○ 「株主と債権者との利害は対立するか?」ですが、対立しないというのが私の考えです。会社法には債権者保護の規定がいろいろあります。企業再編のときなどの債権者保護手続きというのは、保護の機能というより、債権者への挨拶状みたいなものですね。その程度の機能しか現実的には発揮していないということです。会社法では、株主と債権者の利害調整について、いろいろ規定を設けていますが、どの程度そういった規定が現実に機能しているか、きっちり(法務省などは)調べているのでしょうか?会社法の最大の欠点は、種々の規定がきちんと機能しているか、その検証がなされていないということです。問題になっているところだけ改正されて、あまり機能していないが実害もないので、機能しているのではなく、単に放置されている規定があるのですね。
○ 学者、例えば神田教授は、「剰余金配当・配当規制の問題は、会社債権者と株主の利害調整の問題として、会社法の会計規制のなかでのもっとも中心的な規整である」(神田 会社法 第7版 P244)と言われています。全く失当(的はずれ・ピンボケ)の見解です。
・また、今の会社法は資本金の減少と株式数の減少の関係が遮断されています。従い、株主資本というのは、ただの数字です(資産合計から負債合計を差し引いたもの)。この点は、多くの人がきちんと理解していません。(正確に理解するのが必須の、企業再生支援委員長の瀬戸英雄氏も理解していない。→2010.1.31のブログ参照)。
・会社法では、剰余金配当・自己株取得等について財源規制があります。これまた数字でとらえています。会社の現実のキャッシュフローという重要な視点では捉えていませんね。米国の会社法(例えば、模範事業会社法)では、資金繰り・キャッシュフローという視点から、考え方が非常に単純明快で実際的です。即ち、「債権者への支払いが出来ないような配当はしてはならない」としています。
○ 債権者と株主を対立するものとして捉えていることがおかしいのです。違いを述べてみましょう。いずれもキャッシュフローという点では共通していますが。
【債権者】
・損益取引です。売掛金保有者・金融機関(特に流動負債部分は)は、資金繰り・営業循環の問題です。
・債権確保は、連帯保証人を立ててもらうとか、何らかの担保を取得できるかというのが債権者保護・債権の確実性の問題です。会社法の債権者保護手続き、即ち債権者異議申述催告書や公告は、単なる債権者への「お知らせ」です。(債権者保護手続き等と言うの は誤りです。債権者への通知手続きというべきです)
・ 債権ですから、債務者は返済の義務があります。
・ 債権者にお金を払わなければ会社が潰れます。事業の継続出来ません。会社が潰れたら、株主への配当など考えられません。残余財産もありません。経営者は、取引先への債務の支払い、従業員への給与・ボーナス支払いを、株主への配当よりも重要なものとして優先します。というか、優先しないと、取引してもらえませんし、会社が潰れます。
・ 債権者への支払いは、多額で、通常は毎月月末、場合によっては適宜頻繁に行われます。時期・回数・金額は、配当と全く違います。少額の配当金と多額の債権者への支払いを同じレベルで考える発想自体がおかしいのです。
【株主】
・ 資本取引です。損益取引ではありません。
・ 配当は、経営陣の裁量・判断が働きます。株主の期待通りに配当する義務はありません。剰余金配当の原資ができるのに、しないケースも日本の企業ではおおいですね(剰余金配当しませんという「おわびのレター」だけですね。即ち「おわび」で済みます。)
・ キャピタルゲインは、会社と株主との関係ではありません。
・ 株主に配当しなくても、会社は潰れません。株主は、会社に対しては配当を期待します。出来れば継続的な高配当を望みます。つまり会社の継続が前提です。会社を継続させるには、当然債権者への支払いが大前提です。
・ 株主への剰余金の分配額は、売上や運転資金に比べて少額です。純利益の20%とか50%とかですね。配当の回数は、普通は中間と期末の年2回だけです。
株主と債権者の利害は、原則として対立しないというのが私の考えです。