前回”3の3”では、オイラーが発見した”無限和”の考察であるオイラー積(表示)が、ギリシャ時代の素数物語をゼータ関数に結びつけ、ディリクレのL関数と素数の考察を経由し、如何にリーマンに結びつけたかを述べました。
そこで今日は、再びオイラー積に舞い戻り、このオイラー積表示がどうやって、素数階段を上り詰めていったのかを問い詰めていきたいと思います。
”リーマンの謎”ブログ”その2”(全18話)では、主に素数の謎と素数定理について書きました。
特にゼータ関数はオイラー積を有してるからこそ素数分布を表示できるのであり、もしゼータ関数がオイラー積を持ってなければ、素数との関係もありませんでした。
しかし、”ゼータ関数=オイラー積”というオイラー積表示の両辺の対数微分を取る事で、階段関数(素数階段)とディリクレ級数(ゼータ関数)を結びつけ、シンプルな形で素数定理を導く事が出来ます。
この素数階段というのが、後に述べるチェビシェフ関数であり、素数(とそのべき乗)で飛躍する関数で素数の場所が判ります。またディリクレ級数とはL関数というゼータ関数の親玉でしたね。
素数階段を登ってみよう
オイラー積の対数微分ですが、まず、オイラーの積表示の対数をとる事で、積を和に変換します。
オイラ積表示は、ζ(s)=∏ₚ(1−p⁻ˢ)⁻¹、Re(s)>1でしたから(但し、pは素数)、logζ(s)=log(∏ₚ(1−p⁻ˢ)⁻¹)=−Σₚlog(1−p⁻ˢ)。
ここで、log(1−z)=−Σₙ[1,∞]zⁿ/nのテイラー展開より、logζ(s)=ΣₚΣₙ[1,∞]p⁻ⁿˢ/n。
この両辺をsで微分すると、ζ’(s)/ζ(s)=−ΣₚΣₙ[1,∞]p⁻ⁿˢlogp=−Σₚ(logp/pˢ+logp/p²ˢ+logp/p³ˢ+・・・)=−log2/2ˢ−log3/3ˢ−log
4/4ˢ−log5/5ˢ−log7/7ˢ−log8/8ˢ・・・。
そこで、マンゴルド関数Λ(n)の登場です。
Λ(n)=logp(n=pᵐの時)、Λ(n)=0(上記以外)と定義されました(”2の14”参照)。順に並べると、0,log2,log3,log2,log5,0,log7,log2,log3,0,...と飛び飛びの値をとります。
このマンゴルド関数を使えば、ζ’(s)/ζ(s)=−Σₚ(logp/pˢ+logp/p²ˢ+logp/p³ˢ+・・・)=−Σₚ(Λ(n)/pˢ+Λ(n²)/p²ˢ+Λ(n³)/p³ˢ+・・・)=−Σₙ[1,∞]Λ(n)/nˢとΛ(n)のディリクレ級数の形で表されます。但し、ζ’/ζはRe(s)>1で収束。
因みに、Λ(n)はψ(n)の階差関数(=ψ(n+1)−ψ(n))となってます。階段関数の部分関数が階差関数になる事に注意です。
また、ディリクレ級数Σₙ[1,∞]aₙ/nˢにて、aₙ=1とすればζ(s)=Σₙ[1,∞]1/nˢとなり、ゼータ関数の親玉とされ、L関数とも呼ばれます。
次にチェビシェフ関数ψ(x)ですが、ψ(x)=Σ[n≤x]Λ(n)で定義します(”2の14”参照)。これはΛ(n)の定義より、ψ(x)=Σ[n≤x]Λ(n)=Σ[pᵐ≤x]logpとなる。pᵐ≤xは”x以下の自然数で素数のべき乗になってるもの”を示すから、ψ(x)は素数のべき乗pᵐでlogpだけ飛躍する階段関数です。
ここで、階段関数の飛躍する部分(素数のべき乗)で、その値の中点をとる関数ψ₁(x)もチェビシェフ関数となります。
実はこの階段関数ψ₁(x)こそ、リーマンが1859年の論文で使った主要公式J(x)に近いものでしたし、実際にマンゴルドが、リーマンの明示公式を新たに作り変えた時(1895)にJ(x)の代りに使った関数でした。
因みにリーマンは、この階段関数J(x)の事を離散関数と呼び、素数の個数関数であるπ(x)も離散関数ですから、ψ(x)とψ₁(x)との関係はπ(x)とJ(x)との関係とよく似てますね。
リーマンが登った素数階段
このリーマンが使ったJ(x)は、pⁿ毎に1/nだけ飛躍する階段関数で、各飛躍に対するJ(x)の値は以前の値との中間値をとり、J(x)=(Σ[pᵐ<x]1/m+Σ[pᵐ≤x]1/m)/2と、ψ(x)を少し複雑にした形で表せます。
そこでリーマンは、上で得たlogζ(s)=ΣₚΣₙ[1,∞]p⁻ⁿˢ/nにて、p⁻ⁿˢ=s∫[pⁿ,∞]x⁻ˢ⁻¹dxと置き、logζ(s)=s∫[0,∞]J(x)x⁻ˢ⁻¹dxと変形します。
因みに、logζ(s)=ΣₚΣₙ[1,∞]p⁻ⁿˢ/nは、logζ(s)=∫[0,∞]x⁻ˢdJ(x)というスティルチェス積分の形で表せ、これを部分積分すれば、上のリーマンの変形式(赤字)になります。
しかしリーマンは、この事を知る由もない。但し、このスティルチェス積分は通常のリーマン積分として考察でき、事実リーマンの変形式を微分すれば、スティルチェス積分を得ます。故に今では、”リーマン=スティルチェス積分”と言います。
以上、腹打てさんのコメントから追記でした。
上述した様に、J(x)はπ(x)と類似した関数でした。言い換えればJ(x)は、ⁿ√xが素数の時に1/nジャンプする階段関数ですから、J(x)=π(x)+π(√x)/2+π(³√x)/2+π(⁴√x)/2+π(⁵√x)/2 +・・・で表されます。
リーマンはJ(x)を任意の関数Fと記してたから、ψ(x)とは全く独立した関数でもありました。それに、J(x)が無限に飛び散る離散関数ではなく、非常に扱い易い階段関数である事に気付いてました。
事実、上のJ(x)の式はメビウス反転が使え、π(x)=J(x)−J(√x)/2−J(³√x)/3−J(⁵√x)/5+J(⁶√x)/6−J(⁷√x)/7+J(¹⁰√x)/10−・・・というミュー関数を使った式、π(x)=Σμ(n)J(ⁿ√x)/nとなります。
一方で、logζ(s)=s∫[0,∞]J(x)x⁻ˢ⁻¹dxはフーリエ変換の形をしてるので、反転公式を使えばJ(x)をζ(s)で書き出せる。つまり、この時点でπ(x)とζ(s)が、つまり素数とゼータが見事に繋がります。
故に、このリーマンの変形式こそが”オイラー積”から派生した素数とゼータを結びつける”黄金の鍵”と言えますね。
以上、paulさんのコメントからでした。
以上の様な複雑な工程を経て、リーマン独自の素数定理、つまり明示公式(誤差項付きの解析公式)を得るんですが、詳しくは”リーマンその5”と”その6”をClick参照です。
つまりリーマンは、オイラー積の”些細”な変形として独自の階段関数J(x)を使い、ゼータと素数を繋げる基本アイデアとした。それに、チェビシェフの”素数階段”に関する研究をディリクレを通じて知ってたかもです。
更に少し詳しく言えば、この”黄金の鍵”にアダマールの積公式(完備ゼータ関数の積表示)を使えば、リーマン予想を含む3つの項からなるJ(x)の解析公式を得ます。
そこでπ(x)をJ(x)で表す時に、項別積分する必要がありますが、リーマンは項別積分可能を証明する事なく、先に進みました。
マンゴルドが登った素数階段
お陰で、リーマンの解析公式J(x)を証明しようとしたマンゴルドは、非常に困難な壁に阻まれます。そこで”黄金の鍵”のlogζ(s)とJ(x)ではなく、マンゴルド関数Λ(n)で定義したψ₁(x)とζ’(s)/ζ(s)を使い、厄介な項目積分を回避し、リーマンの明示公式の導入に成功します。
つまりマンゴルドは、logζ(s)ではなくζ’(s)/ζ(s)、J(x)ではなくψ₁(x)を使い、複雑ですがシンプルな解析公式の導入にこぎ着けた。
これに関しては、”その5”(シーズン5)にて詳しく述べる予定です。
一方でψ(x)とψ₁(x)の関係ですが、x=9の時は、ψ(9)=log2+log3+log2+log5+log7+log2+log3ですが、ψ₁(9)=log2+log3+log2+log5+log7+log2+log3/2となる(最後の項が1/2になる事に注意)。しかしx=1000の時は、ψ₁(1000)=log2+log3+log2+log5+log7+・・・+log997=J(1000)となる。これは1000は素数のべき乗でないから、最後の項は同じですね。つまり、x→∞ならψ(x)~ψ₁(x)。
故に、チェビシェフ関数ψ(x)の方がJ(x)よりもずっと簡単で、事実マンゴルドはψ₁(x)を使い、リーマンの明示公式を新たな形で置き換えた(1895)し、アダマールもまたψ(x)を使い、素数定理を証明しました(1896)。
以上をまとめると、チェビシェフ関数ψ(x)はマンゴルド関数Λ(n)を階段関数にしたもので、一方でゼータ関数の対数微分であるζ’(s)/ζ(s)は、Λ(n)を係数とするディリクレ級数となります。
これ以上進めると、マンゴルドの明示公式にまで話がふっ飛んでしまうので、ここら辺で”素数階段”に関する話は終わりにします。
とにかく、オイラー積が起点となり、ディリクレが発見した(ゼータ)級数が素数定理を紐解くきっかけとなった事だけは頭に入れときましょう。
ゼータ関数と素数の繋がり
いきなり最初に舞い戻りますが。
ゼータ関数の素数との繋がりは、ゼータの零点(解)が素数のおおよその出現割合を示す事に基づいてます。
若干14歳のガウスは、素数の個数関数π(x)をx/logxで近似しましたが、言い換えれば、x付近の素数の出現割合は1/logxで近似できるという定義こそが素数定理です。
実際に、10億個付近での素数の出現割合は0.049で、1兆付近では0.037ですが、素数定理に従えば、それぞれ0.0482...と0.0361...ですから、”良い近似”になってますね。
しかし、ガウス少年が発見した様な対数(log)の逆数を使わなくとも、最近では”ゼータ関数の虚零点(虚根)は素数の分布を完全に知ってる”し、逆に”素数こそがゼータの虚根の分布を完全に知ってる”という事が解ってきました。
つまり、ゼータ関数の根(解)から素数を作る事が、逆に素数からゼータ関数の根(解)を作る事が可能になったんです。
これらを整理すれば、ゼータの極は素数の無限性を表し、ゼータの自明な零点(実零点=実数解)が素数のおおよその出現割合を示し、ゼータの非自明な零点(虚零点=虚数解)が素数の正確な値を表します。
リーマン予想とは、この非自明な零点の全てがクリティカルライン上にある。つまり、ゼータ関数の虚数解の実部が全て1/2の境界線上にあるという事でした。
これこそが素数の謎がゼータの謎に結びついたとも言えますね。「ビジュアル・リーマン予想入門」(2020)から一部引用しましたが、”目で読む”リーマン予想とも言えます。
誰でも楽しめそう?な内容なので、数学に興味のない方もぜひ手にとって欲しいです。少なくとも私のブログを読むよりかは、ずっとわかり易いです。
確かにπ(x)がζ(s)に結びつく事も、素数がゼータと一致する事も凄い事ですが、直感的ではあるが、リーマンはもっと先の事を考えていた。
もっと言えば、”黄金の鍵”であるlogζ(s)=s∫[0,∞]J(x)x⁻ˢ⁻¹dxを”些細”な変形とみなした訳だが、これはオイラー積を微積分を使って書き換えたに過ぎない事を物語る。つまり、リーマンにとっては些細な事だが、現代数学においては実に驚異的な偉業なんだろうか(腹打てさんのコメより)。
最後に
その3(シーズン3)を準備するに辺り、オイラー積から素数の謎を結びつけるのに一苦労しました。ブログを休んでた間も悩み続けてたんですが、”3の1”で述べたコーシーとリーマンの複素解析論と、”3の2”と”3の3”で書いたオイラーとディリクレの偉業と、今日述べたオイラー積から素数階段への橋渡しのお陰で、ゼータと素数を繋げる基本アイデアが大きく姿を表しました。
リーマンの謎とは”ゼータと素数の奇妙な繋がり”の事ですが。「ビジュアル・リーマン予想入門」の紹介文にもある様に、ゼータと素数にはコインの表と裏の関係にあり、数が大きくなればなるほどに素数の個数(出現割合)は減りますが、ゼータ関数の零点(非自明零点)は数が大きくなるほどに増えていきます。また素数から零点を生成し、逆に零点から素数を生成する事も可能です。
この著書では、素数分解の一意性と素数の無限性から始まり、ゼータ関数の始まり、複素領域への解析接続、関数等式の証明、ゼータの零点とリーマン予想、最後に素数階段とリーマンスペクトルで締め括られてます。
私の場合は、ゼータ関数の解析接続から始め、次に素数の謎と素数定理を紹介し、素数とゼータの繋がりを今述べてますが。この本ではリーマンの明示公式の導出ではなく、マンゴルドの明示公式とリーマンスペクトルを紹介してる辺りはとても新鮮に思えました。
リーマン予想に関しては様々な本が沢山出てますが、ビジュアルと直感に訴えるという点では、非常に親しみやすいユニークな本だと思います。
”数学は直感に頼ると裏切られる”といいますが、リーマンはその直感を全面に押し出し、現代数学の扉を開きました。
そういう意味では数学も難解な学問とは言え、”目で見る”芸術の一部なのかも知れません。
以上、寄せられたコメントを追記したのでかなりの長さになりました。悪しからずです。
これを部分積分すれば、logζ(s)=s∫[0,∞]J(x)x⁻ˢ⁻¹dxと、リーマンの”些細な変形”になる。
しかし、リーマンはこの事を知る由もない。
但し、この積分は通常のリーマン積分としても考察できるから、スティルチェス積分を用いずに、転んだが書いた様に、logζ(s)=ΣₚΣₙp⁻ⁿˢ/nにおいて、p⁻ⁿˢ=s∫[pⁿ,∞]x⁻ˢ⁻¹dxとおき、リーマンが得たlogζ(s)=s∫[0,∞]J(x)x⁻ˢ⁻¹dxを微分すれば、スティルチェス積分を得る事ができる。
故に今では、リーマン=スティルチェス積分と呼ぶんだろうな。一応、補足しとくよ。
書き換えじゃなく、置いて代入して変形だったんですね。
少し字足らずでスンマセン。
早速、補足&修正します。
まるで、ゼータという神と素数という神秘に憑かれた男たちといった感じかな
ゼータを数学の神に例えれば、素数は女神が見出した神秘という事でしょうでしょ〜
素数が現れるごとに1つずつジャンプする
でもπ(x)のグラフのままで考えると複雑すぎるのよ
しかしチェビシェフ関数のグラフを見ると、飛び飛びの点を結べばy=xのグラフに似てるのよね
そこでy=ψ(x)とy=xが同じようなものとみなせると直感で判断したのかな?
π(x)~x/logxとψ(x)~xが同値だとはこういう事なんですね。実は、次回”3の5”で書こうと思ってた事を先に書かれてしまいました。
つまり、チェビシェフの素数定理とはガウスの素数定理の簡易版となってんです。
直感で数学を眺めるという事はこういう事なんでしょうね。近い将来、Hoo博士も夢ではない気がします。
転んだサンが”リーマンその5”で書いてたように、J(x)はⁿ√xが素数の時に1/nジャンプする階段関数であるが為に、J(x)=π(x)+π(√x)/2+π(³√x)/2+π(⁴√x)/2+π(⁵√x)/2 +・・・で表されます。
リーマンはJ(x)を任意の関数Fと論文では記してましたから、リーマンが独自に作り出した関数でもありますね。 しかし、J(x)という離散関数が無限和でない事にリーマンは気付いてました。
つまり、非常に複雑ですが扱いやすい関数でもあったんです。
事実、上のJ(x)の式はメビウス反転が使え、π(x)=J(x)−J(√x)/2−J(³√x)/3−J(⁵√x)/5+J(⁶√x)/6−J(⁷√x)/7+J(¹⁰√x)/10−・・・というミュー関数を使った式、π(x)=Σμ(n)J(ⁿ√x)/nとなりますね。
他方で、これも転んだサンが書かれてるlogζ(s)=s∫[0,∞]J(x)x⁻ˢ⁻¹dxはフーリエ変換の形をしてるので、フーリエ反転を使えばJ(x)をlogζ(s)で書き出せます。つまり、この時点でπ(x)とζ(s)が、つまり素数とゼータが見事に繋がるんです。
そういう意味では、logζ(s)=s∫[0,∞]J(x)x⁻ˢ⁻¹dxこそが素数とゼータを結びつける”黄金の鍵”と言えますね。
”黄金の鍵”であるlogζ(s)=s∫[0,∞]J(x)x⁻ˢ⁻¹dxはフーリエ反転とアダマールの積公式を使えば、リーマン予想を含む3つの項からなるJ(x)の解析公式を得ます。
そこでπ(x)をJ(x)を使って表す時に、項別積分する必要がありますが、リーマンは項別積分可能を証明する事なく、先に進みました。
お陰で、リーマンの解析公式J(x)を証明しようとしたマンゴルドは、非常に困難な壁に阻まれます。
そこで黄金の鍵のJ(x)ではなく、マンゴルド関数Λ(n)で定義したψ(x)とζ’(s)/ζ(s)=−ΣΛ(n)/nˢを使い、厄介な項目積分を回避し、リーマンの明示公式の導入に成功します。
つまりマンゴルドは、logζ(s)ではなくζ’(s)/ζ(s)、J(x)ではなくψ(x)を使い、複雑ですがシンプルな解析公式の導入にこぎ着けたんですよね。
確かに、π(x)がζ(s)に結びつく事も、素数がゼータと一致する事も凄い事ですが、リーマンはもっと先の事を考えてたんですかね。
paulさんのコメント補足しときます。
つまり、リーマンにとっては些細なことだが、現代数学においては実に驚異的な偉業なんだろう。
リーマン予想の証明も”粗雑な計算”として対象外と見なしました。
ほんと、リーマンの偉業とは異形でもありますね。