瀬戸際の暇人

今年も偶に更新します(汗)

上陸!ハウステンボス!!その6

2010年07月18日 21時43分36秒 | ワンピース
前回の続き】

※ル=ルフィ、ゾ=ゾロ、ナ=ナミ、ウ=ウソップ、サ=サンジ、チ=チョッパー、ロ=ロビン、フ=フランキー、ブ=ブルック、の台詞です。





フ「おい小娘、言われた通り、机と椅子2脚持って来てやったが、此処に置きゃ良いのか?」
ナ「だからその『小娘』って呼び方止めてっつーの!!終いにゃ1万ボルト落として物覚え良くさせるわよ!!」
フ「ちっ、まったく些細な事に拘りやがって!小娘だろうが小結だろうが、大して意味変わんねェだろうが!」
ナ「誰がドスコイだ!!!この失礼な変態!!!」
ウ「で、机と椅子2脚置かせて、何をおっ始めようってんだ?脱線すんのはそんくらいにして、説明してくれよ」

ナ「えー、こっから先は招待してくれた人の意向によりー、私が旅のアドバイザーになって、各人から質問を受けるコーナーを設けたいと思いまーす!」
サ「えええ!?ナナミさんが個別面談してくれんのォ~~vvv」
ゾ「何故てめェが仕切るかっ!?」
ナ「だってほら、私、今月誕生月だから」

ゾ・ウ・フ「「「理由になってねェ!!!」」」

ゾ「お前だって来んの初めての場所だろうが。そんなんで一体何をアドバイス出来るっつうんだよ?」
ナ「だーいじょぶ♪手紙に同封されてたパンフを読んで、情報は全て頭にインプット済みだから♪」
ゾ「…パンフの情報頼みかよ…心強い事この上無ェな」
ナ「あーもーうっさい黙れ!!個別面談なんだから、1番のルフィ以外は外野に徹して離れて観てなさい!!」
ル「ん?俺が1番なのか?」
サ「ああああナミっすわん…!白ブラウス+ミニタイトに眼鏡という、美人女教師の如き出で立ち…気分はさながらプライベートレッスン!――クソッ!ゴム野郎!!質問は手短に済ませて即刻俺と代わりやがれっ!!」

ナ「はーいvそれじゃあルフィ君は今回の旅で何がしたいですかー?」
ル「……なんか気色悪ィけど……ま、いいか!――俺はメシが食いてェ!上陸したら美味ェもん、たらふく食うぞ!!」
ナ「そんなルフィ君には、美味い物沢山食べられるレストランを紹介したげましょう♪どんなのが食べたいですかァ?」
ブ「私は煮豆が食べたいですねェ~。一緒に渋茶でも出して貰えれば、言う事有りません」
チ「オレはドーナツとシュークリームが食べたいぞー!」
ナ「外野の方には伺ってません!!今度口挟んだらクリマタクトではっ倒すわよ!!」

ブ・チ「「…シーーン…!」」

ナ「で?ルフィは何食べたいの?アドバイスしたげるから言ったんさい!」
ル「美味けりゃ何でもいいさ!1番美味い物食わせるレストラン紹介してくれ!」

ナ「場内で1番美味いレストランといえば…ホテル・ヨーロッパ内の『デ・アドミラル』か『吉翠亭』かしら?
  『デ・アドミラル』は場内で最高峰と謳われるフランス料理店で、朝食からして優雅にシャンパンから始めるコースよ。
  『吉翠亭』は和会席が食べられる処で、オープン以来グングン人気が急上昇してる注目株。
  どっちも味だけでなく、雰囲気とサービスの点でも、並ぶ店無しと言われてる名店よ。
  値段は張るけど、ハウステンボスで究極の美味を味わいたいなら、この2店舗に決まり!
  吉翠亭隣の『戎座』も名店の誉れ高いわ。
  ルフィの様な肉好きを満足させる鉄板焼きの店で、地元の特選牛肉をコックが目の前で調理してくれるんだって。
  ただディナーのみの営業なのは残念ね」

ル「聞いてるだけで、よだれ出てくんなァー♪」

ナ「食べ放題のブッフェ式から選ぶなら、ホテル・アムステルダム内の『ア・クールヴェール』が断然オススメ!
  地元の食材をふんだんに採り入れ、和洋中色んな様式の料理を揃えてるわ。
  此処でも目玉は鉄板で焼くステーキ!
  まるで森の中の花畑でピクニックしてる気分になれるよう、テーブルはお花の形に、柱は木の色に似せて造ってあるそうよ」

ロ「まぁ、お花畑でピクニックなんて素敵ねv内装を手掛けた人はロマンチストだわ」
ル「食いほうだいかー!美味ェのはもちろんだけど、やっぱ最重要は量が多い事だよなー!んじゃやっぱそこで!」

ナ「ブッフェで提供するレストランは他にも在るわ!
  場外ホテルになるけど、ハウステンボスジェイアール全日空ホテル1階の『カスケイド』とか。
  此処は8/31まで連日スタミナステーキ&夏のスイーツ食べ放題を開催。
  登場する料理は35種類、吹き抜けのアトリウムで、硝子窓の向うにメルヘンチックな家並み(ワッセナー)を眺めつつ、食事を楽しむ事が出来るんだって。
  9/12まで敷地内中庭で開催されるビアガーデンにも注目ね。
  炭火焼をメインに食べ放題、ザ・プレミアム・モルツ・ビールを呑み放題。
  同じく場外のホテル日航ハウステンボス内『ラヴァンドル』でも、8/31までランチ&ディナータイムにブッフェを開催するそうよ。
  ランチは情熱のパエリヤと地中海グルメがテーマ、ディナーは長崎和牛のローストと龍馬が愛した九州・長崎の味がテーマ。
  お祭コーナーも設置されて、子供達は綿菓子やカキ氷を楽しめるわ」
  
チ「綿アメ出んのか!?ならオレ、その店に行きてェ!!」
ゾ「ナミ…お前、みっともないからアンチョコ見ながら話すのは止せ――って痛ェな!」
ロ「可哀想に…雉も鳴かずば撃たれまいに」
ウ「鈍いなァ~ロビンは!こいつの場合、打って貰いたくて、わざと鳴いてんだよ!」
フ「成る程、マゾってヤツか…!」

ナ「場外だけど、全日空ホテルはレストランの種類が豊富で、どの店もクオリティ高いわ。
  鉄板焼きの店『大村湾』では8/31まで、活鮑と極上平戸牛フェアを開催。
  12階に在るから眺望の良さはピカイチ!
  3階の中国料理店『花梨』では8/31まで、魚介中心のプレートセットに、石焼和牛ロースのステーキ、もしくは活鮑1プレートをプラス。
  同3階に在る日本料理店『雲海』では、8/31まで和会席と国産牛しゃぶ食べ放題を開催…」

ル「…うーーん…どれも食いたくて1店にしぼれねェ~!どうすりゃいいんだァ~!!」
ロ「そういう時はその店でしか食べられない1品で決めたらどうかしら?何処でも食べられる料理より、どうせならそこでしか食べられない名物料理を選びたいでしょう?」
ル「そうか!ナミ!そこでしか食えない名物をあげてってくれ!そん中で1番興味持てた料理が在る店を最初に目指すから!」

ナ「…名物料理っていうと…ニュースタッド地区『チョコレートハウス』のチョコレートフォンデュにチョコレートピッツァ…
  チョコレートフォンデュはトロットロに溶けたチョコに果物やパンやマシュマロを付けて食べる料理で…チョコレートピッツァは塩味の効いた特大ピッツァ生地に、アイスとチョコをトッピングした甘~いピッツァ…」

ウ「いやいやちょこっと待て!そりゃ料理じゃなくてスイーツだろ!」

ナ「…それにニュースタッド地区『チーズワーフ』のトロッティもオススメ…チーズフォンデュのファーストフード風で、くり貫いたパンの中にトロットロのチーズを詰め、野菜やミニハンバーグを付けて食べるという物…
  レストランではなくカフェですが、ホテル・アムステルダム内『ア・クールヴェール・カフェ』のステーキバーガーは、パンからジューシーな牛ステーキが食み出してる、ボリューム満点の名物…」

ゾ「すっかり棒読みだな――痛っっ!!」
フ「まったくM気質で呆れるぜ!」
サ「クソッ!俺もナミさんにぶたれてェ…!」
ブ「ヨホホホホ♪キックでしたら、『パンツ見せて下さい』の一言で、して頂けますよ♪」
チ「自分からすすんで殴られたり蹴られたりしようとしてる!!…変態だ!!この船は変態ばっかりだ!!」

ナ「ユトレヒト地区『ピノキオ』のポテトとベーコンのピッツァは行列が出来るほどの人気メニュー…
  『悟空』のちゃんぽんや『とっとっと』のトルコライスも、長崎定番料理として外して欲しくない物…」

ル「ちゃんぽんって何だ?トルコライスって何だ?」
ナ「ちゃんぽんは魚介と野菜がたっぷり載った汁麺で、トルコライスは大人向けお子様ランチって感じの洋食だって」
ル「ふーん、どっちも変な名前だなー。ちゃんぽんなんか、満腹の腹たたいたら出る音みてーだな♪」

ナ「…長崎名物が食べたいなら、ドムトールン下船着場に新しく出来た、『佐世保グルメストリート』も見逃せません…佐世保バーガーにレモンステーキおにぎり、鯛飯焼きおにぎり、佐世保海軍ビーフシチュー風コロッケ…」

ゾ「海軍だと!?海軍が営業してる店が在んのか…!?」
ナ「あ~違う違う!昔海軍で出してたビーフシチューのレシピを参考にしたってだけよ!」
ゾ「…チッ!…脅かしやがって…!」
ル「ダメだ!!どれも興味有り過ぎて、1番が決めらんねェーー!!
  もうめんどーだから片っぱしから食ってく!!
  しらみつぶしに探して、見つけしだい食いまくる!!」
ロ「お店の人可哀想に…きっとルフィが通った跡は、米粒1つ、パン屑1欠片だって残らないわ」
ウ「また1つ、街が消える…!」








…ウソップの最後の台詞はナウシカパロ。

ハウステンボスレストランの最高峰は「デ・アドミラル」と「吉翠亭」と「戎座」でしょう。
ホテルを外すなら、最高峰はステーキ専門レストラン「ロード・レーウ」に、イタリアンレストラン「プッチーニ」。
この5店舗はサービスが優雅な事でも知られています。
戎座は鉄板焼だからアレだが、他はデートに利用すると良いんじゃないかとね。
※後日談、戎座は2011年春現在、土日祝日限定でランチタイムも営業してるらしい。
(→http://www.huistenbosch.co.jp/gourmet/french/000209.html)

御飯党ならスパーケンブルグ地区の和風ファミレス「花の家」も有り。
中華料理でも「メイファン」のメニューは日本人が馴染み易い物ばかり。
「とっとっと」の洋食も同じく。

カフェでも軽食を用意してる処が殆ど、しかも「ア・クールヴェール・カフェ」の様に、決して軽くはない物を置いてたり。
ハウステンボス内の料理は値段を納得させる量が有るんで食べ過ぎに注意。

場外ホテルのレストランには、場内レストランには無い、眺望の良さが有る。
ハウステンボスの全景を眺めるなら、中に居ては無理ですから。
全日空ホテル1階のカフェは、朝から夜まで長く営業してる為、いざという時助かります。

今回の旅で最も印象に残ったのは「佐世保グルメストリート」。
長崎(佐世保)の名物を屋台街で戴いてるようで楽しかった♪

今夏はバイキングレストラン「おもやい」や、ホラーテイストの「GMAレストラン」も加わり、更に選ぶ楽しみが増えるかと。

場内のレストランは偶に休業したり、中間クローズしたりするので、行く前には必ずまったりさんのブログで調べておきましょう。
↓それと全日空ホテル、日航ホテルのHPも貼っときます。

全日空ホテル
日航ホテル


写真は現在休業中(汗)の、ホテル・デンハーグ内ティーラウンジ、「ティークリッパー」のナイフ&フォーク入れ。
カントリーなデザインで気に入っとりました。



※本日「魔女の瞳はにゃんこの目」を目次に上げました。
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魔女の瞳はにゃんこの目・1―その15―

2010年07月18日 15時14分30秒 | 魔女にゃん(ワンピ長編)






「所で、この宝どうするよ?山分けしようにも1枚鏡じゃしようが無ェし。」
「ゾロの刀で3枚に斬っちまやいーじゃんか。」
「苦労の末手に入れたお宝を、3枚に下ろそうとすんじゃないわよ馬鹿!!!」
「じゃあどうすりゃ良ーんだ??」

「そうねェ……ルフィ、あんたのその麦藁帽子、ちょっと貸してくんない?」


取敢えずの一件落着…が、宝の配分方法を巡って議論を交す3人。
提案を求められたナミは、ルフィから帽子を借り、2人に鏡を背負わせて、館の外へと連れ出しました。




既に正午を回ったらしく、太陽は天上高くから、館を燦々と照らしています。
朝とは打って変った暖かい空気。
陽射しの下3人は、草原吹く風を胸いっぱいに吸込み、思い切り伸びをしました。

草むらに寝かせた鏡を前に、帽子を手にしてナミが呪文を唱えます。

瞬く間に金色に輝くナミの瞳。

眩く蒼い光に取巻かれたと思った瞬間――鏡は元のパズルピースとなって砕け、ナミの手に持つ麦藁帽子の中、ザラザラと音を立てて吸込まれてしまいました。


「す…すっげェ~~!!!またパズルんなって帽子の中吸込まれちまった…!!!……一体、中どーなってんだァ!??」


ナミから返された帽子を振ったり叩いたりしてみるも、パズルになった鏡は出て来ません。


「魔法で帽子の裏に、異空間へと繋がる扉を開けたの。扉の鍵はあんたの唱える呪文。それ以外では開かない様にしてあるわ。…今から私の言う通りに唱えてみて!」


説明を終えると、ルフィに帽子から鏡を取り出す呪文を教えます。


「どう?…覚えた?」

「お…おう!!

 『水明鏡よ水明鏡!
  汝の主の前に、姿を現せ!!』」


呪文を唱えた途端、帽子の裏から光と共にパズルが零れ落ち、そしてまた1枚の鏡に繋ぎ合わされました。


「うっはァァ~!!!また1枚の鏡になっちまった!!!」

「今度は帽子の中に戻す呪文を教えるわ。また言う通りに唱えてみて!」


再び、ルフィに言い聞かせる様、呪文を唱えるナミ。
そうしてまた教えられた通りに、ルフィが呪文を唱えます。


「『水明鏡よ水明鏡!
  汝の主の前から、姿を隠せ!!』」


あっという間に鏡は砕けてパズルに戻り、また帽子の中へと吸い込まれて行きました。


「…どう?これなら持ち運びも楽ちんでしょ?」


目を真ん丸にして驚いてるルフィに向い、ナミが得意満面の笑顔で言います。


「すげすげすんげェおんもしれェ~♪♪パズルになったり鏡になったり…俺の命令した通りなっちまうなんて、すんげェ~楽しい♪♪」

「…こいつの呪文でしか開かない様にしてあるって……それってお前、宝はルフィに寄越すって事か?オール自分なんて言ってたクセに良いのかよ?伝説の鏡だっつうなら、売りゃあ結構な値が付くんじゃねェの?」


如何にも意外だとばかりに尋ねるゾロ。
その問いにナミは苦笑いを浮べて答えました。


「そりゃねー………けど、売る訳に行かないじゃない。あんたらが最初に持込んだ鏡は、どうやら館の歯車の一部に組込まれて外れそうもないし…無理に外せば今度こそ崩壊崩落何が起るか判らない。…となれば今やあんた達にとっての手懸りはその水明鏡のみ…」

「…つまり俺達の為に宝の所有権から手を引いた、と。…我儘で自分さえ良ければ構わないどうしようもねェ自己中魔女だと思ってたが、本当は良いヤツだったんだなァ、有難う。」
「え!?そうなのか!?タカビーで救いようの無ェドケチ魔女だと思ってたけど、本当は良いヤツだったんだなァ~、有難う!」
「『有難う』以外全て余計よ!!!っっとに失礼千万な奴等ねェェ!!!」


仲良く言い合う3人の元に、崖の間を流れる川の方から、一際強い風が届きます。
風は枯れた草原を駆け抜け、ナミの被るマントを大きくはためかせました。

雲は吹き飛ばされ、上空広がる澄んだ青い空。

2人に背を向け、ナミは両手を上に、1つ伸びをしました。

その金色の瞳に映るのは、白い石造りの教会。
昼陽射しの下、影まで縮こまり、ポツリと立ち竦んだ姿。
ずっと独りで、千年以上も建っていた館。


「……まったく…ほぼ1日中あんた達に付合わされ、働き詰めにされて…結局何にも手に入らず、骨折り損のくたびれもうけ……散々ったらないわよねェ…。」


独り言の様に呟かれた言葉。

しかし振返り2人に向けたその顔は、言葉とは違い、とても晴れやかなものでした。


「…散々ついでに、ヤケのヤンパチで出血大サービス!村まであんた達を送ってあげるわ!」




行った時とは逆の道を辿り、箒は3人を乗せて飛んで行きました。

森を越え海に出て、波の上を滑空する鴎達を追い、進んで行く箒。
昨夜満月に照らされていた海は、今は太陽に照らされ、何処までも蒼く冴え冴えと輝いています。

昨夜と違って風は向い風…行きより幾分抑えた速度で、ナミは箒を走らせて行きました。


「…腹減ったァ~~…考えてみりゃ3日飲まず食わずでさまよった後、ちびっとだけ夕飯食って、また夜中ぶっ通しで動いて、今日も朝から夕まで抜いちまって…計23食分も損しちまってる!帰ったらまとめて食わね~とな~。」


ナミの腰掴まり、ルフィが腹の虫を響かせ呻きます。


「…あんたそれ、1日5食で計算してるでしょう!?それに人ん家の農作物&夕飯あんだけ食荒らしといて、なァにが『ちびっと』よ!?」

「俺ァ帰ったらとことん眠りてェよ。…此処数日ろくに睡眠取ってねェ。」


ルフィの腰掴まったゾロが、盛大に欠伸をして言います。
刀を振るった時、あれ程鋭い光を宿していた双眸は、今では眠た気に開閉を繰返していました。


「私は帰ったら1も2も無く先ずお風呂だわ!1日中汗水流して埃や砂に塗れて…正直1分たりとも我慢出来ないもの!!」


先頭で、辛抱堪らずといった風に、ナミが叫びます。


「ならいっそ海飛び込んで洗っちまやいーじゃん。」
「そうだな。確かに手っ取り早い方法だ。」
「海水で体洗う馬鹿が居るかボケェェ!!!」


背後を振り向き、2人のボケに激しくツッコミを入れるナミ。
入れた後でしかし、穏やかな顔してルフィとゾロに言いました。


「……まァでも久し振りに楽しかったわ。こんなに楽しい思いしたの、数百年振りかも…お礼に、貸しはチャラにしたげる!有難う…2人とも。」


にっこりと微笑み、直ぐにまた前に向き直ります。
後ろから見た耳が、ほんのりと赤く染まって見えました。


「………そんっなに俺達と居て楽しかったかー…?」


背後から、何かを探る調子で、ルフィが声を掛けて来ます。


「まァねー……これで依頼が完了して、あんた達と別れるのは、ちょぉぉっと寂しいかも……」


素直に、感慨深げにナミが答えます。

その回答を聞き、ルフィはにんまり笑うと、更にぎゅうと腰にしがみ付いて言いました。


「じゃ、決まりだな!」

「……何がよ??」

「今日からお前も『シャンクスそーさく隊』の仲間だ!!」

「はあああ!!!??」

「ゾロも異存は無ェだろ!?主にナミには案内と移動役任せるって事で!!」

「ああ、良いんじゃねェの?俺とてめェだけじゃ、何かと道中不安だしな。」

「とそんな訳で…これからも宜しく頼むな♪」


ニシシッ♪と歯を剥き出して笑い、肩をポンと叩かれます。


「ちょ…ちょっと待って!!!勝手に仲間に組入れてんじゃないわよ!!!依頼は『魔鏡の謎を解く』事だけだったでしょ!!?」
「だから新しく依頼する!!また宜しく頼むって!!」
「宜しく頼むな!!!!依頼すんなら金払え!!」
「金は無ェからツケにしといてくれ!!」
「ガキがツケ払いしようとすんな!!!大体ウチはツケ利かないの!!キャッシュでしか受けないようしてんだからね!!」
「いーじゃねェか!!俺達に付き合や、また楽しい思い出来るぜ♪」
「楽しい思いなんて出来なくて結構!!只働きはもう御免よ!!!」
「俺達と別れるのはさびしーーって言ったクセに!」
「だからそれは…!!!……や!?も!!ちょっと待っ…!!離れろセクハラ馬鹿坊主~~!!!!」


何度突っぱねられようとも、挫ける事無く勧誘し続けるルフィ。
しながら、最早逃さんとばかりに、ぎゅうぎゅうとしがみ付いて来ます。
その手を何とか払い除けようとナミは暴れますが、馬鹿力で繋ぎ止められた両腕は、全く解く事が出来ませんでした。


――スカーン!!!


「いいてェェェ~~~!!!!…何だよゾロ!!?何で俺の頭叩くんだ!!?」


唐突に殴られた頭を撫で付け、ルフィが振向いて抗議すれば、ゾロが右拳固め仏頂面して睨んでいました。


「……調子に乗り過ぎだ!」

「そうよそうよ!!あんた、偶には良い事言うじゃない!!言ってやって言ってやって!!!」
「調子に乗り過ぎィィ!!?何がだよ!?ドコがだよ!?俺のドコが調子に乗り過ぎだってんだよォー!?訳解んねー事言ってんじゃねェ~~!!!」
「あんたの全てが調子に乗り過ぎだっつってんの!!!少しは自覚しろ!!!馬鹿!!ガキ!!チビ黒頭ァ~!!!」
「誰がチビだ!?おめェの方がよぉ~っぽどチビじゃんか!!!チビババァ!!!ケチババァ!!!誘ってやってんだから素直に仲間入れば良いだろ魔女ババァ!!!ベェ~~!!!」
「女の子を婆ァ呼ばわりすんなっつったでしょデリカシーレスのクソガキ!!!だァ~れが仲間になんてなってやるもんか!!!持参金片手に一昨日来いっつうの!!!ベベベェ~だ!!!」
「低レベルの争いしてんじゃねェって!!!頼むからちゃんと前見て運転してくれよ!!!また落下したらどうすんだお前らァ~~!!!」


彼方まで続く青い空。
彼方まで続く蒼い海。

喧々囂々もめにもめつつも、箒に乗って海上を飛ぶ3人の顔は楽し気で。
鴎達が遠巻きに見ながら、周囲を滑空して行きました。

向う先にはそろそろ海面近くまで傾いた太陽が、もう一頑張りとばかりに波を輝かせています。
何物にも遮られる事無く、全てを露にする眩しい光。

海面映った影を道連れに、箒はその光の中へと突き進んで行きました。




魔女の瞳はにゃんこの目

空の彼方を
海の底を
地の果てを

心の奥をも見通す力






【(一先ずの)お終い】



…記念すべき(?)シリーズ第1作目。
骸骨役はブルックさんが登場してれば彼にしてた事でしょう。
オレンジタルトとオレンジパイがごっちゃになってたり、今読むと誤りが多くて恥ずかしい…しかしあまりにも長過ぎて修正するのも面倒な為、知らんぷりさせて頂く。(汗)

・2006年7月はにほへといろ様のナミ誕に投稿した作品。



【魔女の瞳はにゃんこの目・2―その1―へ】
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魔女の瞳はにゃんこの目・1―その14―

2010年07月18日 15時00分58秒 | 魔女にゃん(ワンピ長編)





…どれくらい経ったでしょうか?

何時の間にか、雨音は止んでいました。

石片で頭を防御しつつ、恐る恐る顔を上げます。

壁に嵌め込まれていたステンドグラスは、下方数十枚のモザイクを残すのみ。
剥れた後に露呈した黒い地肌が、無残な感を与えていました。


「……ひょっとして、あの、残った鏡のモザイクが『宝』ってェ事か…?」
「いや、もしかしたら落ちてった方かもしんねーぞ。」

「…下を良く見なさい!割れて粉々じゃないの。…確率的に、多分残された方だと思うわ。」


崩れた床の上、粉々になって煌く、地上の星屑。

3人は顔を見合わせ、深く重い溜息を吐きました。




「…ったく!てめェに付き合ったお陰で、体中打撲刺傷だらけの散々だぜっっ!!」
「それはこっちの台詞よ!!見なさい!!滑々の玉の肌が見る影も無い!!」
「まーでも3人とも奇せき的に軽しょーで済んで良かったよな♪…にしてもこの青いモザイク鏡が何だってんだろーなァ~???」


残された数十枚のモザイクは、偶然か否か全て蒼い色をしていました。
女神の裾を構成していたそれらを、ゾロの刀を使って器用に切り剥し、堂の隅っこで3人顔を突き合せて悩む事数刻。

飽きて退屈を持余したルフィが、モザイクを数枚手に取り、繋ぎ合せるようして遊び出しました。


「ちょっとあんた!!何遊んでんのよ!?そもそも依頼主はあんたでしょお!?ちゃんと真面目に考えろっつの!!」
「悪ィ悪ィ♪…何かパズルのピースに似てるなァ~って♪」

「……今、何て言った…?」

「へ??…悪ィ悪ィ、…何かパズルのピースに似てるなァ~…って。」
「ワンスモア!!もっかい!!!」

「何なんだよ一体!?…悪ィ悪ィ!!…何かパズルのピースに似てるなァ~って!!」

「――それよ!!!」
「どれだァ???」
「そうか!パズルのピース…!!」

「そう!…このモザイク1つ1つが、パズルの1ピースなんだわ!!即ち全てを繋ぎ合せて現れた物こそ『宝』…!!」


言うが早いか目にも止らぬスピードで次々繋ぎ合せて行くナミ。

程無くして完成したそれは…大きな楕円形の、蒼い1枚鏡でした。


「…1枚の鏡になっちまったぞ?」

「……この鏡パズルが『宝』??…はっ!…大冒険の末手に入れた割には…ショボイ賞品だな!」

「良く見て!!唯の鏡じゃない!!…私の…姿が映ってるわ…!!」


現れた予想外の宝に思わず気が抜け、苦笑った2人。
しかしナミだけは真剣な眼差しで、鏡に映った像を凝視していました。


「そりゃお前、鏡なんだから、映るのは当然――」
「忘れたの!?私は魔女だから、人間の造った鏡には姿が映らないのよ…!!」


焦れた様にナミが返します。
ゾロの双眸が大きく見開かれました。


「……人間が造った鏡じゃない…?」

「えっと……それってどうゆう意味だゾロ???」

「…『水明鏡』……魔女が造りし鏡と伝えられた、伝説の魔鏡よ…!これが此処に隠されていたという事は……『魔女が建てた教会』と言う噂も、強ち嘘ではないのかも…!!」


鏡に触れる手が、じっとり汗ばんで来るのを感じます。
まるで蒼い水の中からじっと自分を見詰る様な鏡像。
その幻惑的光景に吸い込まれ、中々目が離せないでいたナミでしたが、暫くしてルフィに向い、こう言いました。


「…この鏡はねェ、ルフィ…会いたい人の姿を映す魔法の鏡なの。どんなに離れた場所に居る人でも映し出し、会話を交す事が出来る…!」

「……それって……この鏡にシャンクスを映して話せるって事かー!!?」

「論より証拠!やって見せたげる…!!」


にっこりと強気に微笑み、ナミは鏡に向って、厳かに呪文を唱え出しました。


『水明鏡よ水明鏡。
 我が前に、シャンクスの姿を映し出せ…!』


――直後、鏡面の中心から波紋が広がり、映っていた像が歪んで見えなくなりました。

手元に置いていたランプより尚、蒼く光り輝いた中、代りに現れたのは――1人の、赤毛の青年の姿でした。


「――シャンクス…!!?」


礼拝堂に響き渡るルフィの大声。

その声に反応し、鏡の中の青年がこちらを向いて、驚いた顔を見せました。

左目に付けられた、大きな3本の傷跡。
ルフィに似た、意志の強そうな瞳。


「…ルフィ…!?…それに…ゾロか!?」


自分達に向けて伸ばされる大きな右手。
その手をルフィが掴もうとした瞬間、鏡像は突如乱れ、再び広がった波紋に掻き消されて、見えなくなってしまいました。


「シャンクス!!?どうしたんだシャンクス!!?今何処に居るんだよ!!?なァ!!!なァ!!!…答えてくれよシャンクス…!!!!」
「ルフィ駄目!!!落ち着いて…!!!」


鏡が割れんばかりに叩き付けるルフィの両手を、ナミが焦って取押えます。

ルフィの悲痛な問い掛けも空しく、鏡は次第に輝きを消し……そこに映るのは、囲んで座る3人の姿のみでした…。




礼拝堂に戻った暗闇と静寂。

何事も無かった様に、黙って床の上横たわる、蒼い大鏡。
ピースの継目は消え、ごく普通の1枚鏡にしか見えません。


「……どうゆう事だ…?」

「…シャンクスは…!?シャンクスは何処消えちまったんだよナミ…!!?」


まだ自分を取押えていたナミの腕を払い、ルフィが叫びます。
何時でも勝気だった黒い瞳に、薄っすらと張る涙の膜。
その瞳をナミは痛まし気に見詰ました。


「…はっきりした事が1つだけ有る。…ルフィ、あんたの義父シャンクスは、魔力の及ばぬ結果内に居るわ…!何故そこに居るのか?…理由は解らない。自分の意志か…或いは他の者の意志か…」

「…閉じ込められてる可能性も有りって事か?」


険しい顔付でゾロが聞いて来ます。
隣に座るルフィの表情も、同様に険しくなりました。


「……かもしれない。けど、解らない。結界内に居るんじゃ、私の魔法を使っても探せない…何も出来ない…!」


そう言って、ナミが済まなそうに2人の前、頭を垂れます。


「………ゴメンね…2人とも……役に立てなくて…。」


髪の隙間から、悔しそうに唇を噛む表情が覗けました。


「……そう悲観する事も無ェだろ!…無事で居るって解っただけでも…1歩前進したじゃねェか…!」


陰鬱さを吹き飛ばそうと、足を無造作に投げ出しながら、ゾロが言います。


「…探せば良いさ……例え地の果て海の底に居ようとも…な。」

「……そうだ…シャンクスは何処かに生きて居るんだ…!!」


ゾロの言葉に誘発され、ルフィが口を開きます。


「探し出してみせる!!…何処に居ても!絶対に…!!」


漆黒の瞳が、決意の火を灯して輝きました。




その15へ続】
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魔女の瞳はにゃんこの目・1―その13―

2010年07月18日 14時59分51秒 | 魔女にゃん(ワンピ長編)





「…結局…ドクロのおっさん、宝のヒント教えてくれずに消えちまったなァー…。」


おもむろにルフィが呟いた言葉に、ナミとゾロははたと思い起した様に面を上げました。


「……そういやすっかり忘れてたが…確かそんな約束してたよな…。」

「……そうよ…そうよそうよそうよ…!!あんにゃろおぉぉぉ…最後の最後まで約束破って行きやがった…!!!――くぉら戻って来い恩知らずゾンビィ~~!!!あんたなんか地獄に落ちて閻魔様に舌抜かれちまえェェ~~~!!!!」

「…聞えてねーんじゃねェかな?じょうぶつしちまったし。」
「やれやれ…大山鳴動して、出て来たのは髑髏1匹か…。」
「ドクロ1匹じゃねーだろ、ゾロ。ちゃんと幽霊も出て来た!」
「そういやそうだったな……で、この先どうする?結局…謎解きは自分達でするしかなさそうだぜ?」
「つっても頼りの魔女が全然解けそうにねーしなァ~。」
「うっさい!!!文無しで依頼しといて文句言ってんじゃない!!!……まったく…あんた達に付き合ってこんっっっなズダボロのヨレヨレになるまで頑張ったというのに…その結果が骨折り損のくたびれもうけだなんて…嗚呼、神様、これじゃ可愛い私があんまり可哀想ですぅ~!!!!」


しおしおと涙を流して、ナミは項垂れてしまいました。
沼に張る氷が鏡面の様に、その泣き顔を映しています。




――在り処を知るには或る『鏡』が必要らしく、それを俺は持って居ないんだ…。




――やっぱこの鏡がカギなんだな?




『……鏡…?』


脳裏でチカリと点灯する光。

映った顔をマジマジと見詰ながら、ナミは黙考します。


『…でも…夜だった訳だし…反射して当り前…けど…何であんなに暗かっ…?鏡…鏡…鏡…!!』


ガバリと跳ね起きました。


「そうか!!『鏡』よ…!!」
「うわっっ!!びっくりした!!」
「何だァ!?急に!!」

「…解ったのよ!!全て…謎が解けたわ!!」


仰天する2人に向い、興奮した面持ちで宣言するナミ。
茶色の瞳は自信に満ちて輝いています。


「謎が解けたって…『宝の在り処』のか?」
「ほ、本当かァ!?本当に解けたのか!?すっげー!!!」

「ええそうよ!!直ぐに飛んで向おう!!宝は――あの『館』に隠されていたのよ…!!」


靄の晴れた森に響き渡る、ナミの活き活きとした声。
森に眩しく射し込んだ陽光が、暗闇に隠されていた沼の輪郭を、くっきりと露にしていました。




ナミの箒に乗って飛んで行き、3人は再び『アン・ヴォーレイの館』の前に降り立ちました。

草原にポツリと建った廃墟は、闇の中で感じたよりも、ずっと小さな物でした。
ひび割れた白い石組の上、鐘楼の取付けられた教会風の造り。
鐘の数は13個。
天辺には金属製の黒い逆十字架。
朝陽に照らされ草原に長々と伸びた影だけが、昨夜見た禍々しい闇を伝えていました。

昨夜見た時同様、3人は13を数える段を上り、錆びた青銅の扉を開けて、礼拝堂の中へと入って行きます。




雪の様に降積った埃と、黒い黴に塗れた礼拝堂。
天井には13個の燭台が拵えてある、蜘蛛の巣だらけのシャンデリア。
大理石の祭壇の後ろ…正面の壁に嵌められた美しいステンドグラスの窓も、良く見ると黒黴が蔓延り大分汚れている事が解りました。

床に開いた大きな穴に注意しつつ、3人はその前へと歩み寄ります。

黒黴の浸食を受けてるとはいえ、赤青黄緑紫の五色で描かれた女神像は、それでも麗しい姿をしていました。
たおやかに手で何かを持つ仕草で在りながら、そこに持つ物は何も無く、ぽっかりと真円に開けられた穴から射し込む陽の光。
暗闇に包まれた礼拝堂内でその光だけが眩しく輝き、昨夜ルフィがかち割った床の惨状を照らし出していました。
女神を取巻いているのは、同じく五色の硝子で描かれた、小さな十二月の花。
ナミの掲げるランプの光を反射させた女神と花が、白い石壁に色を浮べてユラユラと揺れています。


「……で?この窓が何だっつうんだ…??」


無言で窓を睨んでいるナミを訝しみ、横からゾロが声を掛けました。


「…馬鹿、これ見てまだ解んないの?」


ランプで窓を指し示し、ナミが苛立った声を上げます。


「…つって言われてもなァ…おいルフィ、何か解るか?」
「うんにゃ、解んねー!」
「良く見なさい!!あんた達の姿やランプが、くっきりステンドグラスに映ってるでしょォ!?」


言われてじぃっと見てみれば…五色のモザイク柄に映る、ランプと自分達の姿。


「…これを見て気付いた事は!?」

「え~~と……顔色が赤青黄緑紫色に変って見えておもしれー♪」
「…この服、穴ボコだらけで流石にもう着れねェなァ。」
「違う!!!…おかしいと思わないの!?ステンドグラスの窓が、陽の光を全く通さず、鏡みたいにくっきり物映してるなんて!!」

「……あ!!」

「…おい…まさかこれって…窓じゃなくて…!」

「…そう……『鏡』!!…人の目を欺く為、窓に見せ掛けてあったんだ!!」


驚いた2人の顔が、まるでモザイク絵の様に映り込みました。




昼は貞淑
夕は憂鬱
夜は魔女


鏡の裏に書かれてた3つの文章は、確かに『月の女神』を表していた。

けど、答えは『月』じゃない。

天上に在って夜毎に満ち欠けを繰返し、姿を変える月。
同じく見る者によって、姿を変える鏡。

月の女神は『姿を変える』事を比喩したキーワードだったんだ…!




「…答えは解った…それで…俺は何故、ルフィを肩に乗せて立たなきゃなんねェんだ?」


自分の肩の上立ち上るルフィの足を押えながら、ゾロが疑問を口にします。


「…俺もさっきから、何で俺の肩の上にナミを乗せなきゃなんねーのか、聞きてェなと考えてた。」


ゾロ同様、自分の肩に立ち上るナミの足を押えながら、ルフィが疑問を口にします。


「こら!!揺らすな!!黙って立ってしっかり足押えてろ!!…体重の軽い者が重い者の上に乗っかるのは当然でしょお!?」


ルフィの魔鏡を手に持ったナミが、不平を鳴らす2人を見下ろし、叱り付けました。


「そうかー??俺よりナミのがずっと体重有――」


――ブギュル!!!!


「痛ェェ!!!木靴で顔ふんづけんなよ!!!鼻血出ただろ!!!」
「顔上げんなっっ!!!スカートの中見んじゃないわよ猥褻黒頭!!!」
「…千歳越えてる婆ァのパンツなんて、誰も好き好んで覗かねェよなァ。」
「ゾロ、あんた、後1回でも『婆ァ』って言ったら、死刑決定だからね。」


親亀の上に子亀、子亀の上に孫亀。
立っているゾロの肩の上にルフィが立ち上り。
そのルフィの肩の上にナミが立ち上り。

ステンドグラスの女神像の前、3人は縦に並んで立ち上りました。
1番上に立つナミの正面には、女神像にぽっかりと開いた真円の穴。
円の大きさは、丁度ルフィの魔鏡が嵌るくらいの大きさに見えました。


「…やっぱり…この魔鏡を、ステンドグラスに開いたこの穴に嵌め込めって事みたい…。私の考えが当ってるなら、嵌め込んだ事が鍵となって何かが起きる!」
「何かって何だ??」
「そんなの嵌め込んでみなきゃ解る訳無いでしょう!?願わくばお宝が降って来て欲しい所だけどね!」
「何でもいいから早くやれ!…こんな恥しい体勢、やってられねェっての!」


穴から覗けて見える、明るい外の世界。
眩しい陽の光、草原を吹く風。
魔鏡を嵌め込む事で外界の光や音は遮断され、礼拝堂は夜の如く闇と静寂に支配されました。


――ゴトリ…!!


「「「ゴトリ???」」」


嵌め込むと同時に響く、不吉な振動音。

首を傾げる3人の上から、ステンドグラスのモザイクが、バラバラバラッ!!!!と勢い良く剥がれ落ちて来ました。


「「「ぎいやああああああああああああああああああぁぁぁぁ~~~~~~~~…!!!!!!」」」


悲鳴を上げて仰け反った衝撃で、一気に床へ崩れ落ちる親亀子亀孫亀達。

その上に硬いモザイクの雨が、容赦無くバラバラバラバラと降り注ぎます。


「あたっ!!!あたっ!!!あたたっっ!!!…マジ痛ェェェ!!!!」
「ちょっっ!!!待っっ!!!…お!!お前!!この事態を全く予期してなかったのかよ!!?」
「してる訳無いでしょお!!?今瞳元の色に戻ってんだから!!!」
「もちょっと警戒して事に当れよ!!!割れて刺さって死んじまったらどうしてくれんだ馬鹿!!!」
「何よ!!!あんただって全然警戒してなかったクセに!!!剣士だったら気配読んだりして気付きなさいよボケ!!!」
「無生物の気配が読めるかってんだアホォ!!!」


近くに転がってた石片で頭を隠し縮こまるも尻は隠せず。
バラバラバラバラバラバラバラバラと床を叩く雨音を聞き、割れて破片が刺さる痛みに耐えながら、3人はスコールが止むのをひたすら待ち続けました。




その14へ続】
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魔女の瞳はにゃんこの目・1―その12―

2010年07月18日 14時58分49秒 | 魔女にゃん(ワンピ長編)





崖から飛んで行く事数百m…メアリの沈んだ沼は、暗い針葉樹の森の中に在りました。
芯まで凍る冷気に震えながら、沼の近くに降り立った4人。

草むらに降りた霜が、踏まれる度にジャリジャリと音を立てます。
目の前に広がる沼は、立ち込めた乳白色の靄で覆われ、朧げでした。


「……こんな寂しい場所に、メアリは沈んだのか…。」


1人、白い息を吐く事も無く、ぽつりとヘンリーが呟きます。


「…けど死体はもう引上げられたんだろ?此処にはもう居ないんじゃねェの?」
「でもよー…ふっっ…ぶえっっくしょん!!!…ズズッ…!!自殺じだだまじいばぞの場に残っぢまうっで、ナミが言っだじゃねーがゾロ!」
「500年も経ってんだろ?いいかげん、待ちくたびれて成仏しちまってんじゃねェの?」


歯をガチガチ鳴らしたり、鼻水ズルズル啜ったり、足を踏鳴らしたりしながら、ルフィとゾロが言い合います。
通気性に優れた穴開き服は、冬の朝に着こなすには具合が悪いようでした。


「……居るわ!」


靄で水面の様子すら知れぬ沼を、じぃっと見据えていたナミがきっぱりと告げます。


「メアリは……此処に居る!500年間……ずっと、ずっと、此処に居たんだ…!」


見詰るナミの金の瞳に、透明な涙の膜が張りました。


ヘンリーが1歩、前へ踏み出します。

堪え切れずに、2歩、3歩、4歩、5歩と……

ジャリン、ジャリンと、踏鳴らされる霜柱。
骨だけの体には、冷たさ等感じられません。

靄の中へと入り、沼に張った氷の上で、ヘンリーは精一杯声を張上げました。


「メアリ!!メアリ!!俺だ!!ヘンリーだ!!…500年も待たせて御免…!!今更だけど…俺は…君に謝りたい…!!お願いだ!!居るのなら、どうか顔を見せてくれ…!!」


静寂に響き渡る、ヘンリーのしわがれた声。

刹那――水面を覆っていた靄がユラユラと波打ち、スゥ…と陽炎の様な像が浮び上がりました。

煙の様に白くぼんやりとした、若い女の姿。


「………メアリ!!」


2つに束ねた髪、痩せ細った体、穏やかな顔…

500年前見た姿そのままで、メアリーはヘンリーの前に立っていました。


「……ヘンリー…?本当に…会いに来てくれたの…?」


メアリのか細い声が、辺りの空気を震わします。
指を無くしたヘンリーの手を、透ける手でそっと包み込みました。


「……解る…?俺だって…。もう、500年前の面影なんて…欠片も無いだろ…?」


照れ臭そうに笑いながら、ヘンリーが返します。


「…解るわよ。幼い頃からずっと傍に居て…大好きだった人だもの…!」


骨張った手を握り、メアリが優しく微笑みました。


「……君は…あの頃とちっとも変ってないね…。」

「…私だって…随分変ってしまったわ。貴方以上に、生前の姿は跡形も無い。」


皮肉っぽく笑い、メアリが肩に手を回して来ます。


「……恨んでないの?俺の事…君との約束を破ったのに…。」

「………恨んだわ…恨んで、憎んで…貴方を…貴方を奪った女を……皆、皆、無くなっちゃえば良いと呪った…。」


顔を伏せ、視線を逸らし、メアリは低く呟きました。




…そう…地上で生きる人全てを…憎んだ、恨んだ。

死んで貴方を呪い殺してやろうと、私は沼に身を投げた。
絶対に、幸せになんかさせてやりたくなかった。
不幸にして…あの女と仲違いさせて…何で私を選ばなかったんだろうって…後悔させてやりたかった…。

冷たく暗い沼底に身を沈めて……どうして私ばかり、こんな不幸な目に遭うんだろうって…
何故……私だけ、独りで居なくちゃならないんだろうって…

きっと…貴方は今頃…私を忘れて、仲睦まじく、あの女と笑い合ってる…

誰も彼も皆…幸福な毎日を送ってる…

私独りを……此処に置き去りにして…

考えれば考える程…許せなくて…何もかも恨んで…憎んで…沼の底の泥が、私の体内に溜って…どんどん真っ黒く汚れて行く様感じて…!


――沼に身を投げたのは……私自身なのにね。


そう気が付いたのは…私の体が引上げられた時だった。

あの時…必死になってナミや、私の両親や、近所の人が、私の体を深い沼底から引上げてくれた。

そうして……ナミが、私の耳元で、泣きながら教えてくれたの。


『ヘンリーが、彼女に殺されてしまったよ』って…


………私の、せいだと思ったわ。

私が…貴方を、呪い殺してしまったんだって…。

後悔したわ…済まなくて…出来る事なら…謝りたくて。

小さい頃から…何時か……一緒に、幸せになろうって…言ってくれてたのに…!




「…君のせいじゃないよ……きっと、約束を破った罰が当ったんだ…。」


メアリの手を握り、ヘンリーが微笑みました。


「……許して…くれるの…?」

「…俺の方こそ…。」

「…許すも何も無いわ……貴方は……私を忘れず…会いに来てくれた…!」

「……500年間…ずっと心に残っていた。もしも生れ変れるものならば…今度こそ、君と共に生きたい!生れ変って、もう1度…君の事を、抱締めたいよ…!」


身を震わす様揺らぐ影。
メアリの頬を、幾筋もの涙が伝いました。


「……嬉しい…!ずっと…ずっと…待ち続けていた甲斐が有ったわ……これで…もう、思い残す事は無い…!」


見る見る内に、メアリの姿が薄まって行きました。
ヘンリーの腕の中、まるで空気に溶ける様、霧散して行く白い影。


「……メアリ!?」

「……会いに来てくれて、本当に嬉しかった…!有難う、ヘンリー…!そして……有難う、ナミ…。」


その言葉を最後に……メアリの姿は…何処にも見えなくなりました。




「…消えちまった。」

「成仏したのか?」

「…思いが叶って、漸く成仏出来たのよ。」


振返ったヘンリーの前に、遠巻きに見守っていたナミとルフィとゾロが、幹からひょっこりと顔を覗かせました。

沼の水面を覆っていた靄は段々と迫上り、今では森全体に立ち込めています。
白く煙る闇の中、ナミはゆっくりとヘンリーに近付いて行きました。

傍に立ち、ヘンリーの窪んだ眼孔をきつく見据えます。


「ねェ…どうして…約束を破ったの?」


返答を求める顔は険しく、怒りを懸命に抑えてる風でした。


「………どうしてだろう…。」


メアリの名残を惜しむかの如く、ヘンリーは己の腕の中をじっと見詰ています。
眼球を失くした目は、洞穴に似て真っ暗でした。


「…あんなに仲良かったのに…心が離れてしまったって言うの?」

「…そうじゃない。」
「じゃあ何故!?…あんな…500年も待つ程あんたを思っていた娘を、どうしてあんたは捨てたのよ…!?」


胸に込み上がる、溶岩に似た熱い塊。
瞳を爛々と輝かせ、堰を切った様にナミが叫びます。

自分を射抜く視線から目を逸らし、ヘンリーはポツリ…ポツリ…と、語り出しました。




……メアリは医者から、何時か寝たきりになるだろうって言われてた。
治療法の見付ってない難病で、少しづつ立てなくなって、物も掴めなくなって、声も出なくなって、目も見えなくなって…まるで石みたいになって……そうして…死んでしまうだろうって…。

……それが…堪らなく、恐かったんだ…!

自分の人生を犠牲にして一緒になっても、メアリは俺を何時か独りで置いて、逝ってしまうんだよ…!?
一緒に生きられない事が解っているのに一緒になったって……意味が無いじゃないか!!




「――何が『意味が無い』よ…!!!『犠牲』!?あんた、あのコを足枷みたく考えてたって言うの!?……それで…結局…殺されちゃって…500年間も独り地下に置き去りにされて……馬鹿みたい…!あんたさえ約束を守ってれば別な道を行けたのよ!!?メアリも!!あんたも…!!!」


激しくなじりながら、ナミは泣いていました。
体を震わせ、瞳いっぱいに涙を溜めて。

溢れ出た雫が頬を伝い、顎を伝い、雨の如く地面に降り注ぎます。

ふいに、顔を背けていたヘンリーが、真正面からナミを見詰め言いました。


「……君には解らないよ、ナミ。…千年前、『絶対の生』を手に入れ、死なない道を選んだ君には解らない…!」


――!!


「死なない君なら、道を間違えても何度だってやり直せる…羨ましいよ…ナミ…。」


皮肉っぽい笑みを湛えながら、ヘンリーの体は塵に変り、崩れて行きます。

まるで500年の時の重みに、押し潰されてく様に…

ぐずぐずと…火にくべられた枯れ木が、炭と変る様に…


「……ヘンリー!?…待ってよ…まだ話は終ってないでしょう…!?」

「………メアリに会わせてくれて感謝してる……有難う。」


ナミが止めるのも聞かず、瞬く間に塵と化したヘンリーの体は、吹いた風に乗って散り散りになり……メアリ同様、消えて無くなりました。


「…ちょっと…!!散々人巻き込んどいて、勝手に成仏してんじゃないわよ!!!『君には解らない』!!?あんただってちっとも私の事解ってないじゃない!!!…500年も彷徨って死ねなかったクセに…独りにされるのが恐かったクセに…!!!何さ!!…高々数十年ぽっちの寿命しか持たない人間が甘ったれた事ぬかしてんじゃないわよっっ…!!!!」


放たれたナミの叫びに、しかしヘンリーは答えては来ず。
木霊だけが空しく返って来るばかりでした。




少しづつ晴れて行く靄。
樹々の間から聞えて来る、鳥達の囀り。

気付けば蹲る自分の左隣に、ルフィが胡坐を掻いていました。


「……良かったな…2人とも…会えて…じょうぶつ出来て…!」


にししっっと声を立てて、ルフィが笑い掛けます。


「…良くない!!ちっとも良くないわよ!!こんな寂しい沼で、メアリは独り500年も居て!!ヘンリーだって地下に独り500年も居て!!2人して500年間も無駄に独りぼっちで居たのよ!!良い事なんて何1つ無いじゃないの…!!!」

「何1つ無ェ事もないだろ。ちゃんと…最後に会えたんだから。」


右隣にルフィ同様胡坐を掻き、ゾロがナミに話し掛けます。


「…お互い、500年も待った甲斐が有ったじゃねェか。」

「そうだよな。ドクロのおっさんも、沼に居た女も……最後に、仲直り出来て良かったよな!」

「………そんなの…全然慰めになんかなってないわよ…!」


2人に言い返しながらも、ナミは袖で顔を拭い、靄が晴れて沼の氷に映った己の姿を見詰ました。

埃や土に塗れて汚れ切った形。
泣き腫らして、赤くなった瞼。
充血しては居ますが、瞳は茶色に戻っています。

…頗る酷い顔に、思わず苦笑いが零れました。


気付けば夜明け。

重なった葉の隙間から、眩しい朝の光が零れていました。




その13へ続】
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魔女の瞳はにゃんこの目・1―その11―

2010年07月18日 14時57分45秒 | 魔女にゃん(ワンピ長編)





次第にトンネルが先細り、中吹く風に髪が強く乱される頃。
身を屈め、道に溜っていた砂利を掻き分け進んでいた4人の前に、大きな水晶の塊が立塞がりました。
風はどうやらその向うから吹いて来るようです。


「驚いた…紅水晶だわ…!塊で持ち帰ったら、結構な値が付くかしら…?」


ランプに反射して淡紅色に輝く結晶を、ナミはうっとりと撫で回しました。


「何とか此処まで掘り進んだけれど…これは硬過ぎて歯が立たなかった…隙間から風が漏れてる…これさえ越えれば外に出られそうなのに…。」


ヘンリーが欠けた歯で悔しそうに歯軋りをしました。


「水晶ってそんな硬いのかー?なら俺に任せとけよ!俺の左パンチはダイヤだって打ち抜くくらい強ェから♪」


左腕をぶん回し、にいっと笑ってルフィが前に出ます。
やる気満々な体勢を見て、ナミが慌てて引き止めました。


「ルフィ!!あんたは出て来ちゃ駄目!!此処は……ゾロの出番よ!!」
「何故そこで俺を出す!?」
「そうだ!!何で俺じゃなくてゾロなんだよ!?」


指をビシッッと突き刺されての指名にゾロが喚きます。
逆に立候補を退けられたルフィは、不満を露にしました。


「床の一件忘れたの!?此処でまたあんたに馬鹿力発揮されたら地下崩落、全員生埋め必至だわ!!…という訳でゾロ、頼んだわよ!」
「ふざけんな!!てめェの言う通り動かなきゃならねェ義理が何処に有る!?」
「あら?ひょっとして自信無い?確かに水晶は鉄よりも硬い物質だけど…あんたの腕と持っている妖刀でなら、斬れると踏んだんだけどなァァ。」
「自信が無い訳有るかっっ!!!俺は人に命令されて動くのが大嫌ェなんだよっっ!!!」
「別に命令なんてしないわ。嫌だったらルフィに頼むだけ。…その結果がどうなろうと私は知らない。いざとなったら1人で瞬間移動して逃げるから。」
「わぁった!!斬りゃ良いんだろが斬りゃ!!!…ったく、んな魔法使えんだったら、その手で行きゃあ良いじゃねェか…!人使う必要有んのかよ…!?」


ナミにやり込められブツクサ文句零しつつも、ゾロは背中から刀を1本引き抜き構えました。

血の様に赤い色した柄の妖刀、『鬼徹』――

気合を高めてくと共に、辺りの空気が研ぎ澄まされます。


「…おい…おめェらなるたけ後ろ下がってろ…穴が開くと同時に、風圧でそこら中のもんが飛ばされて来っだろうから…!」


振返りもせず言葉を告げられ、3人は一目散にゾロから離れました。




全員避難したのを確認したゾロは、両目を吊上げ益々気合を高めて行きます。

全身から闘気を漲らせ、電光石火の早業で一閃二閃三閃四閃…!


耳を劈く轟音と同時に、砕け散る水晶の壁。
途端に流れ込んで来る突風。
吹き飛ぶ水晶の欠片や砂利で、トンネル内に砂嵐が起り、岩肌が削り取られます。

避難した3人は必死で地面にしがみ付き、掛かる風圧を堪えました。




風が弱まった頃、恐る恐る瞼を開けて見れば……さっきまで道を塞いでいた塊は、綺麗さっぱり消え去っていました。

足が埋まる程道に溜っていた砂利まで、跡形無く片付けられています。

前方大きく口を開けた裂け目から覗く空の色。
未だ夜は明けてない様でしたが、地下より薄い色の闇を見た3人の口から、歓声が湧起りました。
飛ばされて地面に転がっていたゾロを抱き起し、口々に称えます。


「すっごいわねェ~あんた!!本当に水晶斬っちゃうなんて!!態度のデカさは伊達じゃなかったのね!!」
「有難う!!有難う!!苦節500年…漸く外に出られた…!!本当に有難う!!」
「やったなゾロ!!すっげーカッコ良かったぞ!!…斬った後ポーズ決めてりゃ、もっとカッコ良かったけどな♪」
「痛っっ!!痛ェ!!…バシバシ叩くんじゃねェよルフィ!!痛ェだろって――痛ェェ!!!」


受けた衝撃で体のあちこちを負傷したゾロは、ルフィに頭の天辺から脛まで思い切り叩かれ、悲鳴を上げました。


「けどちょぉっと考え足りないわよねェ~。折角の紅水晶の塊が木端微塵。おまけに風で欠片も残さず全部吹き飛ばされて…。もっと上手い事カットしてくれりゃあ、お金になったのに!」
「うっせェェ!!!ジュエリーデザイナーじゃあるまいし、んな器用な真似出来るかっての!!!」
「よぅし!!!そんじゃ外へ脱出するぞ!!全員、俺の後ついて来い!!!」


勇んで立ち上ったルフィが、裂け目に突進して行きます。
勢いそのまま、一気に外へ出ようとするのを知って、ナミが大声で止めました。


「馬鹿っっ!!!この穴は崖を目指して掘られてた事を忘れたのっっ!!?」

「……あ。」


――時既に遅し、気付けば目も眩まんばかりに切立った絶壁から、決死のダイブ。


「うあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……………!!!!!!」


絶叫を棚引かせ、ルフィは眼下の急流へと、真っ逆様に落ちて行きました。


「あの馬鹿っっ!!っとに懲りない奴なんだからっっ!!」
「…だから同じ事を飽きず懲りずに繰り返す奴だって言っただろ…!」


悪態吐きながら瞳を素早く金に変え、ナミは呪文を唱えます。
虚空を撫でる手に握られたのは空飛ぶ箒。

息吐く間も無く崖からジャンプすると、箒に跨り落下するルフィを追い駆けます。
掛かる風圧で全開にされる額、はためくマント。

後少しで川面に激突する寸前、魔法の力で宙に浮べられたルフィは、ナミの箒に拾われ事無きを得ました。




「ふーーー…3度目の正直で、今度こそ死ぬかと思った…。」

「仏の顔も三度まで!後1度でも面倒起したら、絶対助けてやんないんだからね!……ったく…あんたらのお陰で、昨日から『力』使い過ぎだわ…!!」


ルフィを背後に、ブツクサとナミがぼやきます。


「『力』使い過ぎると何かまずいのか~?」

「…あんま連続して魔法使ったり、強力な魔法を使うとね…体内に余熱が蓄積されて、『力』が中々戻んなくなっちゃうの!ずぅぅっと金の瞳で居る事になっちゃうのよ!」

「…それって、困る事なのか??」
「ものすご困るに決まってるでしょォ!?あらゆる情報が飛び込んで来るわ、行きたいと思った場所に体が勝手に移動しちゃうわ、ちょっとでも欲しいなんて考えた物は何時の間にやら手の中よ!!」
「便利じゃねーか!」
「便利過ぎても困るのっっ!!!…まァだから……なるたけ私に魔法を使わせないよう、気を付けて頂戴!」

「……何か良く解んねーけど、解った!気を付ける!!」


2人を乗せ、川面スレスレの宙にピタリと止められた箒。

今一腑に落ちない風でありながら、ルフィは素直に頷き、ナミの腰に手を回しました。


――スカーン!!!


「痛ェェ!!!何で頭叩くんだよっっ!!?」
「魔法使ってる時の私に触れるなって何度言えば解るのよセクハラ小僧!!!」
「しょうがねーじゃん!掴まってた方が安定すんだから!…お前こそ、何でそんなに嫌がるんだ??」

「それは…!」


訳も解らず叩かれ、ルフィは不満顔です。
理由を問われ、ナミは返答に窮しました。


「……解ったわよ。教えたげるから耳の穴かっぽじって良く聞きなさい。……魔法を使ってる時の私に触れるとねェェ!!!直接心が私に伝わって来るの!!!要するにあんたの心が丸見えになるっつう訳!!!どんな秘密を持っててどんな風に私を思ってるのかとか、そうゆうの全部私にバレちゃうのよ!!!解ったかこのチビ黒馬鹿坊主!!!!」

「………なんだ、そんな事気にしてたのか。」


一息で怒鳴り散らし、肩でハァハァと息をするナミ。

燃え盛る様な金の瞳を、ルフィは飄々とした態度で受け流し、尚更しっかりとしがみ付いて来ます。


「ちょっっ!?…ちょっと!!!だから視えちゃうから止めてって…!!!丸見えなっても良いってェのォ~~!!?」

「良いさ!!!見えたって!!!見られて困るもんなんて何も無ェし!!!」




――見られて困るもんなんて何も無ェよ!!!




「………まったく……あんたら、揃いも揃って…!!」


突然、箒がぐいんと始動しました。

そのまま崖を這い登る様、上昇して行きます。


「…このまま上に居る2人を乗せて、メアリの沈んだ沼まで飛んで向う!振り落とされない様、しっかり掴まってなさい!!」


背後で「しししっ♪」とルフィが笑っている気配。
耳まで火照るのを感じつつ、ナミは箒を操り、2人が居る裂け目へと近付きます。

裂け目からナミ達を見下ろしてるゾロと目が合いました。
その横からヘンリーも顔を出しています。

ナミを見詰るゾロの瞳が笑っていました。


見上げれば、濃紺色の空に薄れ行く星々。

…聞えて来る鳥の囀りが、間も無く夜明けが近い事を伝えていました。



その12へ続】
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魔女の瞳はにゃんこの目・1―その10―

2010年07月18日 14時56分35秒 | 魔女にゃん(ワンピ長編)





古くから『アン・ヴォーレイの館には宝が隠されてる』という噂が有った。
彼女はその宝目的で、俺に近付いて来てたんだ。

式の前日、『2人きりで夜を過したい』と彼女にせがまれ、俺は下男と女中に暇を出した。

その夜俺は……彼女と、彼女の仲間から、宝の在り処について尋問を受け…答えられず殺された。
館中捜索しても宝が出て来ない事に苛立った彼女と仲間は、腹立ち紛れに床下に見付けた深い穴へ、殺した俺を突落した。

床下の穴は、俺が館の主になる前から在る、とてつもなく深い物だった。
財産として譲り受けた時、親父に言われたよ。


『真偽は判らないけれど、この穴は冥界まで続くと伝えられている』と。


光も音も無い底で、俺は独り横たわっていた。

殺された俺は…何故か死ねなかった。

朝も昼も夜も判らない闇の中に居て。
次第に腐り、崩れ落ちてく自分の体で、時が経っている事を知った。

……でも、死ねない。

骨だけになってしまっても、未だ死ねない。

殺された恨みなら、既に無かった。
とうに彼女の名前すら忘れてしまって居たし。
所詮自分も同じ裏切り者…これは天罰だと考えたんだ。

そして理解した…自分が抱えてる未練…死ねずに居る訳を。

『メアリ』に……謝りたいと思った。

俺に裏切られ、沼に身を沈めたメアリ。
独り水底に沈んで……どんなに冷たく、辛く、寂しい思いをしてる事だろう。


――謝りに行かなきゃ!


骨だけの体で、俺は暗く深い穴を登って行った。
けど…何処まで行っても地上が見えない。

段々と焦り出した頃、途中の岩壁に洞窟を見付けた。


『ひょっとしてこの穴から出られるかも!?』


嬉々として奥を目指したけど…その喜びは長く続かなかった。
洞窟は数十m行った先で、行き止まりになってたんだ。
落胆し途方に暮れたけど…直ぐに新たな考えが浮んだ。


『そうだ!この館は崖の近くに建っている!此処から横にずっと掘り進んで行けば、何時か外に出られるんじゃないか!?』と…。


そうして俺はトンネル掘りに没頭してった。
最初は自分の胸に刺さってたナイフを使って掘り進んだけど、錆びたそれは直ぐに用を為さなくなっちゃって…。

止む無く自分の肋骨を使って今度は掘り進めてった。
泥岩の壁は柔らかく、骨でも何とか掘れてったよ。
そしたら幸運にも貝の化石を掘り起こしたりして…今度はそれと指を使って掘り進んでった。

所が手元の化石が尽きて指が全部磨耗しちまっても…未だ外に出られなくてねェ。
最後の手段とばかりに、歯で齧って掘って行ってたんだ。




「…そして私達に出会い、今に至る、と…?」

「…うん…そうゆう訳…。」


髑髏を胴体に繋ぎ、抑揚の無い声で己の過去を語るヘンリー。
彼を囲み座った3人は、その昔話を感心とも呆気とも付かない表情で清聴したのでした。


「おっさんすげーなー!自分のろっ骨や歯でトンネル掘っちまうなんて、俺にはマネ出来ねーよ!痛かっただろォ!?」
「いや死んでるし、俺…幸い、痛みは感じなかったよ…。」
「そうか!!良かったなァおっさん!!死んでてラッキーだったじゃねェか!!」
「そ…そうかな?…言われてみるとラッキーだったかも…。」
「納得すなっっ!!…にしても掘って出た土はどうしたの??」
「ああそれは、自分が落ちた深い縦穴に捨ててったんだ…大量に落してって…その内溢れやしないかと不安になったけど…底無しで助かったよ…。」
「ほら!私の推理通りだったじゃない!」


回答を聞いてナミは、隣に座るゾロに向い、胸を反らして得意がりました。


「って何勝ち誇ってんだよてめェは!?…あんたなァ、んな苦労するくらいだったらストレートに穴登ってった方が早いって、露程も考えなかったのか??」
「考えなかった訳じゃないけど…1度断念した道は中々戻り難いって言うか…。」


ゾロに呆れ返られ、ヘンリーは指の無い手で頭をボリボリ掻きながら、気まずそうに事情説明を続けました。




『トンネルを掘る』という明確な目標を定めて以来、俺は来る日も来る日も岩を掘り続けた。
掘るのに疲れたら一休みして、溜った砂利を掻き出し、穴に捨てに行く。
捨て終わったら、またトンネルを掘る。

作業を繰り返してく内に…段々と凝り出してね。
どうせ掘るなら、なるたけ幅を統一して通り易くしようとか。

そうだ!何百年か先の未来…後世の人が目を見張る程の、素晴しい地下道を造ろうじゃないか!!
俺の前に道は無い!俺の後に道は造られるのだ!!




「…馬鹿かあんた?こんな地下深くに在る道、モグラだって通らねェよ。」


何処か夢見がちに語るヘンリーに、ゾロの辛辣なツッコミが掛かりました。


「……ひたすた退屈で、独りきりの毎日だったし…後悔した時には指が磨り減り無くなってて……もうトンネル掘るしか、生き甲斐残って無かったのさ。」


冷たい視線で見詰るゾロに向い、ヘンリーは力無く笑いながら、指を無くした両手をカシャカシャと振って見せました。


「……後悔すんなら磨り減らす前にしとけよ…ったく、こんなん掘ってよく地下崩落起さなかったなっつか…下手すりゃ生埋めなってたぞ、あんた…。」
「いや死んでるし、俺…。」
「ヘンリー、生前から几帳面で凝り性だったものねェ。」
「納得してんなよナミ!!」
「こり性だっつうなら、もっと道枝分かれさせて迷路みたくするとか、急坂にするとか、トラップいっぱい仕掛けるとか、もっとそーいくふーが欲しかったよなァ。サービス足んねーぞ、おっさん!」
「…そこを問題にするのかよルフィ?」
「…にしても500年懸けて良くぞ此処まで…ゾンビの一念岩をも通すだわ。」


ほぼ均一な幅で一直線に続いてく地下トンネル。
遥か先の消失点を見遣りつつ、ナミはしみじみと溜息を吐きました。


「…え?俺が死んでから500年も経ってるの!?…そうか、道理で最近、歯が弱くなったなァと思ったよ。」
「苦労が随分顔に出てるわ。頬なんかげっそりこけてる。」
「あははー、何せ死んで骨だけだからねェ…ナミはちっとも変らず、若々しくて良いなァ…。」
「当然でしょ、魔女だもの。」

「……駄目だ俺…頭痛くなって来た。」


ツッコミ疲れたゾロが、頭を抱えてしまいました。


「…500年間、独り死ねずに居て…正直、絶望を感じて居たけれど…待った甲斐が有った…!」


突然ヘンリーが、ナミの前でペコリと頭を垂れました。


「お願いが有るんだ、ナミ…!俺を……『メアリ』の沈んだ沼まで連れてってくれ…!!」


指の無い両手をぴっちりと合せ、顔を砂利に擦り付け懇願して来ます。
その姿をナミは、冷やかに見下ろしました。


「……嫌よ!」

「ナミ…!!頼むよ…!!」


即答で断るナミに、ヘンリーは尚も必死に縋ります。
しかしナミは険しい顔して、にべも無くはね除けました。


「今更何が『謝りたい』よ!?謝るくらいなら、どうしてあの娘を裏切ったの!?…あの娘が…どんな気持ちで沼に身を沈めたか……何したってもう手遅れだわっっ…!!!」

「…連れてってやれよ、ナミ。」


声を震わせ叫ぶナミに、ルフィが言葉を掛けました。
黒く円らな瞳でもって、真向いからじっと見詰て来ます。


「おっさん、『謝りたい』っつってんじゃん。謝らせてやれよ。」

「うっさい!!!事情も知らない部外者が話に割込んで来んな!!!……ヘンリー…あんたまさか、自分が成仏したくって『謝りたい』って言ってんじゃないでしょうね…?――だとしたら断固連れてくもんか!!!あんたなんか……一生成仏出来ずに独り此処で彷徨ってれば良いんだ…!!!」

「――良い過ぎだ、ナミ。」


横から鋭い声で、ゾロがたしなめます。


「……解ってんだろ?自分でも。」


その言葉にナミは押し黙り……辺りはしんと静まりました。


「………本当に…メアリには悪い事をしたと思ってる…。」


恐る恐る、ヘンリーが口を開きます。


「…500年間…ずっと心に残ってた……。」


ナミの前に弱々しく垂れた頭は、時を経た分だけカサカサに乾いていました。
手も足も磨り減り、生前スラリと背が高く活き活きとしていた彼の面影は、何処にも有りません。
まるで使い古したボロ雑巾を想起させる風貌でした。


「……沼に行っても、そこにメアリの体はもう無いわ。彼女の遺体は沼から引上げられて火葬された。…私もその手伝いをしたから良く覚えてる。彼女の両親は世間の噂に耐え兼ねて、彼女の骨とともにこの地を離れた。その後の行方は知らない。魔法を使えば追えない事も無いけど……まさかそこまで求める気じゃないでしょうねェ?」


じろりと睨め付け、ナミが言います。
蛇に睨まれた蛙の様に、ヘンリーは小さく縮こまりました。


「…ま、自殺した魂は、成仏出来ずにその場に残るって言うけどね。」

「なんだ。じゃ、居るかもじゃん。ドクロのおっさん連れてってやろーぜー。」
「気軽に言わないでよ!!大体、こいつ連れてって私に何のメリット有るってェの!?文無し者の依頼はあんた達だけで御免だわ!!」
「なァ、おっさんよォ。俺達幽霊やしきに隠された宝を探しに来たんだけど…おっさん、そのやしきの元主だったんだろ?宝の在り処とか知ってたら教えてくんねェ?」


ニヤリとした笑みを引いて、ルフィはヘンリーに尋ねました。


「…宝?…ヒントと思しき物なら知ってるけど……ゴメン……在り処を知るには或る『鏡』が必要らしく、それを俺は持って居ないんだ…。」
「『鏡』ってこれの事かァー?」


話を聞いて、ルフィは自分の被った麦藁帽子を、ゴソゴソと探りました。
取り出した銅鏡を、ヘンリーの前に突き出します。
ツルツルした表面に、ランプの灯りを受けたヘンリーの顔が、ぼんやりと映りました。


「…こ!これ!そう、これだよ!!…絵に描かれ伝えられてるだけで、実際目にした事は無かったけど…一体、何処で手に入れたんだい?」
「『シャンクス』って言う俺の親父から貰った!やっぱこの鏡がカギなんだな?…んじゃおっさん、俺達が『メアリ』っつうヤツに会わせてやったら、宝のヒントを教えてくれるって約束してくれよ!」

「教えるのは構わないけど…別に自分が教えなくとも、ナミの金の瞳で見れば、直ぐに解けるんじゃないのかい?」
「それがこいつすんげェェ~~ケチでよォ~。何でもかんでも出し惜しみしやがんの!」
「るさいっっ!!!勝手にテキパキ交渉進めてんじゃないわよ!!!その程度の謎、魔法使わずとも私の推理力有れば、たちどころに解けるんだからっっ!!!」
「解けてねーじゃん。」
「…ぐっっ!!」


ルフィに真実を突かれ、ナミはぐうの音も出なくなりました。


「……交渉、成立だな。」


黙って状況を見詰ていたゾロが、ニヤニヤ笑いながらナミに言います。


「あ~~もう解ったわよっっ!!!連れてってあげるわっっ!!!但し沼まで!!もし会えなかったとしても、面倒見切れるのはそこまでなんだからねっっ!!!」


ルフィに言い負かされた上ゾロに見透かされ、ナミは悔しさで顔を真っ赤にしてヘンリーに向い叫びました。

…しかしヘンリーは3人の会話を他所に、鏡に映った己の顔をしげしげと眺めていました。


「……それにしてもげっそり痩せたなァ…俺…こんな変り果てた面相で、メアリ、俺だって解ってくれるかなァ…?」


――カキィンッ!!!


呑気に悩むヘンリーの頭に、容赦無く振り下ろされたナミの鉄拳。


「…ゾンビが生意気に外面気にしてんじゃないわよ…誰の為に骨折ろうとしてるか解ってんのヘンリー!!?」


受けた重い衝撃に、彼の頭は再び胴体から離れ、地に転がりました。




無事交渉が纏まると、4人はヘンリーの掘った地下トンネルを、テクテクと歩いて行きました。


「…だから待てよ!てめェの箒で飛んで、穴から出た方が早いだろって!」


ルフィを先頭に、ヘンリー、ナミ、ゾロと続く一行。
ゾロは前を歩くナミの肩を引き止め、問い掛けました。


「…それだと金の目してあの館に出る破目になるじゃない。あんた…また私に殺人の現場視させようっての?」

「…………。」


「ヘンリー、このトンネルは確かに外へ繋がってるの?」

「うん、繋がってる……硬い岩が1つ、未だ道を塞いでは居るけどね。」


ナミに問われ、2人の直ぐ前を歩いていたヘンリーが振り向いて言いました。


「…ま、岩1つくらいなら、こいつらの力で何とかなるでしょ。……魔法をなるべく使わないで済むなら、それに越した事は無いしね。」

「……けどよ…お前、さっき足捻ってただろうが。この先歩いて行けるのかよ?またおぶってやろうか?」

「…え!?ナミ、怪我してるのかい…!?」
「何!?ナミがケガしてるゥ!?――大丈夫か!?何なら俺、おぶってってやるぞ!!」


ゾロの言葉に前を歩いていたヘンリーが反応し、そのヘンリーの言葉に、ランプを持ってかなり先を行っていたルフィが反応して、駆け戻って来ました。


「ほら!!遠慮しねーで早くおぶされ!!」


そう言ってナミの前に背中を向け、腰を落します。


「いや、ルフィ。俺がおぶってくからいい。おめェに任すと途中で落したり忘れてったりしそうで心配だ。」
「しっけーな事言うなゾロ!!ケガ人落したり忘れたりする訳ねーだろバァカ!!」
「日頃の行いから信用出来ねェつってんだよ!いいから先行ってろ!ナミは俺がおぶってくから!」
「いいや俺がおぶってく!!横取りすんなゾロ!!」
「横取りはてめェの方だろうがルフィ!!」

「……驚いた…随分、仲の良い友達が出来たんだね…ナミ…。」


ナミを間に言い合いするルフィとゾロを見て、ヘンリーはナミに向い微笑みました。


「なっっ!!?ちょっっ…!!馬鹿言わないでよヘンリー!!!こんな奴等友達でも何でも無い!!!会ったばかりの赤の他人よっっ!!!」


慌ててナミが強い口調で否定します。
その頬は蒼いランプに照らされていながら、林檎の様に真っ赤に見えました。


「何だよナミィ~冷てェ~なァ~!会ったばかりでも俺達、もう仲間じゃねェ~かァ~!」
「うっさい!!!本人の了承無く勝手に仲間登録すなっっ!!!」


吐き捨てる様叫び、そのまま2人を置いて、スタスタ先へと歩いて行きます。


「おおいっっ!!だから足大丈夫かってっっ…!!」


焦って追い駆けて来るゾロの前に、ナミはスッと左足首を持上げて見せました。

……さっきまで赤黒く腫上っていた傷が、跡形も無く消えています。


「…解った?足が千切れようが首がもげようが絶対に死なず、暫くすれば元通りに治ってしまう……これが魔女の『力』よ。御心配には及ばないわ。」


自分の足首を見て息を呑み驚くゾロに、ナミはシニカルな微笑を向けました。

左足首をゆっくり下ろすと、背中を向け再び歩き出します。

…と、振返り、ルフィとゾロにこう言い放ちました。


「…けど、その魔女を傷付け殺せる『力』を、あんた達2人は持っている。……仲間?笑わせないで。むしろ『天敵』だわ!」

「――殺さねーよ!」


自分を冷たく睨むナミを、ルフィは真っ向から見据えました。




その11へ続】
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魔女の瞳はにゃんこの目・1―その9―

2010年07月18日 14時55分26秒 | 魔女にゃん(ワンピ長編)





「…それにしても長いトンネルだな。自然に出来上がった物か、とも、人為的に造られた物か…。」
「最初の数十mまでは自然の洞窟。けど、それ以降は人が掘って拵えたみたいね…しかも手掘りで。」
「手掘りィィ!?1㎞もかよ!?まさかァ!!」
「引掻き傷の様な跡が随所に見られるもの。ちょっと信じ難いけど、地道に何百年も懸けて、人の手だけで掘り進んだみたい。」


ゾロの背中越しにランプを掲げ、ナミは岩肌を検分します。
灯りに照らされた岩肌は不規則にデコボコしていて、所々貝の化石が埋ってるのが見えました。
きっと大昔は海の底に在ったのでしょう。


「しかしなァ~、手掘りまでして…宝隠してる訳じゃ無ェんだろ?一体誰が何を企み、んな手間懸けたんだか…。」

「…金の瞳の時、ちらっとだけど、奥に視えた影が在ったの。……恐らく、ヘンリー・メイヤーズの死体だわ。」

「ヘンリー?500年前迄館の主だったっつう、女にフラレて気も触れちまい、幽霊なって彷徨ってるっつう噂の奴のか?」

「伝えられてる噂ではそうだけど……真相は違うのよ。」


言いよどむ様なナミの語りを、ゾロは背中で聞きながら、黙々と歩いて行きました。




ヘンリーは裕福な商人家庭に産れた青年で、怪奇マニアだった彼の父親は、当時から奇怪な館と評判だった、あの館を買い取ったの。
両親の死後、館は彼の財産の一部として残された。
その頃、或る街から1人の女がふらりとヘンリーを訪ねて来てね。
絶世の美女だった彼女とヘンリーは婚約したの。

そして結婚式の前日……ヘンリーは彼女に殺されてしまった。
彼女にヘンリーと結婚する意志は無かった。

…初めから、財産目当てだったのよ…。




「……殺されちまった事は、噂に上らなかったのか?」




…両親亡くして以来、ヘンリーは親族との付き合いも無く、独り身だったし。
事件は下男も女中も居ない、彼女と2人っきりの時に起きた。
殺した後、彼女は仲間とともに、持出せる財産を奪って遠くの街に逃亡。
逃亡する前に、館に誰も入れないよう、鍵を掛けてね。

暫く置いてから彼女は仲間を使い、『ヘンリーは婚約を破棄された事で気が触れてしまい、館に閉籠ってる』という、噂を広めて行った。

時が経ち……此処はすっかり幽霊屋敷として有名になってしまったの。
勇敢な人間が鍵を壊して調査に入ったり、酔狂な人間が買い取って住んだりもしたけど……嘘か真か、皆幽霊が出るって怯えて、結局は逃げ出しちゃって…今では住む者の無い廃墟という訳。




「中々悲惨な話だな。…で?お前がそれを知り得たのは『力』を使ってなのか?使ってまで知った事実を、何故公表しなかった?」


ぴくりと、強張る気配を感じました。




……500年前、私は暫くこの近くに住んでた事が有った。
ヘンリーとはその時出会って……結構、親しくしてたわ。
結婚を前に姿を消した理由を…知ろうと思って館の扉に触れた瞬間……

………ヘンリーが彼女と、仲間に、ナイフで刺されてる所を視たわ……!

…今夜此処に来て…彼の死体を視付けてしまいやしないかって…内心、恐れてた。
入って何処にも見当らなくて…ほっとしたわ…。
長い間…調査に入った人間が居ても、見付らなかったんだもの…
きっと、外に埋められたかしたんだろうなって……なのに……!




震える声でナミは話し続けます。
肩に強く食い込む手。
ゾロは黙って話を促しました。




……彼女と婚約する前に…ヘンリーには、結婚を誓い合っていた娘が居たの。
『メアリ』っていう……病弱で、大人しくて……けど、優しい、良い娘だった…。
2人は幼馴染で…私も、彼女とは親しくしてたわ…。
本当に仲が良くて……将来、必ず、結婚するんだって…そう約束してたのに…!!

あいつはメアリを裏切って他の女と婚約したのよ…!!!

………可哀想に…メアリは…婚約の話を聞いて……沼に身を沈めたわ…!




激昂するナミは涙声でした。
感情を爆発させ、肩が痛むくらい強くしがみ付いて来ます。


「………あんたって本当、勘が良い……嫌われるんだからね…そういう奴って…。」


背中に伝わるナミの言葉を、ゾロは無言で聞いていました。




道は途中、坂になる事も狭まる事も分れる事も無く、ひたすら平坦に続きます。
最初こそ神経張巡らせ慎重に歩を進めていたゾロでしたが、何の仕掛けも無く300m迄来た地点で、流石に拍子抜けせずには居られませんでした。
道に溜った砂利を足で払ってまで警戒し歩いて来た自分が、馬鹿みたいに思えます。
岩肌を照らしつぶさに見てくも、暗号と思しき目印は皆目見当りません。


一体どんな謎を秘めて、あの鏡は館を指したのか…?
シャンクスは宝の在り処を示す物だと言って、姿を消した。
しかし本当に、此処に宝が隠されているのか?


…あれこれ考え巡らす内に、ゾロは段々不安になって来ました。

ちろりと背後におぶってるナミを伺います。

…興奮から冷めた様子で、すっかり大人しくなっていました。
背中にもたれている為表情は読めませんが、呼吸は安らかです。


『…っつか、ちゃっかり寝てんじゃねェだろうな、こいつ?』


伝わる柔らかな重みと熱に、何となく心が焦ります。
千年生きてる魔女と言えど、見掛けは丸っきり普通の人間の少女でした。


魔女の瞳であれば、全ての謎が簡単に解けるかもしれない。
ひょっとしたら、シャンクスの居場所も掴めるかもしれない。


けど………ギリギリまでそれをさせたくはないな、とゾロは思いました。


「…しかし此処まで良く掘ったもんだ。…誰だか知んねェけど、余程暇持て余してたんだな。」

「……恐らく、掘ったのはヘンリーだと思うわ。」


てっきり寝てると思っていたナミが、後ろから急に口を出して来ました。


「何だ、てめェ、起きてたのか!」

「…自分でも荒唐無稽な推理だと思うけど…聞いてくれる?

 ナイフで刺されたヘンリーは、館の床下に元々在った落し穴に落された。
 けどヘンリーは何とか外に出ようと穴を登り…しかしあまりの深さに登る事は諦め、途中見付けた洞窟の先を掘り進めて、横から出ようとした――」

「おいおいちょっと待て!!幾ら何でもその説は無茶過ぎだろう!!ナイフ刺されて死んだ筈の男が穴登ってって、途中から横穴掘って外出ようとしたァァ!?荒唐無稽にも程が有るだろうが!!」
「だから自分でもそう言ってるでしょ!?私だって有得無いとは思ってるわよ!!…けど…でないと、トンネル奥に何故ヘンリーが居たのか…説明が付かないのよ…!」
「殺した女とその仲間が、死体が見付って犯罪発覚するのを恐れて隠したんじゃねェの?」
「だったら穴突落して土でも被せときゃ良いだけよ!!わざわざ1㎞も横穴掘ってまで隠す必要無いでしょ!?」

「そういや掘って出た土は何処捨てたんだろうな?1㎞分たら相当な量になるだろうに。…奥から風が来るって事は外に繋がってる訳で、つまり逆から掘ってったって訳だろ?そうして土は外に捨ててって……ま、すっきりはしねェが、やっぱり何らかの理由有って犯人達が穴を掘り、死体を置いたと考える方が自然っつか…」
「違う。岩肌の削り跡見る限り、私達の進行方向と同じに掘り進んでってるわ…大体、この穴の先は崖の筈よ!だとすれば…私達が落ちた最初の縦穴に捨ててったとしか……あの穴…元はもっとずっとずっとずっとずっと、深かったんじゃないかしら…?」


此処まで話を聞いて、ゾロは「はァ……」と、長い溜息を吐きました。
振返り、真剣な面持ちで居るナミの瞳を、じぃっと見詰ます。

金色だった瞳は、茶色に戻っていました。


「……それ、『力』で見たものじゃないんだろ?」

「…信じられないっつうならいいわよ。自分でも馬鹿馬鹿しい説だと思うし。」


拗ねた様にナミが顔を背けます。


「…良いけどよ。……そんな地下数千m級の深い穴、落されただけで普通は即死――」


突然、ゾロが喋るのを止めました。
全身に緊張を漲らせ、前方に目を凝らします。


「……ちょっと…どうしたの…?」


徒ならぬ気配を背中に感じ、思わずナミも身構えました。


「……何かが…凄いスピードで走って来やがる…!」

「…な、何かって…!?」

「まだ解らねェ…おい!ランプを前に向けるな!気付かれちまう!」


聞いた事の無い厳しい声で注意を受け、慌ててナミがランプを逸らします。


「…駄目だ。気付かれちまってる。…真直ぐこっち来るぞ!」

「…ね、ねェ…来るって…私達に敵意を持ってるような何か…?」


怯えて背中にギュッとしがみ付き、ナミは小声で伺いました。


「…いや、殺気は感じねェ。…むしろ何かから逃げてる感じか…?だとしたら、刺激しねェ方が良い…。」


息を詰め戦く2人の耳に、次第にはっきりと足音が響いて来ました。


――…ヒタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタ………!


人間とは思えぬ、重量を感じさせない軽い足音。
風の様に駆けて、奥より真直ぐこちらを目指す『何か』。

近付いて来ます…

近付いて来ます…!

近付いて来ます…!!


闇の中から…異形の姿をした者が、ヌッと飛び出して来ました。

目玉を無くし、ぽっかり窪んだ眼孔。
殆ど髪の抜けた頭。
肉が削げ落ち露になった顎と歯。
申し訳程度に纏うボロ布の隙間から覗く体には、肋骨が有りません。

2人の前に飛び出したそれは、見るもおどろおどろしい骸骨でした。


「「ギャアァァァ~~~!!!!!ゾォンビィィィ~~~!!!!!」」


地下トンネル内でハモり木霊する2人の絶叫。
ナミをおぶったまま、ゾロは脱兎の勢いで逆走し出しました。


「ちょちょちょっと!!!ゾンビ追っ駆けて来るよ!!!ねェ何でェェ~~!!?」
「な…何でったってっっ…!!!知るかっっそ…んなん…!!!降りてゾンビに聞いて来いよっっ…!!!」


砂利を蹴散らしダダダダダッと高速で逃げてく2人。
が、ゾンビも負けず劣らずの高速でヒタタタタッと追っ駆けて来ます。
深夜の地下トンネルで、熱いデッドヒートが開始されました。


――ダダダダダッ…!!!


――ヒタタタタタタタ…!!


――ダダダダダダダダダダッッ…!!!


――ヒタタタタタタタタタタタタタタタ…!!


――ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダッッッ…!!!


――ヒタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタ…!!


追いつ追われつ、しかし確実に詰められてく距離。
自分に向け歯をカチカチ鳴らして迫るゾンビの形相に、ナミは身の毛もよだつ恐怖を覚えました。


「ややや!!!ちょっっ!!嫌だ!!!追いつかれるっっ!!!ゾ、ゾロ!!!あんた強いんでしょ!!?早いトコあの気味悪いゾンビぶった斬っちゃってよォォ!!!」
「そ!!!…したくても…!!…ハッ…てめェおぶってっ…から出来ねェんだよっっ!!!戦って欲しきゃちょっと降りろっっ…!!!」
「降りるゥゥ!!?冗談言わないでよ!!!そんな事言ってその隙にあんた、私を犠牲にして自分だけ逃げようって魂胆でしょ!!?その手は食わないわ!!!ずぇぇったい降りてやるもんかァァァ!!!」
「そうじゃねェって馬鹿っっ!!!…ヒッ…おめェが居るから背中の剣引き抜けねェつってんだっっ!!!…ハッ…降りたくなきゃてめェが魔法使って戦えっっ…!!!」
「何で私があんな気味悪いゾンビ相手に戦わなきゃいけないのよ!!?女を守って戦うのが男の仕事でしょお!!?男なら『俺が戦ってる間に君は早く安全な場所へ逃げるんだ!!』とか言ってみなさいっての!!!」
「ざっけんじゃねェェェ!!!俺の剣は女を守る為だとかチャラチャラした理由で鍛えてんじゃねェんだ!!!大体千歳越えてる婆ァがいっちょ前に女面してんじゃね…――ぐええぇ!!!!」
「婆ァ!!?誰が婆ァだっつうのよ!!?言ってみなさいよもう1度!!!その首へし折ってゾンビの生贄に置いてってやるからっっ!!!」
「バッ…止め…!!!走ってる時に首絞め…苦っっ…死っっ……ぐえええぇ!!!!」

「……ナ…ミ…ナ…ミ…!」


走るゾロの首に両腕を回し、絞め殺す寸前で居たナミの耳に、ゾンビのか細い声が届きました。


「…え?私…!?…何であいつ…名前知って…!」
「何だ!!ナミ、お前の知り合いか!?…ハッ…ま、考えてみりゃ魔女とゾンビ…化物同士で不思議は無ェ…!…ヒッ…同窓会すんなら人間の若者は席外すから、ゆっく…――ぐええええぇ!!!!」
「失礼言ってんじゃないわよっっ!!!!私にあんなゾンビの知合いなんて居ないわっっ!!!!」
「だ…から首絞め止めっっ…!!マジ死…ぐええええええぇぇ…!!!」

「……俺だ…ナミ…解らないのか…?…ヘンリーだ…ナミ…ヘンリーだよォ…!」

「…え…!?ヘンリー!!?」


羽交い絞めにしてた両腕を解き、振返ります。

今にも消え入りそうな、弱々しい声。
生前の面影は全く有りませんが、舌も喉も無いのに発せられたその言葉は、確かにヘンリーの声に似て聞えました。


「…助け…ナミ…助けてくれ…!あいつが…追っ駆け…!」


カシャカシャと骨張った(←ってか骨だけ)体を揺らし、必死で追い駆けて来るゾンビ。
その背後から、重量を伴った別の駆ける音が聞えて来ました。


――ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダッッ…!!!


「…待ァて待て待て待て待てェ~~~…!!!」

「ルフィ!!?」
「何!?ルフィ!!?」


足を止めて振返った2人の目の中に、荒々しく闇の中を疾走するルフィの姿が入りました。


「…待て待て怪しい化物ォォ~~!!!俺のこの左手で退治してやっから神妙にしやがれェ~~!!!」


土煙上げて奥からルフィが飛び出して来ました。
そのまま左拳振り上げ、自分を見て戦慄するゾンビに向い、飛び掛ります。


「…助けてくれ、ナミ…!!あいつ、『破魔の拳を持つ者』だ…!!左手で殴られたら俺…骨も残らず消滅しちまうよォォ…!!」


涙を流せぬ瞳で哀願して来るゾンビ。
今にも左拳を振り下ろさんと構えるルフィに、ナミは慌てて大声で呼び掛けました。


「ルフィ!!!左は駄目!!!殴るなら右で殴って!!!」
「右かァ!!?良ォし!!解ったァァ!!!」


――カキィィーー……ン!!!


小気味良い音が響き、ルフィの右手で殴られ胴体から離れた頭が、トンネル内を飛んで行きました。
髑髏は四方を囲む岩にぶつかり、キンコンカンコンカンキンコンケン♪と、暫く音を奏でて跳ね返っていましたが、砂利道にボスッと嵌ると、漸く動きを停止したのでした。


「……助けてくれて有難う…ナミ…。……けど、どうせなら、あそこは『殴っちゃ駄目』って言って欲しかったな…。」

「ゴ…ゴメン…。つい…ノリでv」


自分達の足下に恨めしそうな顔で埋まる髑髏に、ナミは茶目っ気込めた笑顔を向けました。




その10へ続】
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魔女の瞳はにゃんこの目・1―その8―

2010年07月18日 14時54分16秒 | 魔女にゃん(ワンピ長編)






崩れた床と共に…どのくらい深くまで落ちたでしょうか?
気付けば3人は、漏れる光すら見えない真の闇に包まれていました。
自分が今、何処にどういう体勢で居るのかすら判りません。


「……おい…大丈夫か、お前ら…?全員無事かァ…?」
「ここ…どこだァ~?なァ~~んも見えねーよ……ひょっとして地獄かァ~?」
「痛っっ!!!誰よ今手ェ踏ん付けた奴はっっ!!?」
「おー悪ィ、俺だ!…なんだナミ、そんなトコに倒れてやがったのかァ~♪」
「ルフィ!?…まったく、あんたって人は何時も何時も…!!こうなったのも皆あんたのせいだかんね!!!」
「俺が全部悪いみたいに言うなよなァ~!!ナミが怪力出して床に穴開けろっつったからこうなったんじゃねーか!!」
「床崩れるまで怪力発揮しろとは言ってないでしょ!!?…っとにもォ~!!あんたのお陰で今日何度落ちた事か…!!」
「まだ2度しか落ちてねーじゃん。」
「もしかして運勢落ち目なのかもな、俺達。」
「くだらない洒落かましてんじゃないわよゾロ!!!」
「そんな事よりナミ、ランプはどうした?状況が知りてェ。早く照らせ。」
「ちょっと待って!…行方不明になっちゃったのよ…埋っちゃったのかな?……駄目だわ、全く見えない……ああもう、しょうがない!」


圧迫されそうな程黒一色な世界に、小さな金色の光が2つ、ポッ…と灯りました。
続いて底をガサゴソと探る気配がします。


「…有った!!視付けたわ!!やっぱり底に埋ってたんだ!!」


ナミの歓喜の声と同時に、蒼く眩い光がくっきりと、砂埃に塗れた3人の顔を照らし出しました。


「…茶色になったり金色になったり…本当、猫の目そっくりに忙しねェ目だよなァ。」
「けど暗い夜道にゃ便利で良さ気だよな!赤鼻のトナカイみてェ♪」
「誰が『何時も皆の笑い者』よ!!?」
「兎も角、ランプで辺り照らして現状知ろうぜ。」


ゾロに促されて、ナミは座ったまま、ランプで四方八方を照らして行きました。

乾いた茶褐色の岩肌が露出する、枯れ井戸の様に狭い空間。
見上げても夜という事も有り、光は全く見えず、深さがどれ位なのか見当も付きません。
背後に冷気を感じて振り向けば……大人1人が立って歩ける位の幅したトンネルが、暗く果て無く続いて見えました。


「すっげェ~!!!地下トンネルだ!!!」


途端に、ルフィの目が光度を増します。


「謎の地下トンネル…地底への探険…幻の地底王国へと続く道!?おんもしろくなって来た♪♪早く先行ってみよーぜ!!!」

「…随分長く続いてそうだな…一体誰が何の目的で、こんな本格的なトンネル拵えたのか…宝隠す為ったって御苦労さんと言いたくなるが…。」

「………宝なんて隠されてないわ。」


無言でトンネルを凝視していたナミが、ポツリと呟きました。


「何!?無いィィ!!?」
「ウソ吐け!!まだ行って見てもいねーのに、何で解るんだよ!!?」


愕然とし、声高に詰め寄る2人を前に、ナミは嘆息漏らして説明し出しました。


「…今、金の瞳になってるでしょ?…だから視ちゃったのよ…つい。ちらっと視ではあるけど…此処から約1㎞続くトンネルの中、何処にも宝は見当らなかった…単なるトラップ目的で掘られた物かも…悔しいけど、一旦戻って仕切り直――」


話してる途中でルフィはナミの手からランプを奪い、そのままトンネル向って駆け出しました。


「――ちょっっ…!!?いきなり何すんのルフィ!!?」
「ここまで来て探険もしねーで戻るなんて、もったいねーじゃんか!!」


答えながら駆け足は止めず、どんどん奥へと進んできます。
トンネル内を照らすランプの光が、足音に合せて高速で移動して行きました。


「馬鹿!!!人の話聞いてなかったの!!?宝は此処に無いんだってば!!!トラップだとしたら無闇に行っても危険なだけ…コラァ!!!人の話を聞けェェ~~~!!!!!」

「実際に行ってみねーと解んねーだろォ~~…!?先に行って偵察してやっから、後からついて来いよォ~~~~………」


声が離れてくと共に、光もあっという間に見えなくなり…残された2人の上、闇が再び重たく覆い被さって来ました。


「……あんの自己中坊主…!!1個しか無いランプ勝手に持っててんじゃないわよ!!!返せ泥棒ォ~~~~!!!!!」


トンネル内に木霊するナミの絶叫。

…しかし、待てども返事は聞えて来ませんでした。


「……ランプくらい、てめェの魔法なら、パパっと出せんじゃねェの?」


傍に立って状況を見守っていたゾロが聞いて来ます。


「………出せるわよ……はい。」


力無く答える声。
何処からとも無く取り出された蒼い光が、再び辺りの闇を眩しく照らしました。
ルフィに奪われたのと同じ、瓢箪型したランプです。


「……はァァ……これでまた、暫く金の瞳で居なくちゃだわ…。」


崩れた石の上に俯き座る姿勢で、ナミが零します。
顔を伏せて喋る声は、くぐもって聞えました。


「……その目で居る時は、見たくなくとも、全て見えちまうのか?」

「………視ようとしなければ見えないわ。…でもね、この『視ようとしない』ってのが……案外、難しいのよ…。」

「…ふぅぅん…。」


喧しい存在が居なくなったお陰で、地下は水を打った様な静けさでした。

小さく縮こまり黙ったままのナミに、どう声掛けたものか頭掻き毟って悩んでいたゾロでしたが…意を決したように口を開きました。


「あ~~…何だ、此処で2人してじっとしてても退屈なだけだし…俺達もトンネルん中入ってみようぜ。」

「…入ってどうすんのよ?宝なんて無いって言ったでしょ!」


いじけた声でナミが素気無く突っ返します。


「あいつじゃねェけど……実際に行って、見てみねェと解らねェだろ?」

「…解るもん!」

「宝だけじゃねェ。シャンクスの件も有るんだ。」

「………。」

「些細な手懸りでも良いんだ。見付け出したい。…あいつもその積りだろう。」

「……『袖すり合うも他生の縁』って言うしね……解った!こうなりゃ最後まで付き合ったげる…!」


顔を上げて、ナミが応えます。

その瞳は闇に輝く金の色。

崩れた石の上に立ち上り――しかし悲鳴を上げ、直ぐにまたペタリと座り込んでしまいました。


「おい!!どうした!?」

「痛っっ!!…痛たっっ!!……あーあー…落ちた時、足捻っちゃったみたい…。」


痛みに呻きながら、ナミは左足首を摩ります。
ランプの光の下見れば、内出血までしてるのか、赤黒く腫上っていました。
良く見れば右足の脛にも細かい切り傷が有ります。


「……しょうがねェなァ……ほれ!おぶされ!」


頭をガリガリ掻き毟って溜息吐くと、ゾロはナミの前に後ろ向きでしゃがみ込み、おぶさる様に言って来ました。


「お、おぶされって…!!いい、いいわよ!!こんな傷、5分もすれば自然に治――ひゃっっ!!?」


顔を赤くし、両手をバタつかせてナミが拒みます。
しかしその両手をゾロは強引に自分の肩に掛けさせ、そのまま無造作にヒョイッとおぶってしまいました。


「バババ馬鹿馬鹿降ろせ!!!降ろせェ~~!!!ガキが生意気に年上の女を気安くおぶってんじゃないわよ!!!降~ろ~せェ~!!!!」


ナミは何とか背中から降りようと必死でもがきます。
自由の利く両手とランプを使い、ゾロの頭から背中まで、ひっきり無くポカスカ殴り付けました。


「うっせェなァ~!!年寄りは大人しく若者に背負われてろ!!確かそういう諺が有っ――」


――ガンッッ!!!!!


「痛ェェェ!!!…お前な!!!じゃああそこに置いてけぼりにして欲しかったのかよ!!?俺だって好きでおぶってる訳じゃねェぞ!!!こんなんじゃいざ何か有った時刀も抜けやしねェ!!!お前が魔法使いたくねェっつうから親切におぶってやってんだ!!!解ったら大人しく感謝してろ!!!」
「何よ!!!こっちだってあんたのプライバシー気遣って降ろせっつったげてんだからね!!!力の出てる状態の私に触れたらどうなるか解って…」

「俺のプライバシー!?…どういう意味だよ?」


ふと、ナミが抵抗を止めました。
不審に思い振返れば、冷たく微笑を浮べるナミと目が合います。
金色の瞳が益々明るく輝いたと思った刹那…ナミは朗読でもするかの様に、ゆっくりと囁いて来ました。


「…ロロノア・ゾロ。年齢13歳。親友モンキー・D・ルフィより2つ年上。育ての親でもある剣術師範の名前は『コウシロウ』。2つ年上で義理の姉の名前は『くいな』。日常でも剣術でも彼女には頭が上らず、剣の勝敗目下0勝2千敗…」

「…お前…!」

「だから何度も言ったでしょう?金色の瞳をしてる時の私は、何でも視えるし聴こえるんだって。触れたりしたら筒抜けになるんだから…解ったら早く降ろして。」


肩にしがみ付き、ナミは耳元で静かに囁きます。
冷やかに、嘲笑を含んだ様な声でした。


「……箒で空飛んでる時、ルフィに触れさせないよう、ムキになって怒ったのは、それが理由か?」

「………単に触れられるのも我慢ならないくらい嫌いだってだけよ!」

「そりゃあいつ気の毒に。お前の事、結構気に入ったみてェなのにな。」
「私は嫌いよ!!大っ嫌い!!あんな奴!!馬鹿で我儘で自己中で意地汚くて人の話聞かずにやりたい放題!!初対面だってのに馴れ馴れしくして来て!!………私の事、何にも知らないクセに…!!!」

「一々真実過ぎて否定しようも無ェが……敢えてフォローしてやると、裏表無く人に向う奴ではあるっつか…まァ、唯の馬鹿でも無ェさ。見ちまったんなら、解っただろ?」
「解ったから尚更嫌いになったの!!」
「へェへェ、そうかよ!」


怒鳴り散らすナミに適当に相槌打ちつつ、ゾロは歩き出します。
此処まで言っても自分を降ろさず、トンネルに入って行こうとするのを見て、ナミは焦りました。


「ちょ…ちょっと!!早く降ろしてよ!!筒抜けになるっつったでしょ!?」
「あ~もう面倒臭ェ女だなァァ!!見られて困るもんなんて何も無ェよ!!!いいからじっとしてろ!!!」
「何も無いって……私が視たくないっつってんのよ馬鹿ァ~~!!!」


喚き暴れるナミに構わず、ゾロは早足でトンネルの中へと進みます。
ギザギザした岩肌を、ランプの灯りが進む度に露にして行きました。


「…お前は…自分の持ってる力が嫌いなのか?」


正面向いたまま、ゾロが聞いて来ます。


「……あんただって…同じ力持ってたとしたら、持て余すわよ…!」


その背中に、ナミが不貞腐れた調子で言葉を投げました。


「確かに煩わしそうではあるが…だからって全く塞いじまったら、自分にとって好ましいものまで見えず聞えず過しちまう事になるんじゃねェの?世の中そんなに悪か無ェと思うけどな。」

「……高々10年そこらしか生きてない分際で解ったような口聞いてんじゃないわよ!!!…言っとくけど私、ルフィだけでなく、あんたも大っっ嫌いなんだかんね!!ガキのクセして大人ぶってニヒルぶって格好付けてて何でも理解してるよな顔しててさ、その実ルフィとタメ張る方向感覚0の大馬鹿者じゃない!!自慢の剣の腕だって義理の姉にいっちども勝てず2千敗!!国1番の少年剣士だっつう評判が聞いて呆れるわァ~!!!」

「…煩ェ、耳元で怒鳴るな、チビ婆ァ。」


――ゴインッッ!!!!!


「痛ェェ!!!お気軽に人の頭叩いてんじゃねェよ!!!あんま図に乗ってると姥捨て山に捨てるぞ!!!」
「今『チビで煩ェガキだが意外と胸はデケェな』って考えたでしょ!!?ムッツリスケベー!!!」
「な!!?…そ…!!…人の心勝手に覗くそっちのが助平だろうがバカヤロウ!!!」
「何さ!!!『視られて困るもんなんて何も無い』んじゃなかったの!!?男なら自分の言動に責任持ちなさいよハリセンボン頭!!!」
「おめェこそ『見たくない』っつっといてしっかり見てんじゃねェよデバガメ女!!!」




トンネル内で仲良く喚き合う2人の先を行く事約1㎞。

スタートこそ勢い良かったルフィでしたが、行けども行けども平坦で枝分れ無く続く一本道に、些か拍子抜けせずには居られませんでした。

ランプで照らしてみても、見える物と言ったら味も素っ気も無い茶色い岩ばかり。
上下左右から圧迫する様囲まれては居れど、特に目立って幅も変りません。

何も仕掛けられていない砂利道。
何も仕掛けられていない天井、壁。

…退屈極まりない道でした。


「あ~~あ~~……つまんねーのォ~~~・・・…」


さっきから欠伸が止りません。
襲い来る睡魔に、いっそ道の途中で寝てしまおうかと思いました。


「普通地下トンネルっつったらさァ~、迷路とかつり天井とか、転がって来る大岩とか、振り子刀とか、踏むとスイッチ作動して落し穴が現れるとか、大水が流れて来るとか、ネズミゴキブリ吸血コウモリの大群が襲って来るとかさァ~~…サービス足んねーよなァ~~。」


最早駆け足も止め、頭の後ろで腕組みのらくら進んでいたルフィの耳に……何かを齧る様な音が聞えて来ました。


――ガリリッ…!


――ガリリッ…!ガリリッ…!


――ガリリッ…!ガリリッ…!ガリリッ…!


不気味な音は、奥へ進めば進む程、はっきりと響いて来ます。

穴の中を吹き抜ける冷たい風が、次第に強まりました。

ランプを前に掲げ、目を凝らして歩いて行きます。


……奥に、何かが居る気配を感じました。


――ガリリッ…!ガリガリッ…!ガリリリッ…!


「…ようやっと、面白くなって来た…!」


眠た気だったルフィの黒い瞳の中に、好奇心の光が宿ります。

行く手に待ち受けるは如何なる怪物か、はたまた亡霊か。(←決定事項らしい)

唾をゴクリと呑み込み、逸る気持ちを抑えて、ルフィは気配のする方へゆっくりと近付いて行きました。




その9へ続】
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魔女の瞳はにゃんこの目・1―その7―

2010年07月18日 14時53分16秒 | 魔女にゃん(ワンピ長編)






「幽霊やしきィィ!?ここって幽霊出んのかァァ!?おんもしろそォォ~♪…で?どんな幽霊出んだ!?」
「教会って…さっきは教会じゃねェって言ったじゃねェか。それに『魔女が建てた』っつうのはどういう意味だよ??」
「何ィ!?ここ、お前が建てた教会なのかァ!?」
「違うわよ!!こんなもん建てる程信心深く生きてやしないわ!!」
「じゃ、誰が建てたんだァ~?」
「結局教会なのか、そうじゃねェのか、どっちなんだよ?」
「どんな幽霊出んだ!?早く教えてくれよ!なァ~~!!」
「だああ~もう~うっさァァい!!!質問が有るなら1人1個づつ、挙手してから言え!!」


矢継ぎ早に2人から質問攻めされ、ナミは堪らず声を荒げました。
その剣幕に圧され黙りこくった2人でしたが、暫くしてルフィが言いつけ通り「はい!」と声出して、ナミに向い手を挙げました。


「はい、ルフィ君どうぞ!」


教鞭代りに箒を差向け、ナミが発言を許可します。
そのままルフィの目前でクルクル回転させると、箒は忽ち消え去ってしまいました。


「うおぅっっ!?すっげェ!!!ほうきが消えちまったァァ!!!」
「し・つ・も・ん・は!?」

「…あ!そか!…え~と、ここはナミが建てた教会なのかー?」
「だから違うって!!…言伝えによると、私が産れる以前に生きてた魔女が建てたらしいわ。その魔女の名前が『アン・ヴォーレイ』。」
「へー、だから『アン・ヴォーレイの館』って呼ばれてんのかァ~!」

「…その言伝えが真実なら、少なくとも千年は前に建てられた物って訳か?…どうりで古めかしい筈だな。で、教会なのに『教会でない』ってェのは?」
「質問は手を挙げて致しましょう!」
「んだよ、偉そうに…へェい!」


舌打ちし、渋々ながら、ゾロも手を挙げました。


「はい、ゾロ君どうぞ!」

「…何で『教会でない』んですかァ?」
「教会側の定めてる教義に反した造りになってるから。」
「教義に反した造り?どういう意味だ??」
「質問は1人1個づつ!再度質問したい場合は、改めて挙手するように!」

「…っったく何様だっつのっっ!!!……はい!何処が教義に反してんだよ!?」

「今は夜だから人間の目じゃ視認出来ないだろうけど、先ず屋根天辺の十字架が逆様に取り付けられてる。それに…」


ゾロが呟く悪態を聞き流しながら、建物にランプをかざして、ナミは説明して行きます。
月と星とランプの明りしか無い深夜でありながら、その禍々しい漆黒のシルエットははっきりと感じ取れました。


「…ルフィ、正面扉への階段、何段有るか数えてみてくれる?」
「おう!良いぞ!」


ナミに命令され、ルフィは正面扉へと続く階段を、1段1段数え上げながら登って行きました。


「…10!…11!…12!…13!!13段有ったぞー!!!」


最上段から見下ろし大声で回答するルフィ。
それを聞いてナミは頷くと、隣に立つゾロに「納得行けたか」と、目配せして尋ねました。


「階段だけでなく窓も、シャンデリアの燭台も、禁忌の数である『13』。そして礼拝堂に祀られてるのは、この国の教会にとって異端の女神。」

「確かに……教会が唱える教義からは、著しく外れてるな。」

「ま、そいった外観から異端者が建てた教会=『魔女が建てた教会』だっつう噂が立てられた訳。」

「お~~~~い、ナミィ~~~~!!この扉開けて中入っても良いかァ~~~~!?」


先に扉前まで来たルフィが、階下に居るナミに伺って来ました。
中から漏れる冒険の匂いを嗅ぎ付け、体が疼いて仕方ないといった声色です。


「良いわよォ!!但し、極力慎重に、ゆっくり押して開いて!!また馬鹿力出して崩壊寸前の建物に止めを刺さないでよね!!」


ナミに釘を刺され、ルフィは錆びた青銅の扉を、両手でゆっくりと押して行きました。

ギィ…ギィ…ギギギィィ……!!と、耳障りな音を響かせて、重厚な扉が左右に少しづつ開いて行きます。
次第に広がっていく隙間から、長く閉じ込められすっかり重たく淀んだ空気が、一気に溢れ出て来ました。

まるで冷たい死人の手で撫で回される様な感触を全身に浴びて…3人は思わず戦慄しました。




礼拝堂の中は、外より一層深い闇色に塗り込められていました。
扉を閉めて中に入れば、目の前居る筈の仲間の顔が全く見えません。
明り無くして1歩も進めない中、3人はナミの持ってるランプを中心に、一塊になって立ち竦んでいました。


「…ってか、どうして人数分ランプ用意して来なかったんだよ!?不便じゃねーか!!」


ルフィがナミに不満を零します。


「人数分用意したら、あんた達勝手に行動してバラバラになっちゃうかもと危惧したからよ。」
「へェ、中々鋭い読みじゃねェか。」


既に自分達の行動を読み切ってるナミに、ゾロは妙に感心してしまいました。
ランプを掲げて、ナミが周囲をぐるりと照らして行きます。

簡素な白い石造りの、古めかしい小さな礼拝堂。
天井には13の燭台が拵えてある鉄製のシャンデリアが、蜘蛛の巣塗れになってぶら下がっています。
正面には大理石の祭壇、後ろの壁には一際目立つ大きなステンドグラスの窓。
赤青黄緑紫五色の硝子を嵌め込んであるそれは、麗しい女神の姿をしていました。

女神は手に何かを持つ様な仕草をして立っています。
しかしその持った箇所には、ただぽっかりと丸い穴が開いてるだけで、外の月明りが薄く一筋射し込んでいました。

女神の描かれた窓の周りには、12枚の小さなステンドグラスの窓が取り付けられています。
女神の窓同様、五色の硝子を嵌め込み表されているのは十二月の花。

…ランプの光がステンドグラスに反射して五色に変り、礼拝堂の暗闇に幻想的な花が幾つも浮びました。


「……綺麗な絵だなーー……真ん中の…あれ、誰だー?」

「…多分、『月の女神』だわ。…だとすれば、謎は全て解ける!…ルフィ、あんたの持ってる鏡を貸して!」


ナミに言われて、ルフィは自分の被ってる麦藁帽子の中から、件の魔鏡を取り出しました。

鏡を渡されるとナミは裏にランプをかざして、刻まれてる文字をゆっくりと朗読して行きます。




昼は貞淑
夕は憂鬱
夜は魔女


…この3つの文章は、全て『月の女神』を表してる。
月の女神は朝・昼・夜と、3つの顔を持つと言われてるの。

昼は貞淑な処女神、『アルテミス』。
夕は手に入らぬ愛を哀しむ憂鬱な女神、『セレーネー』。
夜は冥府を統べる恐怖の魔女、『ヘカテー』。


…つまり、鏡に隠された答えは『月』…そして月は夜に浮かぶ物…夜に月の女神が居わす場所は地下の冥府。

窓に開いた丸い穴から、月光が漏れて床を照らしてるでしょ?恐らく宝は地下に…




説明しながらナミは、薄ぼんやりと蒼白い光に照らされてる石の床を窺いました。
雪の様に堆く積った埃を木靴で払い除け、そのままコンコン!!と堅い爪先で思い切り叩いてみます。

舞上った埃が黴臭い嫌な匂いを撒き散らしました。


「…考えた通りね。床下に大きな空洞が在るみたい。宝はきっとこの下に隠されてるんだわ!」


跳ね返った音を聞き、にんまりと笑うナミ。
静寂に支配された礼拝堂に、彼女を褒め称える拍手と歓声が木霊しました。


「すんげェすんげェ!!!誰も解けなかった謎をあ~っという間に解いちまうなんて、おめェ、本っっ当~にあったま良いんだなァ~~!!!」
「まったく脱帽するぜ!流石は自称世界一賢く物知りな魔女、大したもんだ!」

「ま、ざっとこんなもんよv」


2人に褒めちぎられ、ナミはすっかり気を良くしました。


「やァ~~っぱ魔女って良いよなァ~!魔法使って何でもパパパのパッ!で解っちまうんだからよォ~!」

「聞き捨てならない言い方するわねェ、ルフィ…事有る毎にあんた達、魔女だ魔法だって……言っとくけど、今の推理は魔法使わずにしたんだからね!」


ルフィの言い様にすっかり気を悪くしたナミが、不機嫌を隠さず2人に食って掛かりました。


「その証拠に…見てよ!私の瞳、今は茶色になってるでしょ!?この色になってる時は魔法は使って居らず、言わば普通の人間同様の能力しか無いんだから!」


ランプの灯りを自分の瞳に当て、ナミが指し示して来ます。
言葉通りその瞳の色は、また元の茶色に変っていました。


「あ、本当だ!…点いたり消えたり、まるでロウソクの火みてーだな!」
「燃え尽きる瞬間が1番明るいってか?」
「おちょくってんのかあんたらァ!!?」
「けどよ、最初から魔法使やあ良いじゃねェか。そうすりゃ見ただけで全部解っちまうんだろ?」


然も不思議そうにゾロが尋ねます。


「…視ただけで解っちゃうからこそ、なるべく使いたくないの!特に、こんな曰因縁有りそな古い建物の中では!!悲惨陰惨極まれり歴史まで全て視えて知ってしまうなんて冗談じゃないわ!!」


御免こうむるとばかりに、顔を顰めてナミが答えました。


「そんな事言ってて、突然幽霊に襲われちまったらどーすんだよ!?戦えねーぞ!!」
「どうして私が幽霊と戦わなきゃいけないのよ!!?」
「そういや此処、幽霊屋敷だったんだよな…で、どんな幽霊が出るんだったか?」
「そうだナミ!!幽霊はいつ出て来んだよ!??」
「何よその登場を期待するよな口振りは!??……残念だけど、500年前死んだ人間の亡霊らしいから…今でも出るかは保証出来ないわ。」
「えええーー!!?もう出ねーのかァーー!!?」


心底残念そうなルフィの叫び声が、礼拝堂内に反響しました。


「…500年前迄この館を所有してた『ヘンリー・メイヤーズ』って男が居てね…当時或る美女と婚約中だったけど、式を目前にして、その美女から一方的に婚約を破棄されちゃったんだって。
 ヘンリーは捨てられたショックで気が触れて、その後館に独り閉籠り切りになってしまったの。
 …そして何時しか此処は幽霊屋敷と呼ばれ…噂によると夜中、ヘンリーの彷徨い歩く足音やすすり泣く声が、館中に響き渡るんだって。
 けど、もう500年も経ってんだし…いいかげん成仏してると思うわよ?
 事実未だに出て来る気配すら無いし…。」

「確かに…そんな理由で500年も彷徨ってるとしたら、ちょっと女々し過ぎるよな。」
「出て来てもすんげェ~~弱そうだよなァ~。ちぇ~、つまんねーのォ~!」

「…そんな訳だから、お宝一本に目的絞りましょ!…ルフィ!あんたの怪力で、この床に穴を開けて!」


落胆したムードを吹き飛ばすよう、ナミの明るい声が礼拝堂に響き渡りました。

「よし、任せろ!」と指令を快諾したルフィが、指示された床に跪き、固めた左拳にハァーッと息を吹き掛けます。


「はぁぁぁぁぁぁ…………」

「……ちょ…ちょっとルフィ!?…念の為言っとくけど、くれぐれも力は加減してお願――」

「――破ァァ!!!!!」


ナミの忠告を綺麗に無視し、ルフィは気合諸共渾身の突きを床に叩き付けました。

ドォォン…!!!!!と物凄い衝撃音が地を震わし、床全体にピシピシピシーッと蜘蛛の巣状に亀裂が走って行きます。


――ボゴォォオン…!!!!!!


「馬鹿ァァァァ~~!!!!!だから加減しろって…あんたには学習能力ってもんが無いのォォ~~!!!!?」
「いやァ~~悪ィ悪ィ♪ついノリで本気出しちまった♪」
「てめェもいいかげん、こいつを人類扱いしてんじゃねェよナミ!!!猿だぞこいつ!!同じ事2度3度4度5度と、兎に角飽きず懲りずに繰り返す奴なんだからな!!!!」


凄まじい勢いで崩落する床。

ギャアギャアと喚き罵り合いながら、3人は今宵再び真っ逆様に落下して行くのでした。




その8へ続】
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