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象が転んだ

たかがブロク、されどブロク

良くも悪くも、アメリカ寄りの戦争物語〜「ミッドウェイ」に見る戦争映画の限界

2021年04月19日 06時03分33秒 | 映画&ドラマ

 ”勝者も敗者も海に全てを捧げた”というサブタイトル(邦題)に惹かれて、レンタルした。
 見終わった感想は、半分は面白く半分は裏切られた感で一杯だった。

 ミッドウェイ海戦については、ヒストリーチャンネル(CS)で大まかな事は知ってはいた。
 今更、史実がどうだこうだとは言いたくはないが、ここまでアメリカ寄りに描かれると、文句の1つも言いたくなる。
 CGで派手にかつ精密に描かれた戦闘シーンは大迫力で満足できるレベルにはあったが、日米両軍兵士の肝心の繊細な人間ドラマや絶妙な駆け引きのパーツが終始間延びしてしまい、途中で退屈になった。
 結局、ローランド・エメリッヒ監督作品の致命的欠陥である、大味なだけの作品に終止した様にも思える。

 しかし、”ミッドウェイ”を知らない世代は、その殆どがこの大作に感動と衝撃を覚えたかも知れない。しかし、史実を知り尽くしてる連中からすれば、肝心な部分が陥没してる様に思えた事だろう。
 事実、「ミッドウェイ」(2019)は批評家からの賛否両論があったとされる。
 映画批評集積サイトのRotten Tomatoesには141件のレビューがあり、支持率は48%で、平均点は10点満点で5.23点となっている。
 サイト側による批評家の見解を要約すると、”「ミッドウェー」は現代の特殊効果によりバランスのとれた視点で有名な物語を再訪するが、その脚本は褒められたものではない”となっている。因みに、Metacriticには28件のレビューがあり、加重平均値は47/100となっている(Wiki)。


でも何かが足りない?

 戦争映画の生命線とされる”史実再現性”の編集についてだが、日本海軍の艦船については戦艦大和を始め、空母赤城・飛龍など機動部隊に随伴する多数の大小艦艇が登場し、対空機銃の形状にいたるまで、その殆どが一部の例外を除き、忠実に再現されている。
 これは、製作スタッフ達に心から感謝すべきである。
 本作中で米航空部隊があり得ない角度からの見事な急々降下爆撃で日本空母を仕留めるシーンが立て続けに登場し、観る者を感動と興奮の淵に追い込む。しかし実際には、当時の米軍パイロットの技量は拙劣で、緩降下爆撃しかできなかったとされる。
 また、日本海軍の航空参謀は敵機は追っ払えると思っていたが、たまたま米軍の雷撃機が来襲していて、護衛の零戦がそっちへ行ってしまい、空中がガラ空きになってる所に、幸運にも米軍の急降下爆撃隊が到着して成功しただけとの声もある。
 更に、残った空母飛龍の攻撃隊が米空母ヨークタウンを撃沈した場面がない(作品では大破しただけだが、その後撃沈されている)。
 このヨークタウンの撃沈はミッドウェイにて、日本海軍唯一の成果とも言えるから、忠実に再現してほしかった。

 この映画が”アメリカ寄り”というのは、アメリカ軍の描写は非常に繊細で濃密に描かれ、対する日本兵の描写は非常に稚屈で平坦に描かれてた印象を受けたからだ。
 両軍とも”フラットに描かれてた”と評価されているが、お世辞にも平等とは言えない。
 ”勝者も敗者も海に全てを捧げた”を言うんであれば、日本軍の描写についてはもっと工夫を凝らすべきだったろう。これじゃ”敗者だけが海に身を投げ捨てた”となる。
 それでもエンドクレジットは見ごたえがあった。でも、ただそれだけであった。


最後に〜ミッドウェイは必要だったのか 

 タラレバじゃないが、真珠湾ではなくアメリカ海軍太平洋艦隊の真の拠点であるサンディアゴを奇襲してたら、「ミッドウェイ」は本物の戦争になってたであろうか?
 しかし、大艦隊を率いてサンディアゴに攻め入る事は物理的に不可能である。事実、真珠湾奇襲ですら、5500kmもの長距離を40日かけ、60隻の大艦隊で移動するなど正気の沙汰ではない。普通なら敵の哨戒活動に見つかり、連合艦隊は全滅していた。まさに運が良かったのとアメリカの油断が生んだ奇跡でもあった。
 それに、そもそもミッドウェイ海戦が必要だったのか?という意見もある。その上、具体的なプランもなく中途半端に攻め込み、自ら墓穴を掘った感が歪めない決戦でもあった様にも思える。

 確かに、この映画を見ていて、このミッドウェイ海戦が本当に必要だったのか?決戦と呼べるのか?を再認識させられた感じがした。
 戦争には敵味方関係なく、人間同士の絶妙なドラマが必ず存在する。それを無視しては戦争は語れないし、この戦争映画は単なる勝者の視点から見ただけのCGを駆使した再現フィルムに過ぎない様に思えた。
 勿論、記録映画ならそれでもいいが、今まで語られる事のなかった「ミッドウェイ」を知りたかった。

 因みに、山本五十六は言われてるほど智将でもなかったし、英雄でもなかった。一部には愚将という声もある(「山本五十六は凡将か愚将か?」も参照)。
 一方で、アメリカは単に運が良かっただけとの声も多い。そういう意外に伝えられてはいない、負の側面も描いてほしかった。



4 コメント

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真珠湾からサンディエゴ (tokotokoto)
2021-04-21 14:00:01
何かで聞いたけど
アメリカ軍参謀の多くは日本海軍が再び真珠湾を攻撃し、そこを拠点として米本土のサンディエゴに攻め込むと予想してたらしいです。

でも山本はその裏をかき、手薄なミッドウェイに攻め入った。戦力的に圧倒的不利とされたアメリカ海軍だが、実際はそんなに変わりはなかった。むしろ潜水艦20艘を用意してたアメリカが有利ではなかったか。
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tokoさんへ (象が転んだ)
2021-04-21 17:45:53
実際には様々な要素が複雑に絡んでたんでしょうが。奇襲が二度とも成功する保証はどこにもなかった訳で、結果的にはお互いに中途半端な決戦になったような気もしますね。
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おじゃまします (ピロEK(piro-ek0324))
2021-07-03 14:06:50
おじゃまします。
私のブログの「ミッドウェイ」の記事にコメントをいただき、ありがとうございます。
https://blog.goo.ne.jp/piro-ek0324/e/c5bd4e6ff4f58cb9510152d5ee1e9d8c?st=0#comment-form

私とほぼ同じように感じられているようで、何か安心させていただきました。

こういう史実(しかも近い時代)ものは表現が難しいのでしょうが、なんか違う感と、公平なのかそうでもないのかも煮詰まっていない感じは受ける映画でした。

では、また来させていただきます。
今後ともよろしくお願いいたします
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pikoさんへ (象が転んだ)
2021-07-03 16:59:25
嬉しいですね。わざわざ訪問してくれたんですね。本当に嬉しいです。
私もCGに見とれて借りたんですが。言われる通り、史実を忠実に再現するのは無理ですよね。
でもあそこまで日本海軍を無能のように描かれると、少し腹も立ちますが、これがアメリカの日本に対するイメージなんですよね。
同じ日本人をバカにするのなら、「猿の惑星」のほうがずっと公平ですよね。
こちらこそちょくちょくお世話になります。
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