ヒトリシズカのつぶやき特論

起業家などの変革を目指す方々がどう汗をかいているかを時々リポートし、季節の移ろいも時々リポートします

生物をまねる「バイオミメテックス」を拝聴しました

2010年07月30日 | イノベーション
 「バイオミメティックス」(Bio mimetics)は「生体模倣技術」などと翻訳されています。生体の持つ優れた機能などをまねして役立つ人工物をつくる技術です。

 この生体模倣技術は、生物の体は我々が想像する以上に優れた高機能を持っているので、それを模倣して人類の生活に役立てましょうという点で注目されているものです。例えば、オリンピックの水泳競技の時に、サメ(鮫)肌をまねた表面組織の水着が話題になりました。水泳時の水の流体抵抗が小さくなり、いい記録が出やすくなったとのことでした。

 7月28日午後に東京都千代田区神田練塀町の“秋葉原”界隈で開催された「東北大学‐産総研 連携公開講演会」を聞きに行きました。この中で、東北大学原子分子材料科学高等研究機構の下村 政嗣教授か講演された「次世代バイオミメティクスがもたらす技術革新」を拝聴しました。


 以下、その単純な受け売りです。

 ハス(蓮)の葉は、ご存じのように、水滴が表面をコロコロと転がる表面構造を持っています。この超撥水(はっすい)性を持つ表面構造をまねて、セルフクリーニング用のコーティング塗料が開発されたようです。昆虫のガ(蛾)の眼は光を反射しません。入射光は規則正しく並んだ円柱状の構造の中で吸収されるのです。もし、反射して眼がきらりと光ると、野鳥に対して「ガがここにいます」と知らせることになり、食べられてしまうからです。この光を反射しない“モスアイ”構造を利用した無反射フィルムが開発されています。無反射フィルムは液晶テレビの表面の反射光を抑えるものです(現在の反射防止フィルムがモスアイ構造を利用したものかどうかは未確認です)。ある種のステルス表面になるのです。

 このほかにも、ヤモリはガラスなどのつるつるした引っかかりがない表面にも留まることができます。つるつるした壁や天井にへばりつくことができます。ヤモリの足の先はナノスケールの細長い繊維の束になっていて、この1本がガラス表面に接して“ファンデルワールス力”という原子と原子が引き合う力を発生させます。多数の繊維がファンデルワールス力を発生させるので、ヤモリの体重を支えるぐらいの力になり、スベスベしたガラスなどに貼り付くことが可能になるそうです。現在は、こんなに細い繊維の束を巧みにつくるナノテクノロジーは開発されてなく、実用化はまだです。

 ハチドリやある種のガは羽根を動かし続けて、空中に一カ所に浮かび続けるホバリングができます。人類は羽尾を動かすやり方ではホバリングは実用化していません。ペリコプターの仕組みでしかホバリングできません。羽根をばたばたして飛び上がることもできません。こうしてみると、自然界に生きる動物が獲得した機能などのごく一部しか、人類は実現できていません。やっと真似できる技術をいくつか手にいれた段階です。

 実は、今年6月8日に下村政嗣教授は「次世代バイオミメティックス材料の研究動向と異分野連携」シンポジウムを東京都台東区上野公園の国立科学博物館日本館で開催しました。


 日本では、学術シンポジウムを国立科学博物館の講堂で開催することはかなり珍しいことです。下村教授は生物学の拠点である同講堂で開催したいと考え、苦心の末に実現したようです。国立博物館に展示物を見るのではなく、講演を聴きに行ったのは初めての体験です。

 この講演会では、東北大大学院環境科学研究科の石田秀輝教授が「アフリカなどのサバンナ地帯に住むシロアリのアリ塚の中は、温度が摂氏30度に保たれている。自然の原理のクーラー・温度調節器があることになる。これを実用化したい。また、カタツムリの殻は汚れない。自然に汚れが落ちる表面構造を持っている。これを利用したい」と分かりやすく、生体模倣技術を解説されました。現在、トンボの羽根の動きをまねた風力発電用の羽根を開発しているそうです。石田教授はこうしたバイオミメティクスを追究し「ネイチャーテクノロジー研究会」を主宰されています。

 6月8日のシンポジウムでは、下村教授は日本のバイオミメティックス研究開発拠点をつくることを訴えました。最近の欧米などのバイオミメティックスの研究開発成果をみると、「日本は二周遅れ、あるいは三周遅れで研究開発が進んでいる」と、下村教授は警告します。


 生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)が日本で開催される今年にバイオミメティックス研究開発拠点を築く動きを活発化させたいようです。

 バイオミメティックスの研究開発は、人類がやっと各生物が持っているさまざまな高機能性を模倣可能なナノテクノロジーなどをいくつか持ち始め、これを実用化してイノベーション創出を起こせる入り口に立ったことを伝えています。
 

池の平湿原でキツネに出会いました

2010年07月28日 | 旅行
 子ギツネと、標高2000メートルの池の平湿原の駐車場で会いました。
 浅間山山系の西側にある、広大な池の平湿原に設けられた木道を一周して駐車場に戻ってきたら、子ギツネが1匹いました。


 駐車場にいた数人によると、少し前に駐車場に出現し、そこにいた人に寄ってきて何かをねだる感じだったとのことでした。確かに、人慣れしていて逃げません。少し毛並みが荒れています。

 以下は想像です。おそらく、池の平湿原を訪れたトレッキングの方の中で、「子ギツネがかわいい」と、餌をあげる方が何人もいて、人になついてしまったものと思います。確かに、子ギツネはかわいいです。でも、自然の中で生き延びていくには、人間から餌をもらうような楽する生活は厳禁です。野生の動物にとっては堕落です。冬場になると、生き残れない可能性があります。

 似たような話です。最近、比較的手軽に行くことができる高原や湿原などでは、飼い犬を連れて立ち入ろうとし、「飼い犬を連れての進入は禁止」と自然観察員などに注意される方が増えています。車から愛犬を連れ出す方が少なくありません。自然が好きということで、気楽に来られる方が増え、自然との付き合いを知らない方が増えました。飼い犬の臭いが木道などにつくと、野生の動物が警戒して近づかなくなることを知らない方が増えています。人間の住む地域の常識と、自然界の掟(常識)は違います。その接点になっている山村での動物による農作物の被害は予想以上に深刻です。

 だいぶ以前のことですが、群馬県下仁田町・富岡市・安中市にまたがる妙義山の山中にある中之嶽神社(なかのたけじんじゃ)近くの大駐車場には、以前はサルの群れがよく現れました。赤ちゃん猿を抱いている母ザルは確かに可愛かったです。餌を与える方が当時はいました。その内に、餌をねだるようになり、問題になったようです。最近は、サルは餌をたかりません、人間も近づきませんと、思います。

 以前、夏の朝に軽井沢町の中軽井沢付近を車で走行していると、住民の方が花火をしていました。最初は状況が分からず、「朝から酒興(すいきょう)な人もいるな」と思っていたら、花火でサルを威嚇していたのです。軽井沢町ではサルやクマの被害が出ているとのニュースをテレビでみた記憶があります。悲しいことです。人間にとっても、野生の動物にとってもです。

 話を池の平湿原に戻します。
 池の平湿原の端に佐久市方面が見える崖の部分があります。この崖部分からは上昇気流に乗って霧が上がってきます。このガレ場近くにクロマメノキなどの低木が生えています。今回、このガレ場付近で、高価なカメラを三脚に載せている自然観察のグループに出会いました。「鳥がお目当てですか」と尋ねると、「蝶です」との答えでした。


 ミヤマモンキチョウという高山固有のチョウが、この期間はクロマメノキに産卵しに集まっているとのことでした。確かに、小さな黄色いチョウがたくさんいました。時々、草に留まるのですが、小さいために撮影に失敗しました。池の平湿原はミヤマモンキチョウが集まる所として、蝶好きには有名な所だそうです。ミヤマモンキチョウは浅間山系と北アルプス山系でしかお目にかかれないそうです。

 今回、池の平湿原を訪れてうれしかったことは、シャクナゲがごく少数ですがまだ咲いていたことです。普通ですと、もうとっくに咲き終わっているころです。


 湿原の周囲の森の木陰部分に少し咲いていました。白いのでハクサンシャクナゲのようです。シャクナゲを見るような、軽い登山から遠ざかっているからです。

 自然の中を歩くなどの体を動かさない人間は、餌をねだるキツネのように堕落した存在と同じであると反省しきりです。
 

湯の丸高原の池の平湿原はアヤメが花盛りでした

2010年07月27日 | 旅行
 浅間山に近い湯の丸高原の上側にある標高2000メートルの池の平湿原はアヤメが一面に咲いていました。
 広大な湿原一面にアヤメを中心にノハナショウブなどの野草があちこちに咲いています。池の平は通称“アヤメ平”ともいわれてると聞いていましたが、こんなにあちこちに咲いているのは、初めて見ました。たいへん幸運でした(アヤメとヒオウギアヤメの違いがよく分からなくなりました。ここでは池の平湿原に示されていた表記を採用しました)。


 長野県東御市から浅間山山系の西側にある湯の丸高原の地蔵峠を目指して上ります。ここから湯の丸高原スキー場沿いの山道を上がっていきます。途中の道の両側は、淡い黄色のキバナノヤマオダマキがずっと咲き続けています。これだけでも楽しいアプローチでした。

 池の平湿原は駐車場から歩いて20分ぐらいで大湿原に入れるため、最近人気の自然観察の場所です。トレッキングの方が増え過ぎたために、自然環境を守るために7月から8月の土・日曜日などは湯の丸高原の入り口からシャトルバスでしか入場できない制限を設けています(車の進入制限期間は未確認です)。高峰高原に向かう尾根沿いの山道に出る辺りに池の平湿原に向かう駐車場があります。

 ここから池の平湿原に向かって緩やかな下り道を歩き始めると、開花し始めた、背の高い濃い黄色の花のマルバダケブキをいくつか見かけました。ニッコウキスゲもポツポツと点在して咲いています。池の平湿原は三方ヶ峰火山の火口原に広がる高層湿原で、植生が豊かで標高3000メートル級の高山植物まで見ることができる自然の宝庫です。

 森の小道から湿原全体が見渡せる、視界が急に広がる入り口に到着しました。ハクサンフウロやワレモコウが目に付きます。湿原を一周する木道を歩み始めて驚いたのが、多数のアヤメが至る所に咲いていることでした。

 湿原の中にある池も水量が豊かでした。湿原を囲う周囲の斜面が水面に映ります。雲が流れると、日の光の明るさがかなり変わります。自然のライトショーです。


 湿原の中に、ノハナショウブも所々に咲いています。気品のある濃い紫色の花です。淡い紫のアヤメの花の群れに巧みにアクセントを与えています。


 カラマツソウやミネウスユキソウもよく咲いています。カワラナデシコの可憐な花も咲いています。ハクサンチドリやシュロソウの花も見ることができました。

 テレビのニュースによると、今年は霧ヶ峰高原ではニッコウキスゲがあまり咲いていないそうです。春の低温によって花芽ができなかったとか、鹿に花芽を食べられたなどと分析されています。池の平湿原から山道でつながっている高峰高原(浅間2000スキー場)は「ニッコウキスゲが咲き始めていた」と、通過してきた登山客の方が言っていました。自然は人間の思惑を超えたさまざまな営みをします。
 

佐久荒船高原の夏の昼間はやはり暑いようです

2010年07月26日 | 佐久荒船高原便り
 標高1100メートルの佐久荒船高原も、真夏の昼間の日向(ひなた)はやはり暑いようです。

 佐久荒船高原の一部を占める神津牧場は、日本で最初の西洋式牧場だそうです。明治20年(1887年)に、群馬県下仁田町の山岳部分につくられました。この牧場は現在、ジャージー種という乳牛が売り物です。この乳牛から採れる牛乳は脂肪分が多く、とてもおいしいです。その代わりに1リットル当たりの牛乳パックは価格が通常の5倍ほど高いです。

 盛夏の日中、牧場沿いに走る林道を行くと、陽当たりのいい草原の中で、ジャージー種の乳牛が1カ所に集まっていました。どの牛も耳を団扇(うちわ)のようにパタパタと素早く動かして扇いでいます。みんなで内側に日陰をつくり、耳で風を送り合っています。



 耳をパタパタと動かすことで、身体にいくらかでも涼しい風を呼び込めるのかどうかは分かりません。どの牛も真面目に耳を動かし、「暑いナー」という感じで、こちらを見ていました。なぜ、耳をパタパタしていたかは本当の所は、乳牛に聞いてみないと分かりません。「草原の日向は暑そうだな」と思いました。「少し歩けば、木陰もあるのに」とも思いました。

 山道で出会ったキジの雄も注意力が少し散漫でした。いつもならば、近づくとすぐに逃げ出すのに、逃げ出しません。暑い日向を歩いていて、少しばてている感じでした。



 羽根も求愛シーズンの春先に比べて、やや輝きが鈍っていました。“夏羽根”なのでしょうか?。少し経ったら、木陰が濃い森の中に入っていきました。キジにも夏ばてがあるのでしょうか。

 盛夏なので、昆虫も当然盛んに活動中です。クロアゲハ系の大きなアゲハも日の当たる明るい所を飛んでいきます。山道で、清水が細々と流れている個所に降りて、盛んに水を飲んでいます。暑さ対策なのでしょうか。

 佐久荒船高原の森の中では、ウバユリ(姥百合)が開花準備を着々と進めています。高さ1メートル程度に伸びた茎の先端に、蕾(つぼみ)を含んだ紡錘形の“房”のようなものが大きくなって、花の蕾に分化していきます。細長い鉄砲ユリに似た感じのラッパ状の花をいくつかつけます。



 ウバユリの薄緑色の花は、良い香りがします。ウバユリと呼ばれる理由は、花が咲く時になると、地表近くの大きな葉が枯れて“ハナシ”になるため、“歯なし”と言い換えられ、これから“姥”が発想されたといわれています。実際には、咲いているウバユリの多くは、葉がいくつか残っているものが多いのですが。少し茶色に枯れかけた感じになっています。開花までは、もうすぐです。真夏の森の中を少し華やかにするのがウバユリです。

 当然、秋にはウバユリは枯れて、元花の部分から鱗片状の種をたくさん実らせます。晩秋の森の殺風景な風景の中に、枯れたウバユリの茎が立っています。晩秋の風物詩です。盛夏の草原や森は、そんなことをまったく感じさせない生命力に満ちています。

佐久荒船高原も真夏真っ盛りです

2010年07月25日 | 佐久荒船高原便り
 標高1100メートルの佐久荒船高原も真夏真っ盛りです。

 7月17日に関東は梅雨明けして以降、気温が摂氏35度以上の“猛暑日”が続く盛夏になりました。夜になっても屋内は30度ぐらいと暑く、寝苦しい日が続いています。

 一方、長野県と群馬県の境の内山峠近くにある佐久荒船高原は、標高が高いために昼間でも木陰は26度ぐらいと涼しいです。夜に時々、夕立があり、早朝は神秘的な朝霧に包まれるため、朝はかなり涼しいです。もちろん、昼間はカンカン照りの日向(ひなた)ではかなり暑く、空気が澄んでいるので、すぐ日焼けします。

 佐久荒船高原の森の中を散歩し、日本の盛夏は植物の天下と感じました。森の木々は葉をうっそうと茂らせて日陰をつくります。森がつくる木陰は涼しいです。下草がどんどん成長しています。特にツル系の植物はどんどん成長していきます。木にまとわりついて木陰を一層深くしています。

 標高1423メートルの荒船山も植物に覆われ、溶岩が固まったトモ岩以外の山肌は緑色に覆われています。緑のジャングルです。

 荒船高原の一部を占める神津牧場(群馬県下仁田町側)の草原では牧草などがどんどん成長しています。20~30キロメートル先の妙義山が見渡せる、のどかな景色の場所です。



 盛夏を代表する百合であるヤマユリは断崖の上では咲き始めています。森の中にも咲くものがあるのですが、採取されてしまうためか、現在は、人が近づけない、見上げるような断崖の上で、咲き始めたヤマユリを見かけることが増えています。

 現在、野原の中で咲き始めて目立つのは、コバギボウシです。下向きに咲く、淡い赤紫色の花が緑色の中で映えています。若々しい緑色の葉がみずみずしい感じです。親戚となるオオバギボウシも所々に咲くのですが、まだ準備中のようで、花を見かけません。



 森の中では、いろいろなキノコが育っています。盛夏に目に付くのは、タマゴダケです。白い卵状の中から鮮やかな赤褐色のキノコが殻を破るように出て来て育ち、赤褐色のカサを広げます。



 このタマゴダケは食べられます。美味とのことです。このため、動物がかじった跡があるものが少なくありません。最初に生えてくる白い“卵”は、教えられなければ、キノコとは思えないものです。

 秋になるといろいろと生えてくるキノコは、キノコに精通した地元の方に食べられるかどうかを判断してもらうことが重要です。キノコの図鑑は似たものが多く、素人には判定できません。

 森の中では、夏のメインコーラスグループのアカハラがよく鳴き始めました。早朝はもとより午後でも「キョロンキョロン」とよく鳴きます。この声は盛夏が来ていることを伝えています。山道では地上でミミズを探しているアカハラによく出会います。ホウジロやウグイス、モズも鳴いています。ホトトギスやカッコウも時々遠くで鳴きます。

 渓流近くではミソサザイが一生懸命鳴いています。身体が10センチメートル程度と小さいのに、精一杯鳴く続ける野鳥です。山道を歩いていたら、ヤマドリ二羽が、森の梢の上から滑空して飛び去って行きました。高い木の梢から飛び出して来たので、かなりの迫力を感じました。輝くきれいな羽根の色が見えました。

 野草も鳥も昆虫も必死に生き、生命力を発散しています。盛夏は植物も動物も生き延びることに集中しています。