瀬戸際の暇人

今年も偶に更新します(汗)

上陸!ハウステンボス!!その3

2010年07月08日 21時07分06秒 | ワンピース
前回の続き】

※ル=ルフィ、ゾ=ゾロ、ナ=ナミ、ウ=ウソップ、サ=サンジ、チ=チョッパー、ロ=ロビン、フ=フランキー、ブ=ブルック、の台詞です。




ロ「遊園地というより、高級リゾート地の香りがする所ね」
ナ「そうね。そういう積りで遊びに行った方が楽しめそうよ♪」
ゾ「高級リゾートねェ…」
フ「俺ら男共にとっちゃ、退屈しそうな場所だな。今一ハートが熱く燃え滾らねェぜ」
ウ「そうかァ?俺ぁリゾート歓迎するぜ!冒険者だって時には休息が必要だからな」
ブ「私も歓迎致しますよ!今日明日も知れぬ海賊の身だからこそ、休める時にはしっかり休まねば!」
サ「おお俺も勿論歓迎だ!ナミさん!ロビンちゃん!向うに着いたら馬鹿共は振り切って、俺とホテルでランデブー…」
ナ「嫌でーすvね、ロビン!」
ロ「そうね、悪いけど遠慮するわv」
ル「それにしたって食って休んでばっかじゃデブっちまうしなー。体動かすトコとかコトとか無ェの?」
ナ「ちゃんと有るみたいよ!プールにレンタサイクル、ヨットに宝探しゲームに釣り…」
チ「プールゥ!?デカイのか!?」
ナ「滝が流れる熱帯ジャングル風温室プールだって!」
ル「うおおお!!良いじゃんかそれ!!」
ブ「ヨホホホホ!それは素晴しい!ナミさん!ロビンさん!向うに着いたら是非ご一緒して、大胆素敵な水着姿を至近距離から拝見させて下さ…」
ナ「駄目でーすvね、ロビン!」
ロ「そうね、悪いけど遠慮するわv」
ウ「釣りかァ!船の上で毎日出来るとはいえ、偶には陸上に腰を落ち着けてやるのも良いな♪」
ナ「丁度運河に釣堀がオープンしたばかりで、餌1個付釣竿レンタル代500円のところを、オープニングキャンペーン中って事で、今なら300円とお得に奉仕してるらしいわ!」
ウ「へー!そいつぁナイスタイミングだな――ってちょっと待て!海の側なのに、運河に釣堀造ったのか!?」
ナ「そうみたい。クロダイにイワシに、海の魚が沢山釣れるそうよ」
ウ「河で海の魚が釣れんのかよ!?」
ナ「ハウステンボスの運河は海水を引き入れてて、だから河と言えども海の生物が棲んでるんだって」
ウ「へェ~~!」
ル「よく解んねーけど不思議な話だな」
フ「いや、職人としちゃ、実に興味深い話だぜ。海から水を引き入れるとして、どういう仕組みなんだ?」
ナ「海との潮位差を利用して、水の入れ替えまでも、定期的に行ってるらしいわよ」
フ「睨んだ通りだな!古式ゆかしい街並みには不似合いな、スーパーハイテク技術を備えてるとは、御見それしたぜ!」
ナ「私もパンフに同封されてた手紙を読んでビックリしたんだけど、元の地は草木も育たない荒地だったそうよ」
ウ「荒地?けど今は森が在って花が咲いてる場所なんだろ?」
ル「どうやって変身させたんだ?魔法か!?」
ナ「2年間土壌改良に取り組んで、死んだ土を生き返らせてから街を造る工事に着手したんだって。その努力が実り、今や場内何処でも綺麗な花が観られる美しい街に変身したというわけ」
ロ「まぁ。計画した人は、まるで花咲か爺さんみたいね!」
チ「『花咲か爺さん』ってどんな奴だ?」
ウ「例えるならチョッパーの恩人のドクターみてェな奴さ」
チ「そうか!ドクターみたいな人が、この街を造ったんだな!!」
フ「グスッ…!中島みゆきの『地上の星』をBGMに流したくなるよな泣ける話じゃねェかァ…!」
ナ「他にも地面に水が浸透し易いよう、石畳や煉瓦で道を敷いたり、周辺の生態系を護る為に、自然石を積んで護岸を造ったり…」
ル「よく解んねーけど、不思議がいっぱいの街なんだな!」
ナ「ハウステンボスとは『森の家』って意味で、エコロジー&エコノミー、自然と文化の共存をテーマに掲げ、造り上げた街だそうよ」
フ「成る程、ダブルエコってわけか!」
チ「『エコ』ってどういう意味だ?」
ウ「そりゃおめェ、ナミみてェなヤツを指して言う言葉さ!」
ロ「それを言うなら『エゴ』じゃないの?ウソップ」
ナ「この私の何処がエゴイストよ!?失礼ね!!」
ル「俺知ってるぞ!『エコ』!エコエコアザラクエコエコザメラクを略した言葉だろ!」
ナ「違う!!ってか何であんた、そんな事知ってんのよ!?」

ゾ「………フワァ~~~…!……何時の間にか寝ちまったらしい…そろそろ上陸すんのか…って何だ??――おいナミ!!色魔がダブルで横に落ち込んでやがるぞ!!一体何を落ち込んで……ん?」

サ「…………」
ブ「…………」

ゾ「…ふられた??――おいナミ!!ダブル色魔がふられたって言ってるぞ!!」
ナ「だから晴れてても用心の為に傘は持ってけって言っといたのに――肩に物干し竿突き通して外に干しといて!!1時間もしたら乾くでしょ!!」
ゾ「……しゃあねェなァ――チョッパー!!手伝え!!」
チ「うん!!解った!!――船内が湿気ったら嫌だもんな!」








…プールは夏季限定、1度遊んだ事有るけど、ロッカールーム含めて、優雅なプールです♪
泳ぐより、ゆっくり寛ぎたい人用にデザインした感じ。
運河釣堀についてはこちらを。(→http://www.huistenbosch.co.jp/event/summer2010/water/#fear)

ハウステンボスのエコロジーを考えた街造成計画について、以前『なぜ?なに?ハウステンボス』という記事に纏めた事が有ります。
今回みたく妙な会話劇ではありますが(汗)、お読み頂けると嬉しいです。
特に知らなくても充分楽しめる所だけど、知ってれば街の見方が変って尚の事楽しめるかと。
あそこまで環境を意識して造った街は、今だって中々見付からないと思うんですよ。

写真は毎度08年7月に撮影した、パレス・ハウステンボス内の薔薇園に咲いてた薔薇。
次回は明日か明後日か…書け次第。(汗)

そうそう、忘れるとこだった!
今日はパウリーのバースデー!

誕生日おめでとう、パウリー♪♪

忘れといてこんな事言っても信用無いだろうけど(汗)、今でもワンピの男キャラの中では1番好きです。


※後日談、2011年春、ハウステンボスはヨットクルーズの営業をしてない…止めちゃったの。(涙)

ワンピース目次に「オレンジの森の姫君」をUPしました。
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オレンジの森の姫君 その5

2010年07月08日 20時54分15秒 | ワンピース





丸々とした月が空の1番高くに昇る頃、ナミは妖精達の手で草原に引き摺り出されました。
ナミの体は蜘蛛の糸を縒り合せて作った糸で、しっかりと縛られていました。
その周りを硝子の様に透き通った小さな妖精達が、幾人も取り囲んでいました。
中でも1人は、小さな小さな金の王冠を被り、ナミの正面に立っています―それが妖精の女王でした。

ゾロは妖精達の中に飛び込み、ナミを抱え上げました。
周りに居た妖精達は驚き、金切り声を上げて逃げ惑いました。


「・・・・人間の男か・・・神聖な儀式を邪魔するとは随分無礼な奴だねぇ。」


女王はゾロに、憎悪を篭めた声で言いました。


「ナミは俺が貰う。あんたの憎しみがどれ程のものだかは知らないが・・・300年も苦しめたんだ、もう充分だろ?」


ゾロは少しも怖れず言い返します。


「その娘が欲しけりゃ持って行くがいいさ、そんな姿で構わないならね。」


女王が呪詛の言葉を呟いた途端、ナミは醜い疣の沢山付いた蟇蛙に姿を変えました。
ぬるぬるとした気味の悪い手触りに怖気が立ちました。


「どうだい、うっとりする程の美女だろう?」
「ああ・・・こんな別嬪、見た事無ぇよ・・!」


ゾロは、それでも手を離しませんでした。



『ゾロ、私の話をよく聞いて。
 月が1番高くに昇る頃、女王は私を生贄にする儀式を執り行うわ。
 そこから私を連れ出してちょうだい。

 女王は怒って私の姿を様々な物に変えるだろう。
 だけど決して掴まえた手を離さないで。
 離したら、私は2度と人間には戻れない。
 あんたの命もどうなるか判らない。

 変身が止って元の姿に戻ったら、私の全身にオレンジの汁を振り掛けて。
 そうすれば・・・私は、人間に戻る事が出来る。

 お願いよ、ゾロ・・・私がどんな姿に変わっても、決して手を離さないでいて・・・!』



「しつこい男だね・・・あんまりしつこいと、その娘に嫌われてしまうよ。」


女王はまた言葉を呟きます、途端に、ナミは恐ろしい毒蛇へと姿を変えました。


「ぐあっっ・・!!」


鎌首を擡げた蛇は、牙を剥いてゾロの肩に噛み付きました。
毒が回り、どんどん体が痺れていくようでした。


「ほら、その娘が怒っているよ・・・女に噛まれる気持ちはどうだい・・?」
「・・・ああ・・・痺れる位に良い気持ちだよ・・・!」
「ふん、減らず口の多い男だね!」


女王は三度言葉を呟き、ナミを今度は、ゾロの身の丈程も有る針山に姿を変えました。


「・・・うっっ・・・ぐっっ・・・がぁっっ・・・!!」


無数の鋭い針が、ゾロの体を串刺しにします。
顔から、首から、肩から、腕から、胸から、足から、幾筋もの赤い血が流れ出しました。



『・・・手を離さないで・・・お願いよ、ゾロ・・・。』



「まだ諦めないのかい!?しぶとい男だねぇ・・!!」


女王は更なる言葉を呟き、ナミの姿を赤々と燃える石炭に変えました。


「ぅぐあぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁーーーー・・・・!!!!」

「面倒だよ!いっそ恋の炎とやらで、黒焦げになっておしまい!!」


気の遠くなる程の熱さを感じました。
自分の腕や胸が焼け爛れていくのが解ります。
肉の焦げる様な匂いも漂ってきました。


―それでもゾロは、手を離しませんでした。



『・・・ナミ・・・泣くな、ナミ・・・。

 もう・・・独りで泣いたりするな・・・ナミ・・・。

 俺が必ず、お前を自由にしてやる。
 一緒に外へ出るんだ・・!

 外の世界には、愉快な事が沢山有る。
 悲しい事も、腹立つ事も、不安になる事だって・・・偶に、有る。

 お前、海って知ってるか・・?
 信じらんねぇ位広くて、何処まで行っても水なんだ。
 此処を出たら、一緒に見に行こう。

 世界は、お前が想像もつかねぇ程広いんだ。

 だから・・・独りで閉篭って泣いたりするな、ナミ・・・!!』



「いいかげんにその手をお離し!!早くしないと月がどんどん傾いてしまうじゃないか!!」


苛立たしげに、女王は新たな言葉を呟きました、と、ナミの姿は真っ白な鳩に変わり、空へ飛び立とうと羽ばたきます。
ゾロは逃がさぬよう、必死になって押えました。

その変身を最後に、ナミの姿は元の人間に戻り、そのまま気を失ってしまいました。

ゾロはマントの下に隠し持った皮袋を取り出し、中に搾り入れていたオレンジの汁をナミの全身に振り掛けました。
そうして、ナミを抱えると、オレンジの森へと逃げ走りました。


「・・・おのれ・・・さては全てナミの企みだったんだね・・!解っていればあの男を物考えられぬ木偶にでも変えてしまえばよかった!それかナミを早い所、地獄の王に献上してしまうべきだったよ・・!」


女王は悔しさを堪え切れずにそう叫びました。




「ナミ・・・!ナミ・・・!」


森に逃げるとゾロは、ナミを縛る糸を引き千切って揺さぶり起こしました。


「・・・・・・ゾロ・・・?」
「無事か・・・?」

「・・・ええ・・・どうやら、上手くいったようね・・・。」

「・・・ああ。」


ゾロはナミを抱えたまま、強く抱き締めました。


「そういや俺の体・・・火傷も何も全て消えちまってるけど・・・何でだ・・・?」

「そりゃそうよ、ゾロが見た変身は全て幻覚だもの。」

「・・・・・幻覚??」

「女王はオレンジの香の中では魔力が弱まってしまうの。直接手で触れない限り、物を変える事は出来ないわ。」

「・・・お前な・・・そういう事は先に言えって!!!・・・何で言わなかったんだ!!?」


ゾロの言葉にナミはぺろりと舌を出して、悪戯っぽく笑いました。


「!!・・・まさか・・・お前・・・俺の心を量るつもりで・・・?」

「だって・・・口では何とでも言えるでしょ?」

「・・・っはぁ・・・やられたよ・・!」


がくりとゾロは肩を落とし、照れながら頭を掻きました。


「あんたも大した大馬鹿者よねぇ。悪戦苦闘の末、手に入れたは女1人だけ・・・一流のトレジャーハンターの名が泣くわよ?」

「一流のトレジャーハンターだぜ、俺は。宝だって一流にしか興味が無ぇのさ!」


それを聞いてナミはにっこり笑い、ゾロの胸にしがみ付いてキスをしました。

オレンジの甘く爽やかな香が2人を包み込みました。



消える前に人間に戻った為、ナミの傷は一生残ったままでした。
ナミは、『これはあんたに逢えた事を忘れない為の証なの』と言って笑いました。



そして2人は何時までも幸せに暮らしました。





【おしまい】



…自分初のパラレル、初のゾロナミ、初のシリアス(?)と、初物尽くしな作品。
発表時、結構な反響を頂けた理由は、こんなのも書けたのかと、驚かれたからだと思う。(笑)
実は話の元にした伝説が在りまして。
伝説には著作権が無いから助かる。(笑)



・2004年5月3日、投稿部屋投稿作品
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オレンジの森の姫君 その4

2010年07月08日 20時47分39秒 | ワンピース





「おい・・!あんた・・!おい・・!!」
「・・・・うっ・・・・んあ・・・?」
「・・・よかった・・・ちゃんと生きてるな・・・!?」
「・・・・生きてるって・・?あんた・・・俺を案内してくれた・・・!」


ゾロが目を覚ました場所は、朝靄立ち込める林の中でした。
倒れている自分の顔を、昨日道案内してくれた男が覗き込んでいます。
体を起こし見回せば、出発した時そのままの皮の服に緑のマントを羽織った姿―3本の刀もちゃんと脇に差していました。

オレンジの森も、城も、ナミの姿も、何処にも見当たりませんでした。


「・・・城は・・・?・・・ナミは何処に行った・・・!?」
「・・・ナミ・・・?何だいそりゃ・・?・・・人の名前なのかい?」
「オレンジの髪に、赤い眼をした女だ・・・!俺と一緒に居た筈だ!!」

「・・・・・魔物に・・・・逢ったのかい・・・?」
「ナミは魔物じゃねぇ!!人間だ・・!!」


起き上がり掴み掛るゾロに、男は優しく言いました。


「・・・朝早く見廻りに来て、此処に1人で倒れてるあんたを見付けた・・・他に誰も居なかったよ・・・。」

「・・・・・・。」

「魔物に逢って、無事戻って来れた奴の顔を、俺は初めて見たよ。・・・拾い物の命だ、大事にするこった。」




そのお城はオレンジの森に囲まれ建っていました。
とても古い、小さなお城でした。

その少女はずっと1人でお城に住んでいました。
天気の好い日は歌を口ずさみながら森を散歩したり、
草原でオレンジを食べながら日向ぼっこをしたりして過していました。

或る日、1人の青年がオレンジの森を抜けて、少女を尋ねて来ました。

青年の名前を『ゾロ』と言いました。


「・・・ったく!早朝入って抜ける頃にはもう夕刻たぁ・・・やっぱこの森には方向感覚狂わしちまう某かの魔法が・・・そうか、これも妖精の女王の呪いとやらだな!」


一流のトレジャーハンターは、以下略。


「何しに来たのよ?」

「・・・ナミ!」


夕焼け空の下、草原に大きく伸びたお城の影の中、ナミは立っていました。


「契約は1人1回1度きり・・・もうあんたは財宝を手にする事が出来ない・・・そう言った筈よ。」

「宝は要らねぇって言った筈だ。」

「・・・私を抱けるのも1晩だけよ・・・もしまた抱けば死んでしまうわ。」


ゾロはナミの傍に立ち、腕を掴んでこう言いました。


「ナミ、お前を連れに来た。」

「・・・・私を・・・連れに・・・?」

「此処から出るんだ・・・外に出て、俺と一緒に暮らそう・・!」

「・・・・・・無理よ。」

「女王が追って来るなら、俺が斬り殺してやる。」

「妖精達に実体は無いわ、斬っても煙の様に逃げてしまうだけよ。」

「何がどうでも俺はお前を守ってみせる。だから安心して一緒に来るんだ!」
「簡単に言わないでよ!!」

「・・・・ナミ・・・?」


ゾロの手を振り払ったナミは・・・・泣いていました。
肩を震わせ、ゾロを睨み付けながら、瞳一杯に涙を溜めていました。


「此処から出て一緒に暮すですって・・・?
 そんな事出来る訳無いじゃない・・!!
 万が一にも女王の手から逃れても、
 あんたに女王が殺せたとしても、
 私に掛けられた呪いは消えやしない!!

 私は『死ねない』のよ!?
 人間じゃないのよ!?

 あんたと一緒に暮らしたとして・・
 人間のあんたは何時か必ず死んでしまう。
 周りに居る人達も死んでしまう。
 街も国も何もかも亡んでしまう。
 皆、皆、亡くなってしまう。
 私1人が残される。

 300年間、大勢の人達が死ぬのを見て来たわ。
 もう、これ以上は見たくない。
 見る位なら・・・死んでしまう方がずぅっと楽だわ・・!!」


「・・・『死んでしまう方がずっと楽』とは、どういう意味だ・・?」

「・・・・今晩、月が1番高くに昇る頃、女王の手で私は地獄の王への貢物として贈られる。」

「・・・・地獄の王への貢物って・・・」

「・・・生贄よ・・・正直、ずっとそうなる事を待ち望んでいた・・・厭きる程生きて・・・私はもう、疲れたわ・・・。」

「・・・許さねぇぞ、俺は。」

「・・・有難う、ゾロ・・・魔物となった私の話を聞いてくれたのは、あんたが最初で1度きり・・・本当に、嬉しかった・・・。」

「・・・そんな事、俺は絶対許さねぇ・・!!」


ゾロはナミを胸に引き寄せ、強く抱き締めました。


「ナミ、お前は本当にそれでいいのかよ!?
 300年間ただ生かされて・・!
 独りきりで閉じ込められて・・!
 魔物として恐れられて・・!
 誰にも話を聞いて貰えず終いで・・!
 傷付いて傷付いて、泣いて泣いて泣いて・・!
 そんなんで人生終わってお前は本当に納得すんのかよ!?

 俺と外へ出るんだ!
 外へ出て、俺と一緒に宝を探すんだ!
 美味い物も腹一杯食わせてやる!
 世界中何処へだって連れてってやる!
 面白ぇ奴らにも沢山会わせてやるさ!
 酒だってたらふく呑むぞ!
 笑ったり泣いたりムカついたり驚いたり、毎日いっぱいいっぱい感じるんだ!!」


「・・・駄目だよ、ゾロ・・・私には出来っこない・・・。」
「出来る!いや、させてやる!!」
「やめてよ!!お願いだから諦めて帰って!!早くしないと女王が来ちゃうじゃない!!」
「諦めねぇ!!これ以上ぐずんなら無理矢理抱えて行くからな!!」
「何で諦めないのよ!?私1人の事に意地んなってんじゃないわよ!!」
「お前を死なせたくねぇからに決まってんだろ・・!!!」


「・・・・お前と、一緒に生きてぇからに決まってんだろ・・・。」

「・・・・ゾロ・・・。」


風が吹いて、森からオレンジの香を運んで来ました。


「・・・なぁ、ナミ、呪いを解く手段は無ぇのか・・?どんなに難しい手段でも知ってんなら教えて欲しい・・・きっと、俺が助けてやるから・・・。」

「・・・・・・。」

「・・・・約束する。」


「・・・・1つだけ有るわ・・・危険な手段だけど・・・。」

「・・・どんなんだ・・・?」

「・・・失敗すれば、あんたも私も殺されてしまう・・・それでも、試してみる・・・?」

「ああ・・・上等だ!」

「・・・ゾロ・・・私がこれから話す事を、よく聞いてね・・?」


ナミは、ゾロの目をしっかりと見据えて話し出しました。





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オレンジの森の姫君 その3

2010年07月08日 20時46分38秒 | ワンピース





「・・・私を抱く・・・それは同情から・・・?」
「同情なんかじゃねぇよ・・・俺はお前を抱きてぇんだ。」


金銀宝石輝く宝物庫で、ゾロはナミを抱き締めました。
抱き締めたナミの体は温かくて、柔らかくて、か細くて・・・さっき齧ったオレンジと同じ香がしました。


「・・・私は魔物よ・・・人間じゃないのよ・・・。」
「魔物でも何でもお前程の好い女、男は誰でも抱きてぇと思うだろうさ。」


ナミは面を上げて、ゾロと向き合いました。
泣き腫らした顔はそれでも美しく・・・涙で潤む瞳も、長い睫も、珊瑚の様な唇も、薔薇色の頬も、どれも活き活きと愛らしくありました。

この部屋の、どの宝よりも美しく、貴重に思えました。




その小さな古いお城は、月の光を浴びて仄白く輝いていました。
真ん中の1番高い棟は尖塔状になっていて、中の螺旋階段で最上階まで行けるようになっていました。
最上階に在る扉を開くと、そこには露台が設けてありました。

白々と射す月光の下、2人は裸で抱き合い、沢山の話をしました。


「300年前・・・当時、この付近一帯を治めていたのは私の父だった。父は無慈悲に税を取り立て私服を肥やす強欲な王として、領民達から恐れられ憎まれていた。」

「成る程、それであれだけの財を残せたという訳か。」

「憎しみは領民達からだけでなく、父の代よりずっと昔から付近を治めていた妖精の女王からも買った。

 強欲な父ではあったけど、私達家族には優しい人だった。
 父は1人娘の私を溺愛し、私の為に1つの小さなお城を建てさせた。
 でも、その城を建てた場所は・・・妖精の女王が儀式を行う神聖な場所だった。

 父は城の周りを囲む様に、オレンジの木を植えさせた。
 私が大好きなオレンジを好きなだけもいで食べられるように、と。
 それも・・・妖精の女王の憎しみを一層強くさせた・・・。

 妖精の女王はオレンジが大嫌いで、大の苦手だった。
 女王にとってオレンジは、自分の魔力を弱める禁忌の果物だった。
 匂いを嗅ぐ事すら嫌がったわ・・・。」

「理解出来ねぇな・・・こんなに好い匂いだってのに・・・。」


腰を下ろし、背後からナミを抱き締める姿勢で居るゾロは、ナミの白い項に鼻を擦り付けくんと匂いを嗅ぐ仕草をしました。
ナミは擽ったそうに笑い、身動ぎしました。
風がざわざわと森の葉を揺らし、オレンジの香を運んで来ました。


「憎しみを募らせた女王は、或る日、城に攻め入って来た。父や母は、女王の魔力でおかしくなってしまった兵隊達に八つ裂きにされてしまった。父や母だけじゃなく、付人も家来も門番も料理番も兵隊も・・・皆、皆、殺し合い、死んでしまったわ・・・。

 私だけが生かされたのは、私が父の1番の宝だったから。
 自分の嫌いなオレンジの香をさせていたからかもしれない。
 女王は私の全身に手を触れ、永久に続く呪いを掛けた。

 ―不老不死の体となったお前は、この城で財宝を見張る役目を務めよ。
 この地に人間が来たら、『財宝を手にする』か『1晩お前を抱く』かの中より1つだけ選択させ、契約を結ばせよ。
 2つ選択する事は出来ぬ、した場合は命を落とす―」

「300年間・・・誰も財宝を持ち出せなかったのか・・・?」

「人間って馬鹿だわ・・・自分だけは死なないとでも思ったのかしら。」
「お前だって人間だろ。」

「300年前までは、ね。」

「来た奴ら全員が、『財宝』を第1に選択したのか?」

「2人だけ、『私』を選んだのが居たわ・・・でもやっぱり財宝にも手を出して・・・そして死んじゃった。」

「数十人もの死体、始末すんのも大変だったろ?」
「全員、オレンジの木の下に埋めてあげたわ、良い肥料になってくれて助かってる。」
「ハハハ・・・!美味い筈だな、あのオレンジ。」

「・・・あのオレンジは、大勢の人の血肉で育っていったの・・・。」


一際強い風が吹き、森の木を揺らします。


「私はそれを毎日食べてきた・・・。」


風に乗ったオレンジの香が2人を包み込みました。


「まぁ・・・死ぬ前にイイ思いさせてあげたんだから・・・ギブ&テイクかしらね。」


手に触れるナミの肌は絹の様に滑らかでした。
ゾロは肩の傷を、そっと唇でなぞりました。


「そう気にしないで、直ぐに跡形も無く消えるから。」

「それでも・・・『傷』は残るだろ。」

「あんたの傷の方がよっぽど痛そうよ。」


ゾロの逞しい胸には、大きく斜めに走る傷が有りました。


「人間は傷が中々消えなくて可哀想ね。」
「俺のこれは『傷』じゃねぇ、『証』だ。」
「・・・証?」
「昔、或る男と財宝を懸けて戦い、負けちまった。その時付けられたものさ。」
「あんた、負けちゃったの?やっぱり一流ってのは嘘だったのね。」
「うるせぇ!!・・・あの財宝は何時か必ず手に入れる!あいつに打ち勝ってな!・・・その誓いを忘れない為の『証』なんだ!」

「ふぅん・・・なら・・・消えちゃ困るよね・・・。」


「・・・明日は満月だね。」


ナミは空を見上げて呟く様に言いました。
つられて顔を上げれば、満月より少しだけ欠けた月が目に入りました。


「有難うゾロ・・・あんたとこうして話した事、私はきっと忘れない。」


振り返りナミは、ゾロの首に手を回してキスをしました。

月は晧々と2人の姿を照らしていました。





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オレンジの森の姫君 その2

2010年07月08日 20時45分36秒 | ワンピース





『財宝は城の地下に有るの。中に入ったら先ず左を見て、地下に続く階段が在るから。降りたら今度は右へ行って。通路右側1番奥から3つ目の錠付扉、そこを開けば手に入るわ。特に入組んでる訳でもないから1人で行けるでしょ、頑張って。』


ひび割れた城内に入ったゾロは、用意したランプ片手にしかし、道に難儀していました。
先ず地下に続く階段が中々見付らない、苦心して見付け地下に降りると、更に混乱する事態が待ち受けていました。

右にも左にも、扉が沢山在ったのです。
しかも全部の扉が錠付です―これではどれが本物だか判りません。


「・・・・あんの女・・・簡単に見付かる様な事言いやがってぇ・・・こんな迷宮ラビリンス、案内無で宝の場所まで辿り着けるかぁぁぁ!!!」


くどいようですが、一流のトレジャーハンターは、一流の方向オンチだったのです。


「面倒だ、いっそ扉全部斬って廻るか?・・・いやいや、人様ん家でそりゃなんでも失礼過ぎるだろ。」
「あんたって本当に一流のトレジャーハンター?ひょっとしてそう言ってるの自分だけなんじゃない?」
「うわっっ!!ナ、ナミ!!」


突然背後に現れたナミに驚きゾロは、持っていたランプを手から滑らせてしまいました。
硝子で出来たランプは石敷きの床に落ちてがしゃんと砕けました。
広がった油に火が点り、崩れた床を浮かび上がらせました。


「こっそり後付けて見てたんだけど・・・あんた1人じゃ何時までも見付けられそうにないんだもん。痺れ切らして出て来ちゃった。」
「るせぇっっ!!こんな手の込んだ迷宮、案内無じゃ誰だって見付けられっこねぇだろがっっ!!」

「・・・・糸玉でも渡してあげるべきだったかしらね。」


溜息を吐くとナミはゾロの前に立ち、真っ暗闇の廊下をするすると進んで行きました。
慌ててゾロもナミの背中を追って歩き出します。
ナミは暗がりの中を躊躇する事無く進み、或る大理石で出来た錠付扉の前で立ち止まりました。


「財宝はこの扉の向うに有るわ。生憎鍵は無いけど、でも・・・。」
「任せとけ。」


ゾロは、ナミを自分の後ろに下がらせると、朱塗りの鞘から刀を抜いて構え、はあっっと気合一閃、扉をすっぱりと斬って割りました。
斬られた扉は豪快な音を立てて転がり、宝物庫に続く口がぽっかりと開きました。


「ま、ざっとこんなもんだ。」


ゾロは得意げに刀を元の鞘に収めました。


「あんたって本当に人の話を聞かない大馬鹿ね。鍵は無いけどそもそもこの扉は偽物、本当の入口は扉の左横の壁であって、この鎖でもって引き上げる仕組みになってるって説明しようとしたのに。」
「だからそういう大事な話は先に言ってくれって!!!」

「・・・いいけどね、扉無くしても・・・死守してた訳でもないし・・・どうせ私も明日でお役御免だしね。」




宝物庫に置かれた財宝は、それはそれは素晴らしい物でした。
黄金のシャンデリア、黄金の食器、沢山の金貨銀貨、色取り取りの宝石で造られた装飾具、大きなダイヤが嵌められた王冠、水晶で出来た杯・・・室内は夜でも真昼の様な明るさでした。
どんな力持ちでも、きっと1回では運び切れないでしょう。


「凄ぇ・・・これだけの財宝、300年もの間よくも残されていたもんだな・・・!」

「御満足戴けたかしら?」
「ああ・・・有難うな!これだけ有りゃあ、暫くは酒呑み放題で居られるぜ!」


にっかり笑い、ゾロは宝に手を伸ばします・・・が、その手が途中で止められました。


「・・・どうしたの?早く手に取って確かめてみれば?」

「・・・おめぇの肩の傷・・・刀で抉られた痕だろ・・・?」

「・・・・・え・・?」

「誰にやられた?」


ゾロはナミの方に向き直ると、ゆっくりと近付いて行きます。
近付く度に大理石の床が、カツ・・カツ・・カツ・・と鳴りました。


「・・・い、いきなり何でそんな事聞くのよ・・・?」

―カツン・・

「まだ古傷じゃねぇ・・・最近だろ?」

―カツン・・

「どうだっていいでしょ!そんなの!!」

―カツン・・

「昨日、此処に5人の男がやって来た筈だ・・・1人は戻って来たそうだから4人・・・そいつらは何処に行った・・・?」

―カツン・・

「な、何言ってんのあんた!?知らないわよ!!そんな奴ら!!」

―カツン・・


ナミは怯えた様に後退り、終いには部屋の隅に追い詰められてしまいました。


「左肩の傷・・・もしかして、そいつらに付けられたものか?」

―カツン・・

「やめて!!それ以上側に寄らないで・・!!」


遂にナミは、泣き出しました。


「財宝に触れた手でお前を抱けば・・・死んじまうって言ってたよな・・・。」

―カツン・・

「・・・そうよ、ゾロ・・・!だから私の体に触れちゃ駄目・・・!!」

―カツン・・

「駄目よ、ゾロ・・・私に触れたら・・・もう、生きて財宝を手にする事は出来ない・・・!」


「・・・酷ぇ傷だな・・・。」


ゾロはそっと撫でる様にナミの傷に触れました。
ナミは俯いて泣いています。
涙が頬から顎を伝って流れ落ち、胸に幾つもの染みが出来ました。


「・・・こんな、深く抉りやがって・・・。」

「大した傷じゃないわ・・・直ぐに消えてしまうわよ・・・。」
「消える訳無ぇだろ、こんな酷ぇ傷、下手しなくても一生・・・」
「消えるのよ!私はぁ・・!!」


ナミは、ゾロの腕を掴み叫びます。
向けられた顔は涙でぐしゃぐしゃで、瞳はまるで兎の目の様に真っ赤でした。


「・・・私は妖精の女王に呪いを掛けられ、死なない体に変えられてしまった・・・どんなに傷を負っても5日も経てば元通りになってしまう・・・。」

「300年もの間、財宝求めて数十人の男達が此処へ入って行ったらしい・・・そいつらがどうなったか・・・知ってるか・・・?」

「・・・死んだわよ、皆・・・。」
「・・・そうか。」

「あいつら馬鹿よ!!財宝に触れた手で私を抱けば死んでしまうって、何度も忠告したのに!!」
「そりゃ確かに大馬鹿共だな。」
「契約は1人1回1度きりだって、ちゃんと念押ししたのに・・・!」

「・・・今まで此処に来た奴らの殆どが『財宝を手にする』事を選択したわ・・・その度に私は・・・この部屋に案内して来た・・・財宝を目にした奴らの悦び様ったらなかったわ・・・。財宝を手に取り一頻悦ぶと奴ら・・・私にまで手を伸ばして来た・・・。2つを選択する事は契約違反、私を抱いた後奴ら皆――皆、皆、死んでしまった・・・。」

「馬鹿が世界から減った分にゃ大歓迎だな。」
「呑気に頷いてる場合じゃないわよ、あんた。財宝に触れる前に、あんたは私に触れてしまったのよ。契約は発動し、あんたが選択したのは『私』になってしまったわ。もう財宝を手に入れる事は出来ない、財宝に触れた瞬間あんたは死んでしまうわ。」
「そりゃ残念だな、所期の目的は果せず終いか。」
「だから何妙に得心してるのよ!?あんた、財宝が欲しくて此処まで来たんじゃなかったの!?」

「・・・1つは『財宝を手にする』事、2つは『1晩お前を抱く』事・・・この中から選択するんだったな・・・?」

「・・・ええ、そうよ。」
「なら、俺の選択は1つだ。」


ゾロはナミを胸に抱き締めると、こう言いました。


「宝は要らねぇ・・・ナミ、俺は、お前を抱く。」




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オレンジの森の姫君 その1

2010年07月08日 20時44分46秒 | ワンピース
そのお城はオレンジの森に囲まれ建っていました。
森の中からひょっこり顔を出してる小さなお城でした。

その少女はずっと1人でお城に住んでいました。
天気の好い日は歌を口ずさみながら森を散歩したり、
草原でオレンジを食べながら日向ぼっこをしたりして過していました。


或る日、1人の青年が近くに住む村人の案内で、オレンジの森の側までやって来ました。
皮シャツに皮ズボン、緑の毛織のマントを羽織り、3連ピアスを左耳に付け、3本の刀を携えた青年でした。
短く刈った緑の頭髪、濃茶の瞳からは強い意志の光が見て取れました。

青年の名前を『ゾロ』と言いました。




                   【オレンジの森の姫君】




「噂を聞いて、どんな怪しい場所かと思い訪ねてみれば・・・大して深くもねぇ森だし、城はズドンと真ん前に見えてるし・・・魔物が棲み付いてる様には到底見えねぇが?」
「・・・300年間、城の財宝求めてあんたみたいな屈強な男達が何十人も森に入って行ったが・・・戻って来たのはたった3人ぽっちだったそうだ。昨日も5人の男が入って行って・・・無事戻ったのは1人だけだったよ。そいつの話じゃあ、城の中には女が居て・・・そいつは姿を見た途端怖くなって逃げ出したんだと・・・他仲間の安否は判らねぇ・・・帰って来ねぇんだからな。」
「そりゃまた頗る興味のそそられる、恐ろしげな話だな。」
「悪い事は言わない、あんた、止めとけ。無事戻ったのは、皆、女の影を見ただけで逃げて来た奴だけだそうだよ。恐らくその女が魔物さ。怖気付くのは恥じゃねぇ、命以上の宝なんて有得ねぇんだからな。」

「一流のトレジャーハンターだぜ、俺は。トレジャーハンターが財宝を目前で諦めて、何の存在価値が有るんだよ?誰も手にした事の無ぇお宝と聞いちゃ、尚更行かねぇ訳にはいかねぇさ。」

「・・・・・なら道案内は此処までだ。命が何より惜しい一般人だからな、俺は。馬も返して貰うよ、大事な財産なんだ。悪いが此処から先は1人で歩いて行ってくれ。」




確かに深い森では有りませんでした。
木もゾロより頭3つ分位背高のっぽなだけで、見上げれば入り乱れた葉や枝の隙間から青空が覗けます。
どの木にも見事に熟したオレンジが鈴生りで、風が吹く度に甘酸っぱい香が森中に立ち込めました。


「クソッ!どうして何時までも抜けられねぇんだよ!?確か中心に向って真っ直ぐ行きゃ城に着く筈だってのに・・・流石は『魔の森』だぜ・・・侮れねぇな。」


一流のトレジャーハンターは、一流の方向オンチだったのです。



空に星が瞬き月が浮かぶ頃、ゾロは漸く森から抜け出す事が出来ました。


「・・・朝出発したってのに夜まで掛るたぁ・・・大勢の人間が行方不明になったのも無理は無ぇな。きっとこの森には方向感覚を無くしちまう某かの魔法が掛けられてるに違いねぇ。」


しつこいようですが、一流のトレジャーハンターは、一流の方向オンチだったのです。


森を抜けたそこには草原が広がっていました。
中心には月光を浴びて仄白く輝くお城が建っていました。
真ん中の1番高い棟は尖塔状になっていて、壁があちこち剥げ落ちている、小さな古いお城でした。

満天の星の下、ゾロは草原にどっかりと腰を下ろし、道すがらもいで来たオレンジを1個取り出しました。
ゾロの手にすっぽりと収まる位の、小振りなオレンジです。
皮ごと齧った途端、飛び散った芳香が鼻腔を擽り、程好い酸味が口一杯に広がりました。
風に吹かれて草や枝木がざわざわと鳴る以外、辺りからは何の物音も聞えて来ませんでした。


「勝手に人ん家のオレンジ、食べないでよ。」


突然の声に驚き前を向けば、何時の間にやら少女が1人、直ぐ側に立って見下ろしていました。
月光を浴びて立つ姿は・・・年の頃にして十七、八でしょうか。
肩に触れるまで伸ばした髪は、手に持ったオレンジと同じ色をしていました。
緋色の瞳が闇夜に光る猫の目の様に輝いていました。
袖の無い白い寝間着みたいな服を着ていました。


「無断で人ん家の庭に入って、生ってる物をもいで食べるなんて、あんまり失礼だと思わない?」

「・・・・此処は、てめぇん家なのか?」
「そうよ。」

「そうか・・・そりゃあ、知らなかったとはいえ、済まなかったな。」


ゾロは、決まり悪げに頭を掻いて詫びました。
そして立ち上がると、服に付いた草をぱんっと払い、持っていた残りのオレンジを少女に差し出しました。


「1個は食べちまって返せねぇが、残りは返すぜ。」

「返さなくてもいいわよ。もいじゃったら、もう木には戻せないもの。残りは手土産としてあげるから、取っといたら?」

「・・・そりゃどうも御丁寧に。」

「噂に名高い魔物ってのは、おめぇの事か?」
「不本意ながら、そうみたいね。」


少女の普通に拗ねた物言いに、ゾロは思わず苦笑を漏らしました。


「悪ぃな。あまりにおどろおどろしい噂話ばっか聞かされてて・・・想像してたのと全然違ったんで拍子抜けしたのさ。」

「・・・見た目、普通の人間と変わらないでしょ?」
「ああ、あんまり器量良しなんで、びっくりしたよ。」

「そりゃそうよ、元は人間だったんだもの、私。」

「・・・・人間だった?」

「ええ、300年前までは、ね。」


不思議に淡々と少女は話します。
この時になってゾロは少女の左肩に、鉤裂きの様な大きく引き攣れた傷が有る事に気付きました。
剥き出しの滑らかな白い肌に、それは無残にも刻まれていました。


「おめぇ・・・名前は?」

「先ず自分から名乗ったらどうなの?」
「あ~重ね重ね済まねぇ。俺の名前はゾロ、一流のトレジャーハンターだ。」

「私の名前はナミ。一流のトレジャーハンターさん、財宝を手に入れたいのなら、私と契約を結ぶ必要が有るわ。」

「契約?」

「この敷地内に足を入れた人間は、妖精の女王の命により、2つの内から1つ、選択しなくてはならない。1つは『財宝を手にする』事、2つは『私を1晩抱く』事・・・さあ、この中から選んで。」


聞いた瞬間、ゾロはぽかんと口を開けてしまいました。


「・・・・お前な・・・そん中から選べっつったら『財宝』に決まってんだろが!!そもそも財宝目当てに来た奴に財宝以外の何を選べっつうんだよっっ!?ああっっ!?」

「まぁ、言われてみればそうよね。・・・今までも大概が『財宝』を選んで来たし。」
「当り前だっっ!!!」

「それじゃあゾロ、あんたの望みは『財宝』ね。契約は1人1回1度きり、私か財宝、どちらか最初に触れた方を『選択した』として発動される。もしも契約した以外の事をすれば命を失うわ。」

「つまり・・・財宝に触れた手で私を抱けば・・・死んでしまう。」

「・・・忘れないでね。」


にっこり微笑むナミの瞳は、泣いているかの様に潤んで見えました。





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