ウロコのつぶやき

昭和生まれの深海魚が海の底からお送りします。

さよなら、ヴォネガットさん

2007-04-14 00:03:44 | 読書感想文

有名人の訃報を聞く度に「ええっ?あの人が?」といちいち反応してしまう今日この頃です。
中でもちょっとこれは反応しておかねば、と思ったのがアメリカの作家カート・ヴォネガット氏の訃報記事でした。

カート・ボネガット氏死去 米小説家
http://www.cnn.co.jp/showbiz/CNN200704120019.html

ここ最近、作家買いする作家も2、3人くらいしかいなくて、その数少ない作家の一人がこの方でした。
最初は余りのシュールさに衝撃を受けたのですが、何冊か読んでいる内に、物語に登場するどうしようもなく愚かな登場人物たちと、そんな人々に注がれる暖かい眼差しに惹かれるようになりました。ご冥福をお祈りすると共に、ヴォネガット作品の内、特にお気に入りな作品を語りたいと思います。

猫のゆりかご
一番のお気に入りです。この小説に登場する架空の宗教「ボコノン教」に激しくツボを突かれました。「嘘の上にも有益な宗教は築ける」という前提の元に作られた宗教。「フォーマ(=無害な非真実)を生きるよるべとしなさい」と説く奇妙な教祖ジョン・ボコノン。カラース(神の御心を行うチーム)の奇妙な導きにより、貧しい島国の君主となる主人公。そして…。

スローターハウス5
初めて読んだヴォネガット作品。「宇宙人の詩の形式を借りて書いた反戦小説」というシュールさにのけぞった記憶が。主人公ビリー・ピルグリムはピルグリム=巡礼者の名の通り時間の中・自分の人生を彷徨います。戦場の悲惨な現実が淡々と描写される、その淡々とした語り口調に却って生々しいリアルさを感じてしまう、そんな作品。作者の実際の戦争体験に基づいているそうです。

タイタンの妖女
これもまた、余りにもぶっとんだSF話で驚いたような。世界がひとつになるために運命の道化となった一人の男の物語。全てを操っているように見える者さえ、結局は運命に操られる者に過ぎないという哀しさ。個人的には、トラルファマドール星人(スローターハウス5に出て来るのとは別物)のサロとスキップとの友情が悲しい。しみじみとした余韻が残る作品です。

チャンピオンたちの朝食
ブルース・ウィリス主演で映画化されたのに日本では上映されたなかったという…。WOWWOWで見たけど、思ったよりも原作に忠実でした。町一番の成功者でありながら、様々な心労を抱えて内心鬱々としている主人公に、ブルース・ウィリスが中々ハマってたと思います。そんな主人公とヴォネガット作品にはおなじみのSF小説家キルゴア・トラウトとの出会いに様々な人生が交錯します。ヴォネガットの作品は、最初から話のオチをバラしてしまうのに、何故か最後まで読ませてしまうのがスゴいですね。

青ひげ
「チャンピオンたちの朝食」にも登場する抽象画家ラボー・カラベキアンの自伝の形を借りた小説。ヴォネガット特有の洒脱な語り口で物語は進みますが、その背景にはアルメニアン人の虐殺という重い歴史的事件が横たわっている。これは全然SFしてないです。ある方向から切り取った歴史物に近いかも知れません。
個人的には、ポスターカラーをべた塗りした背景に蛍光色のカラーテープを貼っただけというカラベキアンの作品に妙ーに惹かれるものがあるのです。何故か。

***

いざ説明しようとするとどうも上手く説明できない。突拍子もない話のようでいて、人間という生き物の悲しさを暖かい目で包んでいるような、突き放しているようで実は愛を感じさせる語り口が魅力かなと思います。
ヴォネガットさん、ステキな話をありがとう。


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