○ 上場企業の株主の間で協定を結んで、上場企業の行動をどれだけ縛れるかを考えて見ましょう。上場企業ですから、株主は多数いますね。ですから一部の株主間だけで協定を結ぶ訳ですね。
○ まず基本的なところからですが、株主間協定に対象会社が契約当事者として入れるでしょうか?これは無理ですね。一部の株主とだけ企業の経営行動について約束する訳ですから、経営の独立性を害する訳ですね。少なくとも建前上はですね。
○ 建前上という変な言い方をしました。即ち、工夫すれば、特定の株主がそれなりの影響を与える事が出来るわけですね。どんな場合でしょうか。即ち、企業の経営に影響力ある事項は、人(役員)、物(技術・原材料提供・販売)・金(出資比率等)ですね。これらを組み合わせれば、実質かなりの程度まで、一部の株主が対象会社の経営をコントロールできる訳ですね。経営の独立性等と言っても、独立性が希薄な場合もそれなりにあるのですね。有価証券報告書では、経営上の重要な契約等で表示することになっていますね。
○ では、株主等が対象会社をコントロールすることができる場合は、どんな場合でしょうか?
典型的なケースは、オーナー会社の場合ですね。オーナーが2-3割とか、あるいは極端な場合は過半数の株式を保有していたら、株主からの独立性などありませんね。また、業績不振会社の場合は、銀行が5%未満しか株式を保有していないのに、債権者として経営に関与しますね。株主としてではなく、債権者として、対象会社のインサイダー情報を取得する訳ですね。勿論守秘義務を負いますけれどもね。
○ 普通は、上場審査において、独立したガバナンス体制が整っているか審査されますね。ですから上場準備段階で、親族が名目的な役員なりのケースは排除されます。役員の個人会社との不明朗な取引も整理されます。ただ、残るのは株主と対象会社となるわけですね。株主と対象会社ですから、議決権でコントロールする訳ですね。これなら文句は言えませんね。
○ では、普通の場合はどうでしょうか。東証の上場規則などで、上場企業の株主の株主間協定を規制するルールはありませんね。なかなか規制が難しいから(対象会社の知らないところでもできます)でしょうか。直接規制するルールはありませんが、間接的には、大量保有報告書とか、適時開示ルールで「その他会社の運営、業務、財産又は上場有価証券に関する重要な事項」として開示を要請されますね。株主間協定ですから、普通は株主が提出する大量保有報告で開示されますね。
○ 2-3例を挙げましょう。
1) イオンのダイエーの株式の大量保有報告には、以下のように記載されていますね。
「①提出者は、丸紅(株)(以下「丸紅」という。)、丸紅リテールインベストメント(株)(以下「MRI」という。)及び丸紅フーズインベストメント(株)(以下「MFI」という。)の間で締結した平成19年3月9日付株主間契約書に基づき、提出者が有する35,969,500株、丸紅が有する36,645,394株、MRIが有する19,903,900株及びMFIが有する1,739,150株につき、一定の要件が満たされるまでは、一定の事項につき特定の方法で議決権を行使すること、並びに一定の要件が満たされるまでは株式の譲渡等が禁じられること等について合意している。
②提出者が保有する甲種類株式29,860,000株は、平成19年5月10日以降、発行価額と同額(但し、一定の調整が加えられることがある。)にて、発行会社の普通株式に転換請求することができる。また、甲種類株式は株主総会において議決権を有し、利益配当請求権は有さず、残余財産請求権は普通株式に劣後する。」
2) 三井物産の旭テックの株式の大量保有報告には、以下のように記載されていますね。
「提出者とアールエイチジェイ・インターナショナル(RHJ International)との間に発行者の役員の選任に関する議決権行使の合意が存在する。」