高知で暮らす、叔母さんの(ヴヴヴ星人)が また入院した。
入院する前に、亡くなった父親や夫の話ばかりを、繰り返していたと言う。
マンションから見える、工事中のレッカー車を指差しながら、娘に言う。
『じいさんの、墓あそこにしよんぞよ』
『じいさんの葬式、みな、来てくれとったか』
『みなに、お茶だしてくれたか』
娘は必死になって、説明する。
「じいやんは、とうに、死んどろ~母ちゃん!しっかりしなや~」
叔母さんは、また部屋に、引き込もって、ベッドで横になる。
幻視も 増えた。
見えない誰かと 大きな声で話してる。
そうかと 思えば いつもの叔母さんに 戻る。
私がある日、一晩中 嫌な夢を見た朝、従姉に電話をかけた。
叔母さんは 夕べ突然、調子が悪くなって、夜中 ずっと起きてて、
従姉も その夜は、叔母さんが逝ってしまいそうな、不安にかられたと言った。
九十一才。
その叔母さんの 脳裏を占めているのは、孫でも娘でもなく、
『生まれ育った生家』
だった。
ある日、娘にポツリと言ったと言う。
『母ちゃん、帰るわ…樫尾に帰るわ…』
叔母さんの生家には、だれも残っていない。
甥の方も 数年前 若くこの世を去り、そのお嫁さんも身体を壊されて
香川の息子さん夫婦の家から、通院されている。
『母ちゃん、帰るわ…樫尾に帰るわ…』
その話を従姉から 電話で聞いた時、
涙が 止まらなかった。
幼少期、両親の愛に抱かれて 過ごした生家での時間が、80年以上の時を駆け抜け
ふいに 甦ってきたのだ。
覚悟は出来ている。
もう 永くは ないだろう。叔母さんの手を握りながら、ただ 涙が溢れてくる。
マンションに駆けつけた時、叔母さんは往診の点滴の管に繋がれて、眠っていた。
「キビシイなあ…目を醒ましてくれるかなあ?」
看護師の姪に 尋ねた。
姪は 大きな声をかけながら、叔母さんを起こした。
「ばあちゃん、わかる~菜菜子ネエが来てくれとるよー!」
『おおー菜菜子か~いつ来たんなら~』
そう言うと、また ウトウトと眠った。
叔母さんは、半日位 寝ていた
従姉は、お刺身なら もしかして 大好きだから、食べるかもしれないと言って
夕方、お刺身を夕飯に 準備した。
叔母さんを起こして、ベッドに座らせて、
お刺身を差し出して上げた
……
……
食った
ご飯も
食った
……
ついでに 焼き鳥も
一本 完食した
そして また 横になった
「三年寝太郎」の
昔話が ふと 頭をヨギッタ。
叔母さんは 明くる日、
無事に 入院した
命 いのち イノチ
今 温もりが ある命
今 一緒に笑える 時間
今 この世に ある命
もう少しだけ
一緒に 居たいと思う
もう 誰一人
見送りたくは ないから。もう 惜別の涙は
流したくないから
我が家の親戚の全ての仏様
叔母さんを連れていかないで。
三年寝太郎 三年寝ヴヴヴで 良いから
ワタシを 泣かさないで下さい。
合 掌