何年ぶりだろうか、竹下さんにお会いできたのは。ほんとにコロナ禍は長く、大きな災いをもたらしたと思う。今年の3月か4月頃にも来日して講演会をなさったはずだが、入院中の身だったので行けなかったのは無念。今回は2回、講演というより軽いトークの会が開催された。来春に出版される本の内容にそった話になるらしい。初回のトークの日は、訪問診療の日で行けず、2回目の日仏会館の方に出席した。
竹下さんの集いは、これまで参加者が女性9割ぐらいの印象であったが、今回は7対3、もしくは6対4ぐらいの構成であった。開始が18:30だったので、仕事終わりの男性陣が参加しやすかったのかな。学生風の若い男性もいたし、フランス人らしき男性が2名も出席していた。やはり恵比寿の日仏会館というロケーションが影響していたのであろうか・・。
前置はさておき、今回のテーマは「それでもなぜ、フランス人は日本が好きなのか?」というテーマ。竹下さんの本の出版に携わっている、編集の丸山さんという女性が進行役。もはや半世紀もフランスで生活なさっている竹下さんから、ちょっとユーチューブ・コンテンツ風の興味深い話が聴けたのは新味だ。
竹下さんは、細身の黒いパンツ、素敵なシャツの上に、白地に黒がランダムに流れるように配色されたジャケット風の装い。髪を深いブラウン色に染めていて、ちょっと三、四本の線が走るように、白い感じの明るめの茶色を差し色で染めている。パリ近郊に住む竹下さんならではの、フランス的エレガンスを感じた。小生より一つ年下とはまったく思えない若々しさ。か細く優しい話し方は、フランス語で話したならば、なお更に磨かれた知性を感じさせるのであろう。
そう、話のとっかかりは、なぜフランス語を始めたかということからだった。大学受験は、1968年東大紛争の翌年、東大文三に現役(‼)で合格したのだが、これで年齢はばれているが、竹下さんはそんなことは気にかけない。フランス文学部ではなく教養学部ドイツ語学科だったというのが面白い。高校の頃には、ゲーテやヘッセを原書で読んでいた感じで、なによりも外国語を学ぶことが好きでNHK語学講座の英語、ドイツ、フランス、スペイン語にも親しんでいたという。
小生からすれば雲上のお嬢様。こちとら東大受験を高校1年で諦めた口だが、もし入学できていたとしたら一浪だから同年生で一緒だった。ただし学内で会ったとしても、薄汚れたアナーキストの風体の輩、気味の悪さで歯牙にもかけられなかったはずだ。
当時、教養学部では、ドイツ語を学ぶ方が難しくて格上という評価があったらしい。詳しい事情は分らないが、有名なフランス語の先生が、優秀な竹下さんを見込んで、ドイツ語からの転入をすすめられた。で、ドイツ語学科の厳格で重々しい雰囲気からフランス語科に移ったら、「なんか軽い感じでしたね」との印象に、場内にどっと笑いがあふれた。すかさず「フランス好きの皆さんはお洒落でしたよ」と、そして「日仏会館でこんな話はアレですけど・・」へと進んだところで、この集いが一気に和んだ。
明治維新の開国より、フランスには日本人に対する偏見はなく(そもそもフランスは人種差別が希薄)、むしろ長崎に隠れキリシタンがいるという事実が明るみになり、パリのカトリック宣教会が長崎に派遣したほど、日本人への好感度はあったという。
日本が例外的な躍進で欧米諸外国の列強と軋轢を生むようになっても、ジャポニズムの隆盛や日本人画家らと文化的な交流もあり、竹下さんの言葉でいうと「歴史的に低ストレスな関係」だった、と。もちろんそれは、一部の特権階級的なフランス人が日本びいきではなく、時代を超えてすべての階層の人たちが、日本人にシンパシーを持つ傾向があったからだという。
マンガやアニメのサブカル分野でも、現代フランスの若者たちの日本への憧れを募った。その背景には、多民族国家となったフランス型の普遍主義、つまり自由や友愛の精神がそうした日本ブームを支えている感もあるという。異国籍家族も多く、宗教的な帰属意識がなくなりつつあるなかで、日本はある種の共感覚を持ちやすい国なのかもしれない。
むかし竹下さんがフランスに留学中にたまたま入った映画館で、何かニュース映像だったのか、アメリカの戦艦に神風特攻機が突っ込んで大破したシーンがあった。それを観たフランス人たちは拍手し、快哉をさけんだという。竹下さんの著書に『アメリカにNoがいえる国』があるように、多くのフランス人は反アングロサクソン気質がある。英仏戦争でジャンヌダルクが登場したように、フランスはアングロサクソンとは歴史的に反りが合わないのだ。
もっといろいろな深い話もあったのだが、記憶力が減衰しているこの身にとって、さらに精確にトークの内容をなぞるのはつらい所行となる。このあたりで止めにして、関心のある方は来春に出版されるご著書をお読みいただきたい。
最後に質疑応答、質問なさったのはすべて男性であった。定刻の時間を過ぎてしまってからで、3,4人で終わりに・・残念。
自分としては、フランス人の中国観・中国人に対する感じ方がどうなのか、それは日本人とのどんな差異があるのか聞きたかった。フランスには中国文化への深い理解と教養をもつ人々が一定層いると知っている。中国と張り合うというのではなく、まさかサブカルだけで日本びいきが不滅だとはいえまい。
アングロサクソン系の国々に、飼い犬のように追随する日本は、経済のみならず文化的にも迷走ぎみというか、生産力・発信力が弱まっていくものと思われる。まあ、小生のフランスびいきは死ぬまで維持していく所存。やはり自分の目で確かめたいという希望、いや野望はもっていたい。
今回は日仏会館に初潜入。そこのギャラリーが会場であったのだが、フランスの高貴な雰囲気に気後れしたのか、舞い上がってしまったのか、場内の写真を撮ることを忘れてしまった。そうした行為をする人も見かけなかった。会場の様子だけでも伝えたかったなあ。またの機会にということで・・。
会館は、恵比寿ガーデンプレイスのお膝元にあり、広尾方面側、地図上では北東の位置にある。写真美術館にはよく来たガーデンプレイス、その広場のベンチに座り、付き添いで一緒にきてくれた妻としばし今宵のトークの印象を語り合った。そのときに会場の写真を撮り忘れたことに気づき、思い出づくりにガーデンプレイスの夜景をおさめた。
はじめまして、ですかね?
西ヨーロッパを周遊するために、5か国の言語を学ぼうなんて、ちょっと凄いですね。志しが高すぎて、真似できません。
グローバリゼーションの浸透で、今や英語全盛ですから、私なんかこれ一択です。でも、流暢に話すことはまだ無理です。
こんど、コツみたいのがあったら教えて下さい。
なんか色々やっていると、元気が少しずつですが湧いてくるんです。
よろしくお願いします。 à bientôt
それらは、英語と似ている単語がたくさんあり、スペルだけ見ると、どんな意味なのか ⁈ 、とりあえず想像はつきました。
が、問題は、発音でした。
フランス語は、返事と挨拶くらいで殆ど通じませんでした。
結局、終いには英語で話してしまいました。すると、相手も英語で話してくれましたが、発音がフランス語っぽい英語で何回も繰り返して言ってもらいました。
それにくらべると、イタリア語とスペイン語は、現地で片言ですが、ちゃんと通じました。
スペイン語に関しては、意味は全く違うのですが、日本語のサウンドとよく似ている単語が、幾つもあってビックリ!
また、イタリア語人とスペイン語人が話す英語は、とても聞きやすかった事を思い出しました。
やはり、どこの国の言葉でも継続して勉強していないと、すっかり忘れてしまいます。
ただ、英語には、男性名詞、女性名詞、その変化などが無いので挫折せずに続けられるのだ! と感じました。
小寄道様の最近のブログを拝読し、ずいぶんお元気になられたように思い、非常に嬉しくなりました!
そして、とても献身的な奥様だと想像ができ、 tres bien !
Sekkoさまのお話は、時間を忘れるほど楽しく、身になるものでした。雰囲気もよかったので、写真を撮ることにも気づきませんでした。
中国との関係、ブログに書かれていたように、パリ宣教会を嚆矢にアジア人に対して、宣教というより純粋な好奇心のほうが旺盛といった感じですね。
確かにフランスには、母国の圧制や差別から逃れた多くの人々がアジア人種がたくさんいて、才能ある人は誰でもリスペクトされています。
フランス経由の中国人アーティストが日本で凄く支持されるケースも多い。
そんなユニバーサルな志向というか、普遍主義的な考えになかなか至らない。それが日本の実情でもありますし、アメリカ一辺倒で良しとする考えで安住してしまう。日本人の島国根性、そんな感じですかね。
ともあれ、日本での滞在をどうか満喫して、次のご著書、ブログの執筆にも励まれるようお祈り申し上げます。
ありがとうございました。
フランス人の中国人観ですが、偶然11日にUPされるブログの予定稿に、中国への宣教師のことが書いてあります。パリ外国宣教会の宣教師たちはみな冒険心、好奇心に満ちた人でした。で、中国にも、領土的野心はなく、他の宣教会や欧州人の中国窓口として現地でVISAを発行するなどに入国に関する経済的利益を独占していたそうです。
今のフランスにおける中国人への視線ですが、中国の経済力を見て子供に中国語を習わせるなどプラグマティックな家庭もあります。今のフランスの中国人や朝鮮韓国系などの移民はクメール・ルージュにカンボジアを追われて亡命してきた華僑などが多く、みな以前の韓国の軍事政権や今の中国の独裁政権などに反対の立場が基本ですから、反日教育もされていなくて日本人にも親切な人が多いです。でも、華僑はやはり共同体内結婚が多かったですね。でも子供に高等教育を受けさせる親がほとんどで、金銭的にもフランスはほぼ無償なので可能で、学歴があれば普通に受け入れられます、というか、尊敬されます。
というわけで、日仏比較論の本の中には他のアジア人のことにも触れていますのでどうぞ。