まさるのビジネス雑記帳

勉強ノート代わりに書いています。

合弁子会社とのDebt -Equity Swap取引 その1

2021-03-01 09:54:38 | 商事法務
〇 海外の合弁子会社(親会社が80%、現地少数株主が20%を前提として考えます)に親子ローンを供与しているが、ローンでは金利の返済をしないといけないので、子会社の金利負担が厳しいということは時々ありますね。特に、金利の高い国等の子会社の場合は、ローンを株式に転換すれば、株式ですので利益が出なければ株主への配当も発生しませんので、子会社側で助かりますね(米国などでは、利益剰余金=配当可能金ではないですが、配当の原則は利益剰余金からの配当)。ということで、今回はDebt-Equity Swap(“DES”)の話です。ローン債権を普通株へ転換するSwapもありますが、一般的には配当優先株への転換が多いので、ローン債権を優先株に転換するSwap取引を考えてみましょう。DESをどの様に設計するかの検討の際には、その子会社の定款で優先株の内容を記載しないといけないですが、親子間でDES契約の内容を決め、その契約内容に従って子会社の定款変更をすれば良いですね。定款変更があるので、合弁子会社は株主総会を開催しないといけないですね。
株主総会といっても、合弁子会社なので、事前に合弁パートナーと話しておけば、形式的に行うことも多いですし、会社法で書面決議でできる場合も多いと思います。

〇まずローンの債権の通貨ですね。親子ローンを円建てで行っているのか、現地通貨建てで行っているのか、あるいはUS$で行っているのかによって違います。現地通貨建てならExchangeは発生しませんが、日本円・US$ローンを(米国以外の)合弁子会社に提供しているときにはExchange Rateを親子間で決める必要がありますね。更に、国によっては外貨規制の関係上、ローンを直接優先株に転換するのではなく、中銀の承認を得て転換する必要があります。また、ローンを一旦親会社に返済したことにして(実際にお金が動くわけではない)返済したローンを優先株に転換したという形式(即ち契約書の書き方)にする場合もあります。

〇 ローン債権は、当然元本と定期的な利息の発生があります。業績がいまいちの子会社とのDESの場合、利息部分まで株式に転換すると、今まで受け取っていた利息を受け取らないということになります。この場合、日本側で税務当局に睨まれますね。ですから、元本部分だけのDESを考えることになりますね。即ち、利息部分はローンとして残すことになります。

〇ローン金額はわかっていますので、これをどんな優先株にするかまず検討することになります。(StockとShareは、米国では同じと考えていいですね。英国ではStockは不定額面株式でShareと違いがあります。日本の会社法の英訳は、株式全体を示すときはStock、個別株式を意味するときはShareを使っているようです。ここではStockもShareも同じ株式ということで記載しますが、英国系の会社法の国、インド・マレーシア等では、株式はShareと書いた方が安心です)。

具体的な手順は、以下ですね(一つの例)。以下では$と表示しますが、別にMalaysian $, ブラジルレアルでもなんでもよく、単に通貨単位の表示として$としています)
① まず優先株の内容を決めますね。よくあるのはNon-voting right, non-cumulative, non-participating, Convertible Preference Shares with liquidation preferences(残余財産優先があるのは、20%の少数株主がいるためですね).  Each Convertible Preference Share may be converted into fully paid and non-assessable ordinary shares. Convertible Preference Shares convertible on a 1:50 basis into shares of the Company’s ordinary Shares.というような書き方になりますね。Convertible into ordinary shares. また、子会社のBoardか親会社のどちらがConversion rightを持つかも決めますが、子会社のBoard memberも親会社派遣が多いでしょうから、まあこの点は、どちらでもいいでしょう。
各「転換条項付優先株式」は、全額払込済(DESなので払込済です)でかつ課税されない(non-assessable=米国で一般的に記載する用語なので記載しています。損益取引では無く、課税対象とならない資本取引という意味合いです)。またNon-votingなのは、合弁会社なので議決権ありとすると、合弁相手の持株比率が希薄化してしまうからですね。上記では、優先株を普通株に転換する割合を1:50にしています。即ち、優先株1株は、普通株50株になるということですね。これは別に1:1にしても良いですね。

② 次は、優先株の発行価格と転換割合を考えてみましょう。まず、基準としては普通株の時価を決める必要がありますね。親子でしたら、時価ベースの一株当たり純資産価格で行うのが簡単だと思います。
・仮に普通株の1株純資産を$20としましょう。これと優先株にしたときの差額をどう考えるかですが、通常は同じ価値と考えます、というか違う価格とすると、あとが非常にややこしくなるのと、違う価値の算定根拠もないからですね。
・普通株は上場していませんので、一時話題になったMSCB=Moving Strike Convertible Bondのような転換価格修正条項を付けなくてもよいので簡単ですね。 転換株式ですから、優先株発行価格を$1,000/株としたら転換後は50株の普通株になりますね。また発行価格$20とすれば、転換後は1株の普通株(転換割合=1:1)となります。どちらでもよいですね。

以下、上記をもとに、契約書の具体的な条文の例を、次回記載します。