まさるのビジネス雑記帳

勉強ノート代わりに書いています。

骨抜きの疑似外国会社の規定

2011-05-08 20:56:25 | 商事法務

  会社法821条には疑似外国会社の規定があります。外国会社を利用した日本の会社法制の脱法行為を禁止する趣旨の規定ですね。

1.日本に本店を置き、又は日本において事業を行うことを主たる目的とする外国会社は、日本において取引を継続してすることができない。

2.前項の規定に違反して取引をした者は、相手方に対し、外国会社と連帯して、当該取引によって生じた債務を弁済する責任を負う。

外国会社の定義は2条2号に「外国の法令に準拠して設立された法人その他の外国の団体であって、会社と同種のもの又は会社に類似するものをいう。」としています。

  旧商法482条では、「日本ニ本店ヲ設ケ又ハ日本ニ於テ営業ヲ為スヲ以テ主タル目的トスル会社ハ外国ニ於テ設立スルモノト雖モ日本ニ於テ設立スル会社ト同一ノ規定ニ従フコトヲ要ス」としており、「同一の規定」とは会社設立の規定も含むと解されておりました。

   外資系証券会社では、東京支店として登記しているのが一般的でしたが、税務戦略等の影響で、例えば形式的にベルギー等に会社を設立してその東京支店というのもあり、疑似外国会社と疑われる会社があったようですね。

   821条は、審議の際いろいろ議論があり、また参議院でも附帯決議がされたものですね。審議の過程では、いろいろなケースを想定して、実質疑似外国会社の規定の適用は、殆ど無いような骨抜きがされました。例えば「日本国外に役員が在住し、または日本国外で役員会が開催されている場合」にも疑似外国会社には該当しないとされています。

  外国会社は、外国の法令に準拠して設立された法人ですが、役員が誰も居ないあるいは設立のときに、役員の氏名を一人も記載しないことがあるでしょうか?例えば、ベルギー法人を作れば、役員が米国に居ようが香港に居ようが、実際名目上の役員でも最低一人ぐらいの氏名は記載されます。これで「日本国外に役員が在住し」の条件は満たされます。また、「役員会が開催されている場合」かどうかは、当然法務局にはわかりません。議事録の紙を一枚作れば、それで役員会が開催されているということになります。

  この規定は、「日本に本店を置き」と記載していますが、これは「本店登記もせずに」ということですね。本店登記すれば会社設立ですからね。また支店登記もしないという事だろうと思います。支店登記をすれば、日本における代表者も登記簿謄本(証明書)に記載されますからね。817条1項には、「外国会社は、日本において取引を継続してしようとするときは、日本における代表者を定めなければならない。この場合において、その日本における代表者のうち一人以上は、日本に住所を有する者でなければならない。」としています。また818条は「外国会社は、外国会社の登記をするまでは、日本において取引を継続してすることができない。」としています。

  ということで、

上記の様な「日本国外に役員が在住し」だけでこの規定の適用は無いと解釈をするなら、この疑似外国会社の規定は殆ど存在価値が無いという事です。

② この規定の趣旨が「日本の会社法制の脱法行為を禁止する趣旨」と言われることです。この趣旨がおかしいのです。日本に外国会社の支店を設置すれば、当然その外国法人の設立準拠法の規定に従いますね。日本の会社法の規制に従う必要はありません。例えば、ベルギー法人として本店をベルギーに置き、その支店を東京に開いたときはどうでしょうか。東京支店のガバナンスは、日本の会社法に従って行わなければならないのでしょうか?そんなことないですよね。支店であれば、勿論税法上はPEですし、全ての国内源泉所得は課税されます。また外為法上は居住者ですので日本企業と同じ扱いですが、会社法上は外国会社です。日本の会社法制に従う義務は無いのでは無いでしょうか?

○ 解釈による骨抜きは別として、規定の仕方もおかしいですね。8211項は正確には日本において本店又は支店の登記をせず、かつ日本において事業を行うことを主たる目的とする外国会社は、日本において取引を継続してすることができない。」とすべきではないでしょうか。