○ 今回の会社法制部会の見直しは、1部 企業統治の在り方、2部 親子会社に関する規律及び3部 その他 からなっていますね。今回は、このうち企業統治の在り方について述べます。企業統治・機関設計については、意思決定・執行・監査監督という3つのポイントから、どのように設計するかですが、経団連・日本取締役協会という、一部の団体の提言等も踏まえて、視野の狭い要綱案が出来ました。こういった組織論に加えて、企業統治の議論では、社外取締役の導入圧力があり、従来抵抗してきたトヨタ・キャノン・新日鉄住金等も導入していますが、まあこれは、どうせ役立たない、期待などしていないけど、1-2人ぐらい入っても、意思決定に影響があるわけないから、形式的に入れておこうということでしょうか。
○ 今回の会社法改正では、あまり利用されていない委員会設置会社制度(「指名委員会等設置会社」に名称変更予定)に屋上屋を架して、監査等委員会設置会社(当初は「監査・監督委員会設置会社」となっていましたが「監査等委員会設置会社」に変更)を設置するとの事です。委員会設置会社にいったん移行した上場企業は、70社ぐらいあったと思いますが、約1/5が不都合ありで監査役会設置会社に戻しています。なぜ普及しなかったのか、どの様に改善・修正すればよいのかという視点ではなく、失敗の上塗りの制度設計ではないかと思います。
○ では、どういった点が問題なのでしょうか。
1) 法制部会の委員は、会社法学者、弁護士、判事+民間の飾りが少しという構成で会社法学 者がメインです。選任は全く頑迷固陋でピンボケです。企業統治は、企業組織・人事論を専門とする経営学者の方が多面的で実証的な意見が多いのではないでしょうか?法学者は、企業統治のプロですか?頭法律で、組織を作っても機能しないのではないでしょうか?その証拠として委員会設置会社制度の失敗例があります。
2) 委員会設置会社は、米国の制度の猿まねです。しかも、米国の各州の会社法では、指名・報酬・監査委員会等は一切定められていません。委員会を設置できるとしていますが、その内容は定款自治ですね。この3委員会はNY証券取引所等の上場規制です。米国では上場企業用のルールを、日本では会社法に規定しました。仏作って魂入れずというか、形だけまねたのですね。即ち、米国の取締役は、株主の代表ですが、日本の取締役は、従業員の代表がメインですね。企業風土の違い、会社組織の歴史を踏まえない発想です。また、米国の制度がグローバルスタンダードと考えること自体が誤りです。ドイツの監査役会・共同決定法等という、機関設計もあります。こういったグローバルな発想もありません。
3) 社外取締役が、監査・報酬・指名という職責を果たせるという、現実性の乏しい仮定の認識に基づいている。一か月に一度、会社の役員室にやってくる役員に会社の実態が把握できる筈が無い、現場・現実・実務無視の発想です。たんに、役員会の直前に送付されている議事内容の紙を読んだだけで何がわかるというのですか?指名・報酬委員会等は、既にあるその会社の内規等の解説を事務当局から受けて、「うんうん」と了承しているだけではないでしょうか。
4) 事業報告書では、取締役会での、社外役員の発言の状況、社外役員の意見により事業方針・決定が変更されたときは、その内容を記載しないといけません(施行規則124条4号)→上場企業の事業報告書はEDINETで閲覧できますね。この内容を全部調べたのですか?私は、数社の事業報告書を読んだ限り、社外取締役は、「有益な助言・発言をした」等という、何もしていないという事を示す建前文言しか見ることができません。こういった調査・実情把握も不十分なまま、会社法学者が頭だけで考えたものが、今回の企業統治の考えですね。法学者は、法律的な組み立てを行うエンジニアであって、企業統治を広く深く多面的に見る専門家ではないのです。
○ 最適な企業統治の在り方は、規模・歴史・株主構造・企業文化と風土・業種等を踏まえて企業自らが考えて設計すればいいものです。会社法はそういった企業統治の枠組みを整備すればいいのです。従い、会社法では、取締役会は、委員会を設置して、取締役会の機能・権限を一部委譲できると規定する事(委譲出来ない部分も、委員会設置会社のように規定すればよい)とすれば良いのです。
しかし、各企業では、自分に合った企業統治の委員会を設計できるだけの能力が無いのが現状です。従い、かつて経済産業省・法務省が合同で、買収防衛策の指針を出したら、これに沿って買収防衛策を無批判に導入した企業が多くありました。それの例のように、例示の企業統治のパターンを、いくつか用意してあげれば、そのどれかを弁護士と相談して採用するでしょう。