瀬戸際の暇人

今年も偶に更新します(汗)

君は船の女神、僕はその船の大工 その4

2010年07月24日 13時03分22秒 | ワンピース






麦藁海賊団の新クルー、パウリーの朝は誰よりも早い。

薄靄立ち込める夜明け前から、前の船より数倍広くなった船内を、念入りに点検して回るのが彼の日課だ。

朝起きて――(中略)――グルリと見廻る。

この日も同じだった。




杖を支えに満身創痍の体を引き摺り、甲板へ向う。
風に靡く青々とした芝生を目にした途端、パウリーの体から力が抜け、その場にどうと崩れ落ちた。
手放した杖が、彼と同じく芝生の上に、ぱったりと身を投げる。
倒れた先には女が1人、朝陽の昇る方角を、一心に見詰ていた。

パウリーの胸に昨夜の屈辱が蘇り、沸々と女への憎しみが込み上がって来る。

あれから彼は一睡もしていないのだ。

女は今日も普段と変らず、下着の様な薄い布地の、丈の短いワンピースを着ていた。
潮風がヒラヒラと裾を弄り、彼女の白い腿を剥き出しにする。
募る憎々しさから、パウリーは女に聞えぬよう、悪態を吐いた。


「何時か飼犬に噛まれて泣きやがれっ」


直後――ゴォォン!!!と、彼の脳天に重い踵が突き刺さった。


「物騒な呪い吐いてんじゃねェよ!!まだ懲りてねェのか?クソ強姦魔!」


地にめり込んだ顔を起し、不機嫌を露に振り返る。
そこには何時の間に近付いたのか、彼に負けず劣らず不穏なオーラを纏ったサンジが立っていた。


「…だから冤罪だって何度言わせる気だ?俺はあの魔女に嵌められたんだ!…お蔭でハレンチ男の称号戴くわ、親にもされた事の無ェ辱めを受けるわで、男の面目丸潰れだぜ!呪いの1つも言ってやりたくなって当然だろっ!!」
「ああ、確かにな。あれほど魅力的な女(ヒト)だ…理性が欲望に負けて、ついフラフラと押し倒したくなるのも当然。男として、てめェの気持ちはよく解るぜ」
「言ってねェだろ、そんな事!!!いいよもう、お前!キッチン戻って味噌汁でも作ってろ!」
「生憎今朝はスープだ」
「スープかよ!?朝は味噌汁にしてくれって言ったろ!!」


ちっとも噛合わない会話に焦れてパウリーが喚く。
しかしサンジの右目は、半身を起して自分を睨むパウリーを通り過ぎ、夜明間近の海を眺めて立つ女に向けられていた。


薄暗かった水平線が、何時の間にか桃色に染まっている。
間も無く朱い陽が顔を出し、海上に黄金色の橋を架けた。
女のたおやかなシルエットが、男2人の下にまで伸びる。
存在に気付いて居るのか居ないのか、彼女は黙って海を見詰ていた。


「嗚呼ナミさん!!君は女神!!麗しき船の女神…!!」


突然サンジが、感極まったように両手を広げて叫んだ。


「天使じゃなかったのか?」

「女神で天使で天女で妖精なんだ!!ナミさんは!!」

「…だからもうキッチンに戻れって、お前」


最早コックの心は、パウリーには手の届かない天上の楽園に行ってしまっているらしい。
夢見がちな瞳の中には、雲の上を散歩する天使やら、花園を舞う妖精やら、人魚の泳ぐ泉やら…言葉で表現すればロマンチックであるけれど、要は裸の美女達の王国がそこには広がっていて、中心に建つ黄金宮殿の玉座には、きっとあの女が女神として君臨しているのだ、それも裸に近い姿で。

まともな会話が成立しよう筈も無い…今更に気付いたパウリーは、芯から空しさを覚えた。

せめてもの腹いせに、精一杯の皮肉をぶつけてやる。


「そんなに汚れ無き『女神』で居て欲しいなら、もっと『男』って生物を懇々と教えてやるんだな。残念ながら世に居て取り巻く奴等の殆どは、女神と違い清廉じゃねェ。知らせず居たんじゃ、何時か泣きを見せちまうだろうよ」


てっきりまた踵を落とされるかと身構えていたが、サンジは黙ったままで居た。

無言で内ポケットを探り、煙草とライターを取り出す。
そうして頬杖を突くパウリーの横へ来ると、だらしなく足を伸ばして座った。
パウリーもそれに倣い、体を起して胡坐を掻く。

彼の横で1、2度吹かした後、サンジは火の点いた煙草をナミに向けて言った。


「…ナミさんの左肩に、刺青が有るだろ?」


問われて「ああ」と頷く。

実はそれも「気に喰わない」ものの1つだった。
綺麗に産んで貰った体を傷付ける行為に、腹立たしさを感じていたのだ。


「あれな…以前は違う図柄だったんだ。その頃の彼女は刺青を隠して、袖の有る服を着てたんだぜ」


そこで一旦区切って煙草を吹かす。

ぷかりと浮いた煙が白い糸の様になって、後ろに流れて行った。


「で、俺たちと会って……今の刺青に変えたのさ」


それ以上サンジは説明しようとしなかった。

しかし話さなくても解る。

以前は隠していたという事は、その刺青は彼女の意思で入れたものではなかったのだろう。
それがこいつらと会ったのを機に、刺青を新しく彫り直し、以来隠さず居るようになったと…
言わば今の刺青は「呪縛からの解放」を意味している訳で…


思い起せばアクア・ラグナを越えようとした女だ。
思い起せばエニエス・ロビーに喧嘩を売った女だ。

「世間を甘く見ている小娘」だなんて、どうして考えたのだろう?
彼女も荒くれた大海を渡る、海賊の1人なのに。


いたたまれない気持ちになって、葉巻を1本取り出す。
透かさず脇からサンジが火を寄越した。
「ん」と軽く礼を示して、咥えた葉巻を近付ける。
吹かした葉巻の尻から煙が糸の様に棚引き、先行する煙と絡んで消えてった。

朱かった陽の光は黄金色に変り、前に立つ航海士の髪をも金色に輝かせる。


ふと仲間だった女の姿が、彼女の姿に重なって見えた。


「肌を露にしてられるのは、信頼している証と言うなら……」



――あの女も、俺を信頼してはいたのだろうか?



呟いたのを耳にして、サンジが怪訝な顔を向ける。
慌てて首を振り、「何でもねェ」と誤魔化した。
すると彼の態度を誤解でもしたか、サンジは牽制するかのように、こう口にした。


「ま、俺だって男だ、不埒な考えを持ってなくも無い。
 けど海の上で無体な真似は働かねェさ。
 彼女は海から愛される、船の女神。
 海の上で手を出したら、海神の怒りに触れて、船沈められちまうからな!」


ニヤッと笑う瞳は海と同じ蒼い色で、パウリーは「ああだからこいつはあの娘に御執心なんだな」といたく納得する。
きっと海神とやらの目も同じ色に違いない――そんな想像をしたりした。



仕事が済んだのか、前に立つナミが男2人の方を振り返り、明るい声を上げた。
それを合図にサンジが立上り、回転スキップしながら近付いて行く。

パウリーは胡坐を掻いたまま、片手を挙げて応えた。



海は空と陽を映して眩しく煌き、サニー号の1日は今日も始まる。





アイスバーグさん、元気にやってますか?

時々死に掛けたりもするけれど、俺は元気です。

この船の連中ときたら、毎日毎日船を壊してくれて、俺は一時たりとも気が休まりゃしません。

けど連中は笑ってこう言うんです。


『この船には女神が居るから大丈夫』


『女神が笑って居る限り、船は絶対沈みはしないんだ』ってね――





【終わり】



…「見え過ぎちゃって困るの」の続作っつうか、前作があまりにアレな出来だった為、リベンジの積りで書いた作品。(汗)
これに限らず、出来る事なら今迄書いた作品全部書き直したい…。
勿論書いた当初は「自分天才じゃん!?」なんて、自信たっぷり世に送り出すわけですが、時間が過ぎると共にその気持ちは先細りしてく。
そして「今だったらもっと上手く書ける!」という思いを募らせ、リベンジしてはまた先細りを繰り返し、結果同じ様な作品ばっかり増えるだけという。(汗)
ワンピ二次創作ならぬ、ワンパ二次創作である。

しかし二次創作してて面白いと思うのは、原作ファンにとっての本物は「原作」で在りつつ、ファンそれぞれに思い描かせると、それぞれ似て異なる世界を現出させる事と言うか…。
ファンにとってはルフィもゾロもナミもウソップもサンジもチョッパーもロビンもフランキーもブルックも、原作に登場する彼らこそ本物で独りしか在り得ない筈なのに、脳内から生れ出る者は原作で見られる彼らと微妙に違っておるのですよ。
つまり二次創作される毎に、原作世界とは微妙に異なる、パラレルワールドが現出してるって事で。
原作ワールドを核に、ファンが生出したパラレルワールドが、玉葱の様に幾重も取り巻いてる光景を想像すると、何やらSFチックでゾクゾク致しませんか?

ちなみにこの作品タイトルは、ジブリ映画「おもひでぽろぽろ」の主題歌、「愛は花、君はその種子」をもじって考え付きました。
特に意味無く何となく頭に浮かんだのですが(汗)…でもあれ、良い歌だと思いません?
「脳内でふとした拍子にかかる歌」マイベスト10入りしとるのですよ。


・2008年7月はにほへといろ様のナミ誕に投稿した作品。
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君は船の女神、僕はその船の大工 その3

2010年07月24日 12時09分33秒 | ワンピース






麦藁海賊団の新クルー、パウリーの夜は誰よりも遅い。

草木も眠る丑三つ時すら過ぎた頃、ランプの灯りを頼りに、船内を念入りに点検して廻るのが彼の日課だ。

いびきの煩い1階男部屋をスタートし、梯子を伝って地下1階格納庫へ下り、船底の具合を確かめた後は再び1階上ってグルリと見廻り、次に2階上って、女部屋で眠ってるだろう2人を起さないよう、静かに見廻る。
更に3階上ってグルリと見廻り、展望台に上った所で、その日の夜番と軽く挨拶を交わす。
そうして勤めを無事終えた後は、幾分沸かし直した残り湯に、ゆったりと足を伸ばして浸かる。

この日も同じだった。




波に揺られて湯舟の中まで細波立つ。
船の中で『舟』に乗るのも、考えてみれば愉快な話だ。
こんな体験は地に足を着けて生活してた頃には為し得なかった事。
身を削るような修羅場でも、時には良い事が見付るもんだ。
彼は己の発見したささやかな幸せに、しみじみと感じ入った。



――波に揺られて大浴場なんて夢みたい♪



ふと、乗船して直ぐに聞いた女の声が、頭の中に蘇る。



――湯舟が狭いのは嫌よ。洗い場も…大の字で寝っ転がれるくらい、広々~~と造ってねv



『のっけから遠慮無く我侭ぶつけて来やがって…!』


腹の中俄かに湧いた苛立ちを、彼は拳に篭めて湯面を叩き付けた。
窓から侵入し、ヒタヒタと湯に浮いていた月が、粉々になって散らばる。
煌く月光を一掬いして顔を洗うと、暫し落着いた心地を取戻せるよう感じられた。


思うに周りの男共がちやほや甘やかして、あそこまで助長させてしまったのではないか?
あのルックスだ、きっと幼い頃から皆に愛され、大切に育てられて来たのだろう。
そして幸運にも気の好い奴らと巡り会い…だがそれで良いのか?
男共と1つ船の中、年頃の娘がああも警戒心無く過して居て無事なものか?
親しい仲間だからって、牙を剥かないという保証は無いだろうに。



………胃の中に少しだけ苦い味が拡がる。



忘れようと再び勢い良く、湯でバシャバシャと顔を洗った。



その時だ、おもむろに――バタン!と、浴室の扉が開かれた。

湯気の向うにオレンジ色の髪の、白地にピンクの水玉ビキニを着た女が立っている。
口をポカンと開け、呆気に取られてるパウリーと目が合うと、女は悪戯っ子の様に笑った。
目の前現れた萌え漫画的光景を、彼は俄かには信じられず、蜃気楼かと疑る。

しかしその蜃気楼が――


「お背中流したげるわ、おにーさんv」


――と声を発した途端、パウリーは赤青赤青赤青とさながら信号の様に顔色を点滅させ、終いにはコウモリもびっくりするよな甲高い悲鳴を棚引かせた。


「アアアア~~~~アアア!!!
 アア~~~~ア!!!!
 アア~~~~~~~~~~~アア…!!!!」


「しぃぃっっ!!!大声出したら皆起きちゃうでしょー!?」


水濡れた床をピタピタ鳴らして駆け寄り、鳴き止まぬパウリーの口を塞ぐ。
彼の視界にナイスボリュームな乳と腿、それに括れた腰が、アップでいっぺんに飛び込んで来た。

湯に浸かる男の抵抗が益々激しくなる。
その様は水中の罠にかかってもがく水鳥に似ていた。


「ウムムムムゥ~~!!!ムムォムムムゥゥ~~!!!」


――バシャバシャ!!バシャバシャ!!


「『何しに来た、どうやって入った』って?――私、元泥棒だもん。昔取った杵柄で、大抵の鍵はチョチョイのチョイよ♪」

「ムゥ~~ムムムゥ~~!!!ムゥ~~ムゥ~~…!!!」


――バシャバシャ!!バシャバシャバシャ!!


「思うにあんた、女に免疫無くて、意識し過ぎなのよ。だから手っ取り早く慣れて貰おうと、裸の付き合いしに来たって訳!」

「ムォムォムォムォ~~~!!!?ムァゥ~~ムァムァムァァ~~~…!!!!」


――バシャバシャシャ!!バシャッ!!!


「本当は水着も着ない積りだったんだけど、流石にそこまでサービスしたげる義理は無いし、あんたも目のやり場に困るだろうし」


全く悪びれず答えるナミに、始めこそ焦り慄き困惑が勝ってたパウリーだったが、次第に憤りが身を占領して行く。
それが遂に喉から飛び出た所で、彼は己の口を塞ぐナミの両手を力いっぱい掴み、爛々と光る目で睨みつけた。

虚を衝かれたナミが、瞼をぱちくりと瞬かせる。

その無防備な表情に憎しみを募らせたパウリーは、低くドスを効かせた声で怒鳴った。


「…お前な…神経どうかしてんのか…!?女が男の風呂に侵入するなんてハレンチな真似、正気の沙汰で出来るこっちゃ――」


そこまで言いかけた所で、突然船がグラリと傾いた。

安定を崩したナミが、「きゃっ!!」と叫んで、背中から床に倒れこむ。
ナミの両手首を掴んでいたパウリーも、勢い湯舟から引張り揚げられる形となり、「うわっっ!!」と叫んでその上に倒れこんだ。

傾いた床の上を石鹸とシャンプーとリンスと空桶と風呂椅子がつつーーっと滑って行く。
それらが壁にぶち当たりカコーン!!と響く音で、2人は同時に互いの体勢を意識し――ピシッッ!!!と身を固めた。

パウリーの下には扇情的なビキニ姿のナミが、仰向けに転がっている。
ナミの上には素っ裸のパウリーが、ナミの手首を押え付け覆い被さっている。


僅か数cmの間を置いて、2人は暫し無言で見詰め合った。


湯気の篭る浴室内は、さながらミストサウナの如き蒸し暑さ。
汗と水が滲みて、ナミの肌身はすっかり濡れそぼり、桃色に染まっていた。
パウリーの金色の髪を伝う滴が、ナミのすべらかな谷間に雨を降らす。

秀でた額に濡れて貼り付くオレンジの髪、滑々の頬。
少し頭を下げれば触れそうな珊瑚の唇。

自分を見上げる澄んだ琥珀色の瞳から中々目が離せない。

それでもパウリーは己の唇を噛付けると、気力を振り絞って叫んだ。


「…あのな……お前は女で、俺は男なんだぞ…!!」


途端に、ナミの瞳が拍子抜けしたかの様に点となる。


「………だから?」


そんな事は見れば解ると言わんばかりに、彼女の視線が、日焼けして筋骨逞しい男の体を行ったり来たりした。


「だから…!!例えばもし俺が、このままお前を襲ったとしたら…!!」

「何?あんた、私を襲う積りなの?」
「積りな訳有るか!!馬鹿ガキッ!!!」
「じゃーもー何が言いたいのよ!?抽象的じゃなく解る様に喋って!!」


故意からではないといえ、男に押し倒されてる体勢に在りながら、ナミは強気に睨み返す。
自分の置かれた立場を省みないにも程が有る、ひょっとしてこの女、不感症なのではないか?
パウリーは最早どう説得したもんか、途方に暮れる心持がした。

それでも息を大きく吸って溜めると、地獄の赤鬼もかくやといった形相で、一気に捲し立てた。


「いいか、ガキ、よく聞けよ!!
 男ってのは氷の鎖で内に潜む獣を抑えてる!!
 熱を加えて加えて加え続けりゃ、鎖は融けて獣は解放されちまうんだ!!
 そうならないよう常日頃どんだけ理性を働かせてるか、お前は考えを巡らした事が有るのか!?
 獣に腹食い千切られたくなかったら、あんまり男を舐めてんじゃねェ…!!!」


言い終ってハアハアと肩で息を吐く。
鼓動を激しく打ち過ぎて、心臓が爆発しそうに思えた。

男の下で黙って言葉を聞いていた女が、俄かに身を震わせる。
震えは次第に増して行き、遂には弾ける様に、ケタケタと笑い出した。


「笑ってられる立場かっっ!!!」


両手首を握った手に、思わずギュウと力を篭める。

目を剥いて迫るパウリーに、しかしナミはびくともせず、朗らかな顔で答えた。


「そりゃ私は御覧の通り頗る可愛いし、男共の中に居て貞操を守れるのか、不安に思うのは解るけど…」
「何自分で可愛いとか言っちゃってんだよ!!?つか、お前意識してやってたのか!?もしかして…!!」


てっきりガキの無邪気さで仕出かしてる行動と考えてたのに、実は計算ずくの魔性が潜んでいた事を知り、パウリーの背中に冷たい汗の玉が浮んだ。

ナミは悪びれもせず、尚も屈託無い笑顔で続ける。


「けど心配には及ばないわ!この船に乗ってる限り、私の身の安全は保証されてるの。…良い機会だし、あんたに教えたげる。私に手をかけたら、どんな目に遭うのかを――」


直後、ナミの顔から天使の微笑が消え、代わって小悪魔な媚笑が現れた。

唐突な変貌にうろたえるパウリーの下で、ふうーーーーー…と大きく胸を膨らませる。
そうして限界まで溜めた息を一気に吐き出し、船内隅々まで響き渡る様な大声を上げた。


「キャーーーーー!!!!!誰か助けてェーーーーー!!!!!犯されるゥーーーーー!!!!!」


僅かの間も置かず――バタバタバタバタバタ!!!!と激しい足音が近付いて来た。
足音が大浴場の前で止ると同時に、勢い良く扉が開かれる。
中から、既に戦闘態勢を整えたクルー達が、血相変えて飛び込んで来た。


「ゴーカンマが現れたって!?無事か!?ナミィ!!」
「どうやって忍び込んだ!?この船に侵入するとは命知らずな奴だぜっっ!!」
「もう安心だぞナミ!!このウソップ様が駆けつけたからには一撃必殺一網打尽!!」
「俺のナミさんにおイタしようってクソ野郎は何処のどいつだァァ!!?」
「大丈夫か!?怪我させられたりしてないかナミィ!?」
「まだパンティーは下ろされてなくて!?」


ルフィがポキポキ指を鳴らして、ゾロが抜いた刀を閃かせて、ウソップがパチンコを構えて、サンジが緩んだネクタイを締め直して、チョッパーが救急箱を用意して、ロビンが着せる用の上衣を持って、浴場内に並び立つ。

勇ましく駆けつけた彼らだったが、しかし信じ難い光景を目の当りにして――ビキィィィン!!!!と身を硬直させた。

白地にピンクの水玉ビキニを着たナミを、全裸でマッチョな金髪男が押し倒している。
あろう事かその男は、この船のクルーの1人、パウリーだった。



浴場内に居る全員の時間が凍りつく。



しじまが支配する中で、天井から落ちる水滴の音だけが、ぴちょーーん!と響いた。



サンジがゆっくりと前へ出て、胸ポケットを探る。
ケースから煙草を1本摘み、口に銜えた。
ライターで火を点し、ふう……と息を吐く。
立ち昇った白い煙は、湯気と混じり合い、溶けて行った。


「…ようく解った。死ぬ積りだな、このクソバカ」


呟くや否や――クワッ!!!と物凄い勢いで、サンジの右目が開かれた。


「上等だあああ!!!!この俺が地下6,300km深くまで蹴り潰してやるから直ちに懺悔を済ましやがれっっ!!!!」


――ドン!!!!とサンジを取り巻き猛烈な火柱が立ち昇る。

その熱で浴場内の温度は一気に90℃まで上がり、湯舟の中の湯がボコボコと沸き立った。


「ああ…いや…これは違う!違うぞ、お前ら…!」


呆然と押し倒したままで居たパウリーが、漸く事態の急変を呑込み身を起す。
しどろもどろ弁解する彼を、ナミは下から突飛ばし、泣きながらロビンの元へ走って行った。


「…恐かった、ロビン姉さん!!…パウリーったら、嫌がる私を無理矢理押え付けて、『大人しくしろ!!抵抗したら容赦しねェぞ!!』って脅したのよ…!!」


ひしっっと縋り付くナミの体を、ロビンの両腕が優しく包み込む。


「まあ酷い…手首にくっきり痣が付いてるわ。か弱い女の子に暴力をふるって自分の意のままにしようなんて、男の風上に置けない卑劣な人ね」


ロビンのこの言葉に、パウリーを見詰る皆の目が険を増し、火柱は更に赤々と燃え盛った。


「パウリー!!!…オオオオレ、お前を見損なったっっ!!!」
「よりによってナミを押し倒すなんて、命捨ててるよなァ~~」
「ま、或る意味、漢らしいとも思えるけどな!」
「あばよ、パウリー。短い間だったけど、楽しかったぜ」

「ち…違う!!違う違う違う!!!俺はそのハレンチ女にハメられてっ…!!――ってかお前らっ!!俺が悲鳴上げた時は無視してスヤスヤ寝てたクセに――」
「黙れ強姦未遂野郎!!!…全裸でナミさんを押し倒した時点で、てめェの罪状は確定してんだ!!!この…クソ・ハレンチ船大工っっ!!!」


――ビシィィッ!!!と鋭くサンジが指を突き付ける。


指されたパウリーの体から、いっぺんに血の気が失せた。


「麦藁海賊団血の掟第1条、『ナミさんを泣かす者には死、有るのみ』――そうだな!?ルフィ!!」


サンジがルフィの方を振向いて叫ぶ。

フられたルフィはニッと凶悪な笑みを引き、右拳の親指を下に向けて裁きを下した。


「死刑!」


その宣告を受け、ウソップが鞄からゴングを取り出し、カーン!と鳴らした。




「さあ始まりました、ルフィ海賊団名物、『オシオキ・スタジアム』!!
 実況は私、8千人のファンを抱えるナイス・ヒーロー、ウソップが務めさせて戴きます!!
 さて本日の生贄、あいや悪漢レスラーは、航海士ナミを手篭めにしようとしてお縄を頂戴したバカヤロウ、『全裸マン・パウリィ~~~~』!!!
 対するは我らが性戯のエロコック――おっと!!そのサンジが紹介を待たずに蹴りかかってくぞ!!
 クー!!キュイソー!!ジャレ!!――流れる様な連続キックだ!!!
 全裸マン堪らずダウン!!!――しかし息をも吐かせず上空からポンポコドクター・チョッパーが刻蹄クロスを仕掛ける!!
 ――決ったァ~~~~!!!全裸マン、最早立上れないかァァ!!?

 解説のルフィさん、今の技は実に綺麗に決りましたね!!」

「んあ~~~、しかしこのまま一方的じゃあ、盛り上りに欠けてつまんねーなァ~~~」

「仰る通り、このまま一方的な展開が続くようでは、ただイジメてるだけに思えて、私共も甚だ寝覚めが悪いっ!!
 此処は一発全裸マンに奮起を促したいぞっ!!
 立上れ、全裸マン!!君の力はその程度か!?今こそ必殺のロープ・アクションで、悪魔帝国復活の狼煙を上げろ!!
 嗚呼しかし、悲しいかな彼は全裸!!モザイク無くして闘う丸腰の戦士!!
 これはちょっと分が悪いにも程が有るかァ~~!?――おっとそこへ次なる魔手が忍び寄って来たぞ!!
 言葉通り襲い来る手!手!手の群れが、ダウンした全裸マンの首に肩に腕に脚に、さながら彼の武器である縄の如く、彼をがんじがらめにして離さない!!
 そして更に現れた2本の手が――おあっと!?これは何処を…一体何処を狙っているんだ、デビルフラワー・ロビン!!
 よもやまさか××××に行っちゃうか!?そこはヤバイぞ流石に死ぬぞ、再起不能は間違い無いぞ!!
 幾ら強姦未遂罪といえど、私、同じ男として同情を禁じ得ません!!」

「やめろォ~~~てめェ!!!!おお女が男のそんな所を掴むなんてハハハハレンチ極まりないと思わねェのかコラッ…!!!」

「あら、だって此処が諸悪の元でしょ?もう2度と悪さを働かせない為にも、引っこ抜くべきじゃない?」


大層怖ろしげな事を微笑みながら言うロビンに、パウリーだけでなく他男共まで顔面を蒼白に変える。
誰も彼も己の××××を押え、同情を篭めた眼差しで、パウリーの××××を見守った。


「やっちゃえ、御姉様!!引っこ抜けー!!」
「…お前な…そろそろ良心が痛まねェのかよ…?」


1人エキサイティングな声援を送るナミに、隣に座るゾロがさも呆れた顔で咎める。
その言葉を聞いたナミは、きょとんと目を丸くさせ、ゾロを見詰返した。


「どうして私が良心を痛めなくちゃいけないの?別に悪い事何にもしてないのに」
「嘘吐け!その水着は一体何の真似だ?あいつの言う通り、お前がハメたんだろ?」


詰問を受けたナミは、悪戯がバレた子供の様に、舌をぺロッと出して笑った。


「獣を飼い馴らすには最初が肝心って言うでしょ?この船の中で誰が1番立場が上か、体で覚えて貰わないとねv」


それを聞いたゾロは渋面を作り、大仰に溜息を吐いて見せた。


目の前ではパウリーが××××を握られ、苦悶の形相でもがいている。
悪魔女の処刑がいよいよ始まったらしい。

広々とした浴場内に、パウリーの断末魔が、途切れる事無くこだました。





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君は船の女神、僕はその船の大工 その2

2010年07月24日 12時08分24秒 | ワンピース






カッカッカッとリズミカルな音を立ててチョークが踊る。
掘りごたつ席に座る男クルー5人の前には黒板が設置され、そこにはこんな風な議題が書かれていた。


『題30回 朝ミーティング
 議題:ハレンチ航海士の服装を正す方法を皆で考えよう』


黒板の前に立つパウリーが、他男達の顔を見回して言う。


「それじゃあ今回こそ有意義な会議を目指したいと思う…異論は無ェな?」


問われたのを受けて、奥席に独り座るルフィが、すっと手を伸ばし意見した。


「有る。その前にメシ食わせろ」

「よし!なら始めるぞ!」
「有るって言ってんだろ!!!無視すんな葉巻ヤロー!!!」


己の意見を封殺するパウリーに対し、ルフィはテーブルを激しく叩いて抗議した。
その打音に負けず劣らず、彼の腹から出る音が重ねて抗議を示す。


「つくづく喧しいキャプテンだな。俺だって腹減ってんだ。早く飯にしたいなら尚の事、会議をスムーズに進行させるよう努めたら良い」

「…もう30回も同じテーマで話し合ってるじゃねェか。いいかげん諦めようぜェ、パウリー」


あくまで会議を進めようとする司会役に、ウソップが疲れた顔で意見する。
そうしてテーブルに手を伸ばすと、真っ赤に熟したリンゴを1つ掴み、口いっぱいに頬張った。
リンゴは会議中の空腹を癒す為、サンジが用意した心尽くしだ。
勿論ルフィは逸早く自分の分を平らげ、他の奴らの分まで隙をついて奪う気で居た。(←それを予見され、独り奥の席に座らせられた)


「ひーひゃへーは、はへはほんははっほうひへひょうは。…ナミが好きでやってるカッコだ、好きにさせてやれよ。一緒に過してる内に、お前だって目が慣れて来るって」
「甘いぞ、ウソップ」
「うん、確かに甘いな、このリンゴ」
「そうじゃない、考えが甘いと言ってるんだ!…お前ら、『ブロークン・ウィンドウ理論』と言うのを知っているか?」


チョークをコツコツと黒板にぶつけながら問うパウリーに、一同揃って「知らねー」と首を左右に振る。
それを見て、パウリーはまるで教師の如く、黒板に図を描いて説明した。


「或る街に、1台の、フロントガラスが割れた車が捨て置かれた。
 次の日、その車に、びっしりと落書きがされていた。
 更に次の日、落書きは周囲の道路にまで拡大していた。
 更に更に次の日、道路を埋め尽くした落書きは壁をも埋め尽くし…何時しか街はスラムに変貌した。
 
 たった1台の廃車が街の風紀を破壊する…恐ろしいと思わねェか!?
 同じく、たった1人の服装の乱れだと放っておけば、船全体の風紀が乱れる事態にまで発展するんだ!!――解ったか!?」

「…海賊に風紀を乱すなと説かれてもなァ~~」


話してく内、パウリーは徐々にエキサイトして行く。
そんな彼に、ウソップは途方に暮れた顔してツッコんだ。

ウソップの正面に座るゾロが、彼同様にリンゴへ手を伸ばし、シャリッと音を立てて齧る。
甘酸っぱい芳香を辺りに漂わせつつ、ゾロはポツリ呟いた。


「露出狂なんだよ、あの女」

「『ろしゅつきょー』?何だ、それ??」


隣に座るチョッパーが、無邪気な顔で尋ねる。


「人に裸を見せたくてしょうがない病気だ」

「病気!!?ナミ病気だったのかァァ!!?」


慄いて叫ぶチョッパーの前、ウソップがすっくと立上り、ゾロの言葉を継いだ。


「ああ!!なんて美しいの、私の自慢のバスト!!
 ああ!!なんて美しいの、私の自慢のヒップ!!
 ねェ見て…皆、私の美しい体を見て!!
 もっと穴の開くほど見詰てェ~~~ん!!!」


裏声で身振り手振りリンゴを交え、ウソップがクネクネと踊る。
それを見て正直者のルフィが「オエッ!!気色悪っっ!!」と感想を述べた。


「…とまァ、こんな病気だ。現代社会の歪みが生んだ、心の病と言えるだろう」


素に戻ったウソップが、席に着き実しやかに言う。
そうして胸からリンゴを取り出すと、再び大口開けて齧った。
シャクシャクという歯切れの良い咀嚼音が辺りに響く。


「…そんな恐ろしい病気が有ったなんて……早く治療してやらなきゃ!」


根っから素直なチョッパーはすっかり真に受け、顔面蒼白になって叫んだ。


「残念だがな、チョッパー。お前にこの病気は治せねェ」


しかしゾロはそんな彼に、非情な宣告を投げ付けた。


「オオオレには治せねェのかァァ!?」
「お前だけじゃねェ、誰にも治せやしないだろう」
「ゾロの言う通りだ。露出狂とは不治の病なんだ」
「エエエーー!?不治の病ィィーー!?」
「ナミのヤツ、そんな恐ろしい病気に罹ってたのか!?何とか助けてやんねーと!!」
「ダメだルフィ!俺達にはただ…見ているだけしか…!」
「そうだな…せめて皆で見守って居てやろう」

「…ってお前ら、仲間を肴によくもそこまで…ちったァ真面目に議論しやがれっっ!!」


何処までも脱線し続ける4人に、遂にパウリーが切れる。
黒板をバンバン叩いて怒鳴るそこへ、今迄黙って考え込んでいたサンジが手を挙げて発言した。


「皆、ちょっといいか?聞いて貰いたい話が有るんだ」

「どうした?勿体付けて…」


平時には見せないシリアス顔で訴えるサンジに、皆の注目が集まる。
彼の様子に、薄くは無い期待を持てたパウリーは、速やかに発言を求めた。


「俺なりに、この議題を真剣に考えてみたんだが――ナミさんって、天使なんじゃねェかな?」


「「「「「はァァ???」」」」」


予想だにしなかった答を受けて、5人の顔がハニワに変る。
しかしサンジは全く表情を崩さず、真剣に言葉を続けた。


「そう、彼女は天使…輝く美貌を天の女神に嫉妬され、地上に落とされた最後の天使なんだ。

 天使は衣を纏わない。
 
 汚れ無き体を隠さず居るのが自然だ。

 だから彼女は極めて薄い衣を好んで――」

「おいドクター、こいつ病気だ。早く治してやれ!」
「ダメだよパウリー、オレには治せない!!サンジのそれは不治の病なんだ!!」


己の空想に陶酔し切りポエムを呟くサンジを、パウリーに顎で指し示され、しかしチョッパーは哀しげに頭を振り、さじを投げた。


「よし!腹も限界だし、そろそろ決を採って終らせよーぜ!!」


此処で漸く己のポジションを思い出したか、ルフィが勇んで立上る。
そうして右手をすっと上に伸ばすと、皆を見回して叫んだ。


「ナミが今みてーなカッコでも良いと思ってるヤツ!!」


ルフィに倣い、パウリー以外の男共の右手が、すっと挙がった。


「むしろ足りねェ!いっそ素っ裸で居りゃー良いと思ってるヤツ!!」


再び、パウリー以外の男共の右手が、すっと挙がった。


「…OK!お前らの気持ちは解った!!――これにていっけんらくちゃく!!メシにすっぞー!!!」
「待て待てちょっと待て!!まだ全然問題解決してねェってのに、勝手に終らしてんじゃねェよ!!!」
「うるせーな多数決で『ナミは裸で構わねェ』って意見纏まっただろ!!?見てーヤツと見せてーヤツとで、じゅよーときょーきゅーが成り立ってるんだからいーじゃねーか!!!それよりメシだメシ!!!サンジ、一刻も早くメシにしろ!!!」
「ふざけんなてめェ!!!何が需要で供給だァァ!!!俺が言いたいのはそういう事じゃなくて…!!」
「お前の意見なんて知ったこっちゃねェ!!!今最も大事なのは、俺の腹が減って死にそうって問題だ!!!だから早くメシ食わせろ!!!これは船長としての命令だっっ!!!」


無理矢理会議の終了を迫るルフィに、パウリーはロープを振り回して抑えにかかる。
しかし空腹メーターを振り切ったルフィは止らない。
気圧されて皆のガードが緩んだ隙をつき、両手を伸ばして籠を奪うと、中のリンゴを全て丸呑みにしてしまった。
ウソップとチョッパーの口から悲鳴が上がる。


「ギャ~~!!!ルフィがオレのリンゴ食ったァ~~~!!!」
「俺のリンゴまで…!!てんめルフィ!!腹減ってんのは自分1人だけじゃねェんだぞ!!!クルーの食いもんに手を出すなんて、船長としてやっていい事だと思ってんのかクラァァ!!!」
「メヒメヒ!!!…シャクシャクシャク…メヒ!!!…シャクシャクシャク…メェ~~ヒィ~~~!!!!」
「ダメだ!!空腹で我を忘れてやがる…!!おいコック、早いトコ飯を此処に持って来て…!!」
「そんな事より俺のナミさん論の続きを聞いてくれねェか?これからが重要かつ山場なポイントなんだって」
「寝言は朝飯済ませてから10時のオヤスミ時間に独りハンモックの上で呟いてろ破裏拳ポエマー!!!」
「なんだと藻草剣士!!!聖書よりも尊い教えを説いてやろうってのに断るとは不信心な奴めっっ!!!」

「…あの…だから、ちょっ……1度位まともに会議させてくれよ、お前らァァ~~~!!!!」


騒ぎから置いてけぼりにされたパウリーの叫びが、部屋に空しく響き渡った…。





「――とこんな風に、今日のミーティングも、何の収穫も無く終了しそうよ」


男部屋でひたすら会議が踊ってるその頃、一方の女部屋では、ロビンが能力を使って耳にした男達の会話を、逐一ナミに報告していた。


「…あいつら全員、後で死刑!」


ソファにゆったり身を沈めて報告を受けたナミが、残酷な裁きを宣言する。
向いのソファに座るロビンは、それを聞いて愉快そうに微笑み、ティーカップに口を付けた。
つられてナミも、カップに入った香り高い紅茶で、喉を潤す。
そうしてテーブルに手を伸ばすと、綺麗にカットされた兎リンゴを1つ、フォークで刺して口元に運んだ。
温かい紅茶と兎リンゴは、男共が会議してる間の空腹を癒す為、サンジが用意した心尽くしだ。


「ほんっっと毎朝毎朝…いいかげんにして欲しいわ!」


シャクッとリンゴが音を立てた途端、ナミの周りに爽やかな芳香が飛び散った。


「後数分もすれば、強制終了の末、朝ご飯に呼んで戴けるんじゃないかしら」


空腹も重なって苛立つナミに、ロビンが宥めるよう言う。
甘酸っぱい水菓子を味わい、一瞬だけナミの表情が和んだ。
がしかし、直ぐに元のしかめっ面に戻って、愚痴を続ける。


「…大体さ、私だけじゃないでしょう?ロビンだって露出したファッション、しょっちゅうしてんのに…何で私ばっか…!」

「乗船して最初の頃は、私にも言って来てたわよ」

「へー、それで?今はどうして言われなくなったの?」


ロビンの告白を聞いたナミは、僅かに身を乗り出して先を促した。


「『今度気を付けるわ』って、適当にあしらってる内に、言われなくなっちゃった」

「あー……成る程」


「ふふふっ」と薄く笑い、大人の余裕を見せるロビンに、ナミの肩がガクリと落ちる。
少しだけパウリーに同情の念が湧いた。


「まだ堅気だった頃の気分が抜けないんでしょ。その内慣れるわ」

「……そりゃまー、まともに相手する私にも、問題有るんだろうけどさー…」


呑気な態度を崩さないロビンの前、背中で摺って一層深くソファに身を沈める。

天井で揺れるランプを見詰ながら、ナミは独り言の様に呟いた。


『慣れぬなら、慣らしてみせよう、ほととぎす……少し荒療治が必要かしら?』





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君は船の女神、僕はその船の大工 その1

2010年07月24日 12時07分14秒 | ワンピース
※これは、もしもW7編でフランキーではなく、パウリーが仲間に加入してたら~を想像して書いた話です。






麦藁海賊団の新クルー、パウリーの朝は誰よりも早い。

薄靄立ち込める夜明け前から、前の船より数倍広くなった船内を、念入りに点検して回るのが彼の日課だ。

朝起きて1階男部屋をスタートし、梯子を伝って地下1階格納庫へ下り、船底の具合を確かめた後は再び1階上ってグルリと見廻り、次に2階上ってグルリと見廻る。
2階のキッチンを見回る途中、船で2番目に早く起きるコックのサンジと軽く挨拶を交わし、更に3階上ってグルリと見廻る。
そうして勤めを無事終えた後は、芝生が敷かれた甲板座って朝の一服。

この日も同じだった。





                   【君は船の女神、僕はその船の大工】

                                



冷えた海風が帆を鳴らし、青々とした芝生を撫でる。
葉巻の尻から出る煙が、糸の様に靡いて消えて行った。




アイスバーグさん、元気にやってますか?

俺はまあまあ、元気にやってます。

地に足の付かない生活にも、大分慣れてきましたよ。

皆の代表を買って、この船の行末を見届ける覚悟でW7を出てから…今日で丁度1ヶ月ってトコですか。

その間俺は、毎日朝夜丹念に船を点検して廻るのがクセになっちまいました。

そんな俺を、あなたは心配性だと笑うだろう。

けど決して大袈裟なんかじゃないんです。


乗船してからこっち、破損箇所を見付けない日は有りません。

今朝なんて甲板上の芝生に、ミステリーサークルが出現してたんすよ!

一体あいつら、俺が寝てる間に何してやがったんだ!?

放っといたら前の船同様、1年もたずに過労死させちまう。

俺達が丹精篭めて造った船を……物を大事にしないにも程があるぜ!


もう1つ、実は気に喰わない事が有ります。

それは――




薄暗くもやってた海は、何時の間にか黄金色に輝いていた。
刻々と昇って行く朝陽に目を瞬かせながら、声には出さずパウリーはモノローグし続ける。
その彼の背後で足音が近付いて止り、階上から明るい女の声が響いた。


「お早う、パウリー!毎朝点検お疲れ様!」


溌剌とした声につられて振り返り、彼も朗らかに挨拶を返そうとする。

しかしその顔は、女のあられもなく露出した肩と胸と腿を認めた途端、ビシッと音を立てて静止した。



「ぬあああああああああああああああ~~~~!!!!!」



天高く、雲を切裂く男の絶叫で、サニー号の1日は今日も始まる。





「まったくてめェって女は毎日毎日毎日毎日…どんだけ注意すれば、そのハレンチなカッコを改めるってんだ!!!」
「あーもー毎日毎日毎日毎日…あんたこそ、どんだけ文句タレれば厭きるってのよ!!?乗船してから彼此1ヶ月も経つってのに、未だ慣れないの!!?」
「慣れてたまるか!!!なんだそのカッコは!!?まるで下着、いやきっぱり下着だろ!!!スリップじゃねェか!!!年頃の娘がスリップで人前出て、はしたないと思わねェのか!!?」
「何その言い草!!?あんた私の父親!!?どんなカッコしようが私の自由でしょ!!!見たくなければ目隠しして見なきゃいいじゃない!!!」
「てめェのカッコは限度を超えてて目に余るんだよハレンチ女!!!ふしだらなカッコでウロウロしてて、突然お客が訪ねて来たらどうすんだ!!!」
「海上に居て、何処から何の用事でお客が訪ねて来るってのよ!!?馬鹿じゃないのあんた!!!訪ねて来るものと言えば嵐に海獣海賊海軍、そんな相手を正装で出迎えたってナンセンスでしょーが!!!」
「物の喩えだ察せよバカヤロウ!!…兎も角、何人にも不快な気持ちを抱かせぬよう服装には気を配る、これが世間の常識ってもんだろォが!!!」



「…海賊相手に常識を求められてもな。」
「毎日毎日毎日毎日ヘコたれず御苦労さんっつか…。」
「お蔭で目覚ましの必要無いわね。」
「それでもルフィは寝てるけどね。」


言い争ってる2人を遠巻きに、ウソップ・ゾロ・ロビン・チョッパーはヒソヒソと言葉を交わす。

目覚めの絶叫、その後甲板上で繰り広げられる熱闘スタジアムは、最早彼らにとって日常の光景、すっかり習慣化していた。

職人気質で女に免疫の無いパウリーにとって、ナミの過度に露出したファッションは、あまりに刺激が強いらしい。
朝な夕なに顔を合せちゃ、止せ止めろハレンチな年頃の娘なら少しは身を慎めと、さながら頑固親父の如く口を酸っぱくして説教する。
されるナミも大人しく黙ってる性分じゃないから、その都度相手になって、結果朝から晩まで喧しい。

もっとも喧しいのは元からで、言い争ってるだけなら、特に問題は無いのだが…



「…そろそろ止めようぜェ。でねェとまた更に厄介な奴がしゃしゃり出て来る。」


階段を陰に激論の行方を見守っていた4人の内、ウソップが重い腰を上げる。

欠伸吐き吐きノロノロと止めに入るも、しかし1歩間に合わず、彼の横をぎゅんと風が横切って行った。


「ナミさんにチョッカイ出してんじゃねェよクソ船大工!!!!」


――ドゴォーーン!!!!――バキメキッ!!…ボキッッ…!!!


背後から炎の蹴りを喰らったパウリーの体が、10秒ほど宙を舞った後、ブランコの木に引っ掛って墜落する。
その際ブランコが重度の損傷を負ったのを見て、チョッパーが「ギャー!!!ブランコがっっ!!!」と悲鳴を上げた。


「……だっ…誰が誰にチョッカイ出してるだと…!?エロコック…!!」


体にブランコを引っ掛けたまま、パウリーが呻く。
蹲る彼の前、サンジはツカツカと歩み寄り、持ってるフライパンを突き付け叫んだ。


「人が朝飯の準備に忙しい間を狙って近付くとはコスイ野郎だ!!!新入りのクセに生意気だぞっっ!!!」
「チョッカイなんか出してねェ!!!服装を注意してるだけだと何度言えば解るんだ、おピンク野郎!!!」
「なァにが『注意してるだけ』だ!!!服を褒めて会話の切っ掛け掴もうって魂胆見え見えだっつうの!!!」
「いやだから褒めてねェだろ!!!節穴か、てめェの目は!!?ちゃんと両目開けて見やがれよ!!!」
「何言ってやがる!!俺ほどナミさんを観察してる男は居ねェ!!!何時如何なる時でも照準はナミさんにセット!!!人呼んで『ナミさん・ムーブ・アイ』!!!」
「…ちょっとあんた達、さっきから微妙に会話になってない。」
「まったくだ!!!真面目に会話する気無ェんなら、キッチン戻って卵でも焼いてろ!!!言っとくが俺は目玉焼きで頼む!!!」
「そう言って体良く人追っ払って2人っきりになる積りだろ!!?その手は喰わねェ!!!そして目玉焼きだな、承知した!!!」



「流石はコック、見事に火に油を注いだ。」
「しかもガソリンね。」
「オレのブランコ~~~~。」
「こりゃ今朝も朝ミーティング決定だな。…ルフィの奴暴れるぞォ~~~。」


この先の展開を読んだ4人が、げんなりと溜息を吐く。

外野の憂いを他所に、パウリーはやおら勢い良く立上って吠えた。


「だあああ!!!もう埒が明かねェ!!!――おい野郎共!!!朝飯前に話し合っておきたい事が有る!!!全員速やかに男部屋へ集合、ミーティングを執り行うっっっ!!!!」


声の衝撃で、彼の体に絡んでたブランコが、カランと音を立てて落ちた。





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