先日、経済産業省主催のある研究会では、ベルギーのIMEC日本事務所代表の石谷明彦さんを特別講師にお迎えし、IMECの研究開発機関としての強さの“秘密”についてお話いただきました。各国の電機メーカーや半導体メーカーがこぞって、IMECと共同研究契約を結ぶのかという“秘密”を解明するためでした。幸運にも、これを拝聴しました。(今回は、2011年1月22日と23日のブログの続きです)。
IMECは英語表記で「Inter-University Microelectronics Center」の略称です。“マイクロエレクトロニクス先端研究所”とでも訳す研究機関です。そのIMECに対して、例えば日本のパナソニックは共同研究費として1年当たり1000万ユーロ(約12億円)を支払って共同研究しています。同社は、IMECが企画した半導体系の共同研究プログラムすべてに参加し、その共同研究費として1年間に1000万ユーロを支払う“コア・パートナー”と呼ばれる地位を得ています。
主要な半導体デバイスであるDRAM(Dynamic Random Access Memory)のトップメーカー5社すべてがIMECと共同研究しています。第1位の韓国のサムソン電子、第2位のハイニックス半導体から第5位の日本のエルピーダーメモリ(東京都中央区)までがIMECと共同研究しています。パソコンなどの性能を左右するDRAMの研究開発に、IMECが網羅的かつ継続的に関与していることになります。IMECの実力を示すエピソードです。
各国の電機メーカーや半導体メーカーの約550社がIMECとなぜ、共同研究するのかを明らかにする内容を、石谷さんからご説明いただきました。
用いられた資料は、2010年11月16日にIMECが東京都内で開催した、セミナーで使われたものです。共同研究クライアントが多い日本で、代表・COE(最高経営責任者)であるリュック・ヴァンデンホッフ(Luc Van den hove)さんは、この資料を基に、IMECが2025年までに目指すものを説明されたそうです。
石谷さんのお話から、IMECの強さの源泉は以下の4点だと独断と偏見で思いました。
(1)IMECの経営は、地元ベルギーのフランダース人(オランダ語を話すカソリック系)が握り、結果的に経営方針や研究開発戦略などが継続され、一貫性がある
(2)共同研究クライアントに支持される、優れた知的財産ポリシーを持っている。これはIMECの共同研究のビジネスモデルそのもののことです。
(3)世界中から優秀な研究者人材が集まる仕組みになっている
(4)半導体を研究開発する、試作する最先端の設備を持っている
――の4点です(言葉の表現はかなり意訳しています)。
(1)の経営陣は現在、社長兼CPEを含めて8人と少数精鋭で構成され、経営方針を決めているそうです。とても決定が早いそうです。民主的かどうかは分からないのですが、少数精鋭で迅速に経営判断を下しているそうです。経営陣は、フランダース人が占めているそうです。1984年にNPO(非営利組織)として、IMECが設立されて以来、社長は4人しかいないそうです。社長1人の就任期間が平均約7年の勘定になります。IMECの組織は、経営陣と少数の事務などの共通部門(IMECの運営を担当)、合計1850人とIMECの大部分を占める研究開発部門で構成されているそうです。
(2)の特許などの知的財産ポリシー・マネジメントは、IMECの根幹となるビジネスモデルそのものです。IMECは特許などの知的財産の取り扱いを、共同研究相手にとって共同研究の見返りである価値を高めるものを目指しています。IMECは「IMEC Industrial Affiliation Program」(IIAP)と呼ぶ企業とのコンソーシアムスタイルの共同研究プログラムの仕組みを持っています。
あるIIAPプランをクライアントに提案し、そのプログラムに賛同して企業5社が参加したとします。研究開発活動後に、その研究開発成果から産まれた特許の帰属(所有)のルールは、日本にない仕組みになっています。ベルギーでは(たぶんEUでは)、日本とは共同出願した特許の帰属(所有)が異なる制度システムになっているからです。
以下は、特許の帰属(所有)を巡る、ややこしい話です。IMECが当該企業5社と共同研究を始める前に、IMECが持つ特許の集合を「R0」の円で示しています。数年間にわたる研究開発期間の終了時に、企業BがIMECとの共同研究によって得られた「R1」の部分は、企業BとIMECは共有し、それぞれ実施権を持ちます。他の4社も「R1」部分は通常実施権を持ちます。このことは、IMECが企業数社とコンソーシアムスタイルの共同研究プログラムを実施する考え方は、共同研究のクライアントと費用とリスクや才能、特許などを共有することによって、コスト面での低価格化を実現し、クライアント企業の満足度を高めることを目指しているからだそうです。「IMECは特許の実施権ライセンスでもうけることを考えていない」からだそうです。ただし、企業の方から、当該特許の実施権ライセンスがほしいという場合は、ライセンスすることもあるそうです。
IMECにとっても、特許の集合に含まれる特許数「R0」が数年後に外側に膨らみます。この膨らんだ特許群を新たなRo(緑色部分)とし、次の共同研究提案書を書く基本になり、IIAPという共同研究プログラムは成長し続けます。膨らんだ、新しい「R0」は、クライアント企業がなるほどと思える共同研究計画書を書き上げる源泉になるそうです。
特徴の(1)と(2)を考えると、日本の老舗企業に一脈通じるものがありそうです。経営陣は創業一族が占め、お客第一の経営を貫くのです。クライアントには一緒にやって得したと思わせる事業の仕組みを続けるからです(また、長くなったので、ここまでで)。
IMECは英語表記で「Inter-University Microelectronics Center」の略称です。“マイクロエレクトロニクス先端研究所”とでも訳す研究機関です。そのIMECに対して、例えば日本のパナソニックは共同研究費として1年当たり1000万ユーロ(約12億円)を支払って共同研究しています。同社は、IMECが企画した半導体系の共同研究プログラムすべてに参加し、その共同研究費として1年間に1000万ユーロを支払う“コア・パートナー”と呼ばれる地位を得ています。
主要な半導体デバイスであるDRAM(Dynamic Random Access Memory)のトップメーカー5社すべてがIMECと共同研究しています。第1位の韓国のサムソン電子、第2位のハイニックス半導体から第5位の日本のエルピーダーメモリ(東京都中央区)までがIMECと共同研究しています。パソコンなどの性能を左右するDRAMの研究開発に、IMECが網羅的かつ継続的に関与していることになります。IMECの実力を示すエピソードです。
各国の電機メーカーや半導体メーカーの約550社がIMECとなぜ、共同研究するのかを明らかにする内容を、石谷さんからご説明いただきました。
用いられた資料は、2010年11月16日にIMECが東京都内で開催した、セミナーで使われたものです。共同研究クライアントが多い日本で、代表・COE(最高経営責任者)であるリュック・ヴァンデンホッフ(Luc Van den hove)さんは、この資料を基に、IMECが2025年までに目指すものを説明されたそうです。
石谷さんのお話から、IMECの強さの源泉は以下の4点だと独断と偏見で思いました。
(1)IMECの経営は、地元ベルギーのフランダース人(オランダ語を話すカソリック系)が握り、結果的に経営方針や研究開発戦略などが継続され、一貫性がある
(2)共同研究クライアントに支持される、優れた知的財産ポリシーを持っている。これはIMECの共同研究のビジネスモデルそのもののことです。
(3)世界中から優秀な研究者人材が集まる仕組みになっている
(4)半導体を研究開発する、試作する最先端の設備を持っている
――の4点です(言葉の表現はかなり意訳しています)。
(1)の経営陣は現在、社長兼CPEを含めて8人と少数精鋭で構成され、経営方針を決めているそうです。とても決定が早いそうです。民主的かどうかは分からないのですが、少数精鋭で迅速に経営判断を下しているそうです。経営陣は、フランダース人が占めているそうです。1984年にNPO(非営利組織)として、IMECが設立されて以来、社長は4人しかいないそうです。社長1人の就任期間が平均約7年の勘定になります。IMECの組織は、経営陣と少数の事務などの共通部門(IMECの運営を担当)、合計1850人とIMECの大部分を占める研究開発部門で構成されているそうです。
(2)の特許などの知的財産ポリシー・マネジメントは、IMECの根幹となるビジネスモデルそのものです。IMECは特許などの知的財産の取り扱いを、共同研究相手にとって共同研究の見返りである価値を高めるものを目指しています。IMECは「IMEC Industrial Affiliation Program」(IIAP)と呼ぶ企業とのコンソーシアムスタイルの共同研究プログラムの仕組みを持っています。
あるIIAPプランをクライアントに提案し、そのプログラムに賛同して企業5社が参加したとします。研究開発活動後に、その研究開発成果から産まれた特許の帰属(所有)のルールは、日本にない仕組みになっています。ベルギーでは(たぶんEUでは)、日本とは共同出願した特許の帰属(所有)が異なる制度システムになっているからです。
以下は、特許の帰属(所有)を巡る、ややこしい話です。IMECが当該企業5社と共同研究を始める前に、IMECが持つ特許の集合を「R0」の円で示しています。数年間にわたる研究開発期間の終了時に、企業BがIMECとの共同研究によって得られた「R1」の部分は、企業BとIMECは共有し、それぞれ実施権を持ちます。他の4社も「R1」部分は通常実施権を持ちます。このことは、IMECが企業数社とコンソーシアムスタイルの共同研究プログラムを実施する考え方は、共同研究のクライアントと費用とリスクや才能、特許などを共有することによって、コスト面での低価格化を実現し、クライアント企業の満足度を高めることを目指しているからだそうです。「IMECは特許の実施権ライセンスでもうけることを考えていない」からだそうです。ただし、企業の方から、当該特許の実施権ライセンスがほしいという場合は、ライセンスすることもあるそうです。
IMECにとっても、特許の集合に含まれる特許数「R0」が数年後に外側に膨らみます。この膨らんだ特許群を新たなRo(緑色部分)とし、次の共同研究提案書を書く基本になり、IIAPという共同研究プログラムは成長し続けます。膨らんだ、新しい「R0」は、クライアント企業がなるほどと思える共同研究計画書を書き上げる源泉になるそうです。
特徴の(1)と(2)を考えると、日本の老舗企業に一脈通じるものがありそうです。経営陣は創業一族が占め、お客第一の経営を貫くのです。クライアントには一緒にやって得したと思わせる事業の仕組みを続けるからです(また、長くなったので、ここまでで)。