ウロコのつぶやき

昭和生まれの深海魚が海の底からお送りします。

独断と偏見によるノクターン

2006-07-07 23:08:40 | 日記
高橋大輔私的暴走感想のその2、です。
例によってスケートはあんまり関係ないというか、私なりに思う所の美的センスとかバランス感覚とか、主にそういう話です。
結論から言うと、最初に「ノクターン」を見たときに感じた、「うあ、感覚で滑ってる?!」と感じた、その「感覚」を説明しようという試みなのですが。感じるのは一瞬でも、それを言葉に直すととても長くてめんどくさくなる、という話です。
なので例によって、覚悟と根性のある方のみこの先に進んで下さい。

***

まず、前置きとして。
「TVチャンピオン」という番組は皆さん御存じなのではないかと思います。
もう何年も前になりますが、私にとって印象的なチャンピオンが2人いました。

一人は、「和菓子職人」で5冠を果たした高橋弘光さん。
もう一人は、「特殊メイク」で3冠を果たしたAKIHITOさん。

まず和菓子の方なんですが、他の職人さんも十分すごい人たちなのです。多分技術的には、他の人とほとんど差はないと思うんですよ。
でも、圧倒的に美的センスが違う。ちょっと大きな作品を作る時に、他の人は皆箱庭を作るんです。この方だけが、『構図』を考えてレイアウトする。だから、最初にぱっと見た時のインパクトが全然違う。特に、壁を利用して遠近感を持たせたレイアウトは圧巻。
特殊メイクのAKIHITOさんも同じです。特殊メイクでクリーチャーの造型を作るにあたって、細部をリアルに作り込むという点では、他の人たちも同じくらい凄い。
でもこの人だけが、明確なコンセプトの下、出来上がりの雰囲気をそのシルエットまできっちりイメージして作っている感じなんです。一目見た瞬間に、シルエットだけでそのクリーチャーの設定や背景が伝わって来る。その段階で心を掴まれます。

この2人を見てて思ったのは、細部は技術を研くことで極められるけど、全体をイメージしながら作るにはセンスが必要なんだな、ということでした。
同時に、技術は努力でカバーできるけど、センスはもって生まれたものが大きいんじゃないかとも。
作る時には、人はパーツから発想し、パーツを組み立てることで全体を作る。でも、見る側に立った時には、まず全体のイメージから見ます。
細かい部分の作り込みを見るには時間がかかるし知識も必要。でも全体のイメージは誰にでも一瞬で伝わる。だからこそ、センスの有無が、その表現が「伝わるか、否か」を決めるかなり大きな差になるのではないでしょうか。

***

前置き終わり。

「ノクターン」を(より正確には、最後のステップの部分を)見て私が驚いたのは、完璧に「全体のイメージ」を掴んで表現していた(ように見えた)からでした。

そもそも日本人にとって得意なのは(そして本来私が好きなのも)、ビシッ、ビシッ、と各所でかっこよくポーズをキメる、ポーズからポーズへと流れて行く動きだと思うんですよね。
だけど、あのステップにはそういう、「止まる」部分が全くない。

「かっこいいポーズ」を考えることは、できる。腕の動き、指先の表現、顔の表情、足元の動き(所謂スケーティング)、それらをパーツごとに考え、組み立てて行くことも、多分できる。
でもあの振付けは、そういう、パーツごとの発想で作られているようには見えなかったんです。
まず表現したいイメージ、音楽から受け取った自然なイメージがあって、それに合わせて自在に全身の動きを組み合わせている。「これとこれをこう組み合わせたらこんな感じに見えるだろう」っていう直感的なイメージを、かなり明確に頭の中に描けなければ、あの振付けは作れないし、表現できないと思ったんです。
特に驚いたのが足元。スケーティングの技術が上手いかどうかなんて、私にわかる訳もなく。でもあんなに自然に、「滑る」ということを「踊る」ということの中に取り入れているのは、ただごとではないと思ったんですよ。「スケート靴を履いて上手に踊る」んじゃなくて、スケートでしかできない、スケートならではの踊りの表現っていうものを、初めて見たような気がしたんです。あの、風に乗って吹き抜けて行くような疾走感は、スケートなしでは絶対に表現できない。

だから、最初に見た時に「すごい、感覚で滑ってる」と感じました。そしてこの振付けが、高橋くん自身の手によるものだと知った時に、彼は天才だと確信しました。
立体(3次元)の表現にプラス動き(=時間の経過)が加わってるから、発想としては4次元の思考ですよ。あれを脳内でイメージしながら作るって、一体どういう感性でやってるのか想像つかないんです。

……とか言ってたらこんなの発見してしまいました↓
ズームイン! フィギュア

「音楽が流れると、曲に合わせて自然に体が動くんです。本当はもっとダンスとか勉強した方がいいんですけどね!」
……この人が言うとシャレにならない。

***

ちなみに、先日のジャンクスポーツで「全体のバランス」っていう発言に私がひっかかったのも、そういう理由です。
ファッションセンスって、流行りのものを着ることではないし、ブランド物で固めることでもなくて、全身をぱっと見た時にちぐはぐな感じのしない、バランスの良い服の着方ができることなんじゃないかと最近思うようになったんです。
だから髪型、とかそう言うパーツではなく、「全体のバランスをチェックしてる」って聞いて「なるほどね」と思ったと、そういう訳です。やっぱりそういうのは、ちゃんと分かってるんだなあと。

***

それにしても。
何度も見返してて、最近やけに気になるのが、最初の方の壁パントマイムの所なんですよね。最後に「トン」と壁を突き放しながら後ろ向きに去って行く所。
なんだか見てる内に、だんだん寂しいような悲しいような気分になって来るのです。なまじ、さらっとさりげなくやってるから余計にね。
拒絶しているようで、実は拒絶されている。拒絶されているのに気付いているからこそ、わざと自分から拒絶したようなフリして離れて行く。
なんとなく、そんなことを考えてしまいました。本当はなんなんだろう、あの部分。

この演技に関しては、実はまだちょっと語りたいことがあるので、その内続きを書くかも知れません。

最新の画像もっと見る

コメントを投稿