Med. 2019;179(8):1061-1071.
短い睡眠時間と肥満との関連性は知られていますが、夜間の人工光への曝露と肥満との関連は不明です。そこで、この研究では、睡眠中の人工光への曝露が肥満のリスクに関連しているかどうかを明らかにする目的で行われました。
2003年7月から2009年3月までの間に米国全50州およびプエルトリコで登録された35〜74歳の女性を対象とし、 がんまたは心血管疾患の病歴が無く、交代制勤務者でなく、昼寝をしない、妊娠していない43,722人の女性(平均年齢55.4歳)を対象に解析されました。
人工光への暴露の程度は、試験の登録時に夜間の睡眠時の人工光の状況を、「光なし」、「小さな光」、「部屋の外の光」、「テレビをつけているか明かりをつけたまま」に分類して記録し、平均で5.7年間追跡しました。
分析の結果、何らかの照明をつけたまま眠っていた女性では、そうでない女性に比べて肥満リスクが19%高いことが示されました。特に、就寝中に寝室の照明やテレビをつけっぱなしにしていた女性では、照明やテレビをつけないで寝た女性に比べて、5年間で体重が5kg以上増える確率が17%高く、過体重リスクは22%、肥満リスクは33%高かったという結果でした。
また、女性の体重増加には、照明の強さも影響しました。例えば、照明やテレビとは異なり、光が弱い常夜灯の使用と体重増加との間に関連はみられませんでした。さらに、食生活や身体活動などを考慮しても、これらの関連に変わりはなかったことから、就寝中の照明を消すことが女性の体重増加や肥満の予防に重要な可能性が示されました。
光をつけて寝ている人は、睡眠時間が短く、夜食を食べたり、独り住まいが多いなどの生活上の問題が存在する可能性があります。しかし、これらの要因を全て差し引いても、明かりをつけて寝ている人たちには肥満傾向が見られるという結果でした。
夜間に人工照明に曝露するとメラトニンの分泌が抑制され、自然な睡眠・覚醒サイクルが乱れる可能性があり、それが体の代謝やホルモン分泌や自律神経などにも影響して、肥満になりやすい状況になるのかもしれません。
肥満はがんや糖尿病のリスクにもなるので、近代におけるがんや糖尿病の増加の原因の一つとして「夜間の人工照明の曝露」は重要かもしれません。夜間の人工照明が肥満を増やすという研究は他にも報告されています
Exposure to light at night, nocturnal urinary melatonin excretion, and obesity/dyslipidemia in the elderly: a cross-sectional analysis of the HEIJO-KYO study.(高齢者における夜間の光への曝露、夜間の尿中メラトニン排泄、および肥満/脂質異常症:平城京スタディの横断分析)J Clin Endocrinol Metab. 2013 Jan;98(1):337-44.
この研究は奈良県立医科大学医学部 地域健康医学講座からの報告です。HEIJO-KYO study(平城京スタディ)は、住環境が健康に及ぼす影響を調査することを目的に、2010年9月に開始した大規模前向きコホート研究です。
この論文では、528人(平均年齢72.8歳)を夜間平均光曝露量 = 3luxをカットオフ値 として、夜間光曝露量が多い群(3 lux以上:145人)と少ない群(3 lux未満:383人)の2群に分けて解析しています。
夜間光曝露量が3lux未満の群に比較して、3lux以上の群における肥満症および脂質異常症のオッズ比は、それぞれ1.89、1.72と有意に高いことが分かりました(ともにP<0.05)。
夜間光曝露量はメラトニン分泌との関連を認めませんでした。夜間の光が生体リズムを介し て疾病発症に関わっている可能性を示唆しています。
【メラトニンは更年期障害の症状を改善する】
女性は閉経後は女性ホルモン(エストラジオール)の分泌が低下し、様々な症状を引き起こします。これを更年期障害といいます。
メラトニンはエストラジオールの分泌には影響せず、更年期症状を改善する効果が報告されています。
The effect of long-term melatonin supplementation on psychosomatic disorders in postmenopausal women.(閉経後女性の心身障害に対する長期メラトニン補給の効果)J Physiol Pharmacol. 2018 Apr;69(2). doi: 10.26402/jpp.2018.2.15. Epub 2018 Jul 23.
【要旨】
閉経後の女性ではさまざまな心身症が観察される。この心身症の発症原因として、エストロゲン産生の減少の関与が指摘されている。閉経後はメラトニン分泌の低下も顕著になり、このメラトニン分泌低下も更年期障害の症状の発症に関与していることが指摘されている。
この研究の目的は、女性ホルモン分泌と更年期症状の変化に対するメラトニン補給の効果を評価することである。
この研究では、51歳から64歳までの60人の閉経後女性を対象として、無作為に2つのグループに分けられた。
グループI(プラセボ群)は、プラセボを投与され、グループII(メラトニン投与群)では朝3mgと就寝時5mgのメラトニンが投与された。
17β-エストラジオール、卵胞刺激ホルモン(FSH)、メラトニンの血清中濃度と、6-スルファトキシメラトニン(6-sulfatoxymelatonin)の尿中排泄量、ならびにKuppermanの更年期指数(更年期障害の重症度を表現する指数)およびボディマスインデックス(BMI)は、プラセボまたはメラトニン投与の開始前および12ヶ月後に決定された。
プラセボ群(グループI)では、Kuppermanの更年期指数の値のみがわずかに減少した(28.4±2.9対25.6±3.8ポイント、P = 0,0619)。グループII(メラトニン投与群)ではKuppermanの更年期指数は29.1±2.9から19.7±3.1ポイントに有意に減少し(P <0.001)、BMIは30.9±2.9から28.1±2.3 kg / m2(P <0.05)に減少した。メラトニンの補給は、女性の生殖ホルモンである17β-エストラジオールと卵胞刺激ホルモンの血清濃度を有意に変えることはできなかった。
以上の結果から、閉経後の女性のメラトニン補充療法は更年期障害の心身症状の改善効果を発揮し、これらの障害の治療における有用な補助療法の選択肢として推奨できると結論付けられた。
クッパーマン(Kupperman)更年期障害指数は、英国のH.S.Kuppermanが1953年に発表した更年期障害の症状の程度を評価する指数です。患者自身の症状を点数化することによって治療の効果の客観的評価が行えます。クッパーマン指数が減少することは更年期障害の症状の程度が軽くなったことを意味します。
更年期障害は女性ホルモンのエストラジオールの分泌低下によって起こります。
メラトニンはエストラジオールの分泌を増やす効果はありませんが、更年期障害の症状を顕著に改善する効果があるという結果です。
【メラトニンは加齢によって分泌量が低下する】
メラトニンは1958年にエール大学のLernerらによって牛の脳の松果体から単離され、1959年に構造がN-アセチル-5-トリプタミン(N-acetyl-5-methoxytryptamine)と決定された松果体ホルモンです。
睡眠覚醒サイクルなどの概日リズムの調節に重要な役割を果たしていることが明らかにされています。
松果体(しょうかたい)は脳のほぼ真ん中にある松かさに似たトウモロコシ1粒くらいの大きさの器官です。
夜暗くなると、松果体からメラトニンが分泌され始め、血中のメラトニンが増えると睡魔が襲ってきます。そして、生体リズムは睡眠や体息に適したものに調整されます。 朝、太陽光線が目に入ると、松果体にその刺激が伝わりメラトニンの分泌が抑制されます。 これによって覚醒スイッチがONとなり、諸々の生体機能は昼間の活動に適応した状態になります(下図)。
図:メラトニンは脳の松果体から分泌される(①)。夕方になって暗くなると松果体からメラトニンの産生が始まる(②)。夜間にメラトニンの血中濃度が上昇し、真夜中(午前2時から5時ころ)にピークに達する(③)。夜間のメラトニンの濃度は日中の5〜10倍に達する。メラトニンは分泌開始から10~12時間で分泌を中止し、急激に血中濃度が低下し、午前7時ころに最低になって覚醒する(④)
メラトニンの原料は必須アミノ酸のトリプトファンです。トリプトファンに2種類の酵素が働いてセロトニンに変わります(トリプトファン → 5-ヒドロキシトリプトファン → セロトニン)。 セロトニンは神経細胞と神経細胞のつなぎ目(シナプス)で情報伝達の役目をする神経伝達物質の一つです。このセロトニンに2種類の酵素が働いてメラトニンが合成されます(セロトニン → N-アセチルセロトニン → メラトニン)。メラトニンの化学名はN-アセチル-5-メトキシトリプタミン(N-acetyl-5-methoxytrypamine)です(下図)。
図:メラトニンは必須アミノ酸の一種のL-トリプトファンからセロトニンを経由して産生される。
セロトニン → メラトニンという段階は、体内時計(視交叉上核)からの指令が来ないとスタートしない仕組みになっています。すなわち、目から入った光の情報は視神経と通って脳にある視交叉上核に伝えられ、さらに神経によって交感神経の上頸神経節を経由して松果体に連絡が入ってメラトニンの合成が制御されます。
松果体に分布する交感神経は夜間興奮して多量のノルアドレナリンを放出し、それによって松果体細胞のメラトニン代謝に関与する酵素の一つ、N‐アセチルトランスフェラーゼの生成が促進される結果、松果体は夜間多量のメラトニンを産生放出します。視交叉上核が体内時計の中枢です。
図:夜間に網膜に光刺激が入らなくなるとメラトニンの合成が刺激される。視床下部の視交叉上核(①)から出た神経繊維はいくつかのニューロン連鎖ののち交感神経の上頸神経節(②)に達し,その節後繊維は松果体(③)に分布する。松果体の交感神経から放出されるノルアドレナリンはメラトニン合成に関与する酵素の一つのN‐アセチルトランスフェラーゼの生成を促進し、多量のメラトニンを産生放出する(④)。この経路は網膜に光刺激が入ると阻害される(⑤)。
メラトニンの産生は加齢とともに分泌量が減少します。60歳以上になると夜間のメラトニンの増加もほとんど認めなくなります。これが、高齢者が感染症やがんの発症を起こしやすくなる理由の一つという意見もあります。
したがって、メラトニンをサプリメントとして補うことは、加齢とともに低下する抗酸化力や免疫監視機構の働きを若いレベルに維持する効果が期待できます。マウスやラットを使った実験では、メラトニンの補充で寿命を延ばせることが報告されています。
図:年齢によるメラトニン分泌量の違いを示している。新生児はメラトニンの分泌はほとんどないが(①)、徐々に増加して小児期にピークになる(②)。思春期を超えるとメラトニン分泌は減少し始める(③)。中年期には加齢とともにメラトニン分泌量が減少し続ける(④)。60歳を超えるとメラトニンの分泌はごくわずかになる(⑤)。メラトニンの血中濃度は午前2時から4時くらいをピークに夜間に上昇するが、加齢とともに減少し、60歳以上になると、分泌量は極めて低下する(⑥)。
【加齢によるメラトニン分泌低下が乳がんの成長を促進する】
前述のように、加齢に伴ってメラトニンの分泌は低下します。体内におけるメラトニンの減少が乳がんの発症を促進する可能性が報告されています。以下のような報告があります。
Age-related decline in melatonin and its MT1 receptor are associated with decreased sensitivity to melatonin and enhanced mammary tumor growth.(メラトニンとそのMT1受容体の年齢に関連した減少は、メラトニンに対する感受性の低下と乳腺腫瘍の成長の促進に関与している)Curr Aging Sci. 2013 Feb;6(1):125-33.
【要旨の抜粋】
松果体ホルモンのメラトニンには乳がん発生を抑制する活性があり、その作用は主にメラトンン受容体(MT1受容体)とその下流のシグナル伝達経路(cAMP / PKA、Erk / MAPK、p38、 Ca2+ /カルモジュリンなど)を介して発揮される。
また、メラトニンはMT1経路を介して、ERα、GR、RORαなどの一部の分裂促進性の核内受容体の転写活性を抑制し、分化誘導や増殖抑制やアポトーシス誘導に関与する他の受容体(RARαおよびRXRα)の活性を増強する。
今までの研究の多くが、メラトニンがそのMT1受容体を介して、乳がんの発生と増殖と進展を含むすべての段階を抑制するという見解を支持している。
50歳から60歳の間に、メラトニンの生産は減少し、同時に乳がんの発生率が増加する。 メラトニンには抗がん活性があることが実証されているため、松果体におけるメラトニン産生の減少と年齢とともに増加する乳がんの発生との間に因果関係がある可能性が示唆される。
この研究は、若年(2ヶ月)、成体(12ヶ月)、老齢(20ヶ月)の雌バッファローラットにおける乳腺腫瘍の成長と、メラトニンとメラトニン受容体MT1の両方の減少との間に逆相関が存在するかどうかを検証するために行った。
血清メラトニンレベルは、明期と暗期の両方で測定された。夜間のピークで測定された血清メラトニンレベルは若いラットと比較して、成体では29%の減少、老齢ラットでは75%の減少を認めた。
若いラットでは、夜間の松果体のメラトニン含有量は昼間のレベルの19倍であったが、老齢マウスでは、夜間のメラトニンレベルは昼間の7倍であった。
また、夜間および早朝のMT1受容体レベルは、若年および成体ラットの子宮と比較して、老齢ラットの子宮で有意に低かった。
N-ニトロソ-n-メチル尿素(NMU)によって誘発された腫瘍の増殖は、若年または成体ラットに比べて老齢ラットでは有意な増加を示した。
外因性メラトニンの投与による腫瘍成長に対する阻害率は、成体および若齢ラットでそれぞれ48%および66%であったのに対して、老齢ラットでは33%の抑制しか見られなかった。
外因性メラトニンに対する腫瘍増殖の抑制効果の減少は、若年および成体ラットと比較して老齢マウスにおけるMT1受容体発現の減少と相関していた。
これらのデータは、加齢に伴う腫瘍増殖の促進が、メラトニンとメラトニン受容体の加齢に伴う減少が関連することを示唆している。さらに、メラトニンとメラトニン受容体の低下が、外来性にメラトニンを投与した場合の、腫瘍増殖の抑制の感受性が老齢動物において低下している原因となっている。
老齢になると、メラトニンとメラトニン受容体が減少し、メラトニンによる腫瘍抑制のメカニズムが働くなくなっているということです。高齢者ほどメラトニンを多く摂取するのが良いと言えます。
【更年期障害のホルモン補充療法ではメラトニンの補充ががん予防に役立つ】
以下のような報告があります。
Co-administering Melatonin With an Estradiol-Progesterone Menopausal Hormone Therapy Represses Mammary Cancer Development in a Mouse Model of HER2-Positive Breast Cancer.(エストラジオール-プロゲステロン更年期ホルモン療法におけるメラトニンの併用投与は、HER2陽性乳がんのマウスモデルで乳がんの発生を抑制する)Front Oncol. 2019 Jul 9;9:525.
【要旨の抜粋】
メラトニンには、がんの発生や増殖や転移に影響を与える多くの抗がん作用が報告されている。乳がんリスクを増加させることなく更年期症状を治療するための効果的なホルモン療法が必要である。乳がんを発症するマウスの実験モデルを用い、低用量ホルモン療法と夜間のメラトニン投与の併用の効果を評価した。
メラトニンおよびエストラジオール-プロゲステロン療法は、それぞれ個々に投与したときは14ヶ月まで乳がんの発生に有意な影響を与えなかったが、両者を組み合わせたメラトニン-エストラジオール-プロゲステロン療法は腫瘍形成を有意に抑制した。
この結果は、メラトニンとホルモン療法(エストラジオール-プロゲステロン療法)が相乗的に作用して乳がんのリスクを低下させることを示している。
メラトニンの補充は、マウス乳腺の三次分岐を増やして乳腺の形態に影響し、培養したヒト乳腺上皮細胞の分化を促進した。黄体期の子宮重量は、長期のエストラジオール-プロゲステロン療法で増加したが、メラトニンを併用することによって子宮重量の増加は阻止された。
これは、メラトニンの補充がエストロゲン誘発性の子宮刺激を低下させる可能性があることを示している。
メラトニンの補充は、HER2+乳がんモデルにおいて肺転移の発生率を大幅に減少させた。乳腺腫瘍の発生は、8.6か月まではエストラジオール-プロゲステロン療法群とメラトニン-エストラジオール-プロゲステロン療法群で類似していたが、8.6か月後以降のがんの発生はメラトニン-エストラジオール-プロゲステロン療法群で抑制された。
これらのデータは、メラトニンの補充が若いマウスではがん抑制の効果が弱いが、高齢のマウスではメラトニンは腫瘍形成を抑制する効果を発揮することを示している。
高齢の乳腺組織ではメラトニンの反応性は有意に減少しているため、メラトニンの補充は、高齢マウスにおけるメラトニン反応性の低下を克服する可能性がある。
メラトニンのレベルは閉経期以降で低下することが知られているため、高齢の女性がホルモン補充療法を受けるとき、メラトニンの併用は乳がんリスクを減らす効果がある。
前述のようにメラトニンの産生は年齢とともに低下します。
女性の更年期障害の治療に女性ホルモン(エストラジオールとプロゲステロン)を補充するホルモン補充療法があります。ただ、女性ホルモンの投与は乳がんや子宮体がんの発生を促進するリスクがあります。この発がんリスクをメラトニンは抑制するという内容です。
若いマウスはメラトニンの分泌も多く、乳腺組織のメラトニン感受性も高いので、メラトニン補充の効果は弱い(目立たない)のですが、高齢マウスではメラトニン分泌が低下し、乳腺組織のメラトニン感受性も低下しているので、メラトニンを体外から補充すると、メラトニンのがん予防効果が強く現れるということです。
【夜間のスマホ使用が乳がんを増やす?】
夜の時間帯に強い光を浴びると、メラトニンの産生が減って寝つきが悪くなります。昼夜サイクルを無視した生活をすると体内時計の調子が狂い、体調を損ねる原因となります。 夜間に光を浴び続けると、メラトニンの分泌が低下し、免疫力が低下し、がんの発生が増えることが報告されています。
がんとの関連においては、特に乳がんとの関連が研究されています。
例えば、夜間の照明が、メラトニンの分泌の低下を引き起こし、乳がんの発症に関与している可能性を指摘する「乳がん発生のメラトニン仮説」も提唱されています。
盲目の人には乳がんが少ないという報告や、夜間勤務の人には乳がんが多いという報告があり、これらはメラトニンが多く分泌される状況にあると乳がんの発生が抑えられ、夜間勤務のようにメラトニンの分泌が抑えられると乳がんが発生しやすい可能性を示唆しています。
最近では、パソコンやスマートフォン(高機能携帯電話=スマホ)や液晶テレビなどの画面から出る青色の光「ブルーライト」を夜間に強く曝露されると、メラトニンの産生を減らして、がんの発生を増やす可能性が指摘されています。以下のような報告があります。
Women with hereditary breast cancer predispositions should avoid using their smartphones, tablets, and laptops at night.(遺伝性乳がんの素因を持つ女性は、夜間にスマートフォン、タブレット、ラップトップの使用は避けるべき)Iran J Basic Med Sci. 2018 Feb; 21(2): 112–115.
【要旨】
乳がんは、先進国と途上国の両方において、女性で最も一般的な悪性腫瘍である。
BRCA1およびBRCA2遺伝子の変異を持つ女性は乳がんおよび卵巣がんの発症リスクが高い。
最近の研究では、短波長の可視光がメラトニンの分泌を妨げることによって、概日リズムの乱れの原因となることが示されている。
我々は以前から、携帯電話、携帯電話基地局、携帯電話妨害装置、ラップトップコンピュータ、レーダーなどの高周波電磁界(radiofrequency electromagnetic fields)の異なるレベルへの曝露の健康への影響を研究している。
さらに、デジタル画面から放射された青色領域の短波長可視光の曝露による健康への影響を過去数年間にわたって調べている。
スマートフォンの画面から放射された青色光への曝露はメラトニン分泌を減少させるので、夜間のスマートフォンの使用が睡眠を妨げる可能性が報告されている。
私たちは、携帯電話から発生する青い光と高周波電磁界の両方が、夜間に携帯電話を使用する人々の概日リズムの混乱に関連していることを明らかにした。
したがって、遺伝性乳がんの素因を持つ女性が、夜間にスマートフォン、タブレット、ラップトップを使用すると、デジタル画面から発生する青色光がメラトニンの分泌を抑制して概日リズムを混乱させ、乳がんの発症リスクを高める。
以上の観点から、変異したBRCA1またはBRCA2を持つ女性、あるいは家族に乳がんが多い女性は、夜間のスマートフォンやタブレットやラップトップの使用を避けるべきであると結論付けることができる。
琥珀色のレンズのサングラスや青色光の使用者への曝露を減らすスマートフォンのアプリケーションを使用することは、睡眠前の青色光への暴露を減らし、概日リズムの乱れや乳がん発症のリスクをある程度減少させることができる。
人間の目に光として感じる波長範囲の電磁波を可視光線(visible light)と言います。
波長によって異なる色感覚を与え、紫(380-430 nm)、青(430-490 nm)、緑(490-550 nm)、黄(550-590 nm)、橙(590-640 nm)、赤(640-770 nm)として認識されます。
人間の視覚が色を認識するのは、網膜の視細胞である錐体にあるヨドプシンと呼ばれるタンパク質の働きによります。人間の錐体には3種類あり、それぞれ青、緑、赤色の光を認識し、これらの3種類の錐体によって、すべての色を表現することができます。
可視光線のうち、波長の短いほどエネルギーが強く、いわゆるブルーライトと言われる380nmから500nmの波長の可視光線はパソコンやスマートフォンなどのLEDディスプレイ(発光ダイオードを用いた液晶画面)から多く発せられています。
ブルーライトは紫外線と波長が近い光で、可視光線の中でも非常にエネルギーが高く、網膜にまで到達し、網膜色素変性症などの網膜傷害の原因になっています。さらに、メラトニンの産生を抑制する作用が強いことも指摘されています。
図:可視光線の中でも波長の短いブルーライト(青色光)は、パソコンやスマートフォンなどのLEDディスプレイから多く発せられ、その健康被害が問題になっている。
BRCA1(breast cancer susceptibility gene I、乳がん感受性遺伝子I)とBRCA2(breast cancer susceptibility gene II)は、家族性(遺伝性)の乳がんの原因遺伝子として同定されました。これらの遺伝子の変異は遺伝子不安定性を生じ、乳がんや卵巣がんを引き起こす原因になります。
2017年のJAMAの報告によると、80歳までに乳がんになる確率は、BRCA1に変異がある場合は72%(95% CI, 65%-79%)、BRCA2に変異がある場合は69% (95% CI, 61%-77%)というデータがあります。
Risks of Breast, Ovarian, and Contralateral Breast Cancer for BRCA1 and BRCA2 Mutation Carriers.JAMA. 2017 Jun 20;317(23):2402-2416. doi: 10.1001/jama.2017.7112.
日本で推計年間9万人が発症する乳がんの5~10%は遺伝性とされ、中でもBRCA1とBRCA2という遺伝子のいずれかに変異があるために発症するケースが多いと言われています。
日本乳癌学会は2018年5月に、3年ぶりに診療ガイドラインを改訂し、遺伝子変異が原因で乳がんを発症した患者について、がんになっていない側の乳房も再発予防を目的に切除することを「強く推奨する」との見解を示しました。推奨の度合いをこれまでの「検討してもよい」から最も高い段階に引き上げたのです。
遺伝性乳がんの素因がある人が乳房の予防的切除を行わない場合は、乳がんの発症リスクを減らすことが大切です。
夜間のスマホやパソコンや液晶テレビはメラトニンの産生を減らして、乳がん発生のリスクを高めることが指摘されています。ブルーライトを減らす眼鏡やブルーライトをカットするアプリなどを利用することが大切だと提言しています。
図:パソコンやスマートフォンや液晶テレビなどの画面から出る青色の光「ブルーライト」に夜間に強く曝露されると(①)、松果体からのメラトニンの産生が減少して(②)、がん(特に乳がん)の発生を増やす可能性や、抗がん剤治療やホルモン療法に対する抵抗性を高める可能性が指摘されている(③)。白色光の照明中にも青色光が入っているので(④)、夜間の明るい照明もメラトニンの産生を減らして、がんの発生や体調不良の原因になっている。
【夜間のブルーライト曝露は乳がん治療の効果を弱める】
メラトニンは免疫力や抗酸化力を高めてがんに対する抵抗力を増強するだけでなく、がん細胞自体に働きかけて増殖を抑える効果も報告されています。
メラトニンには、がん細胞の増殖・転移を阻害する作用が報告されています。例えば、がん細胞による成長因子の取り込みを阻害する作用、テロメラーゼ活性を阻害してがん細胞のアポトーシスを誘導する作用、がん抑制因子のP53の発現を制御する効果などが報告されています。
メラトニンは培養細胞を使った研究で、乳がん細胞のp53蛋白(がん抑制遺伝子の一種)の発現量を増やし、がん細胞の増殖を抑制することが報告されています。
メラトニンは腫瘍組織の血管新生を阻害する作用があります。腫瘍組織における血管新生は低酸素が引き金となります。低酸素は低酸素誘導因子(hypoxia inducible factor;HIF)という転写因子の活性を高めます。HIFは血管内皮増殖因子(VEGF)やエンドセリンなど血管新生に必要な遺伝子の発現を促進します。メラトニンはHIFの活性を抑制し、VEGFやエンドセリンなど血管新生に働く増殖因子の発現を低下させ、血管新生を阻害するのです。
また、エストロゲン依存性のMCF-7乳がん細胞を使った実験で、エストロゲンとエストロゲン受容体の複合物が核内のDNAのエストロゲン応答部位に結合するところをメラトニンが阻害することによって、エストロゲン依存性の乳がん細胞の増殖を抑えることが報告されています。
動物実験では、乳がん、前立腺がん、悪性黒色腫、白血病などで、がんの増殖を抑える効果が示されています。人間の腫瘍においても、メラトニン摂取によって多くの固形がんで生存率を向上させる効果が報告されています。
メラトニンが乳がんのホルモン療法や抗がん剤治療の効果を高めることが以前から報告されています。逆に夜間の光曝露がメラトニン産生を抑制して、治療に対するがん細胞の抵抗性を高める作用も報告されています。以下のような報告があります。
Circadian and Melatonin Disruption by Exposure to Light at Night Drives Intrinsic Resistance to Tamoxifen Therapy in Breast Cancer(夜間の光曝露による概日リズムとメラトニン分泌の阻害は、乳がん治療におけるタモキシフェンに対する内因性抵抗性を引き起こす)Cancer Res. 2014 Aug 1;74(15):4099-110.
【要旨】
内分泌療法に対する抵抗性は、乳がんの治療成功への大きな障害となっている。
乳がん細胞の抗エストロゲン薬に対する耐性は、がん促進性に作用する様々なチロシン・キナーゼの過剰発現や活性亢進と関連していることが基礎研究および臨床研究で示されている。
夜勤のある交代制勤務の仕事や睡眠覚醒サイクルの乱れによる概日リズムの破綻は、乳がんおよび他の疾患の発症リスクを高める可能性が指摘されている。
さらに、夜間の光曝露は、乳がんの増殖を阻害する作用があるメラトニンの夜間の産生を抑制している。
本研究では、エストロゲン受容体陽性のMCF-7乳がん細胞をマウスに移植する実験モデルを用い、夜間の弱い光曝露によって明/暗サイクルを変化させることで、腫瘍の増殖や代謝やタモキシフェン治療に対する抵抗性にどのような影響が起こるかを検討した。
概日リズムが乱れていないマウス、あるいは夜間の光曝露を受けても夜間にメラトニンの投与を受けたマウスでは、移植腫瘍の増大速度の亢進やタモキシフェンに対する抵抗性亢進の現象は見られなかった。
メラトニンは腫瘍細胞の代謝を阻害し、概日リズムで制御されるキナーゼ(リン酸化酵素)を阻害し、乳がん細胞のタモキシフェンに対する感受性を亢進し、腫瘍を縮小する作用が認められた。
以上の結果から、夜間の弱い光曝露による夜間のメラトニン産生の阻害が、乳がん細胞のタモキシエンに対する抵抗性を引き起こすことが示された。
つまり、乳がんの治療としてホルモン療法を受けているときは、夜間のブルーライトの曝露などメラトニンの産生を減らすことは、治療効果を弱める結果になります。
ブルーライトの曝露を減らし、メラトニンをサプリメントで補充するメリットはありそうです。
夜間のブルーライトへの曝露は抗がん剤治療に対する抵抗性とも関連しているようです。以下のような報告があります。
Doxorubicin resistance in breast cancer is driven by light at night-induced disruption of the circadian melatonin signal.(乳がん細胞のドキソルビシン耐性は、夜間の光によって誘導される概日的なメラトニンシグナルの破綻によって引き起こされる)J Pineal Res. 2015 Aug;59(1):60-9.
【要旨の抜粋】
抗がん剤耐性、特にドキソルビシンに対する耐性は、乳がんの治療を成功させる上での主要な障害となっている。この薬剤耐性はがん細胞の代謝異常や、様々な種類のチロシンキナーゼなどの増殖シグナルの亢進が関連している。
交代制勤務や睡眠覚醒サイクルの乱れで発生する、夜間の明かりによるサーカディアンリズムの破壊と夜間のメラトニン産生の抑制は、乳がんを含む様々な疾患のリスクの大幅な増加と関連している。
メラトニンは、がん細胞の代謝の抑制、受容体キナーゼのAKTおよびERK1 / 2および他の様々なキナーゼや転写因子の発現またはリン酸化活性化の抑制を含む様々なメカニズムを介して、ヒト乳がんの成長を抑制する。
エストロゲン受容体陽性のヒト乳がん細胞(MCF-7)をヌードマウスに移植する実験系で、マウスを12時間:12時間の明/暗サイクルで飼育するとき、暗期に弱い光が存在する条件(夜間の内因性のメラトニン産生が抑制される条件)で飼育すると、がん細胞の増殖の潜伏期の大幅な短縮、がん細胞の代謝と成長の増加、ドキシルビシンに対する完全な耐性を示した。
一方、同様な飼育条件で夜間にメラトニンを投与すると、がん細胞の増殖が抑制され、チロシンキナーゼや転写因子の活性化が抑制され、ドキソルビシンに対する感受性が回復した。
メラトニンは、がん細胞の代謝を阻害し、概日リズムで調節されているキナーゼ活性を阻害することによって、ドキソルビシンに対する乳がん細胞の感受性を高め、腫瘍を縮小させる。
以上の結果から、夜間の光によるメラトニン産生の抑制が乳がん細胞のドキソルビシンに対する感受性の完全な喪失に寄与することを示している。
夜間の光曝露がメラトニンの産生を低下させ、抗がん剤のドキソルビシンに対する耐性を亢進するという報告です。
メラトニンが増殖シグナル伝達系に作用して抗がん剤感受性を高めることは多くの研究があります。
以下のような報告があります。
Melatonin enhances sensitivity to fluorouracil in oesophageal squamous cell carcinoma through inhibition of Erk and Akt pathway.(メラトニンは、ErkおよびAkt経路の阻害を介して、食道扁平上皮がんにおけるフルオロウラシルに対する感受性を高める)Cell Death Dis. 2016 Oct 27;7(10):e2432.
【要旨の抜粋】
メラトニンの食道の扁平上皮がんに対する抗腫瘍活性とそのメカニズムを検討し、メラトニンが食道扁平上皮がん細胞の増殖と移動と浸潤を阻害し、マウスに移植した腫瘍の増殖を抑制することを明らかにした。
さらに、メラトニン投与は、リン酸化(活性化)したMEKとErkとGSK3βとAktの発現を有意に抑制した。
対照的に、化学療法薬の5-フルオロウラシル(5-FU)はErkとAktを活性化し、5-FUによって活性化されたErkとAktはメラトニン投与で抑制された。
培養細胞(in vitro)およびマウス移植腫瘍(in vivo)の実験系の両方において、メラトニンは食道扁平上皮がんに対する5-FUの抗腫瘍活性を増強した。
以上の結果から、メラトニンによるErkとAkt経路の阻害が、食道扁平上皮がんの5−FUに対する感受性亢進に重要な役割を果たしていることが示唆された。5-FUとメラトニンの併用は食道扁平上皮がんの有効な治療法になる可能性があり、さらなる研究が必要である。
以下のような報告もあります。
Melatonin synergizes the chemotherapeutic effect of 5-fluorouracil in colon cancer by suppressing PI3K/AKT and NF-κB/iNOS signaling pathways.(メラトニンは、PI3K / AKTおよびNF-κB/ iNOSシグナル伝達経路を抑制することによって結腸がんにおける5-フルオロウラシルの化学療法効果を相乗的に増強する。)J Pineal Res. 2017 Mar;62(2).
【要旨の抜粋】
5-フルオロウラシル(5-FU)は、大腸がんの治療で最も一般的に使用される化学療法剤の一つである。メラトニンは、様々ながんに対して抗腫瘍活性を発揮するが、5-FUとの組合せでの検討は行われていない。
本研究では、大腸がんにおいて、メラトニンと5-FUの併用による抗腫瘍効果を検討し、大腸がんの細胞増殖、コロニー形成、細胞遊走および浸潤に対する5-FUの阻害作用をメラトニンが有意に増強することを明らかにした。
メラトニンは、5-FUと相乗的に作用して、カスパーゼ/ PARP依存性アポトーシス経路の活性化を促進し、細胞周期停止を誘導した。
さらに、メラトニンはPI3K / AKTおよびNF-κB/誘導型一酸化窒素合成酵素(iNOS)のシグナル伝達系を阻害することによって5-FUの抗腫瘍効果を増強することを明らかにした。
メラトニンと5-FUの併用はPI3K、AKT、IKKα、IκBαおよびp65タンパク質のリン酸化を抑制し、NF-κBのp50 / p65の核から細胞質への移行を促進し、iNOS遺伝子のプロモーターへのNF-κBの結合を阻害することによってiNOSシグナル伝達系を阻害した。
さらに、PI3K又はiNOSの特異的阻害剤は、5-FU及びメラトニンの抗腫瘍効果を相乗的に増強した。
最後に、マウスの異種移植腫瘍モデルにおいて、メラトニンはAKTおよびiNOSシグナル伝達系を阻害することによって5-FUの抗腫瘍効果を増強した。
以上の結果から、メラトニンは複数のシグナル伝達経路を同時に抑制することによって、大腸がんにおける5-FUの抗腫瘍効果を相乗的に増強することを実証した。
メラトニンはYAPの活性化を抑制することによってブレオマイシンによる肺線維化を抑制するという報告もあります。
Melatonin Protects against Lung Fibrosis by Regulating the Hippo/YAP Pathway.(メラトニンはHippo/YAP経路を制御することによって肺線維化を抑制する)Int J Mol Sci. 2018 Apr 9;19(4). pii: E1118.
【要旨】
特発性肺線維症(Idiopathic pulmonary fibrosis ;IPF)は進行性の間質性肺炎で死亡率が高い。
メラトニンは主に松果体から分泌されるホルモンで、特発性肺線維症の発症過程に関与していることが報告されている。しかしながら、肺線維症に対するメラトニンの作用メカニズムは明らかにされていない。
本研究は、肺線維症に対するメラトニンの線維化抑制作用を評価し、その作用機序を解明することを目的とした。
メラトニンは、ブレオマイシンで誘発したマウスの実験的肺線維症を顕著に抑制し、肺の線維芽細胞におけるTGF-β1誘導性の結合組織合成を阻害した。
さらに、メラトニン受容体阻害剤のluzindoleはメラトニンによる線維化抑制作用を阻止した。
In vivoとin vitroの実験系において、メラトニンはその受容体と結合することによって、Hippo経路の下流のエフェクター分子であるYAP1の細胞質から核への移行を抑制した。
以上の結果から、メラトニンはYAP1の活性を阻害することによって肺線維化を予防することが示された。肺線維症の治療においてメラトニンは新規な治療法になる可能性を示唆している。
乳がんだけでなく、多くのがん種において、治療にメラトニンを併用する価値はあると思います。通常、がん治療の目的では1日に10〜40mgを就寝の1時間くらい前に服用します。
また、メラトニンはがんの発生や再発や進行の抑制にも有効です。抗老化作用や寿命を延ばす効果も報告されているので、メラトニンをサプリメントで補充するメリットは高いと思います。
また、抗老化の目的で性ホルモンの補充療法を受けている人は性ホルモン依存性のがん(女性は乳がんと子宮体がん、男性は前立腺がん)の発症リスクを高めます。このような場合も、メラトニンの補充はがん発生の予防に役立ちます。
新刊紹介
« 667)抗がん作... | 669)オーラノ... » |