今日は朝から明子が張り切って料理を作っている。
正志が幸太を連れてやってくるからだ。
「幸太ももう大学生だものね。ちょっとやそっとの量じゃ足りないわよね」
鼻歌を歌いながら、これでもかというくらいキャベツを線切りにしていく。
「幸太も正志も私のお好み焼きが大好物だから、いっぱい焼いてあげなくちゃ」
それにしても凄い量で石崎は苦笑いだ。
「ただいまー」正志の声がした。
「こんにちはー」後ろから幸太。
「お帰り、幸太もいらっしゃい」
「まり子さんはやっぱり急がしいの?」
「ああ、ごめんよ。宜しく言っておいてくれってさ」
「でもピアノ教室の生徒さんもこの不景気で減ったとか言ってなかった?」
「うん、まあね。だけどママさんコーラスの指導もしているし今度合同で発表会をやるらしいんだ、その準備で抜けられないんだって」
「そう、なら仕方ないわね・・・帰ったら私がまり子さんにも会いたがっていたって伝えておいてね」
「ああ」
「幸太、大学はどうだい?」
「どうって何が? ・・おじいちゃん、そんな抽象的な質問じゃあ、訊かれた方は困るんだよ」
「(コホンと咳払い) すまん。うーん、じゃあ、勉強には付いていけてるかい?」
「大丈夫だよ。ゼミの教授も楽しい人だし」
「お友達は出来たの?」 と明子
「うん、何人かはね。それにバイト先にも仲間が居るし、楽しくやってるよ」
「そう、良かったわ」
「だけど、田舎でさぁ、周りに何も無いんだよ。学校へ行くにもバスも通っていないんだから」
「えー、じゃあ、どうやって通っているの?」
「殆どの子が原チャ、ボクもだけど、バイトのお金が貯まったらセローっていうバイクを買おうと思っている。おかわり」
「あ、はいはい。 じゃあ事故には気をつけなきゃね」
「あ、次は明太子にして。味ポンで食べるから。それの次は海老ね」
「了解」
「母さん、この肉、美味しいね、何の肉?」
「あ、それ?お友達に教えてもらって買ってみたんだけど美味しいでしょ。スペインのイベリコ豚。鶏で言ったら地鶏みたいなものかしら、放し飼いでドングリの実を食べて育つから、オレイン酸をたっぷり含んでいて美容と健康に良いらしいのよ」
「へーっ、そうなんだ。 うん、美味しいね。次のもこれで焼いて」
「私の好きな宮崎牛は買わなかったのかい?」
「あぁ、あなた、ごめんなさいね。今、口蹄疫で大変な騒ぎになっているでしょ・・・『当店では宮崎県産の牛豚は販売していないので安心してお買い物をしてください』なんて張り紙がしてあったのよ」
「それって風評被害だよね。感染した肉を食べても人間にはうつらないのに。」と幸太が鼻白んだ。
「そうよね、私も宮崎県産のものを買うことで宮崎の方たちの応援をしようと思っていたんだけど・・・」
「流石、ぼくのおばあちゃんだね。昨日、ゼミの友達から電話があったんだけど、その子の実家は宮崎の畜産農家なんだ。幸いその地域ではまだ感染は確認されていないんだけど、それでも卸値を買い叩かれているらしいよ。」
「まぁ・・・酷い話ね。そういう時こそ思いやりの気持ちをみんなが持たなきゃいけないのに・・・」
「うん、だいぶ落ち込んでいたよ・・・」
「早く治まれば良いわね」
つづく
※この物語はmasumiさんの被害妄想に基づくフィクションです(^^;
実在の人物及び団体とは一切関係ございません。
尚、加筆修正及びキャラの変更等もあるやも知れませぬことをお断り申しておきまする(^^;