夏目漱石の『三四郎』の読書メモ。今回は十三章。最後の短い章である。
この章は前の章から時間がかなり経過している。前の章の最後で三四郎は母からの「何時立つ」という電報を受け取っている。その後、三四郎は田舎に帰る。おそらくそこで御光との結婚話が取り上げられ、進んだ可能性もある。三四郎は冬休みをほとんど田舎で過ごしたのだと思われる。
十三章の冒頭では、語り手の視点も三四郎から離れている。語り手は三四郎専属とだれも決めていないのだからもちろんかまわないのだが、基本的には三四郎の視点にいた語り手なので、読者は多少の違和感を覚えるであろう。時間の経過とともに、三四郎を一瞬遠ざける効果がある。
二日目に美禰子は夫と来場する。
最初の土曜の昼過ぎに、広田、野々宮、与次郎、三四郎が訪れる。ここで三四郎が戻って来ることによって語り手は三四郎に再度近づく。野々宮は目録にしるしをつけるために鉛筆を探す。鉛筆がなくて葉書が出て来る。美禰子の結婚披露の招待状である。それを引きちぎる。三四郎は帰郷した時その招待状を見つける。三四郎が田舎にいた時にすでに結婚式はおわっていたのだ。この展開は小説っぽい。
与次郎は「どうだ森の女は」と三四郎に聞く。三四郎は「森の女という題が悪い」と言う。与次郎が「じゃ、何とすれば好いんだ」と再度聞く。三四郎は答えず口の中で「ストレイシープ」を繰り返す。素直に読めばストレイシープという第にすべきだと三四郎は思ったのであろう。ここに大きなテーマがあるように感じる。
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