人気作家の奥泉光さんの最新の単行本「ビビビ・ビパップ」を読んでいる途中です。この単行本のタイトルの「ビパップ」とは、モダンジャスを産み出す契機となった前衛的なジャズの走りのことです。
この単行本は2016年6月22日に講談社が上梓しました、この単行本はページ数が661+数ページあり、分厚い本です。価格は本体が2600円で、プラス消費税です。
この単行本の表紙は、ジャズの名プレーヤーだったエリック・ドルフィー(Eric Dolphy)さんを描いています。
このイラストの表紙によって、この単行本は、ジャズファンに受けているそうです。
この未来社会を書いた小説の舞台は、21世紀の世紀末のようです。主人公の女性フォギーのクライアント(依頼主)である山萩さんは、1980年代を学生で過ごし、それから約130年間生きていることから計算すると、21世紀末という計算になります。
この21世紀末は、ものすごい“電脳社会”です。小説の主人公は、仕事の依頼主の山萩さんと、“会って”話をします。その時に会ったのは、山萩さんのアバターでした。つまり、本物の生身の山萩さんとは、その場につくり出された映像(リアルな映像)の3D画像に話をしただけです。バーチャルスペース(仮想空間)と現実とは、区別が付かない世界です。
依頼主の山萩さんは、軍用ロボットメーカーとして世界第3位の「モリキテック」の創業者であり、社長です。世界の多くの国は、「モリキテック」のような多国籍超巨大企業傘下の一部門になっています。
この単行本「ビビビ・ビパップ」の最初の山場は、第二章の「The First Session with Dolphy」です。
天才ロボット研究者の山萩さんは、大好きで尊敬するジャズプレーヤーのエリック・ドルフィーのアンドロイドを開発します。
主人公の女性フォギーは、本業はジャズピアニストです。人間のベーシストとドラマーとで、ジャズ・ピアノトリオとして準備します。
そこに、エリック・ドルフィーのアンドロイドがフルートとバス・クラリネットを持って登場し、セッションを始めます。ジャズの名曲「Take the A Train」を演奏し始めます。
エリック・ドルフィーのアンドロイドは、実物のエリック・ドルフィーが演奏した名セッションのデータは持っています。しかし、ジャズ・ピアノトリオの3人はまさにアドリブで名演奏を繰り広げます。
その名演奏に対して、エリック・ドルフィーのアンドロイドは素晴らしいアドリブの演奏を繰り広げます。まるで本物のように・・。AI(人工知能)の性能がまさに人間並みになっていたのです。こんなことは現在のAI(人工知能)レベルでは不可能なことです。
この演奏では、ビパップ時代の名演奏の下りが次々と登場し、モダンジャスファンは楽しい表現に酔いしれます。
奥泉光さんは、実際にエリック・ドルフィーが大好きなようで、以前に書いた小説「虫樹音楽集」でも、エリック・ドルフィーの名演奏に触れた部分があります。
さて、この単行本「ビビビ・ビパップ」では、主人公のフォギーのクライアント(依頼主)である山萩さんは、小説の展開の途中で亡くなったようで、山萩さんの頭脳のデータは、すべてがTBU(Total Brain Uploading 全能送信、奥泉光さんによる造語)され、コンピューター上で生きているような示唆する場面もあります(真偽のほどは不明です)。
21世紀末の超未来社会を構成する各技術については、あっさりとある意味、わざと分かりにくく表現しています。現在とは、まったく質が異なる価値観を表現するために・・。この辺が、この小説の好き・嫌いを分けそうです。
この単行本「ビビビ・ビパップ」はとんでもない内容であることは間違いありません。最後まで、読むのが怖いような、惜しいような・・