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心の叫びに耳かたむけて~子どもたちのまなざし① 土佐いく子

2007年05月30日 | 土佐いく子の教育つれづれ

 ■集団パニック
 かつて不登校あり、いじめあり、カッとなったらカッターナイフがキラリ、外へ飛び出すという5年生を5人の教師で担当しました。
 5クラスのうちの一つが、いわゆる「学級崩壊」状態になり、集団パニックになったのです。
 その際、5人の教師たちはこの状態を見て「おまえら自分勝手や」「辛抱が足らんやつらだ」「いちいち話聞いてたら増長する」などとは言わず、とにかくこの子らの話を聞いてやろうじゃないか、と子どもたちと向き合ったのでした。

 ■教師づらすんな
 どなり声や泣き声をあげて興奮していた子たちが次第に落ち着いてきて、話を始めました。
「どうせオレらアホやもん」
「勉強なんかやってられへん」
「大人はなぁ、私らのことなんか信用してくれへん。いっこも本気で聞いてくれへん」
「先生も親も何考えてるかわからんわ」
「ひいきすな!」
「お前らみんな教師づらすんな! キショイんじゃ」
 1時間半あの子たちは、叫ぶように胸の内を訴えつづけたのでした。
 そうだよなぁ、何といっても勉強わかりたいよなぁ。どの子もかしこくなりたいね。勉強がわからん子ほどそう思うのよね。
 お父さんもお母さんも先生も「どうせあんたらは、できんと思うけど」とか「あんたらみたいな子みたことないわ」とか言わないで、もっと私らの力を信じてよ。まかせてやらせてくれたらびっくりするくらいがんばれるよ、と訴えていたのです。
 そして、ぼくの話を忙しい忙しいと言わないで、心から本気で聞いてよ、ぼくのうれしいことや不安な思いをわかってよ、と語りかけていたのです。
 先生も人間丸出しでぼくらとつき合ってよ。先生ひいきせんと私のこともかまってよ、と必死で訴えていたのです。
 「教師づらすんな」ってどういうことなのか話し込みました。そうよねぇ、教師って上から下へ教えたるという態度をしたり、自分もできていないことを子どもにはやれやれと指図するよね。そういう先生は、もうごめんだと言われてるんやろな。
 こうして私たちは、子どもたちの声や叫びに耳を傾け、悪戦苦闘しながら教育活動を新たに組み直していきました。

 ■丸ごと受けとめる
 「パニックになって荒れている子本人が一番苦しんでいるんだ。信じて待ってやろう。みんな力貸してね」とクラスの子らにもよびかけました。テスト用紙に大きな×をつけ「おれはアホ」と書いて、裏に絵ばかり描いていた康司。○をつける私の赤ペンが止まります。
 その時「先生、康司な、テストの裏に絵描いてるで。それに○したってよ」と言ってくれるのです。あー、ほんとの康司がここにいる。それを丸ごと受け止めてやればいいんだと教えてくれたのでした。
 今の子どもをどう見たらいいのか、子ども観が問われている今日です。
 この子たちは、いじめを自ら解決し、親を感動させる卒業式をして、飛び立っていきました。
 (とさ・いくこ 大阪市立加賀屋小学校教諭)

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