masumiノート

何を書こうかな?
何でも書こう!

請負人 越後屋 №35 最終回

2010年06月12日 | 作り話
「難しい話をしているところを、ごめんなさいね。でも、この世の中、そんな悲観的なことばかりでもないんじゃないかしら?」

明子が話し出した。

「先日、お友達に誘われて静岡の伊東温泉に行って来たのよ。
そうしたらそこにすっごく可愛らしいピンクのお店があってね・・・お店の前には綺麗なお花がいっぱい飾ってあったわ。
オーナーさんもステキな女性で、キャンドルアーティストでもあるらしいわ。

・・・何のお店だと思う?」

「さあ・・・?」
首を傾げる男達

「それがね、ガソリンスタンドだったのよ!」

「えっ?ピンクの???」

「でしょ?そんなガソリンスタンド見たことないでしょ」

「もう本当に素敵だったわよ!ガソリンスタンドの固定観念を見事に覆されたわ。
それにそのお店もお父さまの意思を継いで、純正油100%でやってるとおっしゃていたわよ。
正志はそういうお店は業転に手を出してるって色眼鏡で見るけど、幸太の話の石玉石油さんといい、頑張っているお店もまだまだあるのよ。

確かに周辺のお店より値段は高いかも知れないけど、強引なセールスが無いなら、その方がお母さんには安心だわ。
だってやっぱり、いつも利用しているお店の人に勧められたら断りにくくて本当は要らないものでも買っちゃうような所が、お母さんだけでなく多くの人にはあるもの」

「そうだよね!」と幸太の声


「男性社会って競争競争で、やれ勝ち組だ、負け組だなんてやっているけど、それっていつまで経っても終わりが無いんじゃないかしら?
本当は、もう世の中にはそれに気がついている人も沢山居ると思うんだけどね・・・

そのお店の方がおっしゃって言たけど、彼女は戦わない経営を目指しているそうよ」



「石玉石油のお姉さんも共存共栄って言っていたよ」
幸太も加勢する。

「その地域の中で棲み分けすることが大事なんだって。田舎ってこともあるのかも知れないけど、それぞれのお店が成り立つように、他業種の商品を“無理に”売ることはしない方がいいんだ、って。
あ、これ先輩から聞いた話だけどね」

「そうよね。
今は郊外に大きなお店が出来て、そこへ行けば何でも揃うけど・・・
車を持たなくなったらどこで買い物すればいいのかしらね・・・
便利になったと思っていたけど、実は不便になっていたのかもね・・・

そうそう、ところで元売が新しく作るお店ってどうしてセルフばかりなの?
フルのお店も作ってくれればいいのに」

「フルは効率が悪いんだよ。他業種の参入で今じゃガソリンはスーパーの客寄せ卵だよ。
利益が無いのに、窓拭きや灰皿清掃なんてやってられないよ。
それに、もし灰皿を落として割ったりしたら弁償しなきゃいけないし、そんな割に合わない事はしてられないよ。

利益は油外で稼がなきゃいけないんだから、その為にはセルフにして、油は自分で入れてもらうしかないのさ」

「利益は油外で、って、だから強引なセールスをしなきゃいけなくなるのね。莫大な設備投資をしてメインの商品を客寄せにするなんて、それこそ割に合わないじゃないの。それに、それなら尚更だわ」

「何が?」

「母さんだって若いときはガソリンスタンドで働いていたから、給油することは何でもないのよ。
でも、機械操作・・・。
今まで利用していたセルフのお店が先月閉鎖しちゃってね。最近セルフでも閉鎖が増えているみたいね・・・
仕方が無いから、スーパーに併設されているセルフに行ったら、あれ、お店によって機械が違うのね・・・
年を取ると教えてもらっても中々覚えられないし・・・
月に1度くらいしか利用しないから、次に行った時にはもう忘れちゃってて、又お店の人を呼んで聞かなきゃいけないのよね
それに考えてみたら、母さんの車の給油なんて20リッターもいかないじゃない、フルとの差額を考えたら100円もしないのよね・・・

窓拭きとか何もしてくれなくて良いから、給油だけしてほしいって思う人、母さんだけじゃないと思うわ。」

「確かにそういう人も居るだろうけど、まだまだ需要は少ないだろう。採算の合わない事はしないよ」

「そうなのよね、大きな企業って表向きは“消費者第一主義”みたいな良い格好を言っているけど、結局は儲け主義なのよ」

「そりゃあ、そうだろう。利益を出さなきゃ存続していかないじゃないか」

「だからね、正志、元売はもっと既存の販売店のことを大切にしてほしいのよ。
販売店の7割が赤字だなんて、そんな小売業は他に無いでしょう。
世界はつながっている、世の中は循環だからみんなが幸せでなければ誰も幸せにはなれないのよ。

地下タンクの補助だって、国だけに任せてないで、系列で100%正規ルートでの仕入れを続けてくれている販売店に対しては元売からも費用を提供するくらいの事をしてあげても良いんじゃないかしら?

それが、今まで元売に代わってガソリンを売ってくれていた販売店への労いになるし、何より漏洩によってブランドマークにキズが付くんじゃないかっていう心配も無くなるわよ。

過疎地問題の解決にもなるし、元売の株もグンと上がるはずよ。そう思わない?」


「本当だね!それは良いアイデアだ!」
「おばあちゃん、アッタマイイ~!」

石崎と幸太が大きな拍手をした。



おわり



お読みくださいまして有難うございました。
「ガソリンスタンド」のカテゴリーに「請負人 越後屋の資料的な記事」もいくつかアップしておりますので、そちらもご一読くだされば幸いです。



※この物語はmasumiさんの被害妄想に基づくフィクションです(^^;
実在の人物及び団体とは一切関係ございません。

尚、加筆修正及びキャラの変更等もあるやも知れませぬことをお断り申しておきまする(^^;


請負人 越後屋 №34

2010年06月12日 | 作り話
「幸太、まだ食べる?」

「あ、おばあちゃん、ありがと。じゃあ、あと一枚、イベリコ豚で」


石崎が尋ねた。
「正志くん、仕切り方式が、新・新になってどうだい?」

「まだ始まったばかりだから、何とも・・・」

「しかし、元売の販売店に対する方針っていうのは変わらないのかな?」

「どういう意味?」

「いや、私はもう淘汰は充分されたと思うんだが、今後地下タンクの規制が強化されるに伴い、更に閉鎖が進むと予想されているだろう・・・
今でも既にガソリンスタンド過疎地が問題になっているのに、消防法が施行されて同時期に多くの販売店が閉鎖という事になったら、世間は困るんじゃないかな?」

「お父さん、漏洩される方がもっと困りますよ。しかもそれがうちの系列だったりしたら又ブランドマークに傷が付いてしまう」

「それなんだがね・・・元売がここまで大きく成長できたのは販売店があっての事じゃないか。しかも店を維持するための設備投資が出来ないくらい疲弊させてしまったのは、元売にも大きな責任があると思うんだけどね・・・」

「責任?そんなもの販売店の自己責任ですよ!」

「・・・それにね、差別対価にしろ、業転価格にしろ、ガソリンの単価の半分近くが税金だよ。例えば一冊100円のノートなんかだと税金は消費税の5円だけだが、ガソリンの場合は60円近くが税金なんだ。」

「だから?」

「だから、そんな普通の商品とは違う、殆ど税金という商品の卸価格や販売価格に差があるっていうのはおかしいんじゃないのかな?
・ ・・そうだ、・・・タバコ。 
タバコ税も大きな税収のひとつだろう?
タバコ店の出店には今でも規制があるし、値段も全国一律どこでも同じだ。
言ってみればたばこの販売店は保護されているとも言える。

ガソリンスタンドは、生活に密着しているし、物流や製造といった経済面でも社会貢献度が高く、税収の面からいっても大きな存在だよ。
国も元売も、何故そういう面を考慮しないんだろうか?」

「お父さん、タバコは今では民営化されて日本たばこ産業、JTになったけど、元々は日本専売公社で国営だったでしょ。
石油は最初から民営というか自由競争で、途中から通産省が入ってきて規制し始めたんじゃなかったっけ?・・・
始まりが違うんだよ。
それにタスポが導入されてからは販売店が保護されているとは言えなくなったんじゃないかな?」

「そうか・・・しかし価格が統一されているかいないかでは大変な違いだよ。
・・・石油は完全自由化されたけど、販売店だけは相変らず消防法でがんじがらめにされている。
何と言うか時代の流れと法改正の狭間で、販売店だけが取り残されてしまったのかも知れないね・・・」


つづく





※この物語はmasumiさんの被害妄想に基づくフィクションです(^^;
実在の人物及び団体とは一切関係ございません。

尚、加筆修正及びキャラの変更等もあるやも知れませぬことをお断り申しておきまする(^^;

請負人 越後屋 №33

2010年06月12日 | 作り話
幸太が、石玉石油を気に入ったのはあの出来事があってからだ。

大学に、親が社長なのを鼻に掛けている嫌な同級生が居て、いつも2,3人の取り巻きを連れている。

そいつらと石玉石油で一緒になったとき、取り巻きのひとりに向かって「お前も燃料入れろよ。ほらおっさんが後ろから来たぞ。あいつに声かけて入れさせろ」って言った。

そうしたら、そいつのバイクに給油していたお姉さんが「何や?!ボクも入れて欲しいの?ならこっちへおいで!そしてキミはもう入れ終わったからそっちへどいて!!」ってきつい口調で言った。

偉そうにしていたあいつらがキミとかボクとか言われて、ポカンと言われるままに動いているのを見て、もうボクは心の中で笑いが止まらなかったよ。

その時、「まったく、ガキんちょが偉そうに」ってお姉さんが小声で言ったのが聞こえちゃったんだ。
目が合って、お姉さんは決まり悪そうにペロッて舌を出した。

その後、ボクも給油してもらったんだけど、ボクには丁寧に接客してくれた。

それにおじさんも話してみると面白い人だったし、先輩の話を聞いてからは特にこの店はイイナって思ったんだ。


あれから、あいつらは広域業者の店に行ってるみたいだけど、相変わらず自分の親のような年齢のスタッフにも偉そうにしているらしい。
これは他の同級生に聞いた・・・
雇われている人は接客マニュアルに従わなきゃいけないし、クレームなんか付けられたら評価に関わる、とか考えるだろうから・・・
あんな自分の子供みたいな年の、しかも態度の悪い人間に、いくらお客さんだからってペコペコしなきゃいけないのは嫌だろうな・・・

だけど、あの店のレシート、未だに税別表示なんだよな・・・
(安いと思ってそこで給油してたのに、石玉石油と変わらなかった)って同級生の子がぼやいていた。

父さんは、「古い店はもうダメだ」なんて言うけど、結構繁盛しているし、あそこのお客さんって何だか幸せそうなんだよね・・・

幸太はお好み焼きを頬張りながら、心の中でそんなことを考えていた。


つづく



※この物語はmasumiさんの被害妄想に基づくフィクションです(^^;
実在の人物及び団体とは一切関係ございません。

尚、加筆修正及びキャラの変更等もあるやも知れませぬことをお断り申しておきまする(^^;