masumiノート

何を書こうかな?
何でも書こう!

幸太の憂鬱(その4)

2010年08月02日 | 作り話
ふと顔を上げると、ゆうきさんが何か言いたげにボクを見ている。

「ゆうきさん、ちょっと聞いてもらっていいですか?」

「う、うん。いいで。」

幸太は両親の諍いの事を話した。


暫く沈黙が続いたあと

「幸太の父ちゃんと母ちゃんって仲は良かったんか?」

「え?・・・ ・・・・ ・・・・多分。・・・ケンカしてるとことか見たことないし・・・」

「ふーん。」

又、沈黙。


「幸太の母ちゃんの実家なぁ、青森の。幸太の母ちゃんに帰ってきて面倒みてもらいたいって言うてんのんか?」

「・・それは無いと思う。お手伝いさんも居るし・・・何か、お墓のことを一番心配してるって言ってた。自分が墓に入ったあと面倒みてくれる人がいないとかって、昔、ボクも言われたことがある。」

「墓か。それやったら解決出来るで」

「え、本当に?」

「ああ、お墓の引っ越しや。」

「お墓の引っ越し?」

「ああ、改葬って言うねんけどな。現在既にお墓があって、そこに安置してある遺骨を別のお寺や納骨堂なんかに移すことや。」

「ああ、改葬か。・・・それだったらダメです」

「何で?」

「ゴールデンウィークに帰ったとき、今回はボクも一緒に三人で話をしたんです。父さんが改葬のこと調べて提案したんですけど、青森のおばあさんが今ある墓に入りたいしそれを動かすなんて絶対許さないって聞かないらしいんです」

「我が儘な婆さんやな」

「はい」

「もちろん和歌山の爺さんも、孫の幸太の親父さんに継いでほしいって言うくらいやから、和歌山の墓を動かすのは無理なんやろなぁ?」

「そうです」


「ほんなら永代供養はどないや?」

「青森の墓は、そういうサービス、サービスっていうのか何て言うのか知らないけど、そういうサービスはやってないらしいです」

「あちゃぁ~」


「それにもし永代供養して貰えたとしても、おばあさんはそれも嫌なんだって」

「何でや?」

「どこの誰か知らない他人に線香あげてもらっても嬉しくない、とか・・・」

「はぁ・・・困った婆さんやね」


「それにボクもちょっと調べたんですけど、お寺の倒産とか名義借り霊園とか、永代供養も当てにならないみたいです」
http://blog.goo.ne.jp/m128-i/e/8b894110dd90ccd80a74acbf4a9a1eb3


「ふーーーーっ」
ゆうきさんとボクはふたりして大きな溜息をついた。


つづく



幸太の憂鬱(その3)

2010年08月01日 | 作り話
春休みに帰省したとき夜中に咽喉が渇いて起きたら、リビングから父さんと母さんが言い争っている声が聞こえて来た。


「俺が養子にならない事をお前も承知したじゃ無いか!」

「だって、家がどうとか墓がどうとかなんて、若いときには考えるわけないじゃない!私はただアナタと一緒になりたかった、ただそれだけよ。だから私たちの結婚を認めてくれる条件として『子供をひとり養子縁組にして跡を取らせること』って言われたときも深く考えずにOKしちゃったのよ。」
「だけど私も年を取って老後の事とか考えるようになってきたら、実家の母のことも心配になるし、両親が気に病んでいた先祖供養のことも考えるようになったのよ。それに、昨日も母から電話があって『このままじゃあ、ご先祖様に申し訳ない』って、電話口で泣かれたのよ!」

「だからって、じゃあどうしたいんだ?!俺たちの子供は幸太しか居ないんだぞ。幸太は大木の人間だからな!離婚したって幸太は渡さないぞ!・・・それにどうして?!こんなことになるんなら、あのとき二人目を産んでくれなかったんだ!」

「それは言わない約束よ!・・・私は本当は音楽教師になりたかったのよ。だけど幸太が出来て結婚して・・・・。あなたはバリバリ外で働いて。・・・私は家の中で・・・社会から取り残されていくようで堪らなかったのよ!」

「だからお前が『幸太が入園したのを機にピアノ教室を開きたい』って言ったとき、部屋を防音に改築して協力してやったじゃないか」

「そうよ!順調に生徒も増えて、軌道に乗ってきたところで、それを止められるわけ無いじゃない!」

「・・・・・それにしたって、今になって実家の事が心配だから別れてくれなんて、そんな馬鹿な話があるか!・・・・頼むから考え直してくれ。俺も良い方法が無いか考えるから」


ボクはそっと二階へ上がった。


つづく

幸太の憂鬱(その2)

2010年08月01日 | 作り話
幸太は思い出していた。
春休みに帰省したときの両親の言い争いを・・・


幸太の姓は大木だ。しかし、父方の祖父母の姓は石崎で大木では無い。
高校生になってから知ったんだけど、おじいちゃんは父さんの本当の父親ではなくて、おばあちゃんの再婚相手なんだって。

大木という姓は、おばあちゃんの旧姓で、父さんはおばあちゃんの家の跡を継ぐために大木姓のままにしたらしい。

父さんが継ぐ予定のおばあちゃんの実家は和歌山で、ひいおじいちゃんはもうかなりの高齢だけどまだ元気だ。
とはいえ、少しだけ残っている田んぼはもうずいぶん以前からJAに任せているらしい。
そして、父さんが退職したら和歌山に帰ってきて大木家の跡を継いでほしいと願っている。

父さんは幼稚園の頃まではそこで暮らしていたんだけど、おばあちゃんの再婚で神奈川に引っ越したから、殆ど和歌山の記憶は無いらしい。
それでも「退職後はスローライフも良いなぁ」とか言って、その気はあるみたいなんだけど母さんは大反対だ。

なんでも同窓会で会った友人が、夫が田舎暮らしに憧れて第2の人生をスタートさせたは良いけど、仲介業者に田んぼや畑をするのには農業機械を用意した方が良いとか薦められ、何だかんだで退職金を注ぎ込んだものの思ったほどの収穫はないし、都会と違って田舎の人付き合いは大変だとぼやいていたとかで、
「そんな甘いものじゃ無いし、不便な田舎暮らしなんて私は絶対に嫌よ」って言い張っている。

幸太は溜息を漏らした。
・・・問題はそんなことじゃ無いんだ。

実は母さんも一人っ子で、結婚するときは婿養子云々で大変だったらしい。
結局、父さんと一緒で、子供が出来たらそのうちの誰かに跡を継がせるから、という条件で父さんのところへ嫁に来たんだけど・・・

父さんと母さんの当初の予定では子供は二人以上つくるハズだったらしいけど・・・
ボク、一人っ子なんだよね。。。

母さんの実家は青森で遠いってこともあるんだろうけど、父さんも母さんもあまり行きたがらない。
「跡継ぎはどうなった」とかって責められるのが分かっているからなんだって。

そんな話はボクが中学生の頃にちょこっと聞いていた。


つづく