今年も 祖谷山に師走がやってきました。
おじいさんと、おばあさんも 野良仕事をしながら、今年もつつがなく
大晦日を迎えようと していました。
庭先には 相変わらず無駄吠えをする、老犬ゴンタ。
対岸の在所にあるお屋敷が、時折、ピカッと光っておりました。(祖谷八景でした)
氷柱の垂れ下がる、軒下には 夏のお土産のスズメ蜂の大きな巣が、くっついておりました。
夕飯を終え、囲炉裏に座る、はんてん姿のおじいさんと、おばあさん。
パチパチと 小枝が燃えながら、ススが茅葺きの天井に 舞い上がっておりました。
『じいさんよ~あれじゃわ、今日蕎麦打ちしよっての、隣のネエサンが
わたしにいそげえな事、言うんぞよ』
「また、なんぞ、いらんこと、聞いてもんたんこ~何を聞いたんなら~」
『上の在所のおおてらの息子、おろがえ、息子って言うても、60過ぎのおっさんになっとるわの』
「おお、知っとるわ、千葉へ、いとるわの~日出夫の近くにおって
さいさい、遊びに来るって、言よったわの~」
『それよ、その息子がの、じいさんの親父の子供じゃないんかって
隣のネエサン、言うんぞよ、おぶけるわ~』
「ごじゃ言うのうや、なんでおらんくの、親父の息子って言うんなら
親父怒って、化けてでてくるぞ~!」
『それがの、わたしゃあんまり見かけたことないきに、わからんのじゃけど
隣のネエサン、何十年ぶりに見たんじゃとっ、ほしたら、ここのじいさんと
おんなじ顔しとったんじゃと!隣のネエサンも、どしてお他人さんが、こんがに似とんだろ?
と思うて、考えてみたら、ここのじいさんが、あれよの、それよ、わたしゃ、もう 言わんぞよ
くわばら、くわばらじゃわ~』
「親父もなんと、やるのうや~」
おじいさんは、囲炉裏に枝を折って入れながら、血圧の薬を飲んでおりました。
「明日は、城二も、日出夫も、もんてくるんこ?どんがに いよった?」
『もんて来るって、いよったけんど、その今、いよった、大寺の息子も一緒に、
乗せてもどるっていよったわ~大寺の息子は、嫁さんおらんけん、一台で三人で
もんて来るって、城二がいよったわ~』
「嫁さんや、子供らは今年は戻らんのこ?」
『それよ、今年の正月にもんて、寒うて、いんで風邪ひいたんじゃと
ほんで、便所がおとろしいんじゃと、便所が外にあるけん、気持ち悪いんじゃと~
まっこと、しもの嫁さん貰うたら、なんちゃあ話にならんわ~
嫁さん貰うた時は、飛び上がるびゃあ、うれしかったけんど
嫁さん貰うて、息子は嫁に取られて、情けない話じゃわの~』
「ばあさんのビチビチ言うのも、治らんのうや、はよ、寝えよ
明日はみな、もんてくるんだろが~」
『さきに寝るわの、じいさん、火種、消して寝えろよ~ケーぷルテレビ、ピカピカしもって
火に気をつけえって、役場のひと、いよったぞよ~ほんならおやすみなして~』
……
……
隣のネエサン、しゃべりじゃのうや
オラは 前から 日出夫に聞いて 感づいとったわ…日出夫が なんで 気が合うんだろ?
顔も他人のに、似とるって 言うたわ…
まあ…しよないわ…こんがな 話は ようけ あるわ……
ばあさん ネザへ、いたら、やれやれじゃわ、おなごしは、ウルサイ…
何が嫁に息子、盗られるなら?わがだって、おんなじこと しよったじゃないこ…
まっこと、わがは なんちゃあ 思わんのじゃの」
あくる日、大晦日
雪の午後
千葉ナンバーのNBOX+(ナビ付き)が
庭先に 停まった。
老犬ゴンタ
慌てて 犬小屋に 隠れる
氷柱溶けずに、がんばっている
(茶の木も、ガンバッタ)
おじいさん、
慌てて 庭先に出る
NBOXから 降りる
城二 日出夫
大寺の息子~~!
おじいさん
その 並んだおんなじ 垂れ目の顔を見て
山々に 絶叫~!
『まっこと、似とるのうや~うま合うしで
もんてきたかえ~!!!!!』
もんたぞよ~♪
草 々
(豚じゃないよ~♪)