【その3へ戻】
夜更けに話を終えた4人は、カウンター奥に有る梯子階段を使って2階に上り、更に奥の梯子階段を使って3階屋根裏部屋に上がりました。
そこは元々食糧貯蔵庫でしたが、今ではルフィとシャンクスの寝室に充てられていました。
2人の元寝室だった2階のマキノの隣部屋が、シャンクスの膨大な研究資料に埋め尽くされ、立ち入り出来なくなった為です。
身を屈めたマキノが、ランプで屋根裏部屋を照らします。
真っ暗な中に、鮮やかな花模様がペイントされた、箱型のベッドが浮び上がりました。
その横にはベッドとテーブルスペースを仕切る本棚が――もっとも本は並んでなく、エキゾチックな焼き物や人形、鉱石等が雑然と収納されてましたが――置いてあります。
テーブルと椅子は木製で、折り畳むと壁や棚にぴったり収納可能な様でした。
「3人横になるには手狭だけど、その分くっ付いて寝られて寒くないと思うわ」
マキノがベッドをランプで指し示して言います。
「こいつらと…くっ付いてェ…?」
ルフィ・ゾロとお揃いの白い寝巻きを着せられたナミは、ベッドの中を覗き込んだ後、マキノに向い殊更嫌な顔をして見せました。
「そりゃ私、形は子供だけどさ…立派な大人の女よ!なのに男2人と一緒に寝ろってェの?」
「ええ!子供同士仲良くお泊り、きっと楽しいと思うわよ♪」
「だから私子供じゃないって…千年生きてる大人だって言ってるのに…」
あくまで子供扱いを止めない彼女に、ナミは言葉を失くして頭を垂れてしまいました。
そんな彼女の横からゾロが嫌味をぶつけます。
「逆ならいざ知らず、若く見て貰ってんだから素直に喜べ、婆ァ!990歳近く鯖読むなんて、お世辞にしたって難しいんだからな、婆ァ!」
「口の減らないガキねェェ!!終いには1晩冷たい床の上に転がすわよキウィ頭!!」
「今夜は3人一緒にベッドで眠るのかァ!しししっ♪早く寝ようぜっ♪」
首根っこを掴み掴まれ揉める2人を他所に、ルフィが早々とベッドに飛び込みます。
壁際を陣地に取った彼は、上機嫌でマキノに言いました。
「しばらく独りで寝ててつまんなかったんだよな!どうせならウソップも誘えばもっと楽しかったのに!」
「あら!これ以上ライバルを増やしていいの?ルフィ!」
無邪気にはしゃぐルフィに、マキノがにっこり笑って返します。
1人意味を解したナミだけが、頬を赤く染めました。
「へ?ライバルって、何の――」
「ちょっとルフィ!!あんた何勝手に場所取ってんのよ!!」
目をきょとんと丸くして尋ねるのを遮り、ナミが叫びます。
被ってた布団を勢い良く剥がされたルフィは、口を尖らせて言い返しました。
「だって俺、いつもこっち側で寝てるし!」
「先ずお客様に伺いを立てるのがマナーってもんでしょ!?」
「そうか、解った!じゃあナミはどこで寝たいんだ?」
「私は……壁側か外側が良いわ」
「ゾロは?」
「俺も壁側か外側を希望するな」
「なら俺は壁側、ゾロは外側で、ナミは真ん中だな!」
「何でそうなるのよ!?」
「だってゾロ、寝相すんげー悪いんだぜ!隣で寝たら、け飛ばされて安眠出来ねーもん!」
「俺もルフィの隣は勘弁だな。蹴飛ばされて床に落ちるのは目に見えてる」
「私だってあんた達に蹴飛ばされるのは嫌よォォ!!」
寝場所を巡って侃々諤々大いに揉める3人に、マキノはジャンケンで決めるようアドバイスしました。
彼女の立ち合いの下、5回勝ち抜け勝負を行った結果――ルフィは壁側、ゾロは外側、ナミは真ん中に決定したのでした。
マキノがランプを持ち帰った後、部屋は真っ暗闇に包まれました。
ベッドに入って暫くは3人ボソボソと、時折喧嘩を交えて喋っていましたが、騒ぎ疲れた反動から、2人の少年はあっさり眠りに就いてしまいました。
左右から轟々と響く鼾が、真っ暗な中で存在を主張します。
2人の間で眠るナミは、指で耳栓をしたまま、窓の有る方へ顔を向けました。
暗闇の中、窓を塞ぐ木戸がガタガタ揺れている気配を感じました。
2人の目を覚まさないよう、静かに半身を起こします。
途端に家を押し潰さんばかりに迫って聞える風の音。
窓を開ければ猛烈な吹雪が舞い込む事でしょう。
体を伸ばして指を1本ベッドの外に出してみました。
窓から部屋に吹き込む冷たい風の通り道を感じます。
急に寒さを覚えたナミは、眠る2人の間に身を縮こませました。
触合う肌から伝わる熱で、心細さが解けて行きます。
鼓膜が破れるほど轟く鼾にも、不快さを感じなくなっていました。
信頼する人と寄り添って眠る幸福――それは彼女が千年生きて来て、初めて知るものでした。
――違う。初めてじゃない。
頭の中で記憶を呼び覚ます声が聞えます。
耳を澄まそうとしたその時、左から彼女の顔に――ゲンッ!!!と蹴りが入りました。
「ぐえっ…!!!」
思わず口からヒキガエルに似た悲鳴を漏らします。
あまりの激痛に、目の前で火花が散って見えたその時、右からも彼女の脇腹目掛けて――ドゴッ!!!と蹴りが入りました。
「ぐおぅっ…!!!」
またもや激痛からくぐもった悲鳴を漏らします。
両サイドで眠る2人はしかし、悲鳴に全く気付きません。
リズムを乱す事無く奏でられる寝息に、怒りが沸々と沸いて来ます。
「…やっぱ信頼なんて出来ない……して、たまるかァァ~~~~…!!!」
夜中なのも構わず絶叫し、やおら半身を起こした彼女は、それでも安らかな寝息を立てている2人の頭目掛けて、渾身の拳を振り下ろしました。
【続】
夜更けに話を終えた4人は、カウンター奥に有る梯子階段を使って2階に上り、更に奥の梯子階段を使って3階屋根裏部屋に上がりました。
そこは元々食糧貯蔵庫でしたが、今ではルフィとシャンクスの寝室に充てられていました。
2人の元寝室だった2階のマキノの隣部屋が、シャンクスの膨大な研究資料に埋め尽くされ、立ち入り出来なくなった為です。
身を屈めたマキノが、ランプで屋根裏部屋を照らします。
真っ暗な中に、鮮やかな花模様がペイントされた、箱型のベッドが浮び上がりました。
その横にはベッドとテーブルスペースを仕切る本棚が――もっとも本は並んでなく、エキゾチックな焼き物や人形、鉱石等が雑然と収納されてましたが――置いてあります。
テーブルと椅子は木製で、折り畳むと壁や棚にぴったり収納可能な様でした。
「3人横になるには手狭だけど、その分くっ付いて寝られて寒くないと思うわ」
マキノがベッドをランプで指し示して言います。
「こいつらと…くっ付いてェ…?」
ルフィ・ゾロとお揃いの白い寝巻きを着せられたナミは、ベッドの中を覗き込んだ後、マキノに向い殊更嫌な顔をして見せました。
「そりゃ私、形は子供だけどさ…立派な大人の女よ!なのに男2人と一緒に寝ろってェの?」
「ええ!子供同士仲良くお泊り、きっと楽しいと思うわよ♪」
「だから私子供じゃないって…千年生きてる大人だって言ってるのに…」
あくまで子供扱いを止めない彼女に、ナミは言葉を失くして頭を垂れてしまいました。
そんな彼女の横からゾロが嫌味をぶつけます。
「逆ならいざ知らず、若く見て貰ってんだから素直に喜べ、婆ァ!990歳近く鯖読むなんて、お世辞にしたって難しいんだからな、婆ァ!」
「口の減らないガキねェェ!!終いには1晩冷たい床の上に転がすわよキウィ頭!!」
「今夜は3人一緒にベッドで眠るのかァ!しししっ♪早く寝ようぜっ♪」
首根っこを掴み掴まれ揉める2人を他所に、ルフィが早々とベッドに飛び込みます。
壁際を陣地に取った彼は、上機嫌でマキノに言いました。
「しばらく独りで寝ててつまんなかったんだよな!どうせならウソップも誘えばもっと楽しかったのに!」
「あら!これ以上ライバルを増やしていいの?ルフィ!」
無邪気にはしゃぐルフィに、マキノがにっこり笑って返します。
1人意味を解したナミだけが、頬を赤く染めました。
「へ?ライバルって、何の――」
「ちょっとルフィ!!あんた何勝手に場所取ってんのよ!!」
目をきょとんと丸くして尋ねるのを遮り、ナミが叫びます。
被ってた布団を勢い良く剥がされたルフィは、口を尖らせて言い返しました。
「だって俺、いつもこっち側で寝てるし!」
「先ずお客様に伺いを立てるのがマナーってもんでしょ!?」
「そうか、解った!じゃあナミはどこで寝たいんだ?」
「私は……壁側か外側が良いわ」
「ゾロは?」
「俺も壁側か外側を希望するな」
「なら俺は壁側、ゾロは外側で、ナミは真ん中だな!」
「何でそうなるのよ!?」
「だってゾロ、寝相すんげー悪いんだぜ!隣で寝たら、け飛ばされて安眠出来ねーもん!」
「俺もルフィの隣は勘弁だな。蹴飛ばされて床に落ちるのは目に見えてる」
「私だってあんた達に蹴飛ばされるのは嫌よォォ!!」
寝場所を巡って侃々諤々大いに揉める3人に、マキノはジャンケンで決めるようアドバイスしました。
彼女の立ち合いの下、5回勝ち抜け勝負を行った結果――ルフィは壁側、ゾロは外側、ナミは真ん中に決定したのでした。
マキノがランプを持ち帰った後、部屋は真っ暗闇に包まれました。
ベッドに入って暫くは3人ボソボソと、時折喧嘩を交えて喋っていましたが、騒ぎ疲れた反動から、2人の少年はあっさり眠りに就いてしまいました。
左右から轟々と響く鼾が、真っ暗な中で存在を主張します。
2人の間で眠るナミは、指で耳栓をしたまま、窓の有る方へ顔を向けました。
暗闇の中、窓を塞ぐ木戸がガタガタ揺れている気配を感じました。
2人の目を覚まさないよう、静かに半身を起こします。
途端に家を押し潰さんばかりに迫って聞える風の音。
窓を開ければ猛烈な吹雪が舞い込む事でしょう。
体を伸ばして指を1本ベッドの外に出してみました。
窓から部屋に吹き込む冷たい風の通り道を感じます。
急に寒さを覚えたナミは、眠る2人の間に身を縮こませました。
触合う肌から伝わる熱で、心細さが解けて行きます。
鼓膜が破れるほど轟く鼾にも、不快さを感じなくなっていました。
信頼する人と寄り添って眠る幸福――それは彼女が千年生きて来て、初めて知るものでした。
――違う。初めてじゃない。
頭の中で記憶を呼び覚ます声が聞えます。
耳を澄まそうとしたその時、左から彼女の顔に――ゲンッ!!!と蹴りが入りました。
「ぐえっ…!!!」
思わず口からヒキガエルに似た悲鳴を漏らします。
あまりの激痛に、目の前で火花が散って見えたその時、右からも彼女の脇腹目掛けて――ドゴッ!!!と蹴りが入りました。
「ぐおぅっ…!!!」
またもや激痛からくぐもった悲鳴を漏らします。
両サイドで眠る2人はしかし、悲鳴に全く気付きません。
リズムを乱す事無く奏でられる寝息に、怒りが沸々と沸いて来ます。
「…やっぱ信頼なんて出来ない……して、たまるかァァ~~~~…!!!」
夜中なのも構わず絶叫し、やおら半身を起こした彼女は、それでも安らかな寝息を立てている2人の頭目掛けて、渾身の拳を振り下ろしました。
【続】