吾が棲む町は、通称「谷根千」といって今や都内でも有数の、街歩きの人気スポットになった。作家森まゆみさんが主宰した、コミュニティ誌のタイトルが由来。谷中と、根津、千駄木を包括した名称で、食べ歩きの楽しさや見どころがより広く、深くなった感じだ。 (湯島、日暮里にも客足は伸びている)
コミュニティ誌は残念ながら廃刊になったが、名前は独り立ちして、今やこの「YANESEN」は外国にも知られているらしい。それほどの人気ゆえに、様々なお店が次々と生まれている。その一方では、いつのまにか消えていく店も意外と多い。長く住んでいると、その辺の様子がわかってくる。見るからに「マーケティング不足」あるいは「情緒的経営」なのだ、と私はおもう。
なかには2,3年でたたむ店もある。当てが外れたというのか、力足りずというのか、残念な結果というしかない。いや、むしろダメージは少なく、早く見切ったことは幸いだったかもしれない。5,6年なんとかやりくりし、儲けられず、その日暮らしの商売で口で糊するよりもましといえる。他人様のことゆえ口出すことはないのだが・・。
「谷根千」エリアに人々が集まるといっても、基本的には土日に限定される。だから、なんでもない平日にいかにして客を呼ぶか。わざわざ足を運んできてもらう、何かしらの工夫、話題、逸品(安くて良いもの)がないと勝負にならない。店のロケーションも大切な要素だが、人通りの少ない露地であっても、評判を聞きつけてわざわざ足を運んでくる、何か。
そんな繁盛店は、かならず目玉がある。どこにも真似できないノウハウがある。いい素材を仕入れる独自の人的資本、ネットワークを築いている。で、すこぶる繁盛し、二代目にまで引き継がれる。繁華街に支店をだす例もある。老舗は「新店」の当て字という説あり(しんみせ→しにせ)。いつも店を新しくしているような工夫、品出し、改装を代々にわたって絶やさない。京都で生まれた言葉というが、さもありなんと思う。
しかし、なんの取り柄はなくても、努力と根気を絶やさず続けることが一番か。継続は力なり、信頼だ。もちろん、みなさん努力してるだろうが、それがカタチになって現れないと、客には認められない。行き交う人の目にとめてもらうインパクト。看板、商品ディスプレイ、店先のパフォーマンス(店主の笑顔、売り子の愛嬌・元気な挨拶etc.)などなど。近頃は、立体のオブジェともいうのだろうか、彫刻とか人形があると目に留まる。
この谷根千エリアにも、いくつかそういう店があって、近頃またそんな店が増えている。
こういうオブジェは店先の「アイコン」として、かなり人を惹きつけるものだ。アイコンの語源は、キリスト教の「イコン」つまり聖像・聖画である。下町のアイコンは、イエスやマリア様の気高さは似合わない。人目を惹きつける、ある種の「派手さ」が求められるとおもう。
「派手」の語源は、三味線の弾き方の「本手」から派生した「破手」からきている。正統的な弾き方ではなく、華やかに、賑やかに弾くことを「破手」と、江戸時代にいわれていた。その後、この「破手」を「派手」と当て字して、遊郭のことをさすようになったそうな。「今日は、派手にいきましょうや」というのは、その昔、華やかに遊びましょうであるが、そのものずばり「廓」に行こうということであった。余談が過ぎたか・・。
日曜日、外へでれば、町中の往来が人だかりであろう。今日はのんびりと家で本を読んだり、ブログを書いたりしている。今月は多産だった。
しかし、このような平和な安穏とした日常を過ごせるのも、今のうちかもしれない。
▲諏訪台通り、朝倉文夫彫塑館に行く途中に忽然とできた。ハーブ茶の店でギャラリーも併設。このカピバラは存在感あるが、中のフクロウもなかなか。27日までなのか・・。制作者の若い女性に話をお聞きした。たぶん芸大出身の方だろう、知性的かつ優雅な話しぶり。また、お会いしたい。
▲千駄木、旅館澤野屋の近くだったか。この店も新しくお目見えした。SFチックなオブジェで、未来的な「派手」がある。バッグ専門店だろうか、バッグ関係の専門店は谷根千にも多い。素材・品質・デザイン・価格などの点で優れたものあるやなしや。人を呼び込むオブジェという点ではよし。
▲雑貨・アクセサリーのお店だと思う。私には縁がないし、妻もこの類には興味を失くしている。ただ、この看板オブジェは、温もりと存在感がある。全体として穏やかで、アートの雰囲気があり好感をもった。「派手」と「質素」がバランスよく調和されている。今どきの若い人のセンスは凄いとおもう。
▲かなり古い理容店だが入ったことなし。写真には写っていないが、60年代懐かしプラスチック人形多し。子供が泣かないように、店主が集めたのであろう。その心配りが素晴らしい。千駄木、よみせ通りからの脇道。
▲近所の古道具・骨董屋「ジャングル」。委託販売の店。売りたいものがあれば、期間限定で店に陳列させてもらえる。店内は6畳二間ぐらいのスペースであるが、品数はもっとほしい。というより、他人様の預かりものゆえ店独自の目玉がない感じ。私は瀬戸物のドアノブをオブジェとして買ったことがある。骨董通の方が見たら、掘り出し物を発見できるかもしれない。ちょっと弄りたくなるような、いい器はあったが・・。